第十三話 奮い
「ん……」
小さく呻いて体を起こした。
真っ暗闇だ。
誰もいない。
「リネン……?」
不安げに辺りを見渡す。
暗闇に目が慣れて、だんだん見えるようになってくる。
墓の輪郭。
相変わらず濃い霧。
もちろん、化け物なんかいない。
「……?あたし、何の夢見てたんだっけ……」
頭にモヤがかかってぼんやりしていた。
起きたら夢が覚えてられなくなる、あの感覚。
手を見る。
いつもの、あたしの手……。
よっせ、と起き上がる。
ふいに、足元に転がっていたそれに気がついた。
「リ、リネン……!
よかった、生きてた…!」
扇みたいに銀髪が広がっている。
黙ってたらこいつ可愛いのな、と思いかけてフリは頭を振った。
んなわけないッ。
不思議とうなされてはいなかった。
しかし寝ているのか目を開けることはない。
「起きて、起きて」
「う、うぅ〜ん……」
ゆっさゆっさと揺さぶる。
リネン、寝苦しそうに寝返りを打った。
「あと5分……」
むにゃ、と眠そうに。
やがて目を薄く開けた。
細いプラチナが覗く。
「はっ、フリ、無事か……!」
リネンがばっと飛び起きた。
ぽかんとしている。
「うん…。
不思議なことに、助かったっぽい…」
フリがそう言ってきょろきょろと瞳を動かした。
夢のことは、覚えていない。
でもちょっとだけ、進んでみようとおもえた。
怖いものがあっても、もっと守らなきゃいけないものがある!
あたしが行かなきゃ、誰が行くってんだ!
ふいに両親の気配を感じた。
反射的にくるっと振り返る。
誰もいない。
姿はないのに、確かにそこにいる。
「……行ってきます、お母さん、お父さん」
誰にも聞こえないほどの声量で、こう呟いた。
今度は前をしっかり向いて、歩き出した。
◇
「あれ、さっきまで15階にいたっけ…?」
「よく見てなかったから分からん」
フリが壁に刻まれた字をなぞった。
B15、と掠れかけた文字。
「この階のどこかだね!
もう、手紙届けるのに手間取りすぎちゃった…」
「ウー◯ーイーツはすごいな……」
そう言って再度歩き始める。
霧こそ濃いが、先ほどのような危険な魔獣は見受けられない。
フリが、先頭を元気に歩いていこうとして、ふと足を止めた。
くるっと振り返る。
──なんだ、その顔。
「死んでなくて、よかったァ」
そう言って笑った。
眠る前より明るい笑顔。
ちょっとだけ、困った笑い方。
「さあ、行こっか!」
無邪気に駆けていってしまった。
その背中を見ながら、何とも言えない想いに駆られた。
自分は、どんな悪夢を見ていたのだろうか。




