第十二話 きみを探しに
「ぐっ……」
魔法しか使っていなかったことが裏目に出た。
前々から思っていたが、致命的に体力がない。
数m走って普通に息が切れる。
肩で息をしながら、根性で歩き続ける。
足元がふらついたが、なんとかバランスを保った。
「しっかりしろ、フリ…!」
一向に起きる気配がないフリに怒鳴る。
相変わらず、起きている時からは考えられないほどぐったりしている。
霧が濃くて前が見えない。
視界の端もぼんやりしてくる。
「魔法……」
魔導書をよろよろと取り出す。
氷魔法の紋章がいくつも並んでいるが、どれも不思議とピンと来た。
「氷のつぶて……」
しかし意識がぼんやりしているせいでうまく発動できない。
中途半端に形成された氷が地面に落ちた。
カリン、と氷の砕ける小気味いい音がした。
杖が手から滑り落ち、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
◇
───悪夢を喰らう者。
対象の意識に入り込み、悪夢を見せる魔獣。
一説によれば、人の過去に作用し、「トラウマ」を夢として見せているとか。
この魔獣のたったひとつの解決策は、夢であることを認識すること。
そうでもしなければ、一生夢の中で苦しむだけだ。
これができた意志の極めて強い冒険者は、数えるほどしかいない───
◇
「お母さーん!!お父さーん!!」
小さな少女は悲痛に叫びながら両親を探していた。
薄灰色に濁った空は、記憶によく刻まれたものだった。
自分の影すら信じられなくなったあの日の。
倒壊した民家から炎が噴き出し、彼女を襲う。
火の粉を浴びてなお、歩き続ける。
両親を探して。
とにかく恐くて、自分の鼓動がうるさかった。
この夢の結末は、とっくの昔に知っている。
でも、今は知っていることにすら気づけない。
お母さんもお父さんも、無事見つかる。
魔獣の腹の中で。
形のとりきれなかった化け物に襲われているような錯覚。
子供が描いた、クレヨンの落書きみたいな異形。
しかしそれは、彼女のイメージの魔獣。
彼女は、しゃがみ込んで耳を塞いだ。
殴られているわけでもないのに、身体中がじくじく痛んだ。
このまま、死んでしまうのだろうか。
怖いよ……
痛いよ……
誰も、いない……
戦火に巻き込まれて原型のもたない街に、うずくまる。
レンガがひび割れ、木造の家が滅茶苦茶の……
ふるさと、だった場所。
「お母さん……」
世の中の「怖い」を煮詰めたみたいな化け物が彼女を見つめていた。
無機質な、空っぽな瞳。
目をぎゅっと瞑ってやり過ごそうとした。
ひたすら、自分を守るように頭を抱えた。
「あれ」
しかしふと目を開けた。
はっと意識が冴える。
何か、忘れている気が。
こんな恐怖、ものともない程……
あたしには守れるか、わかんないけど……
もっと、守らなきゃいけない、大切なものが──!
「そうだ……!
なんで忘れてたんだっけ……!」
戦火の中に一筋、光が差した。
それは冷たい氷なのに、みょうに暖かかった。
光は彼女を導くように、道と成る。
「リネン……!」
彼女──フリは、立ち上がった。
走り出す。
火を掻き分け、彼女を探して走る。
火の海に手を伸ばした。
「リネン──」
光が溢れ出して、眠たくなる。
空間が裂け、空にヒビが入った。




