第十一話 悪夢の渦
「見て、あなた。
なんて可愛い子」
それは、ある雪の降る日のことだった。
「お前に似て美形だなあ、はっはっは」
父親は快く笑った。
それに応えるように、母親の腕の中で赤ん坊が泣いた。
「きっといい魔法使いになるな」
「ええ、あなたとの子ですもの」
二人の声が重なった。
「聖都フレミアに栄光あれ」
◇
「ねえ!聞いてる?」
リネンはその声にはっとする。
目の前には顔を覗き込んでくるフリの顔。
少し機嫌を損ねている。
「すまん、ぼーっとしていた」
「しっかりしてよねー」
そう言うと、興味を失ったように手元の地図を見た。
「……なんだ、今のは…」
リネンはぽつりと呟いた。
ひた、と自分の額を触った。
いつもならこんな締まらないことしないのになァ。
しっかりするため、ぺちんと頬を叩いた。
「それにしても墓守さんから地図もらえてよかったねー!
二人きりだったらどうなってたか」
フリがその地図を掲げた。
細かくとまではいかないが、十分墓地の仕組みを理解できる地図だった。
手書きのイラストが可愛い。
「さっさと手紙を届けに行ってしまおう」
「墓地の中にお家があるのかなあ?」
そう言ってフリは首を傾げた。
相変わらず墓が並び、霧が周囲を覆っていた。
薄気味悪いが、魔物たちは襲って来なかった。
「これも墓守の力だろうか」
「ほんとフシギー」
「ここじゃない?」
「そうだな」
階段を見つけて降り始める。
フリ、びくびくとしながら石レンガの壁に手をつきながら降りていく。
手のひらの、ひんやりとした感触。
(……墓守さんに着いてきてもらえばよかったなあ…!
怖いぃ…)
内心弱音を吐く。
リネンが心許ないとは言わないが、それでも未知の場所で二人きりは怖い。
視界がふっと開けた。
一層霧が濃く、周りがほとんど見えない。
リネンの姿さえ、霧に阻まれて見えなくなってしまう。
「ちょっ…!リネン、いる…?!」
「まだビビるところじゃないぞ。
全然いる」
リネンの呆れたような声。
その声はあくまでいつも通りなのに、なんだかもの凄く嫌な予感がした。
背筋に走るひやりとした冷気。
「私は何も感じないがな…」
リネンが顎に手を当てた。
どこからか鈴虫の鳴く声が聞こえた。
誰かの悲鳴が響いた、気がした。
「え、リネン……?」
ふいに返事が聞こえなくなって、フリは間抜けな声を出してしまう。
しんと周りが静まり返った。
人の気配をまったく感じない。
「ちょっと、誰か……」
言いかけて途切れた。
ぐわっと目眩が起きて、立っていられなくなる。
頭を抱えてしゃがみ込んだ。
◇
「おい、どうした……」
後ろからばたっと倒れる音がした。
「は?え、どうした!!」
慌てて駆け寄って、体を支える。
上からフリの顔を覗き込んだ。
何だかうなされているような顔。
「……ただ、寝ているだけか…?」
すうすうと寝息が聞こえた。
「急に、なんだ…?」
少し安心しつつ、もう一度まじまじとフリを見つめた。
うぅーん、と小さい唸り声。
「めっちゃ辛そう……悪夢見てるのか?」
つん、とフリの頬をつつく。
「……待てよ…」
ふと、何かに気づいたようにはっとする。
「そういう魔物いたよな……?!
眠らせて悪夢見させる系の…!!」
そう勘づいて、慌ててフリを抱き上げる。
抱き上げるというのにはあまりに雑。
担ぐというのに近い。
「おい、起きろ!!」
走りながらフリを揺さぶる。
しかし一向に起きない。
時々寝苦しそうに唸るだけだった。
「だめだ…!どうしたら…!」
必死に揺さぶったり叫ぶがどうしても起きない。
助けを呼ぶしかない。
自分たちでどうにかできる魔物じゃない…!
「行くぞ、フリ……!」
抱えたまま、出口を探して駆け出した。




