第十話 ムーンレモン
数えきれないほど立つ墓の隙間を縫うように進んでいく。
霧が立ち込めていて視界が悪かった。
「こんなところに、家……?」
「見たところ人間っぽいがな…」
フリはリネンの影に隠れるようにして墓守に着いていっていた。
本人は絶対認めないだろうが、わりと彼女はリネンに心を許しているのだ。
『こちらです』
墓守が杖でその小屋を指した。
どこにでもある一般的な木造小屋だった。
小さいが、不自由さは感じない。
すっと墓守が扉を開けてくれる。
「お邪魔しまーす…」
フリがお辞儀をして先に入る。
中はじんわり温かく、西洋にありそうな内装だった。
本棚がずらりと並んでいる。
フリ、久々の民家に胸を撫で下ろした。
さっきまで緊張しっぱなしだった。
『わたしはお茶を淹れて参ります
お部屋のものは勝手に見ていいですゆえ』
「うん、ありがとー!」
そう言って墓守が奥に引っ込むのを見送る。
「なんでも見ていいってさ」
「ふむ…。じゃあ遠慮なく」
フリ、小物を見つめる。
ランタンのミニチュアやアクセサリー。
それを飽くこともなく手に取る。
「かわいー…」
ふいにリネンのほうに目をやった。
何やら本棚の本を手に取って見ている。
なんだ、哲学の本やら植物学やら…。
慌ててリネンの横に並んだ。
「何よ、あたしが頭悪いみたいじゃん」
「何の話だ?」
リネンにならって気になる本を手に取っていく。
「あれ、これ誰かの日記かな」
ひょいっとその本を掲げた。
興味があるわけでもないのに、妙に惹きつけられた。
表紙の文字が掠れて読めなかった。
装丁が赤い革で出来ていて古めかしい。
興味本位で開いてみたが、ほとんどの字が掠れて読めなかった。
しかし最新の書き込みはインクが濃いのか、はっきり判別できた。
───今日も王国は平和です
実は、どうやら魔女様たちは協力して迷宮を作るそうなのです
効率的に作物の育成や工業ができるように、魔法をかけてくださるそうだ
最近は魔物の様子もおかしいし、早く平和な世の中が来て欲しい
聖都フレミアに栄光あれ───
「聖都フレミア?」
読み終わって、その単語に首を傾げた。
「そんな地名、あったっけ」
地図帳を見たときには見なかった地名だ。
もしかしたら遠い遠い場所なのかもしれない。
『お待たせいたしました』
硬い足音が聞こえて振り返った。
墓守がトレイを抱えて戻ってきているところだった。
「わ、ありがとー!」
フリは本を閉じ、本棚に戻してから駆け寄った。
元の場所に戻った本が、寂しげに赤を際立たせていた。
「これ、何のお茶だ?」
リネンも戻ってきて、こう訊いた。
『ムーンレモンの葉っぱを煮出しました』
フリは早速いただく。
暖まった爽やかさが身に沁みた。
『皆さんは、なぜここへ?』
「あっ、そうだった!」
フリは、やっと思い出したとでも言うように鞄を漁る。
「これ!」
勢いよく封筒を差し出した。
「この住所の場所、知らないかな?
この手紙、そこに届けなきゃいけないんだ!」
墓守は差し出された封筒を受け取ってじっと見る。
おじいさんに預けられた手紙。
すごく大切そうにしていた。
『分かりますが』
「ますが?」
フリは聞き返す。
『この場所は、この階と同じく墓地地帯です
魔物が蔓延っています』




