一番出汁を使った料理
「美味しいのです」
「うん、美味しいの! どっちも美味しいの!」
羊メイドから降りて海龍幼女の横で同じように叫ぶ精霊王のツムギ。どちらも幼女らしく喜びまわりをほっこりとさせ、ひとり羊メイドは手から離れた主の温もりに涙が出そうになるのを堪えているが他の海龍たちには好評で、マモルは指輪型のアイテムボックスからテーブルにまな板を用意すると昨晩解体したホウボウの身を細かくカットし始める。
「あら、あらあら、魚を切っているようだけど、それもご馳走してくれるのかしら?」
豊満なボディーをグイっとマモルへと寄せる天龍。セクシーアピールに見えなくもないがどう見てもボンボンボンと爆発しそうな圧に苦笑いを浮かべるマモル。
「待つのねぇ! 料理をしているし、刃物を持っているマモルに近づくのは危ないのねぇ」
「あら? あらあらあら? 嫉妬かしら? 嫉妬よね? うふっ、うふふふふ」
一瞬にしてこの場の誰よりも面倒くさい存在となった天龍。対して一瞬にして被害者兼いつ爆発するかわからない地雷と化したエルエル。その表情は般若のようなものへと変わる。
「見た目以上に言動までも煩くなったのねぇ……」
「あら、あらあら、私は誰よりも控え目に地上を照らしている存在よ。煩いなんていわれた事はないわね」
一触即発な雰囲気にまわりの古龍種たちはゆっくりと後退り、精霊王のツムギも隣で緊迫感のある後退を面白がり真似をする。更にはヒマワリ執事と羊メイドは盾になるために一歩前に出る。
「前々から視界に入るたびに無駄に光って邪魔なのねぇ。いまは光以上に視界が暑苦しいのねぇ」
「あら、貴女は天使でありながらもその姿は美しくないわね。ダラダラと浮く姿はスカイゼリーフィッシュのようだわ」
「空クラゲの優雅に空を泳ぐ姿は創造の女神カルアミールさまが心の癒しのために作った存在なのねぇ。我が癒し担当だと気が付いたのだけは褒めてやるのねぇ」
「………………くっ!! スカイゼリーフィッシュは私の天敵なの! 鱗に間に入ってウニウニ動くと気持ちが悪いのよ!」
片方の口角を上げるエルエルに対し絶叫に近い叫びをあげる豊満天龍。どうやら空クラゲと呼ばれる生物に話題が変わりある意味天龍の天敵だったらしく顔を青ざめ自信を抱きしめるように太い腕に力を入れて小刻みに震える。
「スカイゼリーフィッシュが鱗に挟まってウニウニ動くのは俺も苦手だよ。あいつら気を抜くと鼻の穴にも躊躇なく入ってくるからね」
「そうっす! 自分が高高度を飛ばない理由はそれっす! 首の後ろとか這い回られるとぞわぞわが止まらなくなるっす!」
風龍と炎龍も共感しているのか恐怖体験を語り、海龍幼女と精霊王のツムギは互いに抱き着き怖い話に振るえる。
「あんまり煩いと味見禁止にしますからね」
まな板の上に置いたホウボウの切り身がみじん切りを超え粘り気が出始めるほど切り叩いたマモルからの発言にピタリと震えが収まり、エルエルも真顔へと戻る。
「あとはショウガのしぼり汁と片栗粉を入れて丸めるないとだな」
慣れた手つきですり身になったホウボウに塩を入れ混ぜ、粘り気が確り出たところでしょうがのしぼり汁と片栗粉を入れて更に混ぜる。混ざったところで一番出汁にスプーンで丸めながら入れていると、指の間からニュっと出てはスプーンですくう作業が面白かったのか目を輝かせる海龍幼女と精霊王のツムギ。
「面白いの。指の間から出てきたのが出汁に入れられ丸くなるの」
「クルンとなるの! クルンとなるの!」
完全に子供のリアクションで料理を見つめる二人に、多少なり反省したのかエルエルと天龍は口を開くことなく黙って見つめる。
「浮いてきたらつみれに火が入った合図ですね。最後に器に入れて細く切った白髪ねぎとゆずの皮を少しのせて完成です。シンプルなお吸い物と迷いましたが、一番出汁を味わうのならホウボウの身を使ったつみれも合うかなと思いつみれ汁にしました」
大きな鍋のなかでゆらゆらと移動するつみれを見つめていると器に入れられたつみれ汁が配られそれを受け取る豊満天龍。
「透明なスープに浮かぶ白いのが魚の身を丸めたものね」
「ぷはぁ~出汁にホウボウの甘みが溶け出したのねぇ。つみれもショウガで生臭みもなく美味しいのねぇ」
さりげなくエルエルが白い球体がつみれだと教え、それに気が付いた天龍は目を細めるもつみれ汁のスープを口にする。
「つっ!? お、美味しいわ。それに温かいわね……一番出汁の香りと旨味にプラスされたつみれと白いネギに果実の皮の香りがこの器の中で調和しているわ。まるで青い空を流れる雲のような……それでいて夕日が落ちる瞬間のような儚さも……」
器を見つめ呟くように味を表現する豊満天龍。
「おかわりしますか?」
「ええ、大盛でお願いするわ!」
儚かったのはつみれ汁を表現した際に浮かんだ風景か、器が空になった悲しさか、本人しか知らぬところではあるが一番出汁を使ったつみれ汁は大好評であった。
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