海龍の戦利品と増える龍
三時間ほど燻製させ中を確認して燻され切り身の色が少しあめ色に変化し、これから一日寝かせまた明日燻製させ、これを一週間繰り返し完全に切り身の中の水分を抜いてゆく。
「時間が掛かるのにゃ……もう美味しそうだにゃ……」
「この時点でも味は美味しいと思いますよ。ただ、保存食には向かないだけで燻製させた切り身としてですが」
「にゃ~美味しそうにゃ匂いにゃ~」
夕日を浴びる燻製させた切り身の匂いをクンクンと嗅ぐミケーラとミッケル。他のケットシーたちも興味深く鼻を動かしている。
「うぅ~ん、海龍たちも戻ってきたのねぇ」
ぬいぐるみ姿で伸びをするエルエルが指差す方向を見ると巨大な海龍が水面から顔を出し、そのまわりには多くの水の檻に入れられ暴れている多くの種類の魚や、海龍の友人なのだろうか、頭から長い背中を通り尻尾の先まで炎が揺らぐ火属性だろう龍の姿が見える。
「あれって炎龍? それとも火竜?」
「炎龍なのねぇ。炎を司る龍で、海龍の親戚ぐらいの関係なのねぇ」
海龍の後ろを付いてくる炎龍にざわめくケットシーと人魚たち。ちなみに人魚たちが取ってきた近海の魚はどれも脂がのり鰹節には向かないため干物や煮物にして夕食のおかずになる予定である。
「おっきな龍さんですね」
「あれでもまだ成人したてですメェ。大人になればもっと大きく長くなりますメェ」
「大人になると炎龍は火山に潜り地を温め、海龍はその名の通りに海流を作り出し海を攪拌しどちらも魔力を循環させることに力を使います。我々精霊に近い役割があるのが龍種です。中にはサボるものもいますが、この星の魔力を停滞させず動かし続ける存在です」
羊メイドとヒマワリ執事の説明を聞きながら海龍と炎龍の到着を待ち人化し砂浜に現れる二人。ひとりは海龍幼女で見慣れた青い髪と青い瞳の幼女。もうひとりは赤い短髪に赤い瞳を持ちまだ幼さが若干残る十四、五才の生意気そうな青年が砂浜に現れる。
「精霊王さま! 自分は炎龍っす!」
精霊王のツグミへ真っ先に駆け寄り頭を下げる体育会系炎龍。細マッチョな肉体をくの字に曲げ続け、海龍幼女はその横を平然と通り過ぎるとマモルとエルエルの前で捕ってきた魚を説明する。
「毒がある魚は除外したの。これとかこれとか美味しいらしいの。赤身の魚がこっちで白身がこっち、あと炎龍が海底火山で暇していたから手伝わせたの。マモルの美味しい料理を少しだけ分けてあげてほしいの」
どうやら海龍幼女は体育会系炎龍にマモルの料理を自慢したらしく、それに興味を持ち手伝い報酬としてその料理を所望しているらしい。
「えっと、それは構いませんが、これらの魚は全部鰹節候補として使っても?」
「その為に取ってきたの。美味しいのを作ればそれでいいの」
海龍幼女のまわりには百種に届きそうな魚が水の檻に捉えられ見たことのあるような魚から、魚かどうか怪しい魚に見える存在まで多くの種類が宙に浮いている。それはまるで水族館に展示されている魚のようであり、普段から海辺に住むケットシーたちも興味深く見つめている。
「これとかカツオにそっくりな見た目ですね。こっちはマグロでカジキにそっくりな角のある大型魚もいますね」
「最初のは遠洋を群れで泳ぐ魚なの。次のも群れを作るけど大きくなると単体で暮らすの。最後の角があるのは横に振って衝撃波で攻撃するの。お勧めは真っ赤に見えるクラゲであれは炎龍が海底火山の近くで捕ってきてくれたの」
海龍幼女が指差す先には一メートルほどの大きなクラゲが湯気を上げ、水の檻が沸騰しているのが見て取れる。
「火属性の珍しいクラゲなのねぇ……」
「あれって美味しいのですか?」
真っ赤な見た目と水の檻が沸騰する様子にどう料理しても火が入らなそうなイメージがわき海龍幼女へと視線を向けるマモル。
「炎龍は美味しいといっていたの。きっと美味しい鰹節が作れるの」
「えっと、クラゲで鰹節はたぶん作れないかもです。鰹節は基本的に水分を抜く料理なのでほぼ水分で構成されているクラゲには向かない料理方かなと……」
一瞬の気まずい空気が流れる砂浜。その空気をニヤニヤと楽しみながら海龍幼女へ視線を向けるエルエル。
「プークスクス、クラゲで作る鰹節ねぇ。これほどの無理難題があるとは知らなかったのねぇ」
「し、知らかなったんだもん! 燻すのだって初めて聞いたんだもん!」
幼さを全開に口を尖らせる海龍幼女。エルエルはぷかぷかと浮きながら空を笑い転げる。
「でも、食べられるのなら料理してみたいですね。下処理は塩をしてよく洗うんだっけかな? 中華食材でサラダにしていたり居酒屋でお通しに使われていたりとかしたな……」
懐かしい味を思い出しキュウリとクラゲの中華風サラダでも作ろうと、精霊石に魔力を通して鋭いナイフへと変化させ沸騰する水の檻へと向かうのであった。
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