海龍の人化
心配げな表情を浮かべるケットシーや人魚たちの下にマモルが先に戻り事情を説明するとホウボウの足を求める競技大会は中止になり、大歓声が起こり体をびくつかせる海龍。まだそれなりに距離が離れているのだが海龍コールに巨大な身を震わせ不安げな表情でエルエルを見つめる。
「体の割に臆病なのねぇ」
「そ、そりゃ、体は大きく長いですが海底火山の噴火のような爆音で叫ばれては驚きますよぅ」
巨大な身をフルフルと震わせながら海岸近くへ到着すると人魚と魚人は整列して頭を下げ、海岸では多くのケットシーたちが目を輝かせている。
「海龍さまからお近づきの贈り物のねぇ。みんなで分けて食べるのねぇ」
水の檻に捕らわれている数十匹のホウボウが砂浜に送られ歓喜するケットシーと魚人たち。長老が丁寧に頭を下げ解体を指示すると一斉に魚人たちがホウボウに刃を入れ解体が行われ、ケットシーたちはホウボウの料理に動き出す。
マモルは海龍の下へと向かい改めてその巨大さに驚きながらも新幹線と同じぐらいかなと心の中で大きさを比べていた。
「ま、マモル殿、そろそろ帰っても?」
「折角だし料理をごちそうになっていけばいいのねぇ。それとも我の誘いを断るのねぇ?」
「こらこら、エルエルはパワハラしない。海龍さんだって予定とか忙しかったら悪いだろ」
「予定があるのねぇ?」
「いえ、予定とかはないのですが見てわかるように自分は大きいので、間違って踏みつぶしてしまうと思うと怖く……」
新幹線サイズの海龍からしたら人魚や魚人は小さく間違って踏んだだけでも致命傷は免れないだろう。
「それなら人化すればいいのねぇ。古龍種ならできて当然なのねぇ」
巨大な顔面の横でいつの間にかぬいぐるみモードに変わりふわふわと浮くエルエルの言葉にシュンとした表情を浮かべる大きな口を開く海龍。
「じ、人化は苦手で……」
「苦手なのねぇ?」
「はい、人化した際に溺れまして……」
「それなら必ず助けますので人化してみてください。シールド魔法を使いますのでそれに掴まれば大丈夫ですから」
嫌そうな表情を浮かべながらも声にならない声をブツブツと呟き、徐々に発光する海龍。数秒ほどの発光が収まると巨大な海龍の顔が消失しており代わりに現れる青い髪と青い水着を着た幼女。
「にょはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
変わった叫び声を上げながら落下する幼女に慌ててマモルが近づき抱きしめてキャッチし、シールド魔法を使い海の上に降り立つ。
「海龍さまが人化なされたぞ!」
「それを英雄さまが救った!」
「海龍さまにもホウボウを味わってもらうぞ!」
発光現象で視線を集めていたこともあり大盛り上がりの砂浜。解体を始めたことで海が赤く染まり血生臭いビーチは真夏のフェスのように盛り上がっている。
「えっと、立てますか?」
「う、うん、がんばる……」
震えながらもマモルから離れシールドの上に立つ人化した海龍。五才ほどの幼女姿に変わり威厳など消失しているがマモルの手を繋ぎゆっくりと足を進め、次々にシールドを展開しては歩幅を合わせて進むふたり。
「にゃんだか神々しいのにゃ……」
「ええ、海龍さまのお姿が幼くなられたが、海の神としての威厳は残され我らの胸に刻まれましたな……」
ケットシーと人魚の長老たちには手を引かれシールドとシールドの間をジャンプする幼女に威厳を見出し頑張る姿に涙を流している。
「あれだけでかかったのに人化した姿が幼女とはどういうことなのねぇ」
「まだ五百歳と若い海龍です……この地を縄張りとして暮らしていますが基本的には誰ともかかわらず、水の精霊たちと海底で静かに暮らしておりました……」
「引きこもりなのねぇ」
「うぐ……」
エルエルから核心を突かれ開いている左手で胸を抑える海龍。
「水の精霊たちからしたら海龍さんのお陰で安全に成長できたから感謝しているだろうし、先生や師匠的な存在なのでは? 誇っていいと思いますよ」
その言葉に歩みを止めてマモルをじっと見つめる海龍幼女。
「感謝してくれたら嬉しいな……」
小さく呟き表情を緩め、それに気が付いたマモルも笑みを浮かべる。
「きっと、感謝していますよ」
「感謝もいいけど血生臭いのねぇ」
空気を読む気がないエルエルはぬいぐるみ状態の腕を上げながら神力を高めると力ある言葉を開放する。
「浄化の光よ!」
海岸で血まみれになりながら作業する魚人たちに光が降り注ぎその屈強な体に付いていた血が光の粒子に変わり空間に溶け、真っ赤に染まっていた海も次第に元の色へと変わり始める。
「これなら臭くなくなるのねぇ」
「獰猛な魔物やサメも寄ってきません。ありがとうごさいます」
「感謝は別にいいのねぇ。ホウボウをいっぱい取ってもらったのねぇ」
それだけいうと顔を背けるエルエル。
「感謝されて照れているだけですので大丈夫ですよ」
多少なり不安になっていた海龍幼女へ説明するマモル。海龍幼女はにっこりと笑いシールドを飛び継ぎ砂浜へ向かうのだった。
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