ケットシーたちの競技
切り分けられたホウボウは一口サイズに切り分け串に刺し塩焼きに、根菜と共に煮込まれスパイスの利いたスープに、大きな肝は魚醤で煮込まれ、人気の足は塩で茹でられカニのように赤く色を変化させ、砂浜ではケットシーの男たちが短距離走やヤシの木登りに水泳で勝者を決めるため白熱したバトルを繰り広げている。
「もっと早く走るのにゃ!」
「気合いを入れて登るのにゃ!」
「死ぬ気で泳げば息継ぎにゃんていらにゃいにゃ!」
女性たち声援を背中に受け必死に協議で奮闘するケットシーの男たち。この競技に参加している男は鍛えた腕力や脚力を使い女性にアピールしており、妻からの激や彼女からの甘い応援を背に全力で戦っているのである。
「男は単純だからいいにゃ」
「まったくだね。ちょっと応援してやれば死ぬ気で頑張るにゃ」
ケットシーの女性たちから漏れる本音を耳に入れながらひとり厳しい世の中だと思うマモル。エルエルも眠気から完全復活して熱いレースを見つめている。
「未婚の女はこの祭りで将来の旦那を探すにゃ」
「勝者はホウボウの一番美味しい足が食べられるのにゃ。その足を意中の異性に送るのにゃ」
「それだと女性は出られないのではないですか?」
ふと疑問に思いマモルが口にするとミケーラとミッケルはニッカリと笑い口を開く。
「女は女のレースがあるにゃ」
「女は泳ぎだけにゃ。濡れたボディーを見せて男が食いつくのにゃ」
ふたりの発言に釣りかよとツッコミを入れることもなく、そういう文化なのだろうと思うマモル。
「まるで釣りなのねぇ」
「その通りですにゃ」
「イイ女はイイ男を釣るのにゃ」
マモルの代わりにツッコミを入れたエルエルだったが自信満々に話す二人に若干引いており視線を海へと戻すと犬かきならぬ猫かきで進むケットシーの女性たちと、それを情熱的に見つめる屈強なケットシーの男たちの姿に大きくため息を吐く。
「あの泳ぎ方じゃ早く泳げないのねぇ。もっと、こう、ビューと泳ぐのねぇ」
「さっき泳いでいた子供たちは平泳ぎとかしていたのにな」
ホウボウが砂浜に打ち上げられる前に人魚たちと泳ぎの練習をしていたケットシーの子供たちを思い出し、なぜスピードが出ない犬かきをしているのか口にする。
「それは簡単にゃ。あの泳ぎ方が一番ケツと尻尾が綺麗に見えるのにゃ」
「濡れた尻尾を見せて男たちを虜にするのにゃ」
文化の壁は厚いようでそれがケットシーの女性のセクシーアピールであり、マモルとエルエルは濡れて細くなった尻尾のどこにも共感できず、盛り上がっているヤシの木登りへと視線を向ける。
「凄いですね。爪を引っかけて登っているのか凄いスピードです」
「あれは身体強化しているのにゃ。こうやって爪を立てて一気に上に跳ね上がるのにゃ」
「気を付けないとヤシの木が痛むのにゃ」
屈強なケットシーの男たちは爪に魔力を集め一気に上へと登る。ヤシの木は三十メートルはある巨大なものだが十秒と掛からずにてっぺんまで登り、ヤシの実ひとつを落としスルリと木を下りる。五人ほどが一斉に上り一着を決めては最終的に優勝者を決めている。
「あのぐらいの速度なら私たちも登れるわね」
「マムミラの体重じゃヤシの木が折れかねないわね」
「あら、ヤシの木は柔軟で折れないのよ」
ラミアであるマムミラとミランダが睨み合い場外バトルに発展しそうになるが、ヤシの木を見つめるエルエルが口を開く。
「どれも遅いのねぇ。飛べば一瞬なのねぇ」
「いやいや、飛ばなくて早いから凄いんだよ。エルエルが飛ばずにやったら勝てる?」
マモルからの問に口を尖らせ首を横に曲げるエルエル。どうやら純粋な力で登る方法はケットシーの方が早いのだろう。
「ミケーラ! ミッケル! 泳ぎにでるのならきなー」
ふたりの友人らしきケットシーの女性からの呼び声に「にゃ!」と返事をして走り出し、その背中に「頑張れー」と応援をするラミアの二人。マモルも手を振りながら応援し、エルエルはその場に座り込み多くのケットシーの女性たちのスタートを見守る。
膝ほどの水位の海岸に横並びになりスタートの合図を待つケットシーの女性たち。普段着ている布の服は濡れ体のラインが目立ち男性陣たちは嬉しそうに応援をし、マモルとエルエルもミケーラとミッケルの活躍を願い応援に力を入れる。
「二人とも頑張れ!」
「溺れないよう注意するのねぇ」
エルエルの気の抜けた応援というよりも注意に近い掛け声に横で応援するマモルはフラグじゃないだろうなとジト目を向け、スタートの合図と同時に泳ぎ出す女性たち。五人ほどが数回に分け泳ぎ、近くに浮かせた船に触り戻ってくるというルールで行われ、海中では人形たちがそれを見守っている。
「これは無理そうだねぇ」
「まだ距離もあるし温存しているのでは?」
「違うのねぇ。やばいのが来たのねぇ」
エルエルが指差すのは水泳の競技をする女性たちよりも遥か沖であり、遠くに見えるそれは大波と共に現れ、次第に上がる悲鳴にマモルは素早くナイフと杖を構えるのであった。
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