ケットシーの好物
多くの魚介類の干物をご馳走になりふわりと浮かびながらお腹を摩るエルエル。マモルも多くご馳走になり海を見ながら人魚や魚人たちと一緒に泳ぎの練習をするケットシーの子供たちを見ながら食休みをしている。
「こんなに食べると何もしたくないのねぇ」
「気持ちはわかるけど海にはもっと美味しいものがいっぱいだぞ。魚はもちろんだけど海藻やウニに……少し昼寝してもいいかもな」
お腹がいっぱいで食べ物の話をするのすら面倒になったマモルは昼寝を提案し、指輪型のアイテムボックスを起動するとクッションを取り出し頭を乗せて仰向けに転がり、視界にはゆらゆらと宙で横になるエルエルの姿が目に入る。
「エルエルも地面に横になった方が楽じゃない?」
「我は清い天使なのねぇ。一緒に寝るとかダメなのねぇ」
「一緒に寝るとはいわないだろ。それよりさ、風で流されそうだが大丈夫なのか?」
「寝ている間に迷子とかは嫌なのねぇ……」
マモルは指輪型のアイテムボックスを起動すると太目の紐を取り出し起き上がってエルエルの腰に巻き付けると横になり、エルエルもこれなら安心だと目を閉じ寝身の音と薄っすら聞こえる子供たちの声を子守歌に眠りに落ちる。
緩やかな時間が流れウトウトとしていると遠くから聞こえる大声に目を開く。どうやら大物が取れたと叫んでいるのか気をくり抜いたカヌーのような船が急いで砂浜に向かっている。
「マグロやカジキみたいな魚でも捕れたのかな……」
ぼんやりする頭で大型魚を思い浮かべながら身を起こすと魚人数人が砂浜に上がりロープで引き上げる姿が目に入り、引きずられている魚に驚く。
「英雄殿!」
「見てください! この巨大魚を!」
「我らもこのサイズは数十年ぶりですぞ!」
魚人たちが力いっぱいロープで引っ張り砂浜に現れたのは巨大なハゼのような魚なのだがどう見てもカニのような足が六本ある。サイズも乗用車のような大きさで地球では見たことのない魚に眠気が一気に飛び、立ち上がるとその魚の近くへ向かう。
「ん? 急に引っ張らないでほしいのねぇ……」
手にしていた太い紐のことを思い出し歩むスピードを落とし、見慣れぬ魚の下へと向かう。
「解体するぞ! サメが寄ってくるかもしれんから子供たちを上がらせてくれ!」
大きなナイフを手にカニの足つき巨大魚を解体する魚人たち。慣れた手つきでエラを外し頭を切り分け、内臓を取り出す。一気に海岸が赤く染まり指示通りにケットシーの子供たちが海から上がっていなければ彼らも真っ赤に染まっていただろう。
「英雄殿はこの魚を知っておられるか?」
「いえ、はじめて見ます」
「この魚はホウボウと呼ばれ海底を歩く魔物です。攻撃性は低いのですが見てわかる通りにカニのような足があり、それを盾のように使い攻撃を防ぎます。見た目の割に味が良く、特に足の部分が甘みがありケットシーたちには好評です」
「ホウボウが取れたらお祭りになるほどにゃ!」
「あの足を取り合い喧嘩ににゃるから、短距離走と木登りと水泳の速さで勝負するのにゃ!」
いつの間にか隣に現れたミケーラとミッケルにマムミラとミランダ。屋台の点検を終えたのだろう。
「私らも食べたことがあるけど魚の方は柔らかい身で塩焼きが美味しかったよ」
「足は食べたことがないけど……あれだけ大きければ私たちにも配られるかな?」
「にゃーが勝ったら一口やるにゃ」
ミケーラの言葉に抱き着いて喜ぶミランダ。マムミラはミッケルを見つめるが勝っても分ける気はないらしく微笑みを浮かべたまま視線をゆっくり解体されるホウボウへと向ける。
「ラミアだとその競技にはでられないのですか?」
「それは無理にゃ。身体能力が違いすぎるのにゃ」
「にゃーたちが泳いでいる間に短距離走と木登りに水泳を終わらせるぐらいに速いのにゃ」
ラミアの下半身は大蛇でありほぼ筋肉で構成され、運動であればすべてでケットシーを凌駕しており、手押し式の屋台の移動を任せているのも適材適所なのである。
「マモルも出るにゃ?」
「ボクは遠慮しておきます。お腹もいっぱいですし、争うほど楽しみなのであれば皆さんで食べた方が盛り上がると思います」
「にゃ~それはそうにゃのだけど……」
「マモルが一番子供なのに大人な意見だね」
マムミラが笑いながらマモルの頭を撫で、お腹がいっぱいなだけなのにと心の中で思いながらもそれを受け入れるマモル。
「我も不参加なのねぇ……ふわぁぁぁぁ」
ゆわゆわと浮きながら大きな欠伸をするエルエル。
「エルエルが本気を出したら、というか、空が飛べると木登りじゃなくなっちゃうね」
「そうなのねぇ。泳ぐのは苦手だけど空を飛ぶのと同じ方法なら負ける気がしないのねぇ」
「ボクもエルエルのスピードには追い付けないしなぁ……」
「そうなのねぇ。我は最強なのねぇ」
空中で胸を反らせドヤ顔を浮かべるエルエル。手にしている紐を強く引っ張ってやろうかと一瞬思案するが、昨日のように凹まれても面倒だなと解体されるホウボウを見つめるのであった。
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