マザーリカーと豆腐
創造の女神カルアミールと一緒に現れた二人の天使が去り全力で手を振る精霊王のツムギ。ヒマワリ執事と羊メイドも頭を下げてそれを見送り、マモルとエルエルはいつものように準備を終える亜空間の家から外に出る。
「置いてきてもいいのねぇ?」
「別に人のものを盗むようなことはしないよ。必要なものがあれば頼むなりドワーフの国へ行けば買うことだってできるだろうしさ。それよりも今日はケットシーさんたちの村で塩作りや干物作りを見学させてもらおうよ」
「そうなると干物が食べられそうなのねぇ」
外に出ると昨日利用した壁のない休憩所であり、まわりでは作業をするケットシーや海岸で日光浴をする人魚が数名いるだけで昨晩の騒ぎが噓のように静かな海岸になっている。
「マモルにゃ!」
声を掛けてきたのはケットシーの商人であるミケーラとミッケルの双子とラミアの商人でここまで一緒に来たマムミラとミランダの姿があり、手押し式の屋台の点検をしているのか商品はなく車輪も外されている。
「定期的に点検をしないと坂道が危険だからね」
「速度を落とすにも商品を積んだ状態だと重く危ないです」
作業する手を止めずに屋台の骨組みに異常がないか確かめ、慣れた手つきで車輪を取り付ける。
「今日は塩作りを見たいのですが」
「それならにゃーが案内するのにゃ! ミッケルに屋台は任せるのにゃ!」
「むっ! それはずるいのにゃ! と、いいたいところだけどいいにゃ。屋台の点検も大切にゃのにゃ」
言い争いが始まるかと思ったが以外にもミッケルが引き、嬉しそうな表情で手にしていた工具を置くとマモルの横に並ぶミケーラ。
「すぐに案内するのにゃ!」
片手を上げ元気に叫ぶミケーラの案内に従い足を進める。昨日は入らなかったケットシーの村へと向かい海岸から真直ぐに進むとすぐに畑が見え、その先には石を積み上げて作った家だろう集団と走り回る子供たちの姿が見える。
「この村の先に塩を作る作業場があるのにゃ。小さな石を並べ海水をその上に撒き、天日と風の力で乾かすのにゃ。その塩が付いた小石を集めて水で煮て濃い塩水を作り煮詰めるのにゃ」
塩の作り方を説明しながら足を進め辿り着いたのは村のはずれにある坂道に面した塩田。天秤に吊るした桶を背負い海水を引き上げ細かい石の上に柄杓で撒いている。
「ん? ミケーラと英雄殿!」
作業をしていた屈強なケットシーの男が見学者に気が付きわらわらと集まってくる。
「えっと、昨日長老さんに許可をもらったのですが、塩作りを見学させてください。あと、にがり、じゃなくてマザーリカーだったかな? 母なる酒という塩作りで作られる液体を分けていただけたらなと」
「ああ、その話なら昨日耳にしたが……マザーリカーを欲しがる理由を聞いても?」
毎日海水を背負い坂道を上り鍛えた屈強なケットシーが腕組みをしながら疑問を口にする。
「えっと、マザーリカーは自分の住んでいたところではにがりと呼ばれ、豆を煮詰めて作ったものを固める効果があって、現物を見た方が早いかな」
指輪型のアイテムボックスを起動させると市販されている豆腐を選び取り出すと封を開ける。
「この白いものが?」
「はい、豆腐というものですね。豆を煮てからこして豆乳という液体にし、にがりを加え固めたものです。試食してみますか?」
「是非! 美味かったらうちらでも作ってみたい!」
食べやすいよう皿に取り出しナイフで一口サイズに切り分ける。
「あむ………………」
屈強な男には小さく見える豆腐のひとつを口に入れ目を閉じ味わう。他の男たちも同じように口に入れ無言の時間が流れる。
「こいつは美味い……甘さも感じる繊細な食べ物だ……」
「これと作るためにマザーリカーがいるというのならいくらでも持って行ってくれ」
「女たちの肌に塗るぐらいしか役に立たないからな!」
「そのお陰でみんな肌が綺麗にゃのにゃ!」
男たちを一蹴するミケーラの発言に苦笑いを浮かべる屈強なケットシーの男たち。どの世界でも結局は女性が強いのだろう。
「英雄殿、もし可能なら一度作って見せてくれないか? 恐らくだが先ほどの豆腐には俺らが作った塩が合うはずだ。俺たちの塩をかけて食べてみたい」
「もちろんです! 豆腐を作るのには大豆を柔らかく煮るために一日水に浸けて戻す必要がるので明日にでも一緒に作りましょう」
マモルが快く申し出を受けると男たちは歓声を上げ、指輪型のアイテムボックスを起動させるとゴブリンの村で分けて貰った大豆を取り出す。
「これを良く洗ってから水に浸し涼しい場所で保管して下さい。直接日光が当たらない場所にして下さいね」
「ああ、わかった! 先ににがりがある場所へ行くか?」
「はい、お願いします。塩作りの見学もお願いします」
丁寧に頭を下げるマモルに男たちは急いで塩を炊く作業場へ案内し大釜に火を入れるのであった。
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