金貨と航海日誌と刺身とひまわり
「まだ見比べているのねぇ」
すっかり日も落ち亜空間にあるどこでも的なドアの先にある家のリビングでは、まだ食べ過ぎた影響が残りリラックスモードのエルエルと金貨を並べ思案するマモルの姿があった。
リビングテーブルに並べられているのは先ほど幽霊船に積んだった財宝類なのだが、宝石やそれを加工した装飾品に関してはどれも時間が風化させているのか文字は読み取れず、微かに残る刻印された文字だっただろう傷が確認できる程度で、金貨も同じようなものが多くどの国で使われているか特定できるものがない減りようであったのだ。
「金貨としての作りも何だか上手くいっていない気がするよ。ほら、文字の掘方も甘かったのかも」
一枚掠れた金貨の表には女性の横顔に見えなくもない薄っすらとした凹凸があり、裏面には数字の1だっただろう縦の筋があるだけである。金という性質上柔らかくすり減りやすいのかもしれないがここまで摩耗しているとどの国が発行した金貨か特定できずモヤモヤした気持ちを募らせているのだ。
「魚人たちもいっていたのねぇ。ドワーフの国に持って行けば適正な価格で買い取ってくれるのねぇ。今更どの国が発行した金貨だの、海賊船の故郷がどのだの、どこの海を旅したのだの確定しても意味ないのねぇ」
「そうかもしれないが……そうだ! 航海日誌があったね!」
財宝と一緒に渡された航海日誌の存在を思い出し指輪型のアイテムボックスを起動させ取り出す。見た目は厚めの本サイズなのだが見慣れない文字とバンドのようなもので留められており本の裏や側面を確認する。
「ルーン文字なのねぇ。封印に近い形で魔術的なカギが掛かっているのねぇ」
「解呪ならエルエルに任せられるけど……」
「いまは消化するために力を使っているのねぇ。解呪も開錠もする気がないのねぇ」
ソファーに横になりながらお腹を摩るエルエルにジト目を向けるが動く気はなく、自分でどうにかしようと航海日誌を手に取る。
「一番簡単な方法は背表紙を切るのねぇ。背表紙が一番魔術的な効果が薄いのねぇ」
「航海日誌の作者だろう船長の気持ちを考えたら切り裂くなんて選択肢は取れないよ。えっろ、このルーン文字が……」
航海日誌を片手に刻まれたルーン文字を探し謎解きへと入るマモル。それを見ながら大きな欠伸をするエルエル。キッチンでは羊メイドと天使長が料理をしながら互いに意見をぶつけている。
「マイナス二十度で丸一日冷凍すれば魚に寄生する魔物は死ぬそうです。他にも時間停止の魔法を使うのも効果的だと主さまは仰っておりました」
「ピンポイントで振動を当てるのは難しいですメェ。もっと大きな寄生虫なら簡単なのメェ」
「それは単純に腕の差では?」
「音で攻撃するには標的が小さいといっているのメェ!」
「切り分けてみました。味見してください」
キッチンテーブルには三種類の刺身が並び、片方は一度冷凍してから解凍し刺身に切り分けたもので、もうひとつは生のまま刺身に加工しメイド長の鑑定魔法で寄生虫がいないのが確認できなかったもの、最後に時間停止で寄生虫が停止した刺身が並ぶ。見た目はどれも変わらないように見える。
「安全だとわかっていても時間停止で寄生虫が動かないだけのものは食べたくないのメェ」
「同感です……」
「なら何で用意したメェ?」
「精霊に食べさせて影響があるかどうかを見定めようかと」
「やっぱりこいつは意地が悪いメェ……」
時間停止している刺身から天使長へ視線を強める羊メイド。天使長は気にした様子もなく箸で一度冷凍した刺身を口に運ぶ。
「食べ比べなくても水っぽさを感じますね。旨味が抜けているような……」
「態々冷凍し解凍して切り分け生で食べる意味を感じないメェ……」
「こちらは生食する意味を感じる美味しさですが……」
「違いはわかるのめぇ……」
「醤油をかけて食べた方が美味しいですね」
「海水でいいからかけた方が美味いのメェ」
味の違いを確かめようと切り身をそのまま味わっていたふたりは醤油を小皿に入れ少量のワサビも天使長が用意し付けて口に入れる。
「この味ですね。刺身としての美味さは醤油が何倍も引き立てています」
「同感ですメェ。醤油があるとないとでは大違いですメェ。ワサビも魚の生臭さが緩和されるのメェ」
器用に箸を使い刺身を口にする羊メイド。天使長も同じように口に入れその味を確かめる。仲が悪いように見える二人だが認めるものは認めているのだろう。
「ん? これはまずいですメェ……対策を取らなければ……いえ、ダメというわけではなく、今は忙しいのですメェ。ですので、いえ、あの、あっ……」
刺身を食べ比べていた羊メイドの独り言が激しくなり、数秒ほどわたわたとしていたがすぐに箸と醤油を入れていた小皿をキッチンテーブルに置くと、光に包まれ現れる精霊王のツムギに微笑みを浮かべながら膝を付く。
「マモル~マモル~マモルに会いに来たの~」
急な光と精霊王のツムギからの叫びに顔を上げ、手にしていた航海日誌を手放しタックルを受けるマモル。
「会いに来たの! 光の精霊が連れてきてくれたの!」
「はじめてお目に掛かります。レイとお呼びください」
精霊王のツムギから紹介されたと悟った光の精霊のレイ。タキシード姿に顔がひまわりという個性過ぎる表情から発せられる声は渋く、更にその後ろには分体ではない羊メイドの悔しがる姿があり、苦笑いを浮かべながらマモルも自己紹介をするのであった。
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