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旅のお供は変わり者~種族を越えて囲むテーブル~  作者: 彩
第四章 ラミアとケットシーの村
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にがりとしゃぶしゃぶ


 子供たちと主婦たちにはパンケーキを振舞い生魚を安全に食べる方法を説明したマモルはケットシーと人魚の長老たちと席を共にして祭りの料理を楽しんでいる。魚やイカなどの串焼きや魚介類を使った癖のある香草を入れたスープ。直接薪の上に乗せ焼く大きな貝や大きな葉に包まれ蒸し焼きにされる魚などがテーブルに並び、エルエルと羊メイドは遠慮なく口に入れ表情を溶かしている。


「どれも個性的な料理なのねぇ。魚が美味しいから余分なことをしなくても十分に味が引き立っているのねぇ」


「葉に包むことで独特の香りと魚の身が焼いたよりも柔らかくふわふわとした食感へ変わっているのメェ。皮を食べるのなら焼き、身を食べるのなら蒸しがベストだメェ」


「魚は揚げても美味しいですよ。ナマズとは違い鱗ごと揚げるとパリパリと食べられますし、中の身が淡白であれば旨味も増える気がしますね。どの料理が一番とかではなくそれぞれに美味しいですね」


「ウロコまで美味しくなるのですメェ?」


「魚は皮と身と間の脂が美味しいという話があるぐらいですから、パリパリにすると食感も楽しめますね。他にも切り身にして出汁にしゃぶしゃぶとしてから食べる鍋料理も美味しいですよ。生で食べられる前提での話ですが自分の好みの火加減で食べられますから」


「しゃぶしゃぶは牛肉を使った鍋だと思っていたのねぇ。魚の切り身でもするのねぇ」


「ブリやタイのしゃぶしゃぶが有名ですね。カニでやっても美味しいですよ」


「どれも鍋で火を入れて旨味を落としているメェ」


「ふぅ、わかっていないのねぇ。鍋の中でしゃぶしゃぶとすることで肉や魚の旨味がスープに溶け込み似ている野菜も美味しく食べられるのねぇ。最後にはそのスープにライスや麺を入れてすべての旨味が出たスープを〆るのねぇ」


 ドヤ顔で羊メイドに語るエルエル。長老二人は会話についてこれず料理を口にしながらも、しゃぶしゃぶという鍋料理を想像し口の中は涎で溢れている。


「確かにスープを最後に使うのであれば合理的ではありますメェ……しゃぶしゃぶとは各自の火加減や好みと、すべてを味わい尽くす欲望が入り混じった鍋なのですメェ……」


「間違っていないけど正解しているのか疑問になりますね……」


「言い方次第なのメェ。しゃぶしゃぶは最後まで美味しいのメェ」


「折角ですし、作ってみましょうか」


 マモルからの提案に顔を上げキラキラとした瞳とあふれ出んばかりの涎を見せる長老たち。羊メイドも興味津々でふわりと宙に浮くとマモルの傍まで移動して作業を見守る。


「鍋に昆布を適当に出汁が出そうなキノコやかつお出汁を入れて火にかけ、昆布は沸騰前に取り出して、魚だと身が崩れやすいのでこのカニとクリスタルリザードのロースを出しますね」


 指輪型のアイテムボックスを起動するとドワーフの国で分けて貰ったカニを取り出し魔力を込めたナイフで殻を切り関節から外し、クリスタルリザードのブロック肉を薄くスライスしてさらに並べる。


「野菜は適当に長ネギと水菜に豆腐でいいかな。そうだ! 塩を作っているそうですがにがりを売ってもらえないでしょうか」


「にがり? にがりとはどのようにゃものにゃのですにゃ?」


「えっと、にがりは塩に含まれるミネラル成分の塩化マグネシウムで、海水をそのままに詰めると苦い塩になってしまう原因といえばいいのかな。塩作りの際に取り除く苦い液体です」


 ケットシーの長老は顎に手を当て考える仕草を取り、傍にいるミッケラが思い当たることでもあるのか口を開く。


「マザーリカーのことなのかにゃ?」


「マザーリカー?」


「うむ、昔の言葉で母なる酒という意味ですにゃ。当時は様々な病を治す薬として用いられていたのにゃ。いまでは捨てるしか役に立たない苦い汁、好きなだけ持って行くといいのにゃ」


 ケットシーの長老からの言葉にお礼を口にするマモル。


 鍋が沸き羊メイドが真っ先にカニの身を手に取り湯気が上がる鍋へ入れしゃぶしゃぶと動かす。体のサイズ的には熱さを感じる距離なのだが精霊の特性なのか熱気などお構いなしに透き通った身の色が変わるまでしゃぶしゃぶと続ける。


「ずるいのねぇ! 我もやるのねぇ!」


 ぬいぐるみ状態のエルエルも短い手を器用に使い箸を持ちクリスタルリザードのロースをしゃぶしゃぶする。その様子を見つめる長老たちは長年生きてきた中でも飛び切りの不思議な体験を経験している。


「これは甘いカニの身にスープの味が仄かに移り旨味が増していますメェ」


「はふはふ……冷めないで食べられるから肉が柔らかいのねぇ」


 ふたりのリアクションを見た長老の二人もフォークを手に取るとクリスタルリザードのロースを見よう見真似でしゃぶしゃぶし、用意してあるタレに付け口へと運ぶ。


「これは!?」


「カニはいつでも食べられるから肉を選んだのだが驚くぐらい美味しいのにゃ! このタレもまろやかなナッツに似た味で美味しいのにゃ~」


 蕩けるような表情を浮かべる長老ケットシー。人魚の長老も驚きのあまり後ろへ数十メートル飛び跳ね視界から消え、海の中を自由に泳ぎ回りながら初めてのしゃぶしゃぶの美味しさを皆に伝えている。


「喜んでもらえたのなら良かったです」


 そう派手なリアクションを取る二人に笑みを送るのであった。



 お読み頂きありがとうございます。

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