ケットシーたちの焼き魚と魚醤と分体
ケットシーの子供たちに作り終えると人魚たちからは潤んだ瞳が向けられ、きっと煙のせいだろうという言い訳ができるはずもなく、新たにパンケーキを作り始めるマモルとミケーラ。メレンゲ係は新たに募集すると屈強な魚人の男性とその妻の人魚が名乗りで、最近結婚したらしくラブラブながらも協力してメレンゲ作りを手伝い、他にもケットシーのペアも数組参加し一気にメレンゲ係が増え作業効率が上がる。
「魚も焼き上がったぞ!」
「誰か英雄さまに元に持って行ってくれ!」
「この貝もだにゃ!」
魚人はマッチョな男性の耳や腕や背中に脛などにヒレがあり長時間でなければ水に浸からずとも問題なく過ごせるが、人魚は下半身が魚で陸上生活はほぼ無理で殆どが海岸で過ごしている。いまも魚人は石で組まれた竈の近くで魚などを串焼きにしているが、人魚は子供の面倒を見ながら寛ぎ危険がないか空や地平線へ視線を時折走らせている。
「ワイバーンが討伐されたのは驚きだけど、こんなにも幼い子供が……」
「幼くても強いものはいるのにゃ。ワイバーンが打たれたいま、これから多くの種族間で交流が持たれるのにゃ。商機なのにゃ!」
「それには違いないだろうけどね……また海の時代が始まり大きな船同士で戦ったり、海の神の怒りをかったり、アンデッドが船を持つようになったりしないかね……」
「いまでも幽霊船の噂は聞くけど、まだ出ているのにゃ?」
「出ているではない。つい先日も月のない夜に現れ、夜中に騒ぎ、追い払ったばかりだよ。奴らは水属性程度じゃ追い払うぐらいしかできないからね……神聖属性の槍でもあれば戦いになるけど……」
ケットシーと人魚の長老が顔を合わせ海岸で話し合う。どちらも多くの年を取っているが眼光には力がありぎらついた瞳を互いに向けている。が、ケットシーと魚人の子供が串に刺した焼き魚を持ってくると優しい瞳へとすぐに変わり、孫やひ孫たちだろう子供は優しいおばあちゃんの笑顔におつかいを終了させ嬉しそうに母親の元に戻る。
「サバの魚醤焼きにゃ!」
「あんたらの魚醤は食べなれると癖になってとまらなくなるからねぇ。どれ、あむあむ……」
「熱っ!? 熱いけど美味しいのにゃ~」
串に刺し焼き上げられたサバに似た魚の皮は香ばしく焼かれ、魚醤がまんべんなく塗られており奥深い旨味と香りを生み出す。さっくりとした皮の中は脂の乗った腹の身は熱々でハフハフと息を漏らしながら食べる長老たちの姿に我らもと多くのケットシーや魚人が群がる。
「英雄殿も少し休憩して下さい」
「我らが作った魚醤を塗り込み焼き上げた魚をどうか食してくださいにゃ」
パンケーキを焼いているマモルの下にもサバに似た焼き魚の串が届き近くで見ていたケットシーが焼き係を代わってくれ熱々に噛り付き、腕が回復してきたエルエルやミッケルも同じように噛り付くとその味に目を見開く。
「魚醤の使い方が上手いのねぇ。魚の風味にコクがプラスされ香ばしさも嫌味がないのねぇ」
「この味だにゃ! これを食べると故郷に帰ってきた感じがするにゃ!」
「口当たりも良くて脂の乗りも最高ですね。こんなに美味しい焼き魚ははじめてかも……」
皮はパリッと焼かれ中の身はふっくらに仕上がり嫌味のない魚醤の風味とコクが口の中で弾ける焼き魚に自然と笑みを浮かべる一同。
「ごはんが欲しくなる味なのねぇ」
「購入できるのならサバの味噌煮やカレー焼きとかにしても美味しいかもな」
「これは確かに美味しいのメェ」
「メェ?」
自然に会話に加わったメェという語尾にマモルとエルエルは視線を走らせ、つい先日まで一緒に行動していた羊メイドの顔を探す。
「ここですメェ」
声のする方へ視線を向けるとマモルの頭上で器用に串で焼かれた魚を口にする三等身の音の大精霊である羊メイドの姿が宙に浮いている。
「なっ!? お前まで小さくなったら我の個性と被るのねぇ! 大きな状態で出てくるのねぇ!」
ぬいぐるみ状態のエルエルが驚きからのクレームを入れるが羊メイドはお構いなしに焼き魚を口にし続ける。
「えっと、帰ったのではなかったのですか? それにその体はどうなさったのですか?」
「これは分体ですメェ。帰り際に一々飛んで行っては面倒だなと気が付いたのですメェ。分体なら移動せずとも思考共有が可能ですメェ」
「思考共有ですか?」
「そうですメェ。こっちで学んだ料理の作り方や味に食材を遠くの本体がリアルタイムで受け取れ体験できるのメェ」
「べ、便利ですね」
「そうですメェ! 精霊王さまのために分体をマモルに付け、常日頃から料理の作り方と味を盗むのメェ! 他の精霊たちも食に対して興味を持ち始め、精霊界では食という文化が生まれたのメェ!」
手のひらサイズの羊メイドの登場にケットシーや人魚に魚人は口をパクパクと動かし驚き、リアルで見る精霊を前に視線と膝を折り手を合わせるのであった。
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