森を抜けた先と対魚人戦(ミッケル)
トレントたちの数が減り森を抜けると潮風を全身で感じどこまでも続く地平線は青く、波の音と共に子供たちが遊んでいる声が耳に届き視線を走らせると波打ち際で人魚たちと水を掛け合っている姿が見える。
「人魚さんがいるよ!」
「下半身が魚の亜人種にゃ」
「ケットシーの村では物々交換でやり取りしているのにゃ。ラミアの村の果物とか大人気の交換商品だにゃ」
「それで荷台に多くのドライフルーツを積んでいるのですね」
「ああ、ドワーフたちよりも人魚のほうが喜んでくれるからね。あっちは真珠や海の魔物の素材を卸してくれるよ」
「生の魚は運ばないのですか?」
「ラミアの村までなら鮮魚も届けられるが、安全性を考えると塩をしてから干したものじゃないとだね。腐った魚を売りつけるとか噂が立ったら商売できなくなるからね」
森を抜けた先は広い崖になっており近くに作られた坂からゆっくりと下へ降りる一行。海では人魚とケットシーの子供たちが遊び、沖では船を出して漁をしている姿も見える。
砂浜が視界に入るとその奥には休憩場所か、日除けなのか壁のない家が数軒並び、網を修理をするケットシーの女性たちの姿が目に入り、姉妹は大きく手を振りながら叫ぶ。
「英雄を連れてきたのにゃ~」
「エルエルさまだにゃ~」
海岸に響くふたりの紹介にマモルはまた英雄扱いは嫌だなと思いながらも、ふわふわ浮きながら胸を張るエルエルの図々しさをある意味尊敬しつつ足を進め、次第に見えてくるケットシーの村と岩礁地帯には多くの人魚と頭部にヒレのある魚人と呼ばれる亜人種の姿。
「魚人もいるのねぇ」
「女が人魚で、魚人が男にゃ。人魚は泳ぎが得意で、魚人も泳ぎが得意だがそれ以上に力持ちだにゃ」
「魚人ひとりでケットシーの十人前以上の力を発揮するのきゃ」
ここまで手押し式の屋台をラミアに任せるほどの非力なケットシー。どうせならラミアと力の差を教えてほしいなと思うマモル。
「あたしらも力には自信があるけど水中じゃ勝てる気がしないね」
「陸上でも戦うのは拒否したい相手にゃ……」
「ミッケルは魚人に揶揄われてからは対魚人用の対戦術を考案中にゃ」
「それは楽しそうなのねぇ。どう戦うのねぇ?」
ケットシーのミッケルの片方の口角がニヤリと上げ口を開く。
「どうにかして海から出すのにゃ」
自信満々に出た言葉に吹き出すラミアのふたりとエルエル。マモルはどうにかしての時点で失敗だなと悟るが、もしかしたら何かしらの発見があるかもと泳がせる。
「ぷっぷぷ、次はどうするのねぇ。」
「海から出たらできるだけ海に逃げられないように更に陸地に誘うのにゃ。騙されて陸地にやってきたところを熱風で乾かすのにゃ」
「熱風ですか?」
「そうにゃ! 多くの薪で火を焚いて風魔法を浴びせて乾かすのにゃ!」
テンションが上がり熱くなっているのか拳を固めて叫ぶミッケル。
「魚人を乾かすのですか?」
「そうにゃ! そのために大量の焚火と熱風を送るための風魔法が必要なのにゃ!」
「その言い方からすると風魔法が使えないのねぇ?」
「使えないのにゃが?」
何か問題があるのですか? と首を捻るミッケルにエルエルはフワフワ浮きながら爆笑し、追い打ちをするようにラミアのミランダが口を開く。
「そもそも乾燥が苦手な魚人が陸に長時間上がらないし、焚火が敷き詰められている場所なんか目指すわけないだろ」
「そそそそ、そんにゃことにゃいにゃ! えっと、あっと、美味しいお酒とかで誘き出してだにゃ、焚火は適当に蓋をして隠しているのにゃ!」
「蓋をしたら火が消えると思うけどねぇ……」
呆れたようにため息交じりに核心を突くマムミラ。
「ぐぬぬぬぬ、これでは魚人に一泡吹かせられにゃいのにゃ! ミケーラはこのままでいいのにゃ! ケットシーが馬鹿にされているのにここままでいいのにゃ!」
血走った瞳を双子の姉であるミケーラに向ける。
「それは違うのにゃ。ケットシーが馬鹿にされたのではなくミッケルのお胸が浮袋にならないと馬鹿にされたのにゃ。双子とはいえ格差があるのは仕方のないことなのにゃ」
ミケーラとミッケルを交互に見つめ確かにと思う一同。身体的特徴を揶揄するのは良くないが魚人たちからしたら人魚の胸は浮袋という認識で、それはケットシーやラミアにも適用されているというのが彼らの常識なのだろう。
デリカシーの欠片もない誤解になるのだが、持っていない者からしたら怒りを覚えるのは仕方のないことである。
「我もその気持ちがわかるのねぇ……」
そう呟きながら自身のぬいぐるみの胸をぺたぺたと触るエルエル。胸の大きなラミアのふたりは既に話題に興味がないのか下り坂の先を見ながら屋台を注意深く停車させ、走ってくるケットシーの子供たちに手を振る。
「ほらほら、子供たちが走ってきたよ」
「子供たちの前で変な話題はやめておくれよ」
ラミアたちの言葉に悲しげな顔を見合わせるミッケルとエルエル。男であるマモルが口を出すことはなく走ってくる猫耳の子供たちに胸の大きさとかは関係なく癒されるのであった。
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