アラクネの感謝と神力
村は二百名ほどのラミアとトレントが百本ほど飼われている。他にもアラクネと呼ばれる人でありながらも植物の姿をしている亜人種が三十名、マンイーターと呼ばれる人を食べる魔物が特定の区画で飼われている。
「森で怯えていた我らを解放してくださり感謝します」
料理の講習を終え空がオレンジに染まる頃、澄んだ声で話しかけたのはアラクネのまとめ役である女性。美しい花が咲き誇る長い髪にグラマラスな肉体と顔がサボテンという中々奇抜な女性。目や口には窪みがありそこから声を発している。
「いえいえ、あれは成り行きといいますか、こんなにも多くの人から感謝されると思わなかったので驚いています」
アラクネたちの代表からの感謝の言葉は羊メイドとラミアとケットシーの双子へ料理を教えたあとに合って深々と感謝され、トレントたちも背を正した状態で精霊王のツムギを迎えている。
「あのワイバーンがこの地にやってくるまでは、人々は活気のある貿易をしておりました。我らアラクネはラミアの他にもドワーフやゴブリン、オーガたちにも蜜を売り取引をしておりましたが……マモル殿、本当に感謝しております」
深々と頭を下げたアラクネ。その横でラミアが持つ大きな壺がマモルの前に置かれると甘い香りが漂い精霊王のツムギが立ち上がり壺の前まで走り鼻をスンスンと動かす。
「精霊王さまにもご用意がありますのでお受け取り下さい」
壺を持ってきたラミアが急いで戻り新たな壺を精霊王のツムギ前に置くと羊メイドが封を開ける。
「これは魔力を帯びた花の蜜ですメェ?」
封を開けると同時に甘い香りが一気に広がりツムギはパッと笑顔を咲かせ、ハチミツよりも透明な液体は花の香を強く放っている。
「はい、我らアラクネの蜜になります。魔力を含んだ甘く香り高い蜜はラミアたちの香水の元になり、若さを保つ秘訣でもあります。濃く甘い味はもちろんですが霊薬としての効果もありますので病気やケガの際に食していただければ治りも早くなります」
「いまの我が食べれば、きっとすぐに元に戻れるのねぇ」
手のひらサイズにまで縮んだエルエルがマモルの裾をクイクイと引きながら口にするがマモルは首を横に振る。
「あれは魔力の補充もできるだろうがエルエルが必要としているのは神力だろう。ゆっくり休むか天界へ戻る方が早く回復するよ」
「そしたらまた天使長がやってくるのねぇ……また怒られるのねぇ……」
そんな事もあったなと苦笑いを浮かべるマモル。横では羊メイドがニヤリと口角を上げ、それに気が付いたエルエルはマモルの腕にしがみ付き歯を食いしばって悔しさをアピールする。
「それは確かに困るかも……はぁ……僕の神力を少し分けるね。僕のは魔力と神力が融合したような力だから余分な魔力は適当に排出したらいいよ」
マモルとしても天使長に怒られるエルエルを見るのは忍びなく、ましてマモルがお願いしたことで天使としての力を使いすぎその姿が縮んでいる。腕にしがみ付いている手のひらサイズのエルエルに手を向け集中する。すると、光の粒子がマモルからエルエルに降り注ぎ穏やかな表情を浮かべ、それは日光浴をする猫のような幸せそうな表情である。
「充電されるのねぇ……神力が充電されるのねぇ……」
少しずつぬいぐるみサイズの体が大きくなりはじめる光景にラミアやアラクネたちは目を見開き天使に神力が注がれるという奇跡を目撃する。トレントに至っては天使であるエルエルが吸収できない排出された魔力をこっそりと集め吸収し自身の力へと変え、いたるところから蕾が現れ開花する。
「濃密な神力に満たされるのねぇ……」
恍惚した表情を浮かべながらサイズアップするぬいぐるみ姿のエルエル。
「ワイバーンを倒したからか、魔力よりも神力の方が体感だけど多く感じるんだよな……」
「それはそうなのねぇ。神力は信仰の力といっても過言ではないのねぇ。多くの種族のものたちからワイバーンを倒したことで尊敬されれば神力が溜まって当然なのねぇ」
オーク、ゴブリン、ドワーフ、ラミア、ケットシー、トレント、アラクネと、多くの種族のものたちからワイバーン討伐を喜ばれたマモルはある意味では神様以上の尊敬を集めており、エルエルがいうように神力が集まりやすい状態になっている。特にこのワイバーンが餌場にしている平原では何百人と犠牲になり外も安全に歩けない状態だったのが一気に解消したことで国々の国交までもが可能となったのである。この地に住み感謝していないものなど討伐されたワイバーンぐらいだろう。
「漲ってきたのねぇ! これならまたかき氷が食べられるのねぇ!」
「いやいや、そこじゃないだろ! 普通に感謝しろよ!」
ラミアに振舞った氷塊をまた作り出すのではないかと焦るマモルだが、流石にそんな真似はせずに元のサイズのぬいぐるみ姿に戻りプカリと空に浮き上がり、照れているのかゆっくりと風に流されマモルとの距離を取るエルエル。
「ちょ、どこに行くの!?」
風に流されるエルエルを掴もうと手を出すがエルエルは手を振りながら口を開く。
「ちょっとだけ、そっとしてほしいのねぇ……」
顔を背け手を振るエルエルに神力を込め過ぎたかなと心配するマモルなのであった。
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