ラミアの村へ
広葉樹が針葉樹のように姿勢を正した木々の間を進むにつれマモルの視界には小さな光の玉や、不自然に地面を移動するキノコ、雲のような白い塊、視認できる風の渦など、どれも精霊なのか羊メイドと適切な距離を保ちつつ進む。
「精霊たちが精霊王のツムギさまを来訪を喜んでいるのですメェ」
「どの精霊も楽しそうですね」
「精霊王さまが直々に来訪して下さっているのですメェ。その土地に住む精霊からしたら喜ばないものなどいないのですメェ」
「王さまが地方を来訪する的なことなのかな?」
「神が地上に降り立つぐらいに凄いことなのねぇ」
羊メイドとマモルにエルエルも加わった会話を屋台を押しながら耳にするラミアの二人と、警戒しながらも精霊たちの姿を目の当たりにしたケットシーの二人は驚きはしても立ち止まることはないが耳を立てる。
「そもそも、今回のドワーフの精霊炉の件に関しても精霊王さまが直々に来訪する意味などないのですメェ。それなのにエルエルとかいう雑魚天使が精霊王さまを誑かせ興味を持つような会話をするのが悪いのですメェ」
「誑かす? 興味?」
「そうですメェ。マモルが作る料理はどれも美味しく女神さますらも虜にする甘味の塔があるとか、口の中で肉汁が弾ける料理があるとか、口に入れると瞬時に消える甘い雲のような料理があるとかいっていたメェ。その言葉に精霊王さまは行く決意をされたメェ」
ぬいぐるみ状態のエルエルは視線を見やすくなった空に向け、マモルは悪戯に精霊王を刺激したのだろうとエルエルにジト目を剥ける。
「実際にあるのですメェ?」
「あるにはありますし、作ろうと思えば作れますね。でも、最後の甘い雲は専用の機械……魔法で再現できるかな? 理屈としては上から吊った穴をあけた空き缶を熱しながら回転させ割り箸で……」
歩きながら顎に手を当て考え始めるマモル。
「女神さまを虜にする甘味の塔とはどんな料理なのです?」
羊のメイドが大切に抱っこしていた精霊王のツムギが目を開け歩きながら思案するマモルへと声を掛け、マモルも考えるのをやめ視線を合わせると微笑みながら口を開く。
「それならラミアさんたちの村に着いたら作りましょうか。きっとスパイダーマンゴーを使って作ってみたいと思っていましたし」
マモルの言葉にパッと笑顔を咲かせる精霊王のツムギ。浮いているエルエルも小さくガッツポーズをして遠回しに食べたい料理がリクエストできたと喜び、抱っこしている羊のメイドも優しい笑みを浮かべる。
「でしたら早い方がよいですメェ」
そう小さく口にし手を払う仕草をすると小さな高音が響き歩いていたものたちが無重力のように浮き、前方へと吹き飛ばされる。突然のことに驚くラミアとケットシーの二人組だったが獣人特有の身体能力で体を制御し体制を保ち、マモルも以前に似たことを体験していたのか姿勢の制御には成功し身を任せ、ぬいぐるみ姿のエルエルはひとりグルグルと回転しながら先を進み一瞬にしてラミアの村へと到着する。
「一時はどうなるかと思いましたが、精霊さまのお陰で屋台も無事到着できました」
「まだ体が揺れている気がするのにゃ……」
「貴重な体験だったがもう一度はごめんだね……」
「楽しかったのにゃ! ビューンビューンだったのにゃ!」
それぞれに感想を口にしていると村の入口には多くのラミアたちが集まり見慣れぬ同行者へ視線が集まる。
「予定よりも早く帰ってきたが……」
体が揺れているラミアのマムミラに声を掛け、片手を軽く振り口を開く。
「まずは皆に伝えたいことがある。こちらの少年は平原を餌場にしていたワイバーンを討伐した英雄、マモル殿だ。その相方のエルエル殿、こちらは精霊王さまと、そのメイド精霊。他にも精霊たちが多くいるので魔力が多いものたちには驚くかもしれないが平静を保つようにしてくれ」
マムミラの説明に集まったラミアたちはしんと静まり返り、羊のメイドから飛び降りて華麗な着地を決める精霊王のツムギは声を上げる。
「精霊王なの!」
静まり返ったなかでの行動に更に静まり返り、風の音だけが聞こえるなか羊メイドが拍手をし気まずかったマモルが拍手をすると一気に拍手が広がり村の入口は一気に騒がしくなり、先ほどのラミアのマムミラの発言の意味を次第に理解し始めるラミアたち。
「わ、ワイバーン討伐と聞こえたが……」
「平原との貿易が再開されるのか?」
「ドライフルーツでまた儲けられるチャンスがきたぞ!」
「ゴブリンの国ともまた貿易できるのかしら!!」
「オークどもが軍を率いてくることはないのかしら?」
喜びと不安の声が入り混じるなか杖を突いたラミアの年老いた女性が姿を現すと辺りは静まり返り、ラミアのマムミラとミランダは深々と頭を下げマモルも同じように一礼するのであった。
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