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ゴリラと羊


 マモルが旅するにあたり創造の女神カルアミールが用意したどこでも的なドアは地上と亜空間を繋げることができ、更にはその中に一軒の家と小さな畑が創造されている。このドアを宿泊する部屋に置くことで安全に行き来でき、夜も暗殺などを警戒せず安眠ができている。

 朝になれば天使長がこの地に転移し朝食を作るサービスまでしてくれストレスのない旅ができている。できているのだが、今のリビングにはそのストレスが高まりマモルは温かいお茶を用意しながら互いに睨み合う天使長と羊メイドの姿にため息を吐き、エルエルも落ち着かない様子で寝息を立てる精霊王のツムギの上に毛布をかけている。


「これだから天使は融通が利かなく気も利かないのですメェ」


「身勝手をする精霊など滅びればいいのです」


 互いに意見という名の殺意を向け合いソファーから立ち上がり拳が出そうになるが、マモルがリビングテーブルに紅茶を置くと殺意が収まったのか二人とも腰を下ろす。


「えっと、精霊王さまは泊っていくということで」


「ええ、そうしていただけると助かるメェ。どうしても移動すると起きてしまわれるのメェ」


 メイド長からマモルへと視線を変え微笑みを浮かべる羊メイド。微笑む羊の顔に恐怖を感じているのかエルエルがビクリと体を震わせリビングから離れようと立ち上がるが、首だけ向けた天使長からの言葉にその身がピシリと硬直する。


「どこへ行くのです? あなたも関係あるのですよ」


「は、はいですねぇ」


 硬直した体を起こし背筋を張るエルエル。普段のぬいぐるみボディーではなくちゃんとした天使の姿で背を正す。


「あら、美味しいのメェ。この味なら精霊王さまにも後で飲ませたいのメェ」


「マモルが入れたのです。不味いはずありません」


「一々突っかかってくるのはどうなのですメェ」


「その薄ら笑いが気に入らないだけです」


 手にしていた紅茶のカップを置き立ち上がる羊メイド。天使長も立ち上がり拳を握り締める。二人の闘士が燃え上がり背にはドラミングをするゴリラと、眉間に深い皺を作る羊が現れ方眉を上げ下から威嚇する。

 そんな二人の様子に背筋を伸ばしていたエルエルはプルプルと震え、マモルはこの家が壊れないよう外でやってくれないかなと思いながら自分が入れた紅茶を口にする。


「そこまでになさい」


 凛とした声がリビングに響き次の瞬間には白い光が溢れ、二秒ほどで光が収まり現れる創造の女神カルアミール。急ぎその場で片膝を付く天使長と羊のメイドこと音の大精霊スタイ。

 エルエルも同じように片膝を付きマモル心底安堵しながら立ち上がるとキッチンへと向かい、それを寂しそうに見つめ手を前に出したところでマモルがお茶の用意をはじめたことに気が付き微笑みを浮かべ視線を片膝を付くふたりへと戻す。


「天使長と音の大精霊に仲良くしなさいと命令する気はありませんが、分野の違うもの同士なのですから適度に距離を置いて顔を合わさなければ問題が怒らないと思うのですがどう思いますか?」


 急に最上位の上司である創造の女神カルアミールから話を振られ片膝を付いたままわたわたとするエルエル。


「そうやってエルエルを虐めないの! いまにも殴り合いがはじまりそうで助かりましたがそれを飲んだら帰って下さいね」


 新しい紅茶を入れ帰ってきたマモルの言葉に口を尖らせる創造の女神。


「ついでに天使長も連れ帰って下さい。ふたりがこの場で殴り合いをはじめたら家が壊れますし、寝息を立てる大精霊さまを起こしてしまいますよ」


「それは困るメェ。大精霊さまにはすくすくと育ってほしいメェ」


 顔を上げる羊メイドはソファーで横になる精霊王のツムギの寝顔を見つめ表情を緩め、逆にゴリラを背負った天使長は何か言いたげな表情でムスッと顔を歪めている。


「天使長も今回はダメですよ。勝手に下界に降りてマモルに抱かれお買い物をし、精霊相手に喧嘩を売り、ドワーフの料理と酒を飲み食いして……私にも取っておくという配慮が一切なかったのもマイナスです! 私だって天界の仕事をさぼって可愛い息子と買い物デートをして美味しい花酒を飲んで名物料理を食べたいです!」


 本音が漏れる天界のトップの発言に笑い声を堪えながらも指輪型のアイテムボックスを起動し、お礼に受け取った花酒と購入した果実を創造の女神カルアミールの前に置くとパッと笑顔を咲かせる。


「いま食べるのなら果実は剥いてきますよ」


「あら、嬉しいわ! できた息子に感謝しながらいただくわね!」


 スパイダーマンゴーを手にキッチンへと向かうマモル。女神カルアミールは花酒が入れられたボトルを開封すると甘い花の香りが広がり眠りながらもスンスン小さな鼻を動かす精霊王のツムギなのであった。



 お読み頂きありがとうございます。

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