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闇とリラグオ



 緊迫感のある空気が張り詰めた廊下ではエルエルが一室の前に浮きながらマモルに注意を促し、マモルは女神が細工された身長ほどもある杖を構える。

 黒狼を討伐し母親の体調不良を一瞬にして回復させるほどのポーションを使わせてくれたこともあってか、リララグもエルエルとマモルが緊張感のある構えと急にアイテムボックスから取り出した杖に固唾を飲み回復したばかりの母を支えながら見つめる。


「闇が絡んでいるのならドアを開けずに神聖魔法を叩き込む方がいいよね!」


「それも手だけど視認してからの方が確実だねぇ!」


 左手で杖を構えながら一室のドアノブに手を伸ばすマモル。


「そ、そこは……」


 後ろから掛かる声に振り返ることなく杖に意識を集中させつつドアを開く。


「うっ……」


「これは酷い臭いなのねぇ……」


 開けたドアの先からは不快な臭いが放たれ、その先には和式の便器のような穴が開いている。オークたちは三メートルほどの高身長でお腹は出ているが筋肉質なものが多くその平均体重は二百キロに届くものも多く、陶器製の便器では割れてしまうことが多々ありこのような穴を掘る形が主流である。所謂ぼっとん便所である。


「あら、あらあら……」


 顔を赤くしながら壁に立て掛けられている蓋を手に取り蓋をするリラララに対して気まずい空気が流れ、マモルは左手に構えた杖を振り上げ力ある言葉を解き放つ。


「浄化の光よ……」


 トイレの中を神聖な光が包み込み嫌な香りが辺りから消え、消臭効果もある魔法が使えるのかと尊敬の眼差しを向けるリララグ。母であるリラララは顔を赤く染めてそそくさとトイレを出るとリララグの後ろへとまわり、体調が悪かったこともあるが蓋をし忘れたことを後悔するのであった。







「ここが主人の寝室です」


 気を取り直しリラララに案内され向かったのは黒狼に傷を負わされたリラグオの私室。重厚なドアを開けるとトイレとは違う陰鬱とした空気が溜まっており、エルエルはふわりと浮きながら浅い寝息を立てるリラグオの下へと向かい、マモルは手にしていた杖を翳し力ある言葉を開放する。


「浄化の光よ」


 寝息を立てている事もあり小声で発動させると柔らかな光が降り注ぎ陰鬱とした空気が晴れたように感じるリララグとリラララ。


「原因は左肩から右腹部にかけて走る三本の爪の斬撃だねぇ。奇跡的に内臓へのダメージがないのが救いだが……」


 ぬいぐるみの表情を曇らせマモルは視線をエルエルへと向ける。


「だが?」


「呪いだねぇ……」


 その言葉にリララグとリラララの視線もエルエルへと向かる。


「マモルは良く目を凝らして見るといいねぇ。黒い靄が見えるねぇ」


 エルエルの指示通りに視線をリラグオへと向け、包帯だらけで浅い呼吸を続ける姿に痛々しさを感じつつも両目に魔力を集める。すると、黒い靄のようなベッドから上へ包み込むように寝息を立てるリラグオに纏わりついている。


「夫は! だ、大丈夫なのですか!?」


「父ちゃんっ!!」


 声を上げ慌てて近づこうとする二人の前にエルエルが下降し、その体を広げ静止させる。


「心配だろうがちょっと待つねぇ。この程度の呪いなら解呪も楽ねぇ……でも、ただ解呪するよりも呪いを反転させた方が術者に仕返しができるねぇ」


 ぬいぐるみの表情をニヤリと変え悪い笑みを浮かべるエルエル。


「確かに大元を叩かないとまた呪われたりするかもですね」


 黒い靄の流れを追いながらベッドの下へと続くそれを見るために膝を折り、光りがあまり届かない場所へ向かい杖を向ける。


「あれだな……呪いの発動媒体だろう魔石? があるよ」


 エルエルもゆっくりと床に着地してそれを視認すると大きなため息を吐いて口を開く。


「間違いないねぇ。あれは魔石に陣を書き入れ呪物とするものだねぇ。標的となる人物の回復を遅らせ傷口を腐らせる効果があるねぇ……邪神の目にも似た効果があるとか、どれほど恨まもごもごもごもご……」


 雲行きが怪しくなるエルエルの説明にマモルは急いでその口を両手で塞ぐと、部屋の隅へと移動して小さく口を開く。


「どれだけ恨まれているとか家族の前で口にするなよ。それよりも呪いの解呪を先にして!」


 前半だけは小声で話し、後半は解呪を優先させていますとオーク親子にも聞こえるよう音量を上げる。


「そうだねぇ。解呪しなければ傷も治らないからねぇ」


 マモルの手から解放されたエルエルはゆっくりとベッドの近くへと戻るとギリギリ届く両手を合わせゆっくりと頭を下げる。沈黙が数秒続くとエルエルを中心に円が広がり淡い光が部屋を包み込み、広がった円は魔方陣のようなサークルと文字で構成される。


「解呪の法……忌まわしき呪いよ、第十位天使エルエルが願う! 理から外れた力よ、神聖の前に退け! その思いは帰り、返り、暗く深く静め……」


 力合う言葉と共に光が凝縮しベッドの下の呪物へと向かうと音を立てて割れ、小さくもどす黒いそれは逃げるように窓へと移動すると隙間から飛び立つ。

 マモルはそれを追おうとするがその肩に手を置いて口を開く。


「追わなくてもすぐに呪いが帰ってわかるねぇ……返された呪いはその威力を増して術者に返るからねぇ」


 ニヤリと顔を歪めるエルエルの姿に正直性格が悪いなぁと思うマモルなのであった。





お読みいただきありがとうございます。

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