リララグの母
リララグを追うように村の中へと入ったマモルとエルエルは多くの女性オークから歓声にも似た声を掛けられ、前を走るリララグを見失わないよう気を付けながら足を進める。
「あんなに小さいのに黒狼を討伐したそうよ」
「戦士の顔立ちをしているわ!」
「オークではなさそうだけど小さいしドワーフかしら?」
「髭のないドワーフ?」
キャッキャと騒ぐドワーフの女性たちの間を素早く足を進め、村の入口には開けた場所があり魔物の皮や骨に毛が干されており、これらを使い武具や装備に生活用品を作るのだろう。
「マモル! こっち!」
手招きされた一軒へと向かいその大きさに驚く。遠目で見れば木や土を使った一軒家なのだがオークの平均身長が三メートルはあり、まだ1メートル40センチと半分ほどのマモルからしたら大きく見え、入口で足を止めそのサイズに驚く。
「やっぱりオークさんたちは大きいな……」
小さく呟いた言葉にリララグはニシシと自慢げに笑い、横で浮いた存在のエルエルはそれに興味がないのか開かれているドアに頭を突っ込ませる。
「嫌な臭いがしますねぇ……」
こちらもまた小さく呟き、視線の先に目を見開くオークの女性と目が合い軽く会釈するエルエル。
次の瞬間、女性の悲鳴が響き渡りエルエルは逃げるように外へと出てマモルの後ろへ、リララグは慌てて中へと入り悲鳴を上げた母へと説明をし、マモルは不法侵入したエルエルに向かい説教を始めるのであった。
「リララグの命の恩人だとは……」
口に手を当て話すのはリララグの母であるリラララ。リララグの説得もありぬいぐるみのような姿の天使エルエルを不審な生物ではなく自身を助けてくれ、更には回復魔法を使い傷まで癒してくれた存在だと理解した。
ちなみにオークの家はすべてのサイズが大きく、椅子にしてもマモルからしたらちょっとしたアスレチックになるぐらいのサイズで這い上らないと使えず、テーブルになるとベッドサイズであった。
「それは別として、こっそりと林に出掛けたことは褒められる事じゃないわね」
目を吊り上げるリラララ。リララグとしては林に住み着いた漆黒の狼が討伐されたことで有耶無耶になっていたのをすっかり忘れて助けられたことを母に報告したのである。
「そ、それは……」
顔を青くし言い訳を口にしようとするが鋭い目つきに睨まれゆっくりとその口を閉じるリララグ。
「えっと、それで、リララグのお父さんが怪我をしていると聞いて、その治療ができればと思い寄らせていただいたのですが……」
話を戻そうとマモルが口を開くと釣り上げた瞳が戻り椅子から立ち上がるリラララだったがふらりとその身を傾け、慌ててリララグが立ち上がりその体を支えマモルもフォローへと入る。
「母ちゃん!」
「あら、やだ、ごめんなさいね」
見ればその表情は青く看護疲れだろうか子供二人でゆっくりと体を支え椅子へ戻す。
「マモルはアテムボックスからポーション(中)を出してこのご婦人に飲ませなねぇ」
フワフワと浮いているエルエルからの急な指示に目をパチクリとさせるもポーション(中)はそれなりに高価な品物で傷口を瞬時に止める効果があり、それだけ弱っているのだろうと指輪に触れアイテムボックスを起動すると赤いポーションを取り出す。
「これを飲んで下さい!」
透明なガラスの瓶の中には真っ赤な液体が入っており、それを見たリラララは目を見開く。
「そ、それって、大変高価な物でしょう。今のこの家では対価を支払うことができません!」
ポーションの価格は安くても銀貨数枚はし、今手渡した赤いポーション(中)は相場にもよるが金貨数十枚はする値段であり躊躇うのも無理はないだろう。
「その辺は気にしないで下さい。それよりもあなたが倒れたらリララグくんが可哀想ですので……」
マモルの言葉に申し訳なさそうな表情を浮かべ、リララグも表情が青い母に無言で頭を縦に振る。すると、諦めたのか、それとも意を決したのかポーションの瓶を開け口にする。
「ふぅ……ポーションはこんなにも飲みやす……い……薄っすら光が……」
ポーションを流し込むと次の瞬間には体から薄っすらと赤く発光する。これはポーションが体内に入り使用者の魔力と結合し効果が表れた魔力反応である。
赤く輝いていたが数秒ほどで収まり顔色にも血色が戻るとリララグは椅子に座る母に抱き付き薄っすら涙を浮かべる。
「この子にも心配させちゃったわね……」
そう言葉を漏らすリラララ。マモルは親子愛を見つめていたが視界の隅でフワフワと揺れながら移動するエルエルに気が付き視線を向ける。すると、そのまま部屋を出そうになり慌てて追い掛けるマモル。
「人様の家を勝手に動き回るな!」
マモルの叫びに抱き合っていた親子も視線をマモルからエルエルへ向け、向けられたエルエルは振り返る事なく声を発する。
「マモル! この気配はヤバイねぇ! 闇が絡んでいるねぇ!」
エルエルの言葉にすぐにアイテムボックスを起動し、女神が細工された一本の杖を取り出すのであった。
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