金貨と精霊王と羊メイド
ドワーフたちは夜空に現れた光に驚きながらも、街中で流れている噂話に真実味が帯びたと誰もが酒を片手に喜びの声を上げた。
「あれは精霊様の光に違いない!」
「炎の精霊さまが帰ってこられた!」
「またミスリルやオリハルコンが扱えるぞ!」
「天使さまの光も一緒だ!」
天使という存在についてはかん口令が引かれているが、白い光を放ち夜空を飛ぶ姿を目撃しては嬉しそうに天使さまだと口にするのは仕方のないことだろう。王宮の会議室からもその白い光と赤く燃える光を目にしながらドドランダ国王は両手で額を覆い叫ぶ。
「天使さまはわざとやっているのか! かん口令をどれだけしてもああも目立たれては意味がない! これでは鷹の天使さまに滅ぼされるぞ!」
「すぐに警備のものたちを走らせ鎮圧させましょう」
「はっ! すぐに!」
ひとりのっ警備兵が会議室をあとに走り、それを見送りながらも深いため息を吐く一同。重い空気が流れる会議室ではマモルに頼まれた金貨の査定をしていたのだがその扱いに困り果てていた。
「精霊炉の復活はドワーフの悲願ではある。あるのだが、もう少しこちらの身になって行動してほしいものだな。この金貨にしてもそうだが流通させて良いものだろうか……」
「普通に考えればダメでしょうな……」
「買い取るにしてもどれだけの金貨を積めばよいものか……」
「鑑定結果からいえば査定不可能。創造の女神カルアミールさまが作り出した金貨ですから……」
「聖属性が付与された金であり、ミスリルなどに近い性質がありながらもオリハルコンを超える……」
「そもそもミスリルは魔力伝導率が高く、オリハルコンは魔力を打ち消す力ではないか!」
「矛盾がありますな……」
「金貨という形をしているが未知の金属として研究したいぐらいです」
会議室に集まったドワーフたちが意見を交わすなか宰相であるドワーフが立ち上がり国王であるドドランダが立ち上がると皆に「後は頼む」とだけ言葉を残し部屋をあとにする。
「ワイバーンが討伐されこれからは自由に太陽の下を歩けるかと思ったが次から次に問題がやってくる……」
「精霊炉の復活のためとはいえ胃が痛いのは事実ですな……」
国王と宰相は遠くから聞こえる歓声の下へ向かうべく互いに愚痴を言い合いながら長い廊下を進むのであった。
山の頂上に鎮座する城の上部はワイバーン対策で鉄で覆われてはいるものの光と風を取り入れる工夫がなされており、その隙間から中庭へと降り立つエルエル。エルエルに続き中庭に降り立つのはトカゲの姿をしているが体の節々から炎を上げている半透明な精霊と呼ばれる存在。更にその背に乗りキャッキャと喜んでいる五才ほど赤髪の少女とメイド服を着た羊。
「精霊さまだ! 精霊さまが帰ってきてくれた!」
「サラマンダーさまだ!」
「天使さまが精霊を連れてきてくれたぞーーー」
城の窓から叫ぶドワーフたちの声がワイバーン対策で覆っている鉄の屋根に反射し人々が連鎖的に歓喜し、その音量で鉄の屋根が震えるなか地上へと降り立ち待ち構えていたマモルと天使長とお着きとして命じられ震えているドワーフのメイド。
「げっ!? 天使長!! なのねぇ!!!」
帰ってきたエルエルの第一声に苦笑いを浮かべながらも歓声に掻き消されているためか、それともお怒りだからか天使長は笑顔のままであり、メイド服の羊が赤髪の少女を丁寧に抱え地面に下ろすと手を払う仕草をする。
「これでまともに会話ができますメェ。地上で貴女に合うとは思わなかったのメェ」
「音の大精霊であるスタイが来るとは思ってもみませんでしたが……相変わらず暑苦しいですね。少しは全身の毛を刈ったらどうですか?」
「ふっ、何を言うかと思えば私の体毛が羨ましいのですかメェ?」
「誰がいつ羨ましいと? ムダ毛が多いといっているのですが」
ニヤリと口角を上げる羊。天使長は両手の指をポキポキと鳴らしていつでも戦闘態勢に入れるよう踵を浮かせる。
「あのね、あのね、ツムギはツムギで精霊王なの!」
天使と羊のやり取りを心配げに見つめていたマモルの裾を掴みクイクイと引き自己紹介をする精霊王のツムギ。右手には葉が付いた木の棒を持ちマモルに興味があるのかキラキラとした瞳を向ける。
「えっと、はじめまして、自分はマモルです。精霊王さま自ら足を運んでいただきありがとうございます」
「うん! 足をはこんだ! はこんだの! 久しぶりにお空を飛んだの! ビューーーって、飛んだの!」
「空を飛んで怖くなかった?」
「怖くないもん! スタイがいてくれるから怖くないもん!」
「その通りですメェ。私がいればどこだろうと怖くはないのメェ」
天使長の前で睨み合っていた大精霊のスタイだったが一瞬にして精霊王ツムギの横へと並び微笑みを浮かべ、天使長も負けじとマモルの横に立ち口を開く。
「それはこちらの同じです。私がいればマモルさまも心強いはずです」
ライバル意識があるのかまた睨み合いを始めるふたりに精霊王ツムギはキャッキャと笑い、マモルはメイドとして負けられない何かがあるのかと思いながらも面倒くさくなるので触れないでいようと心に誓い、メイド長からのお小言がなくなったと安堵するエルエル。もう一人のメイドであるドワーフの娘はただならぬ雰囲気に顔を引きつらせ続けるのであった。
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