天使降臨と商店街の蛇と猫
「ここは少し熱いですね。エルエルが戻るまでこの場所は適さないです」
そう口にすると目を見開き口を開け固まるドワーフの工房主たちを放置し、外へと向かう降臨した天使長と背を押されるマモル。
すらりとした高身長に印象的な背中の翼、整った顔立ちと金糸のように美しい長い髪。その外見とは不釣り合いのメイド服と白いエプロン。頭上には黄金に輝く輪があり、外に出ると両膝を付き手を合わせる野次馬をしていたドワーフたちの姿に顔を引きつらせる。
「て、天使長、これだけの人々が祈りの姿勢をとっているのですが……」
「恐らくは過去の天罰で天使たちが地上を蹂躙した史実がちゃんと語り継がれているのでしょう。とても良いことですが、私が天使だとばれ広まるのは困ります。エルエルのように姿を変えた方が無難でしょうか……」
「そ、そう思います……」
今更な気もするが目撃者の数が少ない方が今後の対応がましになるだろうし、僕は拝まれる日常生活とか絶対に嫌だなぁ。エルエルは喜びそうだが……
心の中でドワーフたちから手を合わせられる日常を想像し苦笑いを浮かべ、工房を出て足を止めていた天使長の姿が光に覆わればさりという音とともに一匹の白い鷹がマモルの肩に止まる。
「この姿なら天使だとばれないでしょう」
自身の肩に止まり至近距離にある鷹の瞳と爪は鋭く一瞬恐怖を感じるが、いつも朝食を作り笑顔を向けてくれる存在が近くにいることで安心感も覚え複雑な心境になるなか肩から羽ばたき宙へと舞う天使長。
「いま見たことはすべて忘れなさい! もし言い触らすようなことがあればこの私自らこの拳で罰を与えます!」
宙で不自然に静止し翼を広げ宣言する天使長。変身した意味が完全になくなり、更には脅迫という手を使いドワーフたちを黙らせ恐怖に陥れる方法を取ったことにマモルは片手で顔を覆い天を見上げる。
「て、天使さまのお言葉は絶対だ!」
「誰も言い触らすな! 天使さまを怒らすな!」
「悪夢の再来になるぞ!」
「ドラゴンですら地を這う力が向けられる! 絶対に言い触らすな!」
両膝を付き手を合わせていたドワーフたちは額を地面につけ平伏し、皆を奮い立たせるよう声を上げる。
「私は争いを好みません。そうですね、マモル」
急に話を振られ慌てて姿勢を正すと無言のまま首を縦に数回振ると鷹の顔が満足気な笑みを浮かべ肩へと舞い降りる。
この状況下でエルエルを毎朝アイアンクローしていますとかいえないよ……そう心の中で思いながらも、誰もが顔を上げ手を合わせる状況に気まずくなりどこともなく足を進める。
一時間ほど肩に鷹を乗せ歩き回りながらドワーフの街を散策し、拝まれるのにも慣れてくると活気のある商店街が目に入る。鉄製の屋根の下には多くの商店や屋台が並び肉の焼ける香ばしい匂いや果物の甘い香りに強いアルコールの臭いが混じる。そんな商店街のような街並みにドワーフとは違う種族が数名目に入る。
「ラミア特製の果実はどうだい!」
「花酒にも使われている果実だよ!」
「こっちには塩漬けの魚があるにゃ~」
「干した貝もあるにゃ~」
ラミアと呼ばれる下半身が蛇の女性たちや猫耳のあるケットシーと呼ばれる獣人の屋台があり、まだワイバーンが討伐されて数日なのに逞しい商魂だなと思いながら足を向けるマモル。
手押し式の屋台には多くの果物の甘い香りが漂いオレンジやバナナにココナッツのような見たことのあるものから、紫色の人型をしたものや、どう見ても手のひらサイズの蜘蛛に見える形をした前世では見たことのない果物が並ぶ。
ケットシーの屋台では海産物を扱っているのか塩を付け干しカチカチになった魚やホタテの貝柱のような見た目の貝を干したものがザルの上に並び、大きな岩塩や干した昆布のような海藻類も売られている。
「ん? 肩に鳥を乗せているのにゃ?」
「まだ若そうだけど魔物使いなの?」
「ドワーフの子供にしては髭が少ないね」
まだこちらまで噂が流れていないのか、それとも他種族ということもあり伝わっていないのかはわからないが、拝まれず普通の反応に安心感を覚えるマモル。肩の天使長は鋭い瞳を向け果実や干された魚を見つめ安全性を確かめる。
「少年、少年、その鳥が商品を咥えて空に逃げたら支払いできるにゃ?」
「こっちの果実も売り物だからね」
ケットシーとラミアの言葉に素早く飛び立とうとした天使長の足を掴み優しく抱き上げ口を塞ぐ。
「もちろん支払いはしますのでそこは安心してください。それよりもこの貝柱や果実を見せてもらってもいいですか」
鷹を抱きしめたまま身を乗り出すマモルに逆に身を引くラミアとケットシー。
「別にかまわないが説明はいるかい?」
「こっちもいっぱい売りつけるにゃ~」
暴れず抱きしめられたままの天使長が呼吸をしているのを確認し、買い物をするのであった。
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