精霊炉
王妃の命令で呼び出されたドワーフの二名が現れ背筋を伸ばし敬礼する。
「呼び出した理由はわかるかしら?」
「はっ! 英雄殿方が精霊炉を修理してくれる可能性があるとのことですよね!」
「いつでも精霊さまがいつ戻られても快適なよう掃除を欠かしてません!」
エルエルが修理可能だと口にしてからメイドを走らせこの場に呼んだのだが、メイドが部屋を退出すると同時に入ってきたふたりに笑いそうになるのを堪えるマモル。ちなみにエルエルは声出して笑い宙をコロコロと転がっている。
「ほら、失礼になるから笑うなよ」
「いひひひひ、でもでも、メイドと入れ替わりで入ってきたのねぇ。いひひひひ」
通常ではありえないスピードで入ってきたドワーフのふたりは喜びのあまり先に飛び出していった警備兵から事情を聞いただろう。急いでこの場に現れ眉をひそめた王妃の表情を見ればこの場の会話が筒抜けになっているのを認めることであり、恩人でもあるマモルへの比例にあたるのだが王妃も精霊炉の復活は口から手が出るほど望んでいることであり、黙認しながら口を開く。
「それでは現場への視察をして、お二方には申し訳ありませんがお願いできますでしょうか?」
「ほら、そろそろ落ち着いて話を聞いてくれよ」
「いひひひひ、わかったのねぇ。ヒィヒィ、いひひひひ、ま、待つのねぇ。呼吸が整わないのねぇ」
爆笑から精神を安定させようとするがまだ緊張しながら背を正すドワーフふたりの態度と、気まずそうなマモルと王妃の表情が現状の違和感となり呼吸が整わず壊れたエンジンのように笑い声を吹かす。
「あまりに失礼だとメイド長に報告するぞ」
マモルからのジト目の一言にピタリと笑い声が止まりスッと宙から椅子の上へと着地するエルエル。その豹変ぶりに今度は王妃が笑いそうになるのをグッと堪えるのであった。
「こちらが精霊炉です」
「いまでも炉には火を入れ精霊さまが帰ってきても機嫌よくいられるよう努めておる」
ドワナプラ王国の北側の斜面には多くの煙を上げる煙突がありその中の一つに案内されたふたり。どの工房よりも広く場所が取られ煙突も五本並び野次馬をするドワーフもいるがある一定以上近づかずに工房の開け放たれた窓を見つめている。
「こちらのミスリル製の板に手を置き魔力を流すと炉に魔力が送られます」
ドラム式洗濯機のような形をしている精霊炉の近くにはミスリルと赤い魔石がはめ込まれた操作台があり、その台に設置されたミスリス製の板に手を置く場所に触れながら説明をするドワーフ。
「ちょっと失礼するのねぇ」
手慣れた様子で説明をするドワーフを押しのけふわふわと精霊炉に近づくエルエル。マモルは火が入った炉の熱さに距離を取りながら視線ではエルエルの行動を注視する。
「えっと、ふむふむ、ああぁ、やっぱりなのねぇ。そうなると……」
勝手に開けた炉から漏れる炎を見つめ大きめな独り言を口にし、説明をしていたふたりドワーフは何が起きているかわかっていないが、何かしら気が付くことがあるのだろうと目を見開き熱風も気にせず顔を近づける。
「契約の更新が必要なのねぇ。前にここで働いていた炎の精霊の書置きが残っているのねぇ。ほら、ここから漏れる炎が字のように揺らめきながらも形を作るのねぇ」
「ど、どのあたりだ!」
「まるでわからんぞ!」
ぬいぐるみボディーの腕で開け放たれた炉から漏れてくる炎を指差すがドワーフたちには読み取ることができず二人揃って後方に控えたマモルへと振り向く。
「えっと、ボクにも精霊語はわからないのでエルエルに聞いてください」
「うむ、わかった!」
「すまぬな、英雄殿!」
向き直りエルエルが指差していた場所を集中して見つめるが、このドワーフふたりも精霊語を知らないのか揃って首を捻る。
「どちらにしてもこの炉には精霊がいないのねぇ。別の精霊をつれてくればいいのねぇ」
「炎の精霊をつれてこなければならぬのか……」
「それに新たな契約もだ……」
互いにムズがしい表情を浮かべるドワーフたちが助けを求めるようにエルエルを見つめ、エルエルはふわふわ浮きながら口を開く。
「仕方がないのねぇ。これからちょっと出かけてくるからマモルはちゃんと自分で自分を守るのねぇ」
そう言葉を残すと瞬時にその姿が白い翼のある少女へと変わり目を見開き固まるドワーフのふたり。
「守るぐらいはできるからエルエルも気を付けてな」
無言でこくりと頷いたエルエルは工房を退出すると驚きの声が上がるなか空へと飛び立ち、一瞬にしてその姿が追えぬほど遠くへと姿を消す。
「え、エルエル殿はいったい……」
「不思議な姿をしているから何の種族かわからなかったが……」
見開いている瞳のままマモルへと視線を向け、震える声で疑問を口にするふたり。
「えっと、あまり広めないでほしいのですがエルエルは天使なので、できれば黙っていてほしいのですが、」
光の柱が現れ窓から入る輝きに思わづ口を閉じ身構えるマモル。だが、次の瞬間にはドアが開き聞きなれた声が工房に木霊する。
「黙っていれば悪いようには致しません。あと、私の姿も黙っているように」
突然の訪問者に目と口をあんぐりと広げ驚きからフリーズへと変わるドワーフのふたりなのであった。
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