王妃と国王と宰相と親書
大理石に囲まれた玉座の間は壮大な造りで赤に金糸の絨毯の上に立ち王妃の話を申し訳なさそうな表情で聞くマモル。エルエルも宙にフワフワと浮きながら話を聞くのだがその視線は現国王であるドドランダへと注がれ、ニヤニヤを口角を上げてはいるが笑いを堪えている。
「ワイバーン討伐は我らドワーフにとっても悲願! 先々代が作り上げた雷王の斧もワイバーンの前では当てることすらできなかったのです。クリスタルリザードの角をオリハルコンとミスリルを使い作り上げたのに当てることすらかなわず、実際に使ってみたらシールド魔法すら傷つけることすらできずに破損するなどドワーフの恥! それを後生大事に国宝などと……」
王妃の愚痴にも似た言葉を耳にしているのはマモルとエルエルにゴブリンの国から使者としてこの場に立つランエボラ。他にもドワーフの王国の重鎮や宰相に権力者たちが自国の恥として雷王の斧について話はじめ顔を引きつらせ、更には王座の前で正座している破壊した張本人と細かなパールに分かれた雷王の斧。
国王であるドドランダと赤鉄の騎士団が必死に言い訳を考えていたが、その最中に宰相を率いて現場に現れ取り繕う前に正座をさせ事の顛末をマモルへと尋ねた結果がこれである。
お説教に巻き込まれるとか最悪なのねぇ。でも、偉い国王が怒られているは見ていて面白いのねぇ。それにしても天使長に我が怒られているときのマモルの表情を思い出すのねぇ。
はぁ……もっと気を使って最強のシールドを全魔力を集中させて作り上げたとかにすればあの斧が壊れたのも仕方がないとかなったのになぁ……シールドに対して上から振り下ろしていたから相応の威力がでたはずなのにどうして斧の方が壊れるかな……
エルエルとマモルの心の中は違えどそろそろ説教に飽きてきたのを察したのか王妃の愚痴が収まり笑顔へと変わる。
「では、あとの反省は宰相に任せるとしてマモルさまとエルエルさまには別室に移動してもらいこの国の名物や褒賞を差し上げましょうね。メイドたちはその準備を」
「はっ!」
控えていたメイドたちが一斉に動き出し、王妃は二人を手招きすると玉座の間の左袖へと誘導する。
「では、我もそろそろ、」
「正座!」
「はっ、はひぃ!」
立ち上がろうとしたドドランダを正座の一言で抑え、ゆっくりと現れる宰相。多くのものが退出するなかで残された正座の国王と、それを気の毒に見つめる宰相に、親書を持ちいたたまれない顔を浮かべるランエボラ。完全に王妃とマモルたちが袖へと姿を消すと口を開く。
「雷王の斧の使い方は間違えていなかった。魔力を送りためて叩きつけるようにシールドへ打ち下ろしたのだ。あれはマモル殿のシールドが強力で強固だったからなのだ……」
宰相へ訴えるように話すドドランダ国王。
「そうだとしても無許可で持ち出し壊したのも事実です。国宝は国の宝であり我が国の誇りであり象徴、それをこのような粉々に……どのような理由があれど厳罰として処理しませんと王妃様が納得なさいませんな……」
「そ、そんなぁ……」
「しかるべき処罰はあとで決めるとして、待たせて申し訳ないランエボラ殿」
急に話を振られ体をビクリとさせながらも手にした親書を前に差し出し頭を下げる。
「このような場ですのでどうか気を楽にして下さい。失礼をしているのは我々のほうですから……はぁ、ワシ、そろそろ引退したくなってきた。これからはゴブリン殿の平原が安全に通行でき貿易の時代が再来する。それこそ新しい時代の幕開け、ワシのようなジジイは引退して若者に任せるのが通りですな」
「いやいや、それは困る! 我妻を唯一説得できるのは宰相! お前だけなのだ! 私が浮気したときも殴られただけで済んだし、大事にしていた酒を間違えて飲んだときも半殺しで済んだのだ! 宰相がいなかったらと思うと……今年中に殺されかねん!」
「殺されかねんではありません! 普通に生活すれば問題ないのです! それなのに英雄殿が来られたのを歓声から察して飛び出してゆくとか……子供ですか!」
「男はいつだって子供心を忘れんのだ!」
「忘れて国王としての自覚を持てといっているのです!」
差し出した親書をプルプルとさせていたランエボラに気が付いた国王がさっと手を出して受け取り、顔を上げるランエボラはやっと自分の仕事が終わったと胸を撫で下ろす。
「ほう、国交の樹立はもちろんだが農具の手配をしたいと……」
「あの平原は羊を育てるのにはぴったりの牧草が多い栄養がある土地。農業も大々的に行いたいのでしょう」
「そうなれば農具以外にもワイヤーや釘に武具も必要になるだろう。増産体制を整えないとだな」
「農具に関しては既に増産体制に入っております。ワイヤーは魔物から羊や農地を守るためですな」
「ああ、ワイバーンがいなくなれば別の魔物が新たな餌場として現れる可能性が高いからな。ゴブリン殿以外にも我らや近隣のラミアやオークたちに声を掛け草原の魔物を減らすべく新たな組織を作り平原を守るのも良いかもしれんな……」
説教を食らっていたとは思えない発想を口にするドドランダ国王。宰相もその発想に頷き、ランエボラは新たな同盟国の王に期待を向けるのであった。
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