味噌とドワーフたち
丁寧に身を剝がしても尻尾や背骨のまわりには肉が残りやすく、その部分を注意しながら網にのせて焼く。肉の部分は少し焦げたところで水に入れゆっくりと煮込み、血抜きされたナマズの身をすり鉢ですり潰しショウガと玉ねぎみじん切りに塩を入れイモから作った片栗粉を入れて混ぜる。
「灰汁を丁寧に取りながら様子を見ましょう」
「そうだな。これで美味い出汁が取れれば儲けもの、失敗しても肥料にすればいい。ガハハハハ」
豪快に笑い飛ばす料理長のゴブリーニと共に奥の小さな厨房を使いナマズの出汁を試作する二人。エルエルは窓から深い渓谷を眺めながら時折聞こえる羊の鳴き声に合わせるように大声で「メェェェェ」と叫び面白がっている。
「風味はナマズというよりもナマズを茹でた汁といったところか」
「もっと多くの骨を入れて煮込めば美味しさがでるかもしれませんね。ナマズ団子を入れてスープにしますね」
「うむ、ナマズの身を入れればナマズの出汁との相性は良いはずだろう」
スプーンを二本使い器用に丸めながら骨を取り除いた出汁の中に入れ火が入るのを待ち、浮いてきた団子を皿にのせると背後に濃い気配が溢れる。
「味見を手伝うのねぇ」
エルエルは暇を持て余していたのか、それとも味見のタイミングを計っていたのか、微笑みを浮かべている。
「味見だから意見をちゃうんというんだぞ」
「もちろんなのねぇ。その肉団子にぴったりなトッピングを考えるのねぇ」
皿にのせたピンポン玉ほどの大きさのナマズ肉団子は湯気を上げ、薄っすら脂で輝いて見えるそれをフォークで刺し口へと運ぶ。
「はふはふはふ……あっさりとした味ですね」
「淡白な味わいで女性が喜びそうだな。出汁の取れたスープも食べる側の繊細さがなければ旨味を感じられないな」
「味噌を入れてこってりさせた方がいいかもな」
「ミソですか?」
「いま現物を出しますね」
指輪のアイテムボックスを起動して味噌を取り出して見せると複雑そうな表情を浮かべ、エルエルが口を開きそうになると素早く口を手で塞ぐマモル。
「冗談でもいって良いことと悪いことがあるからな。これは豆を発酵させて作る調味料です。茹でた豆を潰して塩をして丸めて、樽で数か月寝かせるのだったかな。塩分が高いので少量を味見してください」
「うむ、豆を発酵……見た目があれだが食べたことのない塩味を感じるぞ。昨日使った醤油という黒い汁も豆を発酵といっておったが、マモル殿のいた国では豆を使った調味料が多いな」
「そうですね。豆は乾燥させれば長持ちしますし、発酵させることで複雑な味と旨味が増えるみたいですよ。食べ過ぎなければ体にいいらしいとか聞きますし」
会話しながら長ネギをカットして火を入れお玉に味噌を入れ少しずつ溶くと嗅ぎなれた味噌汁の香りに変わり少量を皿に取ると味見をする。
「やっぱり味噌との相性がいいな。ゴブリーニさんもどうぞ」
味見の皿を受け取ると香りを確かめ口に入れる。
「確かにこっちらの方が美味いですな。深みがある……」
「蒲焼も味噌と砂糖を使った甘いタレで焼いても美味しいかもしれませんね」
「ほう、そうなると豆から味噌を作らなければならなくなるな」
「どうせなら醤油も作れば……ん?」
急に会話に人が増え声のした方へ視線を向ける二人。エルエルはその隙を見逃さず自身で椀を持ちナマズの肉団子入り味噌汁を確保する。
「ランエボラか」
「試作中悪いがマモル殿に謝らねばならぬことがあってな」
そう口にすると頭を下げるランエボラ。
「明後日に行われるはずだった羊レースが中止になった。空の覇者が討伐されゴブリンライダーの多くは暫く休みなしで近隣の国や町に羊を走らせなきゃならん。仕事が増えたのだから喜ぶべきことなのだがマモル殿が楽しみにしていたらと思ってな……」
「羊レースがないとはガッカリだが、羊たちが全力で草原を駆け回れるのだ。そちらの方がうれしいだろう! ガハハハハ」
「そうですね。ボクも羊さんに乗せてもらいましたがレースには参加しない予定でしたし、羊たちが安全に走り回り近隣の国々との貿易が上手くいく方が、ん? ドワーフさんたち?」
狭いキッチンにがっしりとしたドワーフが三名加わりマモルの目を見ながら口を開く。
「小さな英雄殿! 我らドワーフはマモル殿に我らの王と会っていただきたい! ゴブリンたちとの貿易もそうだが、あのワイバーンには我らも苦しめられたのだ。我らが王が是非ともマモル殿へお会いして礼を述べたいと……」
「願いながら足を運んでもらう非礼を詫びさせてほしい」
「どうか、どうか……」
丁寧に頭を下げる三人のドワーフたち。その後ろにはこの国の宰相であるゴブリンが申し訳なさそうな表情を作りマモルと視線が合うと丁寧に下げ、どうやら次の行き先はドワーフの国になりそうだなと思うのであった。
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