ドワーフの使節団
「こ、これが伝説のクリスタルリザードの角……」
「美しさもさることながら雷の力を宿しているな……」
「我が国に伝わる雷王の斧に使われている角と比べたら三倍以上はあるが、これをひとりで討伐したのか……」
ドワーフの使節団のひとりがいなくなったことに気が付いたドワーフとゴブリンライダーは来た道を戻り、食堂から聞こえる会話の内容を耳にすると坂道を駆け上がる。マモルが支えていたクリスタルリザードの角を近くで見つめていた逸れドワーフの男を叱責することもなく、三人に増えたドワーフたちは食い入るように見つめている。
「これだけの大きさでは斧にするにしても大き過ぎて振るのに難儀するぞ」
「いっそ三つに分けるという手も」
「だが、折角の巨大な角だ。他の使い道があるかもしれんぞ」
自分たちが使節団としてゴブリンの国へやってきたが目的も忘れ目の前のクリスタルリザードの角に夢中になり、案内をしていたゴブリンライダーの男は羊から降りて優しく撫で気の利いたコックが羊に水を用意し、使節団たちにも飲み物を用意しはじめる。
「あの、そろそろ自分たちで支えてもらってもいいですか?」
十分はクリスタルリザードの角を支えていたマモルからの声にドワーフの男たちは無言で頷き手を添え、差し入れられた果実水には手を出さずああだこうだと意見を出し合う姿は鍛冶職人そのものである。
「美味そうな香りがしてきたな」
「肉か魚を焼く匂いだな」
「寝ずに馬を走らせたが……腹が減ったな」
自らの腹を撫でながら空腹に気が付きクリスタルリザードの角からまわりを眺める。三十分ほど話し合いをしている間に食堂には多くのゴブリンたちが席に着き食事をしておりその匂いに腹が悲鳴を上げる三名。案内をしていたゴブリンライダーの男は既に席に着き食事をしており互いに視線を向け合い一斉に頷くとひとりが角を肩に背負うと行列に最後尾に並ぶ。
「そちらではなく、こちらにお越し下さい!」
ドワーフの使節団を見張っていたゴブリンのひとりが声を掛けると三名は不服そうな顔をするが素直に従い呼び止めたゴブリンの元へと向かい、案内されたテーブルに腰を下ろして肩を組むように角を横にバランスを取るドワーフのひとり。
「料理はすぐにお持ちしますが食べられない食材などあれば遠慮せずに申し付け下さい」
丁寧に頭を下げドワーフの使節団の接待をするゴブリンが顔を上げ厨房へ視線を送り小さく頷くとメイド姿のゴブリンたちが一斉に料理を運ぶ。
「こちらがナマズの串焼きになります」
「じゃがチーズになります」
「エビの天ぷらになります」
「カニの身を使ったスープになります。こちらはトロミがありお熱くなっていますのでご注意下さい」
料理の説明をしながらテーブルが埋まり始めて見る料理もあり警戒するが、どの料理も香りが胃を刺激しフォークを手に取るドワーフたち。
「こちらがクリスタルリザードのカラアゲになります」
「こちらはワイバーンとカブのホワイトソース煮になります」
追加で現れた料理がテーブルに運ばれると思わず運んできたメイドを二度見するドワーフたち。それもそうだろう。使われている食材がクリスタルリザードとワイバーンである。使節団の目的はゴブリンたちとの国交の樹立にあるが、それ以上にワイバーンが本当に討伐されたかを確認することが大きく、ましてクリスタルリザードというまた別の怪物も討伐され、更には目の前で湯気を上げ香り高く料理されて登場するとは思っておらず口をあんぐりと開けて固まる。
「大丈夫でしょうか?」
接待役のゴブリンが声を掛けると再起動したドワーフたちが黙って頷き目の前の蒸したジャガイモに溶けたチーズがかけられた一品を皿に取り、もうひとりはカニの身がほぐされたスープを自身で器に入れ、最後のひとりはナマズの串焼きを手に取り口へと運ぶ。
「イモだがしっとりとしてコクがある!」
「おお、熱いが美味い!」
「香ばしさと脂の甘さがたまらん!」
流石にワイバーンやクリスタルリザードを最初に食す勇気がなかったのか知っている食材から手を付けるがその味に驚きの声を上げる。
「味の想像がつく料理だと思ったが予想よりも遥かに美味いぞ!」
「ホッホ、このエビはサクサクとした外側が美味い!」
「むむむ、これならワイバーンやクリスタルリザードも期待できるやもしれんが……」
「どれ我が先に食うぞ!」
「いや、ここは俺が!」
「待て待て、落ち着いて食べろ!」
三人ともワイバーンのカラアゲをフォークで刺し口へと運ぶ。
「こ、これがあのワイバーンだというのか……」
「肉汁があふれ出るぞ!」
「止まらん! ザクザクした外側に肉汁が閉じ込められておるぞ!」
そこからは夢中で食事を続け食べ終わったときには満足な表情を浮かべる三名のドワーフ。だが、その表情は一気に曇る。
「酒を飲み忘れとる……」
「あれだけ料理が美味かったら酒も美味かっただろうに……」
「酒を忘れ料理を食い尽くすとはドワーフとして失格だ……」
そんな肩を落としたテーブルに現れるこの国の宰相であるゴブリン。国交を結ぶ話し合いが始まるのであった。
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