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旅のお供は変わり者~種族を越えて囲むテーブル~  作者:
第二章 ゴブリンの王国
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エビ天と理不尽な打ち粉



 成人男性の腕と間違えることはないがそれぐらい大きなエビの殻を剥き背ワタを取る。


「特大サイズのエビの天ぷらも考えましたが、揚げあがる時間や火の通り具合を考え一口サイズで料理しますね」


「確かにこのサイズだと火を通すのにも時間が掛かる。食べやすい大きさで提供するのが現実的ではなるな」


 巨大なエビを十センチほど長さにカットして生臭みがないのを確認すると、皮が付いた切り身は斜めに包丁を入れ身が反り返るのを防ぐ。エビは火を入れるとその皮の性質から内側へと曲がり天ぷらにした際には見栄えが悪くなる。その為、内側に切り込みを入れエビを反らせながら真直ぐに成型する。こうすると油で揚げても身が丸まらず奇麗に仕上がる。


「身が丸まらないためですね。でも、ここまで大きなエビは初めてなのでどうなるかはやってみないとですね」


「うむ、料理は失敗の連続だ。そこから良い部分を探し次に繋げる……先人たちの知恵を我らが継承して次に繋げる料理を作りたいものだな」


「そうですね。ボクの料理もゴブリーニさんたちの刺激になって新たな料理の一助になれたら、真直ぐにしたら打ち粉をカットしたエビに振るい」


「エビにかける小麦粉も打ち粉と呼ぶのですか?」


「ああ、理由はわかりませんが打ち粉ですね。うどんを伸ばすときにくっつかないよう粉を撒くのも打ち粉ですね」


「………………」


「えっと、こっちの打ち粉は逆に衣がはがれないようにするためのもので、エビから出る水分を打ち粉が吸収して衣との接着剤になるらしいです。これをしないと衣がはがれて見た目も味も悪い天ぷらになりますね」


 どちらも同じなの打ち粉なのに求めている効果が全く逆で理不尽に思うコック長のゴブリーニ。遠目に見ている多くのコックたちもそれは同じようで何ともいえない表情でエビの下拵えを見つめる。


「次に小麦粉と冷水を混ぜ合わせます。このときに完全に合わせようとか思わずある程度混ざっていればいいぐらいの気持ちで混ぜてください。混ぜすぎると小麦粉に含まれるグルテンがやる気を出してしまい天ぷらの食感がモッタリ重くなります。天ぷらはどれだけサクサクできるかが勝負なので、グルテンが仕事しないよう冷水で冷やし混ぜすぎない! あと、卵を入れるやり方もありますがその辺は自分なりに試行錯誤して下さい」


「グルテンとはうどんの生地を作るときに少しだけ教わりましたが、そのおかげでコシという食感が出ると」


「そうですね。うどんの命はコシですが天ぷらの命はサクサク感です。どちらも食感に関することですが……試行錯誤しながらベストな料理にしてください」


 マモルはすべてを試行錯誤という便利な四文字熟語にしてゴブリーニに丸投げをし、鍋に油を入れ竈に移動する。


「カラアゲのように多くの油を使うのですね」


「天ぷらも揚げ物ですね。特に天ぷらは油の味が影響するので新たしい油を使った方が美味しいです。カラアゲで使った後の油とかを使用するとカラアゲの風味がついてしまうのでそこは注意ですね」


「カラアゲ風味……逆に香ばしい匂いが付いて美味しくなる可能性はないのでしょうか?」


「そうですね……あるかもしれないのでそこは試行錯誤をお願いします。そろそろいいかな? 温度の確認は前もいいましたが少量を揚げるのが一番です。箸から泡がとかいいますが一個揚げてみれば確実ですから」


 そういいながら打ち粉をしたエビを用意していた小麦粉を溶いた液につけ鍋の中へ入れる。小粋な音と共に油の中で泡だち驚くコックもいたが皆真剣な瞳を向けエビ天の行方を見守る。


「天ぷらは音で揚げると呼ばれるほど繊細な料理です。特に揚げあがりの音の変化を捉えられれば最高の天ぷらになりますね。そろそろなので皆さんも静かに聞いてください」


 鍋の中を及ぶエビ天がジュゥゥという音からパチパチとした音へ変わる。それを耳で捉えられたのはごく少数だが捉えたものたちは目を大きく開き驚きの表情を浮かべ、菜箸でエビ天を油から上げ用意していた紙の上に乗せる。


「第一号はゴブリーニさんが味見をしてください」


 立ち上がろうと腰を浮かせたゴブリンキングが視界の隅に映り若干気まずくなるが、ゴブリーニは揚げたてのエビ天にフォークを刺して香りを確認し口へと運ぶ。


「はふはふはふ……」


 アツアツを口に入れ口から上がる湯気。その様子に誰もが自分もアツアツを食べてみたいという欲望が生まれるなかフルフルと震えながら咀嚼を終えたゴブリーニが口を開く。


「こいつはヤバイぞ。エビが口の中で生きているように弾けた……まわりがサックリとしながらも口の中でブリンと弾けるエビの身。一気に旨味と香りが広がった。衝撃すら感じた……」


 興奮しているのかその目には力が入り、またエビを揚げはじめたマモルへと視線を向ける。


「ではゴブリーニさんも協力して揚げましょうか」


 その言葉に深く頷くのであった。



 お読み頂きありがとうございます。

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