鶏ガラスープ
ゴブリンキングたちもキッチン奥の部屋へと現れ、流石に狭さを感じたマモルは生地を休めていることもあり広いキッチンへ移動を提案する。
「それではマモル殿の料理が多くのコックにばれてしまうのではないか?」
「………………別に秘密にはしていませんが」
ゴブリンキングの指摘を数秒ほど間を開け応えるマモル。本人的には特に秘密にしていることもなく回答までに数秒のラグができたのだろう。ただ、エルエルが天使とばれればそれなりに問題が起こること自覚しているのかオークの村では口止めをしている。
「これだけの技術が秘密ではないと?」
「はい、ゴブリーニさんには使っているものすべて説明しながら料理していますよ」
マモルから料理長であるゴブリーニへと視線を向けるとこくりと頷き口を開く。
「間違いありません。マモル殿は私めに惜しげもなくその料理方法を教えてくださっております。使っている調味料の作り方や片栗粉などは実際に目の前で作ってくださいました。チーズにしても私の作り方とは似ていても違いましたが教えてくださり頭の下がる思いです」
この王国で誰もが認めるチーズ作り名人のゴブリーニに対してチーズの作り方を披露し、それを認める発言にゴブリンキング複雑な表情を浮かべ認識を改める。
マモル殿の料理はまさに至宝と呼ぶべき味であったが、その技術を料理長へ伝えているだと……天空の覇者であるワイバーンを倒す実力に加えて料理の技量もさることながら連れている天使という存在も……マモル殿の英雄としての器が大きいのか、それとも現状を理解していないのか……
ゴブリンキングもまた数秒ほど考え込み、それを察したクイーンふたりがその手を引く。
「では、英雄さまの提案通りあちらの広い食堂へ参りましょう」
「貴方はいつまでも呆けていないで下さい」
クイーンに手を引かれフリーズ中のゴブリンキングはこの場を離れ、マモルとゴブリーニも寝かせている生地をボウルへ移すとそれを持ち移動を開始する。食堂と併設して作られている厨房は広く鶏ガラを大量に煮て湿度が高くなっているが風魔法を使った換気システムが完備されており鶏ガラ臭いということもなく不快感は少ない。が、多くのコックたちはいま注目の的であるマモルの登場に驚きの声とゴブリンキングたちが食べていた料理のことを質問したいのか、ざわざわとした空気が厨房内を独特の空気感へと変える。
「では、そろそろ伸ばしてみましょうか。光よ!」
マモルは厨房の作業台の滅菌に浄化魔法を使い光が降り注ぎ多くのコックたちが驚きの声を上げるなか用意していた打ち粉を撒き生地の硬さを確認しながら綿棒を用意する。
「この粉を撒くことによって伸ばし棒につかなくするのですね」
「そうですね。綿棒を使うときはこの打ち粉をすることでくっつかなくなりますが、使いすぎると粉っぽさが残ることがあるので注意ですね。何度も経験するしかないと思いますが頑張る価値のある味だと思いますよ」
手慣れた手つきで生地を伸ばしそれをキラキラした瞳で見つめるゴブリンコックたち。調理長のゴブリーニでさえ純真な子供がマジックを見るように目を輝かせ、どんどん広がってゆくうどんの生地の様に驚き興奮している。
「ボクもまだまだですが、全体の厚さを考えながら四角に伸ばします。これは折り畳んで切りやすくするためですね」
「このような料理法があるとは驚きですが、それ以上に一切の淀みなく布のように広がるのですな……驚くべき料理法と技量……」
「それは褒めすぎですよ。コツさえつかめば誰だってうどんを打てるようにはなりますので安心してください。それよりもそろそろ鳥ガラの様子を見ても?」
マモルは近くで湯気を上げる大鍋へと視線を向け担当していたゴブリンコックは背筋を伸ばす。
「め、命令通りに灰汁をすくい煮立たせないようにしています!」
まるで軍人のような姿勢と態度と大声で応え、笑いそうになるのを堪えつつ鶏ガラを煮る鍋を覗き込む。やや白濁としていながらも黄金の油が浮いている鶏ガラスープに無言でうなずきお玉を取ると小皿に少量取り担当していたゴブリンコックへと手渡す。
「味見をして自身でも確認してください。他の皆さんも味見をして確認してください」
厨房には多くの鍋で煮込まれている鶏ガラスープを前に恐る恐る味見をするゴブリンコックたち。料理長のゴブリーニも近くの鍋から小皿へと取ると香りと味を確かめる。
「これが鶏ガラ……ワイバーンの骨からこれほど美味いスープが作れるとは恐れ入る……塩を入れるだけで極上のスープになるぞ……」
「本来なら多少の肉が付いているのでもっと肉からも旨味が出ると思いますが、これも美味しいですね。これなら美味しいうどんに使えます」
マモルの言葉に鶏ガラを煮ていたコックは目を見開き新たな料理の一助になれたのだと心の中では歓喜し瞳を潤ませ、その様子を高い位置から興味なく見つめるエルエル。
「早くうどんが食べたいのねぇ」
「どうせならエビ天とかも欲しいだろ?」
頭上からの催促を黙らせるよう魅力的な提案をするのであった。
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