小麦粉をこねる
すべての料理を出し終えたマモルはデザートを堪能し満足気なエルエルをよそ目にゴブリーニと一緒に小麦粉を捏ねていた。正確には小麦粉に塩水を合わせ体重を乗せ力を込めて捏ねている。
「これは力のいる作業ですな」
「慣れるまでは大変だよね。ボクもあまり作ったことがないけど小麦を使った料理の基本かな。大分混ざってきたから一度休憩しようか」
捏ねられた生地ははじめよりも艶を帯びてはいるが完成は遠い。
「ふぅ、本当に力作業ですな」
「これをあと三回は繰り返します。作り方によっては足で踏む方法もあるけどボクは手で入念に捏ねますね。そうそう、生地が乾かないよう休ませるときは丸めて濡れた清潔な布をかけておきましょう」
「三回も繰り返すのですか……」
「そうすれば独特の弾力が生まれ美味しいですよ」
「美味しいのためなら頑張れますな」
「そうだね」
「なのねぇ~甘いデザートも美味しいけど麺料理も楽しみなのねぇ」
モモとカッテージのはちみつがけを食べ終えたエルエルは上がる口角が抑えられないのか満面の笑みで空を泳ぎ、数名控えているゴブリンメイドは空になった皿を死んだ魚のような目で見つめる。
「楽しみなのは良いがまだまだ時間が掛かるからな。ランエボラさんたちは先ほどの料理で足りましたか?」
ゴブリンキングとクイーンたちに出していた料理と同じものを案内をかって出てくれたゴブリンライダーのランエボラたちに振舞っていたのだが、驚きはしても満腹感のある表情ではないと察したマモルからの言葉に首を横に振るランエボラ。
「いや、どの料理も美味かった」
「驚き楽しんだぞ」
「初めて飲む酒も澄み切った空のようだった」
「その割には浮かない顔な気がしたので……」
マモルの疑問に答えるべく口を開くランエボラ。
「それはだな……視線が痛いというかな、そのに控えている女たちがな……」
その言葉にピクリと反応を示すゴブリンメイドたち。基本的には待機状態で料理が完成すると運び動き出すのだがそれまでは暇であり、待機中は目の前で料理が作られ、目の前でランエボラたちが食しているのだ。未知なる料理を口にしながらご機嫌に感想を述べるゴブリンキングとクイーンたちにゴブリンライダーたちを視界に入れつつも食べられないというジレンマが、最終的にデザートで味見という暴挙を起こしたのだが少量でも心に残るような味を体験し、更にはエルエルが完食したそれを見続けるという罰にも近い現状にメイドたちの心が折れかけ、悠々と食事をしていたランエボラたちゴブリンライダーに罪悪感が生まれたのは仕方のないことだろう。
「えっと、そこはゴブリーニさんがこの地で手に入るもので代用するしかないですね」
「なっ!? そんな無茶な!! 確かに料理を作る際にはいろいろと説明してもらいましたが最後のモモという果物の代用品など存在しないですぞ! はちみつはまだ手に入る可能性がありますが、それなら養蜂をはじめるぐらいの気概でもないと……」
「なら、その気概があるものを国を挙げて探しましょう!」
「これからは地上へでも農業や養蜂をすべく立ち上がるときだからな」
「新たな時代の幕開けですわ!」
マモルに泣きつくゴブリーニに対して声を投げかけたのは食事を楽しんでいたゴブリンキングとクイーンたち。満足げな表情と期待に満ちた瞳をマモルやゴブリーニへと向け、控えていたメイドたちの目にも生気が戻りゴブリンライダーたちは椅子から立ち上がる。
「よ、養蜂をはじめるのですか!?」
「ええ、この辺りではあまり盛んではないですが、あの味を知ってしまってはやらないという選択肢はありません」
「オークの国などでは養蜂以外にも養鶏などを行っているのです。我らのナマズやエビの養殖の技術と引き換えに技術協力ができれば良いのですが……」
「そこはなるようになるだろう! ガハハハハ! 小さな英雄マモル殿が我らに道を示してくれたのだ! このチャンスを生かし空の下で新たな文化を築くのだ!」
自分の話題になり気恥ずかしさを覚えるマモルは休めていた生地へ視線を向ける。
「この丸いのも料理ですの?」
ゴブリンクリーンのひとりが休めている生地を見つめ首を傾げ、もう一人のクイーンとキングが視線を向ける。
「これは小麦を使ったうどんという料理ですね。小麦粉を塩水で混ぜながら何度もよく捏ねます。最後に綿棒で板状に伸ばしたのを細長くカットして茹でて、先ほどからキッチンで煮てもらっている鶏ガラを使ったスープと一緒に食べる料理です」
作っている料理を簡単に説明するとクイーンのひとりがマモルに詰め寄る。
「その料理を私たちがごちそうになっても構わないのかしら?」
「えっと、はい、それなりの量を作っていますし、小麦粉も在庫があるので作れますが」
「なら、是非にでもお願いしたいわ! 英雄殿の料理はどれも美味しくて画期的で前例がない味がするの! 食の革命ですわ!」
「ですが小麦はとても高価です。お礼もしっかりと考えなくてではありません?」
「そ、そうだな。マモル殿には追加で何かしらのお礼を考えねばだな」
クイーンからの提案という名の誘導に云いたいことを口に出すゴブリンキング。マモルはゴブリンたちの策略など気にせずにうどんの付け合わせを考えるのであった。
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