送り出す天使長と
「では、行ってきます」
「外は危険がいっぱいです。気を付けるのですよ。特にエルエルは気を引き締めてマモルさまをフォローなさい」
「了解ですねぇ」
玄関のドアを開けると真っ白な空間が広がり足元にはベッド一つ分の大きなプランター。そこにはまだ双葉が目を出しこれからぐいぐいと育つだろう野菜たちと、その更に奥には不自然に立っている両開きのドア。黒く重厚でありながらも金で縁取られ高級感があり真ん中には魔法陣と複雑なルーン文字が刻まれている。
「行ってきます!」
ドアに手をかけ魔力を流すと魔法陣が輝き振り返り叫ぶマモルが手を振り天使長も小さく手を振ると元気にドアを抜ける二人。
そんな二人を見送った天使長はドアが閉まるのを確認すると手を払う仕草をする。すると、小さな雲が出現しプランターの上にごく少量の雨を降らせ役目を終えると消え、視線を開いている玄関へと戻す。
「毎日送り出しているのに別れというものはつらいですね……というか、食材を探す旅がしたいというマモルさまの気持ちが少しですが理解できた気がします。
イモやネギといった食材は肉に劣ると考えていましたが、どちらも料理次第ではそのポテンシャルや栄養価に加え食感が異なり、空腹を満たすという欲望とは別の、育てる……体を作り上げるのに必要な栄養素として摂取しやすく料理するのは大切なことかもしれませんね……で、主様やお前たちはどうして朝食の残りを食べているのですか?」
ひとり呟きながら家に戻りダイニングテーブルについて朝食を口にする主神であるカルアミール。黄金に輝く瞳に後光が差しそうなほどの美しさをもった女神の姿をしている。他にも美しい八頭身の美女が食事をしているのだがどちらも黄金に輝く輪が頭上に浮き背中には羽が生えている。
「なにをケチケチと、なくなったらまた作ればいいだろ」
「食材もマモルから新たに頂いていましたよね! 次はナマズ料理が食べたいです!」
「ふふふ、本当に別れは寂しいですね。十二年間かけ、育て鍛え愛情を注いだのです。寂しくないはずがありませんね」
天使たちと女神カルアミールの言葉に目を吊り上げる天使長エルナリーゼは拳を固く握ると大きく振りかぶり、その目標へと一気に距離を詰める。
「あら怖い」
瞬時にその場から転移すると室内に暴風が吹き荒れるが、女神カルアミールが人差し指をクルリとまわすと一瞬にしてその風が静止する。
「これだから弄ってくる奴は……」
「恥ずかしいという感情を知ることができたのはマモルのお陰ですね~」
「くっ!」
「ほらほら、我らが主様に拳を向けるな。美味い料理がまずくなる」
「キンピラが吹き飛ぶところだったの! もぐもぐ」
テーブルの方も瞬時に貼られたシールドのお陰か料理は無事で文句だけ口にするがその手が止まることはなく食事を続けている天使たち。
ひとりはインフェラ、魔法を得意とする天使で黒縁眼鏡が特徴的な天使。もうひとりはジャスティル、燃えるように赤い髪が特徴的な天使である。
どちらもマモルに魔法と剣技を教えた師匠でありマモルにとっては頭の上がらない天使である。
「彼方たちも勝手に現れ食べ散らかすはとどういうことですか! 待っていれば天界で作ったものを!」
「出来立てが一番美味いだろう」
「ですです~一番美味しいうちに食べるのが食材に対する礼儀ですの~」
調子のいいことを言いながら食べ続ける天使たち。口では勝てないと悟った天使長は相手にするのをやめキッチンへと足を向ける。
冷蔵庫に似せて作ったアイテムボックスを開けるとメニューが現れ内部に収納されているものの名が羅列され、ナマズやエビにカニやキノコが増えている。その中からカニを取り出して浄化魔法を唱えると殻についていた苔や汚れが消えうせトゲトゲとした甲羅を持つ美しいカニへと変わり、鍋に湯を沸かして茹で始める。
「このカニも煮ると赤くなるのですね……」
殻が赤く変わりトングでそれを取り出し湯気が鼻腔を抜けるとカニらしい匂いがダイニングで食事をしていた神と天使を呼び、開けたキッチンカウンターから身を乗り出して口々に茹でカニを求める声を上げる。
「カニは無言になるほど美味しいと地球神から聞いたことがあります!」
「薄っすらとしたピンク色なのだな」
「あれは絶対に美味しいの! 匂いが異常なの! 絶対に酒ともよく合うの!」
外野からの声を完全にシャットアウトすべく手を払う仕草をするメイド長。キッチンに特殊なフィールドがうまれ半透明な力が膨らみ神と天使がキッチンカウンターから押し出されそうになるが、そこは主神カルアミール。笑顔でその力を消滅させキッチンカウンターの狭い隙間を頭からするりと通り抜け着地する。
「主様とはいえお行儀が悪いのではないですか?」
「ふふふ、行儀が悪くなるほど興味のある食材だもの~私は地球神から色々と自慢されてから食というものに興味を持ったし、可愛い息子が料理をしてくれるのよ。この世界の神である私が食を知るのは当然であり、すべての味を知る権利、いえ! 義務があるわ!」
拳を高く上げる女神カルアミールの姿にメイド長は数度瞬きをしながらも、この星の未来は危ういのかもしれないと心の中で案じるのであった。
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