宴会とアイテムボックス
異世界だろうがカニを前にしたひとは黙々と食べ続ける。
鋭い棘を持つニードルクラブと呼ばれるこのカニは旨味が強く、一度食べ始めると永遠とフォークで身をほじり口に入れ、濃厚な味噌は酒との相性がよくゴブリーニは隠していた酒をゴブリンライダーたちに振舞う。
「やはりこのカニには酒が合う!」
「英雄殿が成人していないのが悔やまれる!」
「我らだけでこのような美酒を楽しむとは! ガハハハ」
「まったくその通りなのねぇ。このカニみそには酒が合うのねぇ」
ぬいぐるみのような姿のエルエルも器用にフォークでカニ味噌をすくい口に運び酒で流し込んでいる。
前世ではそれなりに酒を飲んでいたこともあり講義のジト目を向けるが、それに怯む様子は一切なく顔を赤く染めながら料理と酒を楽しんでいる。
「天使さまはいける口か!」
「それならアレを出してもいいのではないか?」
「ああ、特別な客には特別な酒と料理が必要だな! ガハハハ」
料理長であるゴブリーニが席を立ち戸棚の奥から一本の古びた瓶を取り出しそれを灯りに照らすように持ち中身を確かめる。透明なガラスの中には琥珀色した酒が入っているのか美しく、コルクを抜くと強い酒の香りと甘い花のような香りが部屋を包み込む。
「梅酒の匂い?」
呟くマモルの声はゴブリンライダーたちの声にかき消される。
「おおおおおお!」
「ドワーフが作る花酒かっ!」
「たっぷりの砂糖を使うから超が付く高級品だぞ!」
「王妃様方にばれたら取り上げられかねん! 隠れて飲むぞ! ガハハハハ」
豪快に叫ぶゴブリンたちに呆れつつマモルは果実水を口にしながらカニ攻略へ挑み、もとは緑色した顔色だったが赤く変わるゴブリンと酔ってフワフワな気持ちと共に浮き上がったエルエル。
「ふぅ、美味しかったが……エルエルは二日酔い確定かな……」
浮いていたエルエルはいつの間にか床で寝ており、ゴブリンたちも大半が酔い潰れている。唯一意識を保っているのは酒を進めた調理長のゴブリーニだけで耳まで赤く染めながらも竈の火の始末をしている。
「カオスな宴会になってしまって申し訳ない」
まだ赤く燃えている薪を専用の壺に入れ蓋をして鎮火しながら口を開くゴブリーニ。マモルはまだ空いている酒瓶にコルクの蓋をしながら口を開く。
「たまには良いと思いますよ。それに料理が美味しければお酒も進むのは世の理です」
「ガハハハハ! その通りだな! お前さんは戦うだけではない生き方を知っておるな!」
「自分を鍛えてくれた方々のお陰です……」
「それは素晴らしい方々なのだろう。なんせ天使さまを連れているからな」
その言葉に苦笑いを浮かべるマモル。
「えっと、その、できたらエルエルのことは、天使だということは内密にしていただけたらと……難しいですかね?」
「それは大丈夫ではないか? 我らゴブリン族は裏切り者を許さないからな。王命で伝えればみな口を噤むだろう。それに英雄殿には本当に感謝しているのだ。我らが悲願であった太陽のある地で自由に生活ができるようになったのだからな! 明日からは他の天敵がいないか調査も始まる! 忙しくなるぞ!」
向き直りニッカリと笑うゴブリーニにマモルは頑張った甲斐があったなと、ワイバーン戦を思い出しながら解体していないことを思い出し指輪のアイテムボックス機能を立ち上げる。
マモルが持つこの指輪はアイテムボックスの機能はもちろんだが他にも色々と便利な機能がありチート魔道具だろう。
収納から解体に分離と合成。温度管理に時間経過を止めたり、進めたりとやりたい放題である。例を挙げるなら、討伐したワイバーンを解体して肉と皮と爪と骨と翼に分け、翼から羽と皮膜に分け、骨だけを骨格標本のように合成し、肉を旨味が出る状態まで温度調節して時間経過させることだって可能である。
「ワイバーンの肉が大量にありますが料理し」
「するぞ! ぜひとも頼みたい! 我らをこの亀裂に封じ込めていた天敵だ! 絶対に美味く料理して食うぞ!」
ギラついた瞳を向け掴み掛らんばかりマモルへと顔を寄せるゴブリーニに体だけ引きながらも熟成させたワイバーンの肉の塊をテーブルに広げる。
「これがワイバーンの一番美味しいとされるもも肉です。こっちの色が薄い方がむね肉で手羽元がこれですね。弾力が楽しめるタンと尻尾がこれです」
様々な部位をテーブルに広げながら説明し、急いでメモを取り出して内容をメモしながら酔った脳を高速で動かしながら口を開く。
「マモル殿ならどう料理するか聞いても?」
ギラギラとした瞳を向ける、向けられたマモルは今日の料理に揚げ物がなかったのでカラアゲの作り方を説明すると、薪を鎮火させるための壺を開きざっと竈に入れ直す。
「作った方が早いな! 一口大にして下味を付けるのだったな!」
生き生きと唐揚げ作りを開始するのであった。
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