キノコとナマズ
ゴブリンキングたちと別れたマモルはゴブリンライダーのランエボラたちに案内され足を進める。
ゴブリンたちの暮らす渓谷内は光が入る時間は短いが、日が落ち始めると未知の脇に光るキノコが植えられ天然の明かりに使われている。そのお陰で足場を踏み外すことはないが年間で数人は谷の底に落ち命を失うものもいるらしい。
「いま向かっている場所がキノコの栽培場だ」
「渓谷の深い場所で育てている」
「多くのキノコを育て地上近くで乾燥させて一年を通して食べられているぞ」
ゆっくりと下る坂道を話しながら進んでいると時折子供たちが顔を出したり、すれ違うゴブリンたちが「英雄さま!」と声を掛けてきたり、羊に乗ったゴブリンが荷車を押していたりとゴブリンたちの生活が目に入り、その度に手を振るマモルと胸を仰け反らせるエルエル。
「ここがキノコの栽培室だ」
「この部屋の隣で湯を沸かし部屋の温度と湿度を管理している」
「更に下の階は魚の養殖場になり、そこから水を桶で引き上げている」
木製のドアを開けるとカビのような臭いと湿度がたっぷりなのか白い湯気も広がる。奥には棚があり切り株やおがくずを固めたペレットが並び無数のキノコが顔を出している。
「いろいろな種類がありますね」
「先ほど出したキノコ茶はこれだ」
「こっちは干してから煮て食べる」
「これは串に刺して羊肉と一緒に食べると絶品だ」
キノコの食べ方や名を教わっていると奥から大量のキノコをザルに入れ担ぐゴブリンがわらわらと現れる。
「小さな英雄さま! 上から報告は受けています! どうかこのキノコを持って行ってくれ!」
「干したものは上の階に用意してある!」
「是非とも味わってくれ!」
テンション高く声を上げるキノコ栽培のゴブリンたち。
「ありがとうございます」
お礼を口にすると同時にマモルのまわりにはきのこの山が出来上がり、案内をしてくれていたランエボラたちは困った顔で口を開く。
「そんなに一気に集まったら英雄殿が困るだろう。空の覇者を収納していたがこのキノコも収納できるだろうか?」
「それは問題ありませんが、こんなにも沢山のキノコを頂いても?」
「おおおお、是非とも受け取ってくれ! 王命で後悔させぬ量を送るよう言付かっているぞ!」
マモルがすっぽりと入れるほどの大きなザルに手をかざし指輪の収納機能で回収するとゴブリンたちからは歓声が上がる。
「イモの次はキノコなのねぇ……」
エルエルから漏れる愚痴にオークの村では大量のイモを貰い、ゴブリンの王国では大量のキノコを貰っている現状。貰い物に文句を直接口に出すことはないがゴブリンたちとのテンション長は激しく、両手を上げて喜ぶゴブリンに対して俯きながらマモルの頭上で浮いているエルエル。
「よ、養殖場のある地底湖はここに来るまでに説明していただいたのですが、この下ですよね?」
エルエルに気を使ってか少しでも興味が湧くよう次の目的地だろう地底湖の場所を聞く。
「その通りだ! この下の水を汲み上げ温めているからな」
「地底湖ではエビやカニにナマズを育てている!」
「脂がのったナマズは美味いぞ!」
「すぐに案内しよう!」
「ほらほら、エルエルも行くぞ! ナマズ以外にもエビやカニも育てているらしいからさ」
浮いているエルエルの足を掴むとゴブリンたちの案内に従いキノコの栽培室から出て坂道を進む。次第に水の流れる音が大きくなり渓谷の底が近いことに気が付きく。
「地底湖は自分たちで掘ったのですか? それとも天然のものなのですか?」
「うむ、元々存在していた地底湖を掘って広げたと言い伝えられている。我らの腰ほどの深さがあるぞ」
「地底湖は独自の生態系があり管理しているが危険はある。十分に注意してくれ」
坂道を下りきると広いスペースがありすぐ近くを川が流れヒカリゴケに照らされる地底湖。地底湖には多くの水晶がヒカリゴケの光を反射させ視認できるが池の中は暗く、ナマズなどの養殖に使っていると聞かなければ自ら近づくことはしない不気味さがある。
そんな地底湖の中央には光球の魔法を使っているのか船を照らす灯りがあり、小さなボートが揺れている。
「気合い入れろ!」
「主を釣り上げろ!」
「小さな英雄さまのために引き上げろ!」
気合の入った声が飛びぶ地底湖では太く短い木製の釣り竿に鋼鉄のワイヤーが張り詰め湖面を揺らしている。
「地底湖で大きく育てたら、ああやって釣り上げるのだ」
「ゴブリンの中でも力が強いものにしかなれない名誉職!」
「ナマズキラーと呼ばれる彼らは我らゴブリンライダーと共に子供たちから尊敬される二大職である!」
こちらに気が付いたのか先ほどよりも気合の入った声が地底湖に響き、大きなナマズを引き上げたボートがマモルたちの前に現れ三メートル越えの巨大なナマズが岸に上がる。
「これは立派ですね」
マモルの二倍はあるサイズのナマズに軽い恐怖を受け口にする。ナマズキラーと呼ばれるゴブリンたちは誇らしげな表情で持って行ってくれと口にし、ゴブリンライダーたちはその巨大なナマズに歓声を上げる。
「ナマズって、美味しいのねぇ?」
エルエルの呟きに歓声が静まり返りナマズキラーのゴブリンのひとりがずいと前に出ると鍛えられた体で威嚇するように口を開く。
「今から料理するから食って確かめてくれ!」
ナマズ料理が振舞われるのであった。
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