ゴブリンキング
渓谷は深く底には水が流れる音が響く。そんな危険な場所を国と呼び暮らすゴブリンたち。地底へと続く坂道には多くの横穴が掘られ多くのゴブリンたちが集団生活をしている。
「一番上で羊を飼い、子を育て教育し、産業をし、地底湖ではナマズを育てている」
「王の間は魔水晶の原石が壁に眠り輝いているぞ」
「ヒカリゴケが植えられているが魔法の光は偉大だな」
ゴブリンたちの話を聞きながら進み迷路のような横穴へと足を入れ、数分歩くと目的の場所に到着する。
「王の御膳である!」
開けたそこには巨大な水晶が上部に埋め込まれた巨石を掘って作られた椅子があり、吹き抜けがあるのか光が差し込み幻想的な乱反射が目に映る。
「よい! 英雄殿は膝を折らずともよい!」
開けた空間の支配者たるゴブリン王が椅子から立ち上がり手を上げて制し、マモルはその言葉が耳に入っていないのか巨大な空間に差し込む光が水晶に当たり輝くそれに目を奪われ棒立ちのまま固まる。
「ドワーフに送られた玉座に驚いておるな」
「送られた我らもそうだった」
「太陽の光が真上に来た時が一番美しく輝くから無理もない」
ゴブリンの王の前で呆けるマモルだが連れてきたゴブリンや王の近くで控えているゴブリンたちもその玉座がこの国の宝だと自負しており、むしろ呆けて見つめ続けていることに自然と笑みが浮かぶ。
「そろそろ帰ってくるねぇ。壮大な椅子なのはわかるが隙を見せすぎねぇ」
「え、ああ、そうだよな。王様の前だし、しっかりとしないとな」
乱反射する巨大な玉座から視線を下へと移し屈強なゴブリンキングへと向ける。ゴブリンキングは他のゴブリンよりも一回り大きくその頭には宝石を散りばめた王冠が装備されキラキラとした瞳をマモルに向けている。
「空の覇者、ワイバーンの番を討伐したと聞いたが間違いないか?」
ゴブリンキングからの言葉にその場で膝を折り平伏するか迷っていると再度手を上げ口を開く。
「英雄殿、そのままで構わない。膝を折りたいのは私の方だ。皆もよいな!」
ゴブリンキングからの言葉にそれならと指輪のアイテムボックスを起動してワイバーンの首を取り出すと取り巻きゴブリンたちから歓声が上がり、ゴブリンキングは本当に他のしたのだなと感心しながらも、まだ幼く見えるマモルという存在と天使という絶対的な神の使いに失礼があってはこの国が消されかねないと危機感を覚えつつ口を開く。
「マモル殿と天使さま、我らゴブリンは深く感謝致します」
玉座を立ち頭を下げるゴブリンキング。歓声を上げていた取り巻きたちも口を閉じ頭を下げる。下げられたマモルは一国の王に頭を下げさせてしまったと恐縮と居心地の悪さを感じながらも軽く頭を下げ、エルエルはふわふわと浮きながら感謝を前面に受けながら胸を張る。
「苦しゅうない表をあげぇい」
まるで時代劇の代官のような言葉を使いゴブリンたちの顔を上げさせるエルエルにジト目を向けるマモルだったが、頭を下げ続けられる方が精神的にも悪く話を進めようと口を開く。
「たまたま居合わせただけですのでお気遣いなく。それよりもこのゴブリンさんたちの国で食べられている食材や料理を紹介していただけないでしょうか」
マモルの本来の旅の目的であるこの世界の食材探しへと話を移す。
「食材とは……地底湖で養殖しているナマズはもちろんだがキノコなども育てておるぞ。羊肉も絶品だ! 英雄殿が満足するだけ土産を持たせると玉座に誓おう!」
ゴブリンキングの宣言に取り巻きたちが歓声を上げ、マモルも当初の予定通りにことが運び安堵する。
「王よ! 我らが案内してもよろしいか!」
「我らゴブリンライダー隊は命より大事な羊を救われた!」
「我らの手でこの国の食材を紹介したい!」
地上からこの地へ案内してくれたランエボラたちが片膝を突き声を上げ、ゴブリンキングは「よい! 任せる!」とだけ声にすると右手で払うような仕草をする。すると、取り巻きたちが一斉に立ち上がり広い玉座の間から下がり、マモルとエルエルに視線を向け口を開く。
「まだ幼き英雄よ。此度のこと、本当に感謝する」
ゆっくりと頭を下げるゴブリンキング。
「いえ、本当に気にしないで下さい。成り行きというか、襲われたのを返り討ちにしただけです」
「そうであったもだ……我らゴブリンは空の覇者から逃げ、このような深い亀裂に定住したのだ。空の覇者が打たれたことで得る恩恵こそ我らが悲願である。何世代もこの地に閉じ込められ子供たちにも窮屈な思いをさせたのだ……」
「貴方、そのぐらいにしませんと嫌われてしまいますよ」
「食材や料理を探しているのでしたら我らにも歓迎させてくださいね」
取り巻きたちが去った入り口から声が掛けられメイド服姿のゴブリンが颯爽とテーブルや椅子を用意し、美しいドレス姿のゴブリンの女性が二人現れ料理を並べる。
「我の妻たちだ」
ゴブリンキングに紹介されスカートを摘まみカーテーシーで挨拶をするゴブリンクイーン。ドレスには無数の宝石が輝きこちらもドワーフが作った逸品なのだろう見るものの視線を釘付けにする。
「ドワーフ製のものが喜ばれるが、危険を顧みずオークの商隊が数日前に寄って美しい宝石が手に入ったのだ」
ゴブリンキングの誇らしげな表情とは裏腹に嫌な予感を感じる二人なのであった。
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