ゴブリンの王国へ
討伐した二体のワイバーンをアイテムボックスに収納するとゴブリンたちは驚き、羊たちは歓声なのかメェメェと鳴き声を上げる。
「空の覇者たるワイバーンを討伐し我らが羊たちも喜んでいる!」
「何世代にもわたり奴らに食われてきたからな……」
「だが、それも終わりだ! 小さき勇者よ! 感謝する!」
巨大なワイバーンにとってこの場所は食事をするための狩り場だったのだろう。そして、ゴブリンたちにとっては生活の基盤になる放牧の場であり、羊と共に暮らしているものたちにとっては天敵と呼ぶべきワイバーンが討伐されゴブリンはもちろんだが羊たちも喜んでいるのだろう。
「そのゴブリンの町はどこにあるのですか? 上から地上を見たときも家のようなものが見えませんでしたが」
先ほどワイバーンと共に上空へと運ばれ嫌というほど逆さ吊りで地上を見ていたマモル。広い草原には起伏のある丘と亀裂のように走る谷が無数にあり家一軒発見できなかったのである。
「我らが国は渓谷にある!」
「空の覇者に追われ身を守るため渓谷に居を構えている!」
「渓谷内は狭いが小さき勇者なら問題ないだろう!」
ゴブリンたちの説明を聞いていると何やらざわざわと羊たち以外の物音が聞こえ始め、その正体へ視線を向けると多くのゴブリンたちが羊が避難した渓谷の入口から顔を出しこちらの動向を探っている。
「空の覇者が落下した音に驚いて出てきたのだろう」
「お前たちに伝令を頼みたい! 空の覇者が! ワイバーンが! 二頭とも討伐された! もう一度いうぞ! 空の覇者が討伐された! 王へ伝えてくれ!」
顔を出しているゴブリンたちへ現状を伝えると一斉に歓声が上がり、その中の一人が走り出し王へと報告へ向かい、他のゴブリンたちは子供が多かったが喜びの声を上げわらわらと姿を現す。
「収拾がつかなくなりそうなのねぇ」
マモルの頭の上でふわふわと浮きながら呟くエルエルにマモルも同意見なのか小さく頷き、足元で鳴き声を上げ尻尾を振る子羊たちが踏まれないよう気を付ける。
「これから小さな英雄を王の前へ案内する! お前たちは下がれ!」
「空の覇者がいなくなったとはいえ危険に変わりはない! 子供たちは家に戻れ!」
キャッキャと騒いでいたが迫力ある大人たちの声にマモルたちのまわりを一周だけまわると素直に来た道を引き返す子供ゴブリンたち。
「子供たちが元気なのは良いことだが、元気が余り過ぎて困ったものだな。ところで小さな英雄よ。我はランエボラ、貴方の名と種族を聞いてもよろしいか?」
真直ぐにマモルを見つめる髭が生え一番年長者だろうゴブリンのランエボラ。
「自分はマモル。普通人族のマモルです。まだ若輩ですが未知の食材を探し旅をしています。こっちは」
「エルエルなのねぇ。好きに崇拝するがいいのねぇ」
ふわふわとマモルの近くで浮きながら自己紹介をしたのだがゴブリンの一人が首を傾げる。
「普通人族? オレはてっきり髭が生えていないドワーフかと思ったぞ」
「エルフだと思ったが耳が違うよな」
「まあ、なんにせよ小さな英雄マモル殿! 我らの宿敵空の覇者の討伐、感謝する! 我らが国へ案内するのでついてきてほしい!」
ランエボラの指示に従い足を進める。
多くの羊がまだ避難している渓谷の下り坂を気を付けながら進む一行。渓谷は深くいつまでも坂道が続き次第に草や苔もなくなると赤い岩肌が姿を現す。
「この辺りは良質な鉄が採掘できるぞ」
「それをオークやドワーフたちに売っていたが空の覇者が現れ取引がなくなった」
「自分たちで製鉄しているぞ」
「そうそう、鉄以外にもキノコや地底湖で育てている魚が俺たちの自慢だ」
「そういった食材はどうだ? お礼になるか?」
「もちろんです! どのような魚を養殖しているのですか? キノコの方も気になります!」
色好い返事にゴブリンたちのテンションも上がり足を進めながら話し合いが続き、深く続く坂道が暗くなり始めると等間隔に光球のような明かりが設置されている。
「この辺りから暗くなる。足元に気を付けてくれ」
「それなら、光よ」
力ある言葉で左手に集中させた魔力が解放されると光球が複数現れ足元を照らしだす。
「目がぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁー」
地面に倒れゴロゴロと転がりながらぬいぐるみボディーのギリギリ届くかどうかの両手で目のあたりを抑えるエルエル。エルエルの真正面に現れた光球を直視したのだろう。
「ご、ごめん」
一応の謝罪を口にすると坂を転がり続けるエルエルを追い素早く頭を掴み持ち上げ、その様子を笑いを堪えながら見つめるゴブリンたち。そろそろ目的地が近いのかざわざわとした声や生活音が耳に入り、先ほどの子供たちの姿が渓谷を挟んだ対岸から確認できる。
「小さな英雄マモル殿と天使エルエルさまだ!」
「空の覇者を討伐した戦士だ!」
「敬意をもって接するように!」
渓谷に向かい叫ぶゴブリンたち。歓声が沸き起こり手にしていたエルエルを軽く振って対岸のゴブリンたちに応えるマモル。
「これはキレてもいいと思うのねぇ……」
まだチカチカする視界には歓声を上げるゴブリンたちが映っているのだが、マモルが手を振るたびに左右に揺れ小さな怒りをため込むのであった。
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