グリフォンとドラゴンフライ
翌朝、結界が張ってある木に立てかけたドアから慎重に顔を出すエルエル。グリフォンと多くのドラゴンフライに追われ逃げ帰ったこともあり神経を研ぎ澄ましながら一歩踏み出し、それに続くマモルと羊メイド。
ララックは危険度が高いだろうと亜空間の部屋で待機しながら天使長に料理を教わっている。
「サーチ! この近くにはいなそうなのねぇ。でも、油断したらダメなのねぇ」
「グリフォンと戦うのに油断する馬鹿はいないのメェ。精霊であっても油断ならない相手なのメェ」
「ドラゴンフライも数が多いと危険だから二人とも無理しないで」
エルエルが昨日調査したときにグリフォンがドラゴンフライを操っているのか集団で襲われ逃げ帰ったことを口にするマモル。
「わかっているのねぇ。ん? 血の臭いが混じっている?」
まわりの様子を窺っていたエルエルが鼻を動かし森の香りに混じる鉄臭さを嗅ぎ取り、マモルの脳内に大型のリスたちの姿が思い出される。
「上空から羽音が複数!」
緊迫した空気が流れ既に手にしているナイフと杖を構え無詠唱で上空へ光球を複数打ち出し戦いの狼煙が上がる。
「ギギギギギィ」
木々の間から打ち出された光球が命中したのか上空から聞こえる叫び。三人は散開するように走り出し、エルエルは血の臭いがする方へと向かい複数の爆破音を置き去りに走る。
「上空からのドラゴンフライの追撃に加え地面から顔を出し踏むと爆発するキノコとか、エルエルは踏んでも問題ないとかいっていたけど避ける方がいいよなっ!」
キノコを避けると同時にドラゴンフライからの体当たりを回避しバランスを崩しながらも風を纏い空へと上がり多くのドラゴンフライに囲まれ一瞬顔を引き攣らせるが、空気の歪みのようなものが通り過ぎると次々に落下するドラゴンフライ。
「助かる! 今のうちに減らせるだけ減らす!」
杖を掲げたマモルのまわりには多くの魔法陣が浮かび上がり光球に光の輪が組み合わさり輝く土星のような形が無数に出現すると回転しながらドラゴンフライ目がけ射出され、無数のドラゴンフライの身体を貫き落下し爆破キノコに当たったのか地面からも爆破音が複数上がる。
「キエェェェェェエェェェェェ!!」
爆発音が木霊する森の中から悲鳴のように叫ぶ高い鳴き声にすぐにシールドを展開するが衝撃はおろか木々が揺れることもなく、ドラゴンフライが逃げるように姿を消しマモルはシールドを展開したまま高度を落とし木々の中へと降りる。
「強がっていてもお前の負けなのねぇ。というか、我が手を下さずともボロボロだったのねぇ」
ゆっくりと降下しながら視界に映る少女姿のエルエルと美しい毛並みとは程遠くあちこちに流血と抜けた羽が散らばる地面に震えながら四本足で立つグリフォンの姿があり、この戦いはすでに決着がついているように見えたマモルは警戒しながらエルエルの横に着地する。
「戦うのは想定ないだったけど交渉はしたの?」
「交渉もなにもないのねぇ。我がこの場に来たときにはボロボロだったのねぇ。ほら、足元ら辺を見れば爆破キノコの連爆に巻き込まれたのがよくわかるのねぇ」
エルエルがいうようにグリフォンのまわりの地面には多くの凹みがあり、中には複数同時に爆破したのか巨大なクレーターまで見て取れ苦笑いを浮かべるマモル。
「この辺りに来たばかりで爆発するキノコのことを知らなかったのねぇ」
「僕たちもはじめて見たときは驚いたものね」
「ですが、都合が良かったのですメェ。お手軽に討伐できますメェ」
いつの間にかマモルの肩に現れた羊メイドが羊フェイスを悪い表情へ変える。
「その前に交渉しません? グリフォンの討伐が目的かもしれませんが、森は広いですしリスさんたちと仲良く、は無理だとしても生活圏を分ければ平和的に暮らせるのではないでしょうか」
マモルの言葉にエルエルはこちらの様子を窺うリスたちへ視線を向け、肩に乗る羊メイドの表情が変わり何やら難しい顔をし、次の瞬間には前のめりに倒れるグリフォン。
「あっ!? と、とりあえず、僕が交渉してみますので下がっていて下さい!」
用心のためシールドを展開したままあちこちが焦げ出血の止まらないグリフォンに近づき指輪型のアイテムボックスを起動しポーションを取り出すとじゃぶじゃぶと振りかける。ポーションの甘い香りにリスたちの顔が増え、目の前のグリフォンからしていた血の臭いが消え焦げていた羽根も美しい物へ戻り大きなため息を吐く。
(なぜだ……仕留めるチャンスだったろうに……)
頭に響く声に驚きながらも言葉の内容にグリフォンだと悟ったマモルは新たにシールドを張るとナイフを構えて口を開く。
「交渉する前には口が利ける状態にしないとだろ! それよりも、えっと、体は大丈夫ですか?」
最初と最後で全く違う対応の仕方に緊迫していた空気は四散し、ぷっふ、と空気があ抜け多様な声と同時にケラケラと笑い始めるグリフォン。
「えっと、大丈夫ですか?」
心配するマモルにグリフォンはゆっくりと立ち上がり(この通りだ)と笑いながら念話を飛ばすのであった。
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