ヤジリガニの味と西の森の番人
「身がプリプリと弾力が強くて美味しいのです!」
「甘みがありますメェ。それに噛むたびに旨味が溢れますメェ」
「美味しいけど不自然な甘さを感じるのねぇ……ん? ただの違和感なのねぇ?」
大鍋で茹でたヤジリカニの殻は赤く身は甘くてカニやエビに似た味わいで、は野菜とスープにした身は弾力があり食べ応えも十分で出汁も確り出て濃厚な旨味の強いスープに仕上がっている。
「違和感? エルエルはヤジリガニが気に入らない?」
マモルからの疑問に眉をひそめながらぬいぐるみ状の首を横に振り、ヤジリガニのスープを入れたカップを足元の平らな石に置くと口直しに水を口に含み目を見開く。
「違和感の正体がわかったのねぇ。ヤジリガニのビジュアルを見たときから、そして水を飲んで確信したのねぇ。ヤジリガニに似た存在のヤドカリという生物には味覚誘導という味覚を調節させる力があるのねぇ。こうやって、もぐもぐもぐもぐ、ヤジリガニの身を食べてから水を飲むと……仄かに甘く感じるのねぇ。他にもミラクルフルーツとか呼ばれる果実では酸味が強い果汁などが甘く感じたり、ホヤと呼ばれる貝を食べても同じように水が甘く感じたりするのねぇ」
胸を張りドヤ顔でヤジリガニの味覚誘導について語るエルエル。
「ふぁっ!? 本当です! お水が甘いのです!」
「甘いといっても薄っすら甘い程度ですメェ。ですが、このような不思議な体験はきっと精霊王のツムギさまがお喜びになるのメェ。ヤジリガニは後で捕獲して持ち帰るのメェ」
小さな体で驚きを現すララックと器用にヤジリガニの殻から身を外し口にする羊メイド。二人のリアクションは真逆でララックは目を丸めて驚き、羊メイドは驚くことはないが自身の上司である精霊王のツムギが喜ぶだろうと優しい笑みを浮かべる。
「確かに少しだけ水が甘く感じますね。マジックフルーツは食べたことはないけど昔テレビで見たな……てかさ、エルエルはどうして異世界の、日本の事を知っているんだよ……」
ジト目を向けるマモル。食べていたスープをのどに流し込み食事を終えたエルエルは誤魔化しているのか明後日の方を見て口笛を鳴らす。
そのリアクションが既に日本の漫画的だなと思っていると、木々の間からニュっと顔を出すフワフワした毛並みとアーモンド形の瞳の生物。
「この世界に来て初めて見るけど………………でかいな」
木々の間から顔を出したのはどう見てもリスなのだが遠近法を無視しているのかと思うぐらいには大きく、立っている姿が二メートルはあり尻尾を含めたら四メートルに届く勢いの存在感をしている。そんなリスがわらわらと姿を現しギロリと瞳を向けられ、すぐにナイフを抜き戦闘態勢に入るマモル。
「ダメなのです! この子たちは優しいのです! 攻撃したらダメなのです!」
ララックの叫びにマモルはナイフを構えたまま視線を走らせ、エルエルもぬいぐるみ状態のままゆらゆらと浮き状況を確認する。手乗りサイズの羊メイドは気にした様子もなく食事を終えると最後に水を飲み目を見開く。
「今度は先ほどよりも甘く感じたメェ」
木々の間から増え続けるリスの顔と見切れる尻尾の多さに、いまそれを言う必要があるのかと思いながらララックからの説明を待つ。
「この子たちは森の番人なのです。東側をトレントたちが見守り、西側をこの子たちが見守っているのです。アルラウネさまが森全体を指揮して守護しているのですよ」
「で、こいつらは我と戦いたいのねぇ?」
ふわふわ浮きながらも戦闘民族なエルエルからの言葉に首を振るララック。
「きっと匂いに釣られてやって来たのです。ヤジリガニの匂いは珍しいのです興味を惹かれたのですよ」
ララックの説明を聞き安心しながらもリスたちの出方を窺っていると一際大きなリスが木々の間から現れ黒く大きなアーモンド形の瞳をマモルたちへと向けながら近づき、石に腰かける羊メイドの目の前に腰を下ろして頭を下げる。すると、木々の間から頭と尻尾だけ見せている多くのリスたちも同じように頭を下げ、目をぱちくりとしながらもマモルとララックは返すように頭を下げる。
「キキーキイキーキー」
リーダーだろう頭を下げた個体からの鳴き声を耳にした羊メイドは顎に手を当て眉を顰める。
「それを私たちに解決してほしいのですメェ?」
刻々と頷くリーダー。まわりのリスたちも同じように何度も頷きマモルへと視線を向ける口を開く。
「我々に最近現れた魔物を討伐してほしいようですメェ」
羊メイドの言葉に嫌な予感を覚えながらも、マモルはナイフを鞘に納めるとリーダーだ老リスの前へと足を進める。
「えっと、言葉がわからないので通訳をお願いしますね」
「それぐらいはかまいませんが、相手にする魔物はグリフォンですメェ。あのワイバーンを討伐した実績から見れば可能だと思いますが、やるのですメェ?」
「必要なら手を貸した方が妖精さんやラミアさんたちの為になるかなと……」
「それなら手を貸す方向で話を付けますメェ」
「キキ―キキキキーイキー」
「え? ワイバーンと入れ替わるように現れたそうですメェ。これはワイバーンが倒されその後釜にでもなろうとグリフォンが……」
「そうなるとワイバーンを倒した僕たちが原因なのかな?」
ワイバーンを討伐したことでこの地にグリフォンを呼ぶことになった事実を知りやきもきとした感情が沸き上がるマモル。エルエルはマイペースにまわりを取り囲むリスを見比べ、暖かそうな毛並みをどこかのタイミングで撫でようと決意するのであった。
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