ドラゴンとヤジリガニ
湖畔を半周ほど終え池へと合流する川の上流を目指しオークの国へ続く川沿いを進む。雨の日が数日続いたこともあり足場が悪く泥濘も多いが川岸は削られ丸くなった石は乾いておりその上を進む。
「湖のまわりだけで一週間もかかるとか、大きな湖でしたね」
「大昔はドラゴンも住んでいたのですよ。ドラゴンはこんなにも、こんなにも大きいのです!」
肩から飛び立ち両手を広げ空を飛びその大きさを説明するララック。どこか自慢げな説明に微笑みを浮かべながら見つめるマモル。
「そのドラゴンよりも確実に大きな風龍や天龍と会ったばかりなのねぇ」
「風龍は確かに巨大でしたメェ。あれだけのサイズに育つのにどれだけの時間を要したのか気になるところだメェ」
「風龍はこの湖の外周よりも長かったのねぇ」
つい先日ケットシーの村で出会った古龍種たちを思い出し口にするエルエルと羊メイド。
「そんなに大きなドラゴンさんと友達なのはすごいのです! きっとすごいドラゴンさんなのですよ」
「凄いというか、この世界の空を飛び回り風を作りだす龍ですメェ。そこいらのドラゴンとは違いますメェ」
ララックがいうドラゴンと龍は違いがあり、ドラゴンは漢字で書けば竜で四足歩行か二足歩行で歩き立ち上がることができ、頑丈な鱗を持つ。対して龍は姿が蛇のように長く手足があり、こちらも強靭な鱗で体中が覆われ、寿命が尽きると新たに生まれ変わりこの惑星のせいステムに組み込まれている管理者としての役割がある存在である。
ドラゴンはどちらの竜と龍を指す言葉であり、龍は神から管理者としての役割を与え垂れた存在であり、竜は固い鱗を持つ魔物として存在している。
「この湖にはどんなドラゴンが住んでいたのですか?」
乾いた石のぐらつきを確認しながら足を進めるマモルが疑問を口にするとララックは肩へと降り立ち口を開く。
「青いドラゴンさんが住んでいたのですよ。でも、ワイバーンにやられちゃったのです……この湖の守り神さまだったのにやられちゃったのです……でもでも、そのワイバーンをマモルが倒したのです! マモルが新しい守り神さまになればいいのです!」
ゼロ距離でキラキラした瞳を向けてくるララックに、苦笑いを浮かべるマモルは視界に入った黒光りした渦を巻く貝を指差す。
「ほらほら、珍しい巻貝があるよ」
「とても立派な糞に見えるのねぇ」
ニヤニヤしながら糞と例えられた巻貝はとても大きく一メートルに届く巨大さで、こちらに気が付いたのかゆっくりと動き、その巨体を支えるだけの太く強靭な足と強靭で太いハサミを振り上げ威嚇する見た目がヤドカリな魔物。
「ヤジリカニなのです。矢じりにそっくりな貝に隠れて身を守るカニにそっくりな爪を持っているのです。オオガエルも口に入れるけど食べられなくて吐き出すのです」
ララックの説明を聞き巨大な糞でなくてよかったと思いながらもナイフを構えるマモルと目を光らせる羊メイド。
「あのクルクルとした貝は磨けば輝きそうですメェ。糞と例える阿呆もいますが、あの渦巻き状の構造なら音が響き良き笛が作れそうです目ぇ」
音の大精霊という名は伊達ではないようで渦巻く貝を笛に加工したいのかマモルの肩がら飛び出すと一瞬にして間合いを詰める。大きく両手を上げて威嚇するヤジリカニだったが、羊メイドが手を払う仕草をした次の瞬間にはその姿勢が自重で崩れる。
「やり方がえげつないのねぇ。極小の真空波をピンポイントで頭部に当てたのねぇ」
「それで音もなく倒れたのか……あのカニさんは反応もできていなかったけど、ぼくも避けるのは無理かも……」
「手を払う仕草をした瞬間に避けなきゃ当たるのねぇ。あいつを倒すにはツグミを人質にすればいいのねぇ」
「やり方が卑怯過ぎる……」
音の大精霊である羊メイドが一番大切にしている精霊王のツムギを人質にすれば確かに羊メイドを倒せるかもしれないが、やり方が卑怯すぎるエルエルの提案にジト目を向けつつ呆れるマモル。精霊王のツムギに会ったことのないララックは首を傾げながら話を耳に入れ、羊メイドがズルズルとヤジリガニをこちらへ引きずる姿を見つめる。
「昼食はこれを使うといいメェ」
「甲殻類なので食べられるとは思いますが……砂抜きとかした方がいいのかな……」
改めて近くで見たヤジリガニは巨大で黒光りする巻貝の重さだけでも数百キロになりそうな見た目をしている。笛にしたとしても持ち上げて吹くことができる種族は限られるだろう。
「ララックは食べたことがあるのねぇ?」
「ヤジリガニが倒されるのをはじめて見たのです! すごいことなのです!」
「こちらを侮り威嚇してきたのが間違いなのメェ。用心深く殻に籠られたら倒すのに苦労したのメェ」
「それは貝を破壊しないようにですよね?」
「その通りなのメェ。いくら頑丈でも破壊する方法はあるのメェ。それこそエルエルや天使長なら素手で破壊するのメェ」
急に話を振られたエルエルは拾った棒で巻貝を突いていたが瞬時に胸を張りドヤ顔を浮かべ、マモルは大鍋に湯を沸かすのであった。
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