朝食の風景
翌朝、天使長が作った朝食を口にしながら昨晩に鳳凰が残した羽を見つめる。その羽はテーブルの中央のガラス製のグラスに入れられた赤い羽根。ララックよりも少し小さいぐらいの長さで赤とオレンジのグラデーションをしながらも魔力を通すと火が現れるというファンタジーな羽根である。
「火を起こすのに便利ですが炎の魔法を使った方が早く楽です」
鳳凰の羽根を見つめるマモルへ天使長が素直な意見を口にする。確かに天使長がいうのは最もで、鳳凰の羽根を使い火を起こすには、魔力を込めライターほどの火が鳳凰の羽根の先端に浮かび上がりそれを燃えやすい布や乾いた枯葉に引火させ、細い木へと移して更に太い薪へと移し火を育てる必要がある。
天使長が火を起こす際には魔力と神力を使い直接薪に魔法陣を描き発火させるため火を育てるという工程をすっ飛ばし竈に火を入れることが可能で、更にいえばこの亜空間の家のキッチンでは薪を使わず、オール魔力を使った電化製品で溢れている。薪を使うのは見栄えとして設置した暖炉ぐらいなのだが、亜空間という創造の女神カルアミールが生み出した特殊空間は一年を通して気温が二十度前後と過ごしやすくその出番がほぼないのが現状である。
「確かに実用性を考えたら魔法の方が早いのねぇ」
「インテリアとして飾るのなら綺麗だし、魔力を通してキャンドルのように部屋を明るくするのはどうかな?」
普段であればテーブルの中央に小さな花瓶が置かれ、料理の邪魔をしない程度の香りを放つ天使長が摘んだ花々が飾られるのだが、本日は鳳凰の羽根が飾られている。
「インテリアとしてなら使えなくもないですが、よくよく考えると鳳凰の抜け毛ですメェ。有難く飾らなくてもいい気がしますメェ」
「ワイバーンの巣の近くにいた鳥も似たような尾羽をしていたのねぇ」
「片づけますか?」
天使長がエルエルと羊メイドの意見を汲み取りマモルへと問いかけ、無言で頷こうとしたが左の袖を引かれ視線を向ける。
「すぐに片づけたら鳳凰さんがかわいそうなのですよ」
「そうだね。見飽きるまでは飾ろうか」
ララックからのお願いにマモルも同意し見飽きるまでは飾るという曖昧なルールができ、天使長は微笑みながらトーストやスープのおかわりのリクエストに動き出す。
「パンはサクサクで蜂蜜とバターでとっても美味しいのです。鳳凰さんにも食べさせてあげたかったのです」
「昨日は料理を食べてすぐに帰ったのねぇ。きっと忙しいので呼ばなくていいのねぇ」
「鳳凰は幻獣と呼ばれるなかでも高位な神獣。世界のために忙しく働いているのメェ」
「忙しいかどうかはわかりませんがララックもトーストのおかわりしませんか? 蜂蜜以外にも果実を使ったジャムやレバーペーストなどもありますよ」
「ううう、おかわりするのです! いっぱい食べていっぱい料理を手伝うのです!」
体のサイズが十五センチほどのララックはその体のサイズからしたら食が太く、食パンも一枚の半分ほど食している。これを成人男性にしたら自分の胸ほどはある食パンを半分食べており、フードファイターでも完食は難しいだろう。
「ありがとうなのです!」
半分にカットされた食パンがララックの前に置かれお礼を叫び、微笑みながら天使長は手刀を収めると残り半分をエルエルの皿に乗せる。数度瞬きをして現実を受け入れながら半分のトーストをぬいぐるみ状の手でちぎりコーンスープに付け口に運ぶエルエル。
「赤いジャムもオレンジのジャムも緑のジャムも美味しいのです! 甘くて酸味もあって香りがとってもとっても大好きなのです!」
主食がハチミツと果実という妖精にはジャムの魅力を凄まじくテンション高く口にし、湖畔の妖精たちへお土産になればと数個持って行くことを決意するマモル。
「今日のスープは穀物を潰し作っているのでしょうか? 黄色く粒粒のある小さな実が入っていましたが、濃厚でとても美味しいですメェ」
「コーンと呼ばれる穀物を使って作るスープです。濃厚さを出すためにバターを使い玉ねぎが蕩けるまで煮込んでいます。食のバランスも考え卵も入れ、一日を生きる活力の補充になればとマモルさまにお出ししました」
ドヤ顔を浮かべる天使長。
「だから美味しいのです! 天使長の料理はマモルのために頑張って作っているのです! だからどれも美味しいのです!」
「ふふふ、そうですね。マモルのために、ララックのためにも作っているから美味しいのですね」
「わ~い! ララックのためにも作ってくれているのです!」
純粋に喜ぶララックに天使長は柔らかな微笑みを浮かべ、マモルも感謝しながら朝食を口にするのであった。
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