天使長の料理と鳳凰
「本当にドアの向こうに家があるのです!」
テンション高く叫び亜空間の庭を飛び回るララック。その姿を微笑みながら見つめる天使長。
「我だって飛べるのねぇ」
「ララックと競い合うなよ。エルエルが飛べることは知っているし、そのお陰で助かったこともあるからさ」
「わかっているのならいいのねぇ」
ふわふわとぬいぐるみのような姿で浮かぶエルエルの頭部は少し凹んでおり、その凹みにぴったりとはまるだろう天使長の鍛え抜かれた素手がガチャリと玄関のドアを開ける。
「天使長のアイアンクローとか想像するだけで恐ろしいのメェ。私では頭部が四散していたのですメェ」
「さ、流石に天使長だって四散するまで力を込めないと思いますよ。きっと、たぶん……」
「それは甘いのねぇ。天使長はギリギリを攻めてくるのねぇ。現に我のプリティーでキュートなこめかみが凹んでいるのねぇ。我じゃなきゃ防御が遅れトマトよりも簡単に潰されていたのねぇ」
帰りの遅いマモルを心配し地上へと降りた天使長は転がる妖精など目に入らず、その責任をお付きの天使であるエルエルに求め瞬時にアイアンクローで捉えると質問から拷問へ一気に趣旨を変え詰問したのである。
一瞬にして万力のようなアイアンクローがエルエルを締め上げ悲鳴も上がり、マモルは慌てて天使長へと抱き着きその攻撃を止めるよ叫びエルエルの頭部四散を阻止したのである。
「ふふふ、料理が冷める前に食べましょう」
「どんな料理なのですか?」
「今夜のメニューは鳥を使った料理です。鳳凰と呼ばれ火から生まれた幻獣で、命が尽きても燃え上がり復活するという便利な生態をしています。いつでも新鮮な鳥の肉が手に入るのはありがたいことですね」
「すごい鳥さんがいるのですね!」
家のなかへと消えて行くふたりの会話を耳にしながら今夜の夕食の食材が鳳凰と呼ばれる幻獣であることが確定し顔を引き攣らせるマモル。その肩に乗って話を耳に入れた羊メイドは顔色を青く変え、浮きながら進むエルエルはニヤリと口角を上げる。
「鳳凰を使った料理なら無限〇〇とかの料理名がぴったりなのねぇ」
「無限ピーマンや無限キャベツとかは聞いたことあるけど、復活する存在を無限と例えるのはかわいそうに感じるな……」
「鳳凰は火の精霊の上位であって、天使長から食材として見られているとか怖すぎるのメェ……」
「隙を見て逃がしてやりましょうね」
「そうしていただけたら助かるメェ……」
玄関へと入り靴を脱いで廊下を進み洗面所で手洗いを済ませると、香ばしい匂いとララックの喜ぶ声が耳に入り足を進める。リビングに入ると眼鏡が似合う美しい天使が微笑み、マモルが会釈すると皿に積み上がっている焼き鳥を口に入れグラスに注がれているビールだろう泡立つ黄金の液体をのどに流し込む。
「ぷはぁ~先にいただいているわ。鳳凰のやきとりが食べられるなんてラッキーね!」
ラッキー感覚で食べてはいけない存在なのではと思案しながらキッチンに向かうと、テーブルには多くの鳳凰を使った料理がならんでいる。カラアゲはもちろんのこと、棒棒鶏や鳥チャーシューに鳥の照り焼き、蒸した鳥に酸味と辛味のあるソースをかけた涎鳥に鳥を使った酢豚や鳥のつみれが浮かぶスープなど、鳳凰を使った料理がテーブルに並ぶ。ララック用に小さな箱をテーブル代わりにしてハンカチをテーブルクロスへと変え、鼻歌を歌いながら小皿に料理を取り分ける天使長。
「どれも美味しそうなのねぇ」
「確かに美味しそうではあるけど……」
「部屋の隅で蹲って泣いている鳳凰の姿が見えるとメェ……」
ふたりがいうように部屋の隅には赤く美しい羽が見事な鳳凰と思われる鳥が体を丸めシクシクと鳴き声を上げている。
「アレを見ながらテーブルに着ける勇気が僕にはないのだけれど……」
「それは偏見なのねぇ。鳳凰の元の雄大な姿を知っていれば美味しく食べられるのねぇ」
「確かに鳳凰はワイバーンよりも強大な存在ですメェ。そう考えればワイバーンの肉と食べるのと大差ないのメェ」
マモルの肩から離れ手乗りサイズの羊メイドはララックの横に腰を下ろす。二人のサイズ的にも専用の小さな箱に同じようにハンカチを乗せ用意したテーブルとイス代わりの箱に座りメイド長が取り分ける料理を待つ二人。共感してくれていた羊メイドを失いマモルも席に着こうかと椅子を引いたところで視線を感じ振り返ると、ゆらゆらと幻影にも似た炎を纏う美しい翼と薄っすらと涙をためるつぶらな瞳がばっちりと合い顔を引き攣らせる。
「えっと、ご馳走になります……」
マモルが精一杯いまの状況に合うだろう言葉を選ぶと前のめりに倒れ泣き崩れる鳳凰。
「次はチキン南蛮やチキンカレーが食べたいのねぇ」
料理を口にしたエルエルからの感想に申し訳なく思いながらも同意するマモルなのであった。
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