↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この気持ちに名前をつけて  作者: ぬりえ
難しくて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/61

5.

 見上げていた空から、真言がいなくなっていることに気づく。


「まこくん?!」

「はい」

「ひゃぁっ」


 呼んだらすぐに後ろから返事があり、逆に驚いた。そして安心する。坂田と一緒に行ってしまったのではいかと、一瞬でも思ったからだ。


「おつかれさま。ありがとう」

「あ、いや、そんな」

「よかったね、まこくん、立派にできる」

「詠さんの考えも当たっていそう。ただ癇に障ったみたい」

「なにそれ」


 私なんかより、と詠は思った。真言のやさしさのほうが、ずっと未練を断つのに役立つ。今回は怒りが出てしまって、自分の考えを押し付ける形になっていた。相手を思う気持ちが欠けていた。


「できれば、今後もまこくんにお願いしたいな」

「えっ なんで」

「もともとまこくんの仕事なんでしょ? 私が補佐役に戻って。きっと私より」


 思ったことがそのまま口に出そうで、詠は口を塞いで話題を変える。


「だってお話してたでしょ? 見えたんじゃない?」

「うん、見えたし、聞こえて、話もできた」

「ステップアップだね!」


 で、なにを話していたかを聞いても、真言はすべてを話さなかった。さすがに、猪突猛進の意固地だなんだのは言えない。


「夜になっちゃったね。今日はまこくんが疲れたでしょ。もう一晩、泊まっていこうか」

「うん、なんかくたくた……。詠さんの気持ち、わかる」

「未練は歌詞とか関係なくて、音に反応して、込めた心に溶けていくのかもね」

「音に反応?」

「ほら、なんか音楽聞こえたら、つい耳傾けない?」

「人によるでしょ」

「否定的だな。じゃ、常世には時間も温度も音も色もないとすれば、熱い音楽に引き寄せられてくるってことも」

「なくはないかもだけど、なんかこじつけ」

「もう! がんばって考えてるのに」


 心を込めたこと。考えたこと。

 それは相手に伝わっていたことがわかった。それなら、未練を断つというよりも、形になってしまった未練がさっきのタイヤのように溶けるような、そんな音楽を、歌詞を、心を、奏でていきたい。



 詠も疲れていた。家までは少しだけ、距離がある。運転はあの記憶を覗いたら怖くなって、代行にした。合っていたと思う。ほんの十分くらいなのに、二人で寝てしまったのだ。

 だが今回ばかりは、真言のほうが疲れが大きい。


「まこくん、水分だけはとって、お布団すぐ敷くから」

「ふぁぁぁい」


 まだ敷いていない布団をがんばって敷き、真言をなかば強引にひきずって布団に横にさせる。そしたらすぐに寝てしまった。

 寒くないように、暖房をつけて。


「おばあちゃん、私たち、やったよ」


 チーン、とおりんを鳴らすと、仏壇に何か見える。


「ん?」


 引っ張った。それは、紙。黒に染まっていない、紙。


「まこく」


 眠っている顔を見て、声を止める。今日は疲れたのだ。多分真言は初めて、自分で成功させたのだから。


 ということは、命を削ったのは真言なのではないか。だって自分は、こうして立っていられる。なのに。


 そんな考えが、詠の心に芽生え始める。


 ——これは、言わないでおこう


 詠はそのまま眠りについた。


 朝。雨戸を閉めずに寝たのを思い出した。明るくなるのが早くなっている。音を立てないのは無理で、できるだけこっそりと閉める。


 真言はまだ寝ている。やはり疲れたのだろう。そして今度訊いてみなければならない。真言が詠に言ったことは、真言にも同じなのではないか、と。


 またコンビニでごはんを買う。食材があったとしても、ガスを通していないため、残念ながらできない。真言は学生。健康的なごはんを、今度家でごちそうしようと考え始めている。



「あ、おはよぉ」

「おはよう。具合、どう?」

「ちょっと身体が重いくらい。それよりおなか減った」

「さすが男子学生」


 買っておいた食料を渡す。好きなものを食べてもらった。カップ麺におにぎりにパンに、飲み物に。すかっとする食べっぷりだ。もしかしたら、真言の場合はおなかもすかせるのかもしれない。


「お風呂、入る?」


 ちなみに詠はすでに済ませてある。古いし少し汚いが、掃除はしたから気にしなければ使って問題ない。


「あ、じゃぁお借りします」

「着るものは?」

「持ってきてあるから」


 一泊という予定だったため、二人は用意してきていた。真言はおなかを満たした後、シャワーを浴びにいった。貯めてくる、と言った詠に、もったいないからシャワーでいい、と言ったのだ。掃除にも時間がかかるから、と。そんなことは五分で終わるのに。気を遣える人間ではあるが、ここは甘えてほしいところだった。


「準備オーケー?」

「うん」


 鍵をかけ、荷物を入れ、車に乗り込む。自然に詠のほうが遅くなる。真言が運転席に座ろうとするのを止めた。まだ疲れがとれていないのに、高速を運転させるのは危ない。


「今回は私」

「でも」

「疲れたら途中で交換お願いするよ」

「……」


 出発する前に、あのおばさんに会った。もうきっと、怖いことは減ると思う。でも犯罪も事故も減らない。

 気を付けてね、という言葉だけかけて帰る。


 隣からまた寝息が聞こえてきた。今回はずいぶんよいヒントを得られた。だからきっと、必ず、あの場所を見つけてみせると、心に誓った。


 水分を摂ってほしいため、サービスエリアで休憩を挟む。もう一時間もしないで着いてしまう場所だ。残りも詠が運転することを伝え、ついでに昼食も食べた。


「帰ったらさ、また、相談会開こう」

「うん。あの地図、読み解かないとね」

「そうだね」


 メモ帳をくっつけた地図。そこへ行かなければならないが、その場所が詳しくはどこなのかがまだわかっていない。


 運転の交換の申し出があったが、詠は断った。そういうことはわかりきっていたが、無理はさせられない。事故を起こしても怖いのと、もうそこまで遠くない。待ち合わせ場所で捨てる。


「よかったらまた、水曜日の夜か土曜日に来てほしいんだけど」


 予定はどうか尋ねると、長い話になりそうだから、と土曜日に決定。そして今回は明日の朝、真言から連絡をするようにお願いした。きっと詠が連絡できなかった理由が、真言にも伝わるだろう。


 ついでに目覚まし時計は三重くらいにかけておけと伝え、結局待ち合わせ場所ではなく賃貸をしているというアパートまで連れて行った。


「早く寝てね。ごはんは食べてね。あとは」

「お母さんみたい」

「心配してるの!」


 自分も疲れてはいる。が、その一部を真言が引き受けてくれたのか、いつもより疲労は少ない。ちょうど陽が沈んできた頃。そういえば、この時間を逢魔が時といったな、と思い出した。

 なぜかいい考えが浮かばない。さっさと帰って、詠も帰った連絡だけすませると、休みにした。


 明日からまた仕事。疲れてはいられない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。