表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この気持ちに名前をつけて  作者: ぬりえ
すでにくたくたで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/31

3.

 どうにか帰れた。運転は怖かったため、代行を呼んでしまった。

 寝てしまわないように、スマートフォンをいじり調べた。平成になった時期から、地上でテレビ出演するのではなく、ライブで活動するアイドルのこと。勝手に想像していたのは、アイドルになりきれない集団だったが、それは失礼な認識であると知り、考え直す。


 調べたのはムーンについて。

 とくに出てこない。

 もしかしたら、あの事件でアイドルをやめてしまったのかもしれない。


 そこで思い直す。事件そのものを調べればいいのだ、と。

 検索したところ、ライブでの事故はそこそこあるらしく、検索結果は多かった。


 そのなかに、死亡事故を発見。同じく舞台に立っていたペアは、そのまま地上波に出ることはなく、地下ドルの一番を目指したのだろうか。記憶で見た顔は見られなかった。


 だが、写真で見つけた。それは、燦の顔。

 一時期、有名になってアイドルとしてかけのぼったという。そして、突然辞めた。顔は一致するが、時期が一致しない気がする。あの子は酷い損傷を受けていたのに、こんなに美しくあっただろうか。今なら画像加工ができるが、その時代はどうだったのだろうか。整形で治した可能性もある。


 整形。


 きちんと、マイナス一等星になって、彼女は舞台に立っていたのかもしれない。

 ムーンと、一緒に。


 彼女の未練は、自分も舞台に立って、マイナス一等星のアイドルになることだった。それを果たせなくて。


 詠はてっきり、自分の代わりなんて誰でもいることへの虚しさや寂しさや焦りのことかと思っていた。ならなぜ、感情がシンクロしたのだろうか。わからないでいる。


 ただ、炎はたくさんの人のなかで、美しく燃えて天へ、明るく照らされた夜空へ、すべてと一緒に消えていった。

 無事に終わったのだ。



 代行で帰り、家で手を洗っていて気がついた。指が痛い。

 見ると、指の先に火傷ができていた。画面に映った炎を触れていただけでも、怪我もなんでもしてしまうと悟った。これからは気をつけねばなるまい。そのときに熱さと痛みを感じなかったのが不思議だが、詠はそのときの炎自体と未練に集中していたから気づかなかったのだと思った。


 シャワーを浴びて、寝る。眠気がないわけではない。いつもより弱いだけ。耐性でもついたのならいいのだが、詠にそれはわからなかった。もし湯舟に浸かって寝てしまい、溺死なんてことになったら大変だ、とシャワーで済ませた。


 翌日、起こしてくれる人はいない。いつもの目覚まし時計と、スマートフォンのアラームを一番大きい音で設定しておいたため、無事に起きることができた。起きたときの実感とすると、普段より少し遅いくらいで仕事はできるだろうというのが詠の読みだ。実際、午前中は想像どおりに仕事が進んでいる。


 昼休み、コンビニで買ったパンを食べて寝ようとしていた。昼休みは一時間。食べることに時間を割かなければ、三十分ほど寝ることに時間を割ける。三日間ほど、そんな日が続いた。

 今日も、少し目を閉じようとしたときだった。


「ちょっと時間いい?」


 社員旅行のあのとき幹事をしていた上司から、お声がかかった。昼休みを奪うのは正直やめてほしいが、午後一番に出張に出る予定なのだろう、声をかける時間が見つからなかったのだと思う。


 はい、と答えると動き出す上司。ついていってみると、応接室だった。ここにはドアがある。外に話は聞こえない。

 いい話か、悪い話か。こういうとき、だいたいの結果は後者なのだ。


「たまたま見つけたんだけど」


 スマートフォンの画面を見せられた。


 ——え


 声は出ない。だが詠が目を大きく見開いていることで、上司は確信したらしい。この画面に、画像に映る人間が、詠であることに。


「この人、やっぱり」


 その画像は、あの寺で燦を昇天させたときの、床紅葉と歌っている詠の姿だった。誰かが撮っていて、画像のSNSに投稿したらしい。あの状況なら簡単だ。誰もが美しい景色を撮ろうと、スマートフォンを掲げていたのだから。


「すぐに取り消してもらいます」

「そうじゃなくてね」


 上司は詠の言葉を止める。


「旅行の時も、あのときは神社だけど、歌ってたよね。 ……なにか、ある?」

「あ、えっと」


 なにか、の意味がわからず、すぐには答えられない。

 怪しい宗教にはまってしまったのかと心配されているのか。それとも、精神的におかしくなってしまったと心配されているのか。それとも、行動そのものを咎められているのか。


「最近調子悪そうなことが多いし、一度病院に行ったほうがいいと思う」


 上司として、心配されていると受け取ることにした。


「検討します」


 その画像については、有名な寺に行って、きらきらで、アイドルが檀上に立ったらこんなんだろうな、と考えたらつい、のような言い訳をしておいた。信じてくれたかはわからない。


 病院に行くつもりはない。体調が悪い理由は、もうわかっている。検討はするが、行くつもりはない。

 ただ、調子が悪いと見抜かれていることに、なぜか嬉しさをおぼえたのだった。

 こうして、見てくれている人がいることに安心するというのは、今はひとりで行動しているからかもしれない。



 その日は昼休みの昼寝は短かったが、問題なく仕事が進んでいる。

 次はどこへ行こうかと考えながらでも、仕事はできると知った。


 紅葉がどこでも終わりにさしかかっている。どこかもの寂しい。休日はすべて、神社仏閣もとにかくなににでもまわり、家にいる時間は調べることに時間を割いた。


 そういえば、二回目に行った丑の刻参りの場所のように、なにかがあった場所にはなにかがある可能性が高いかもしれない。未練というくらいだ。前向きな願いではなく、後ろ向きな負の感情が残るようななにかがあった場所や事件を調べることも、ありかもしれない。

 詠はいろいろと回るのは休日のどちらかだけにし、片方は調べることに時間を費やした。帰宅中も遠回りして、そういった場がないかを調べているが、今まで見つかっていない。


 だんだんと陽が沈むのが早くなり、紅葉が終わるこの頃、真っ暗になっている。これではあの薄暗い影は闇に染まって見えなくなってしまう。帰宅中の探索は一時中断し、帰ってからのパソコン作業に力を入れていた。


 そこで見つけたのは、ひとつの新聞記事だった。


 “立ち入り禁止のトンネルで、児童が死亡”


 古いトンネルのそこは、崩れやすいため立ち入り禁止となっていた。

 が、周辺の小学生や中学生には、かっこうの肝試しの場になっていた。男子生徒数人がなかに入り、一部崩れたトンネルのブロックで圧死した、という内容だった。


 だが、そこには別の記事もあった。その生徒がいじめられていた、という事実。その事実が本当かどうかはわからない。ゴシップ誌の記事だったからだ。なんでもおもしろおかしく書き立てる、という勝手な印象がある詠は、きっと今のことをしていなければ、読み飛ばしていただろう。

 が、これは、となにかが動いた。


 行かなければならない。


 そう遠くはない。土曜日に行き、もしものことがあってもせめて日曜の夜には帰れればいい。もし、本当にいじめだったら、学校も生徒もそれを隠している。そして、亡くなった生徒は、なにを思って逝ったのだろうか。


 はずれでもいい。

 はずれのほうがいい。


 確かめなければ、と詠は準備を始めた。


 田舎のそこは、宿が近くには見つからなかった。もしものことがあっても、新幹線で行った場所のように、民泊があって親切なオーナーが場所を貸してくれるということは考えにくい。


 車で寝られるように、気持ちよく寝るためのものをネットで購入する。最近出費がかさんで財布が痛い。

 でもやめない。

 意地になっている、と心の隅では思っている詠だが、それを認めたくなくて見ないでいる。

もし認めたとしても、行動を止めるつもりはさらさらないのだから、変わらないことだ。


 ——よし、行くぞ


 車内泊の準備ができたのが遅くなり、準備後の週末、出発。もちろん、それまでの間にも別件を探すことは続けていた。続けながら、聞くのは音楽。いじめられていた小学校の生徒。なにか合いそうな曲を探し、知らない曲も聞いている。


 未練を果たすのは、詠にできることだ。

 だが、詠にできないのはそれがある場所を見つけること。

 後者のほうが、大きなこと。場所が見つからなければ、できることだってできないのだ。


 時間の問題もお金の問題もあり、詠は隣までは行けてもそれ以上の都道府県に足を踏み込めずにいる。どこ、と教えてくれる人の存在が、新しい人が、ほしいところだ。


 お金よりも時間が惜しい。詠の行いは、命を削っているという。だからこそ、早く見つけてできる限りのことをして、死にたい。


 なかなか先に進めないという辛さと悔しさ、もどかしさ。

 ひとりでは大きい壁。

 戻ってきてほしくはないが、どうしても頭によぎってしまう、顔がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ