↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印の姫と最後の騎士 【第一部完結】  作者: ラーナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/67

第五十八話 『狼ズシャ!の剣 ③』

 は?なんでお前まで驚いてんだ?


 エリアスは慌てて、落ちたシャフトを引っ掴むと、上目使いに爺さんの顔を盗み見ている。その顔がいかにも「あ~、面倒なことになったぞ」と言っている。あ?なんか悪い事言っちまったか?


「ロングソード・・・だと?」


 急に空気の温度が下がった。先ほどばあちゃんが窓を開けた時なんかとは比べ物にならないくらい。暖炉で火花がパチッと弾けたのに、その音さえ一瞬遠のいた気さえした。


 ギシッと椅子が鳴り、爺さんが立ち上がった。爺さんと言っても、この爺さんと普通の年寄りとでは、かさが違う。小さなカミルから見たら、まさに大男だ。その大男が二人の少年に影を落とすように立ち塞がる。だがカミルは怯まない。むしろ胸を張り、更に口上を重ねた。


「そうだよ!町の弓術大会で優勝して、賞品のロングソードをもぎ取ってやるんだ!」


 カミルが拳を突き上げると、爺さんの眉毛がピクリと持ち上がった。


「お前たち。その為に矢をこしらえておったのか?」私欲のために。賞品欲しさに、か?


 あ、え?そういう事?カミルは漸く自分の失言に気が付いた時、エリアスが立ち上がって、カミルを背中に庇った。


「私欲のためではありません。己の鍛錬のためです」


「真に己の鍛錬の為と言うならば、賞品など必要なかろう?」


 はあ!?カミルは爺さんの言葉に耳を疑った。


 欲しいに決まってんじゃねか!だって騎士の家とか言っても、ロクな武器もねえじゃん。実際、今エリアスが使ってる剣なんか、何度も研ぎを入れたことで、葉っぱ一枚ろくに斬れやしない。すっかり刃もなくなった正真正銘、由緒正しい”なまくら”だ。これは欲とかなんかじゃねぇ。どっかの親父が言ってたあれだ。”ひつようけいひ”だ。


 エリアスは、握りこぶしを固めると、グッと顎を上げた。


「お祖父さま。それでは、騎士とは何なのですか?ただ鍛錬をし、民に尽くして——己の望むものを諦めて生きることが騎士なのですか?」


 カミルは心の中で、エリアスに拍手喝さいを贈った。そうだぜ!騎士だって、な~んももらえないまま命かけられねぇもん。爺さんは黙ったまま、ただジッとカミルとエリアスとを見比べた。その沈黙。先ほどの冷たい空気が再び、温かいはずの部屋に漂い始めた。どうやら、まだ怒りは解けてないと見える。


 あ~!もう~!面倒な爺さんだぜ。こっちは腹が減ってるってのによ。いよいよ地団太を踏みそうになった時、爺さんが重い口を開いた。


「己の望みを持つことが悪いとは言わん。だがな——」


 寒い冬の朝の湖みたいに——カチンコチンになった水面みたいな目が、真っすぐに二人を交互に見据えてくる。


「市井の祭りの”下らん遊び”で賞品とやらを手に入れるために、私はヴァルドの技をお前たちに教えているわけではない」


「別にいいじゃんか。爺さんだって『エリアスには、新しい剣が必要だな』って言ってただろ?手間が省けたと思えばさ?」


 カミルがあっけらかんと言い放った直後、爺さんの視線が二人ではなく、ハッキリとエリアスの方へ向いた。エリアスの両肩が、薄い筋肉を強張らせる。


「エリアス。お前もカミルと同じ意見なのか?」


 暖炉の炎が、エリアスの代わりにパチンと音を立てて返事をした。その小さな音は「当ったりめぇじゃねえか!」と声援を送っている・・・ようには、とても聞こえなかった。先ほど膠を煮ていた時のような勢いはなく、どこか気弱な——どこか遠慮しているような音だった。その音の後を、エリアスの声が追いかけた。


「・・・俺は・・・その——」


 エリアスは一瞬だけ躊躇うように視線を落とした。迷う事なんてねぇじゃん。何がダメだってんだよ!爺さんが話して聞かせてくれた剣術試合だって、優勝した騎士には賞品がもらえたってのに!それとどこが違うって言うんだよ!


 後方支援をしようとした時、爺さんが静かにため息をついた。


「なるほど。・・・お前には失望したぞ」


 エリアスが息を飲みこんだかと思うと、次の瞬間、顔色を失くして震えあがった。


「騎士の鍛錬とは民を守ってこそ価値が生まれる。それこそが騎士道の根幹であり、騎士の本分と言うものだ」


「だったらいいよ!エリアスの代わりに俺が出りゃいいんだろう?」


 そうだよ。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだよ。だって俺は別に”ヴァルド”でもねぇし、騎士になりたいわけでもない。弓術大会に出ることが”騎士”のホンブンじゃねぇって言うんなら、はなっからヴァルドでもねぇ俺が出りゃいいじゃんか。


「カミル」


 エリアスが振り返ってカミルを見た。その眼、その表情にカミルは戸惑った。泣いたり怒ったりはしていない。していないのに——


 振り向いたエリアスの顔は、前に「エリアスは弓とかやらなくても良いんじゃねぇか?」と言った時と殆ど同じものだった。


 爺さんは、二人の間に流れた空気を断ち切るように、深く息をついた。


「良いだろう——弓術大会でも、何でも好きに出るが良い」


 その代わり——


 爺さんの足がこちらに踏み出され、二人の少年は揃って後ずさった。だが、爺さんは暖炉の横にあるソードスタンドに歩み寄っただけだった。爺さんはソードスタンドから、ヴァルド家に代々伝わる剣をゆっくりと鞘ごと引き抜くと、こちらに向き直った。


「ヴァルド家の騎士として、敗北は認めん。出ると言うのなら、己の技で、己の誇りで共に力を補い合い勝者となること。それが条件だ」


 エリアスのアイスブルーの瞳に、明るい光が灯る。その隙を突くようにして、爺さんが冷や水を差し入れるように言葉を続けた。


「ただし——」


 勝利のガッツポーズを決めようとした拳を、カミルはこそこそと背中に隠した。ここでボロを出すわけにはいかねぇもんな。


「それが出来ぬのなら・・・ヴァルドの名を語る資格はない」


 爺さんの血管が浮き出た大きな手が、剣の鞘をすっと撫でる。


「万が一、負けた時は——このセリオ=ヴァルドがお前の物になることは、生涯ないものと思え」


「そ、んな・・・」


 エリアスの口から、掠れた声が漏れた。爺さんの剣は、エリアスの憧れだった。もっともっと小さいころから、毎日ずっと敬意をもって見つめていた。それに爺さんだって、このなんちゃらヴァルドをエリアスに譲ることを楽しみにしてたじゃねえか!ああ!なんかもう、完全に腹立ってきたぞ!


 カミルは爺さんの前に踊りかかるようにして、エリアスとの間に立ちはだかった。


「エリアスにシツボーしたとか言ってたよな!?ハッ!こっちの方こそ爺さんにシツボーだぜ!」 


 爺さんは目を剥いてカミルを見た。ふん!そんな顔したって、こわかねぇや!


「見てろよ!俺らで弓術大会に出て、優勝して、そんで、お前の鼻の穴をガバっと開かしてやっからなぁ!」


 はぁはぁと息を荒げた時


「お話し合いはもう終わったの?さぁさ、夕食にしましょう?」


 ばあちゃんがテーブルのド真ん中に、ミルクスープの大鍋を置いた。それと同時に張りつめていた空気が、甘い湯気と共にふわりと溶けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。