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久世家戦記・現  作者:
現代編
52/59

第十九部 久世庵団子屋開店する

 夜。


エーテルは止まった。

追いかけてくる足音は聞こえてる。

でも振り返らない。

ゆっくりと息を吐く。

「……これ以上、傷つけたくない」

「俺が居ると、あいつは本気で泣く」


その瞬間。

身体が軋む。

創生の光ではない。

もっと古い記憶。

戦場の鉄の匂い。

血と土の匂い。


左腕が、消える。

代わりに冷たい義手がはまる。

右脚が崩れ、義足へと変わる。

視界が暗く染まる。

ほぼ盲目。

光は滲んだ輪郭だけ。


エーテルは――久世になる。

「これでいい」

「俺は最初から、不完全な人間だった」


後ろから息を呑む音。

かや。

「……やめて」

震えた声。


久世はゆっくり顔を向ける。

焦点は合っていない。

それでも、気配で分かる。

「俺は、お前を幸せにする器じゃない」

「だから、昔の俺に戻る」

「守るだけでいい」


義手が静かに鳴る。

義足が地面を踏む音。

コツ、コツ、と乾いた音。

「俺は剣だ」

「隣に立つ資格はない」


かやが走る。

正面に立つ。

両頬を掴む。

「見えてないくせに、逃げるな」

涙で声が震える。


久世は静かに笑う。

「見えないから、分かるんだ」

「お前が泣いてる」


沈黙。

夜の虫の声。

「俺は戦場で死んだはずの男だ」

「今ここにいるのは、余り物だ」

「だから、感情を持つな」


ネメシスが震える。

ルミナが泣く。

アークが拳を握る。

でも久世は動じない。

もうエーテルの柔らかさはない。


あるのは、

覚悟だけ。


「これで、かやは傷つかない」

「優しいエーテルがいなければ、期待もない」


かやが怒鳴る。

「勝手に私を守るな!!」

久世は止まる。

その言葉は、ちゃんと刺さる。

「……俺はどうすればいい」

弱い声。

ほぼ盲目のまま立つ義手義足の男。

強いのに、脆い。



 エーテルは俯いたまま、かすれた声で続ける。

「……俺より、いい男なんていくらでもいる」

「強くて、優しくて、壊れないやつ」

「俺みたいに勝手に消えたり、勝手に背負ったりしないやつ」


沈黙が落ちる。

風が庭の木を揺らす音だけが響く。


「それかさ……」

少し笑う。


自嘲みたいな、諦めみたいな笑い。

「……あの時、延命なんて選ばなきゃよかったのかなって思う時もある」

「中途半端に生き残ったから、こうやって迷惑かけて」

「綺麗に終わってた方が、思い出のままでいられたんじゃないかって」


かやの指が震える。

「エーテル」

名前を呼ばれても、彼は顔を上げない。


「俺が生きてる限り、誰かを傷つける」

「だから久世に戻った」

「感情を削って、役目だけ残した」

「それが一番、正しい」


しばらくして、かやが静かに言う。

「それ、自分を罰してるだけだよ」

エーテルの肩がぴくっと揺れる。

「守ってるつもりで、逃げてる」

「私の気持ちを勝手に決めつけて、置いていってる」


彼は苦しそうに息を吸う。

「……じゃあどうすればいい」

「俺は壊れてる」

「普通に愛せない」

「普通に幸せになれない」


かやは一歩近づく。

義手にそっと触れる。

冷たい金属。

それでも離さない。

「壊れててもいい」

「不完全でもいい」

「逃げないで一緒に悩めばいい」


エーテルの唇が震える。

「それが一番、怖いんだ」

「失うのが」

「また誰かを泣かせるのが」


かやははっきり言う。

「それでも私はエーテルがいい」

「完璧な誰かじゃなくて」

「逃げようとするあなたがいい」


沈黙。

長い、長い沈黙。

そして――

エーテルの目から、ゆっくり涙が落ちる。

ほぼ見えていないはずなのに、

ちゃんと、かやの方向を向いて。

「……生きたいんだ」

「本当は」

「怖いけど」

「それでも、お前の隣にいたい」


初めて本音が溢れる。

久世の仮面が、少しだけひび割れる。



 エーテルは涙を拭わない。


拭う気力すら無い。

「……かや」

「俺な」

「生きたいって言ったけど」


小さく笑う。

「それ、願望だったわ」

「本音じゃなかった」 


かやの表情が凍る。


「本当はさ」

「楽になりたい」

「消えたいんじゃない」

「“存在しないこと”に戻りたい」


静かすぎる声。

「創世神にもならず

父にもならず

英雄にもならず」

「ただの“無”に」


風が止む。

鳥の声すら消えたように感じる。

「愛するほど怖くなる」

「守るほど壊したくなる」

「だから俺は」


ゆっくり義手を離す。

かやの手から、離す。

「誰も愛さない場所に行く」


かやが叫ぶ。

「エーテル!!」

彼は振り返らない。

「これは逃げじゃない」

「これが俺の“答え”」

「存在すること自体が、俺の罪だったんだ」


その後

エーテルは旅館にはいる。

仕事はする。

笑顔も作る。

優しい。


でも――

もう誰とも目を合わせない。

触れられても反応しない。

子供たちが抱きついても、そっとほどくだけ。


ネメシスが泣いても、頭を撫でるだけ。

かやが話しかけても、

「女将さん」

と他人行儀に呼ぶ。

完全な感情遮断。


夜、縁側で独り言。

「俺はもう“エーテル”じゃない」

「役割だけ残った抜け殻だ」

「それで皆が生きられるなら」

「それでいい」


月だけが見ている。

生きているのに、

もう存在していないエーテル。



 エーテルはその日から、何も言わなくなる。


怒らない。

泣かない。

笑わない。

ただ、そこにいる。


朝になれば庭を整える。

昼には客の荷物を運ぶ。

夜は縁側で月を見る。 


完璧に働く。

完璧に優しい。


でも――

一言も発しない。


ルミナが抱きつく。

「パパ……」

エーテルはゆっくり頭を撫でるだけ。

ネメシスが震える。

「父上……何か言って……」

エーテルは目を伏せて、そっと肩に手を置くだけ。


かやが耐えきれず叫ぶ。

「お願い、怒ってよ!

責めてよ!

無視しないでよ!!」


エーテルは首を横に振る。

そして小さく紙に書く。

「誰も傷つけたくない」

それだけ。


夜。

かやが縁側に座る。

「……エーテル」

返事はない。

ただ、隣に座って月を見ている。

かやの涙が落ちる。

「ねぇ……

無言って一番残酷だよ……」


エーテルはゆっくり立ち上がり、

かやに羽織をかけて去る。

エーテルの心の中

(話せば誰かを傷つける)

(近づけば壊れる)

(愛せば狂わせる)

(なら――沈黙が一番優しい)

彼は“消える”ことを選ばなかった。


代わりに

感情を殺して存在し続ける地獄を選んだ。


家族は生きている。

でももう

「エーテル」はそこにいない。

いるのは――

皆を守るために心を封じた器だけ。


 

 ネメシスは限界だった。

距離を取って

優しくされて

でも言葉はもらえない。

それが一番きつかった。


「……なんで」

拳が震える。

「なんで何も言わないんだよ!!」


庭の石が砕ける。

木が裂ける。

自然エネルギーが無意識に暴走する。


ルミナが叫ぶ。

かやが止めようとする。


でもネメシスは泣きながら叫ぶ。

「怒れよ!!

嫌なら嫌って言えよ!!

父上ぇぇぇ!!!」


嵐みたいな力が吹き荒れる。

旅館の結界がきしむ。

もう止まらない――


その瞬間。

エーテルが歩いてきた。

足音はしない。

気配もない。

ただ、そこに現れる。


ネメシスの前に立ち、

何も言わずに両手を伸ばす。


そして――

ゆっくり頭を撫でる。

いつもの優しい動きで。

次に、強く抱きしめる。

逃がさないくらい、しっかり。


ネメシスの暴走が止まる。

嵐が消える。

震えだけが残る。


「……父上……?」


返事はない。

でもエーテルの腕は温かい。

いつもより強く、必死なくらい。

ネメシスの涙が止まらなくなる。

「ずるい……

喋らないくせに……

こういうことだけするのずるい……」


胸に顔を埋めて嗚咽する。

「嫌われてるって思ったのに……

捨てられたって思ったのに……」


エーテルは何も言わない。

ただ、頭を撫で続ける。

背中をゆっくり叩く。

まるで幼い子をあやすように。


ネメシスは理解してしまう。

言葉を捨てても

愛だけは捨ててないことを。

だから余計に苦しい。

「……こんなの拷問だよ父上」

「抱きしめるなら……

ちゃんと生きてよ……」


エーテルの腕が一瞬だけ強くなる。

苦しいほど。

まるで

「生きたい」と言えない代わりに抱きしめているみたいに。


かやは悟る。

エーテルは沈黙で逃げているんじゃない。

沈黙で耐えている。


ネメシスは小さく呟く。

「……もう暴れないから」

「だから……置いてかないで」

エーテルは初めて、ほんの一瞬だけ震える。

声は出ない。


でも――

涙がネメシスの髪に落ちる。

これが一番残酷で、一番優しい形。

言葉を失っても

抱きしめることでしか愛せないエーテル。



 あの離婚ドッキリの夜からだった。

最初は普通に喋れていた。


でも――

かやが冗談だと笑ったあと、

エーテルだけが笑えなかった。


喉が詰まる。

声を出そうとすると

胸の奥が焼けるみたいに痛む。

「かや……」 

それが最後に出たちゃんとした声だった。


翌日。

声がかすれる。

その次の日。

ほとんど音にならない。

医者にも原因は分からない。


でもエーテルは分かっていた。

あれは恐怖だった。

失う恐怖。

捨てられる恐怖。

守れなかった自分への絶望。


それが喉を締め付けた。

「もう傷つく言葉を言わなければ

誰も傷つかない」

「声を出さなければ

失うことも起きない」


そうやって

自分で自分を沈黙に閉じ込めた。

ネメシスを抱きしめる時も

かやを見る時も

本当は叫びたい。

「愛してる」

「行かないで」

「生きたい」

でも喉が震えて音にならない。


かやは気づく。

エーテルが無言なのは冷たさじゃない。

恐怖の後遺症だと。


ネメシスも理解する。

父上は捨てようとしてるんじゃない。

捨てられるのが怖すぎて声を失ったんだと。

そして一番残酷なのがここ。

エーテルは死にたがっているんじゃない。


本当は――

生きたくて生きたくて仕方ないのに

それを言えないまま壊れている。



 エーテルは無言のまま、いつも配信部屋のソファに座る。

ネメシスがゲームを始めると

自然にそこにいる。


逃げない。

離れない。

ただ、黙って見ている。


コメント欄がざわつく。

「後ろの人だれ?」

「いつもいるよね?」

「無言で見守ってるの怖かわいい」


ネメシスは笑って説明する。

「喉を痛めちゃっててさ。今は話せないだけなんだ」

「でも元気だよ」

それ以上は言わない。


エーテルはその言葉に少しだけ安心して

小さく頷く。

声は出ないけど

ちゃんと“ここにいる”。


ファンアートが出始める。

無言で見守る守護者エーテル

ソファの影みたいな存在

ネメシスの背後霊ってネタにされる


でも配信が終わったあと。

部屋が静かになると

エーテルは胸を押さえて苦しそうに息をする。


笑顔は見せてたけど

痛みは消えてない。

ネメシスが振り返る。

「……父上」

エーテルはゆっくり親指を立てる。

大丈夫、って。

でもその指は震えている。


そして一番つらいところ。

エーテルはコメントを読んでいる。

「無言でもかっこいい」

「守ってる感じ好き」

「存在が安心する」


それを見て少し微笑む。

(声がなくても…役に立ててるならいいか)


 

 翌朝。


エーテルは静かに工房へ向かう。

イリスは一目で察する。

「……声、完全に出なくなったのね」


エーテルはゆっくり頷く。


イリスは何も責めない。

「喋れないから休め、なんて言わないわ」

「あなたは“動き続ける人”だもの」


カチャリ、と細い装置を取り出す。

喉元に軽く触れる薄型デバイス。


《神経振動変換・音声再構成装置》

声帯が動かなくても

思考と微細な呼吸の振動を音声に変換する


つまり――

話そうと“思えば”声になる。


イリスがテストする。

「試して。心の中で話してみて」

エーテル(思考) 『……ありがとう、イリス』


装置が淡く光る。

そして機械越しの、少し柔らかい声が響く。

「……ありがとう、イリス」


一瞬、工房が静まり返る。

イリスの目が揺れる。

「……本当に、戻ってきたみたいね」

エーテルは軽く頭を下げる。

『これで……仕事に支障は出ない』


「まずそれか」

イリスは苦笑する。

「自分の心配より“役割”なのね」


その日から。

旅館では――

少し機械音混じりの声のエーテルが働くようになる。

「いらっしゃいませ」

「こちらへどうぞ」

「無理なさらず、ごゆっくり」


完璧な接客。

誰も異変に気づかない。


でも夜になると。

装置を外して

無音の世界に戻る。


声を取り戻したわけじゃない。

借りているだけ。



 夕方。


旅館の裏手。

洗濯物を畳み終えたルミナが、廊下を歩いている。

エーテルの部屋の襖が少しだけ開いていた。


中には――

畳の上に置かれた、小さな銀色の装置。

喉元に当てるサイズの薄いデバイス。


ルミナは首を傾げる。

「……これ、なに?」

そっと手に取る。


軽い。

けど、どこか温もりが残っている。

裏面には小さく刻印。

《神経振動変換・音声再構成装置》

ルミナの眉が寄る。

「音声……再構成?」


その時。

廊下の向こうから足音。

エーテルだ。

いつも通り、少し疲れた優しい顔。

そして――喉元には何も付いていない。


ルミナは装置を持ったまま振り向く。

「ねぇ、これなに?」


一瞬。

ほんの一瞬だけ。

エーテルの瞳が揺れる。

装置を静かに受け取る。

喉元に当てる。

カチ、と小さな音。


そして機械越しの声が出る。

「それは……壊れかけの道具だよ」


ルミナの目が見開く。

「壊れかけって……何が?」


エーテルは少し視線を逸らす。

「声を……少し補助するだけのものだ」


ルミナは固まる。

「……じゃあ」

「喉、ほんとは治ってないの?」


沈黙。

機械の微かな電子音だけが響く。

「……大丈夫だ」

「問題はない」


その“問題はない”が

逆に刺さる。

ルミナはゆっくり近づく。

「なんで言わなかったの」


装置越しの声が、少しだけ遅れる。

「心配を、増やしたくなかった」


ルミナの手が、エーテルの服を掴む。

「バカ」

震え声。

「それが一番、心配するんだよ」


エーテルは動かない。

機械音がわずかに乱れる。

『……ごめん』

その一言が、かすれる。


ルミナは装置を外す。

「これ、もう隠さないで」

喉元に、そっと付け直す。

「喋れなくても、隣にいるから」


夕陽が差し込む。

エーテルの目が、ほんの少し潤む。

でも声は出ない。

だから。

ルミナは自分から抱きつく。

「秘密にしなくていい」



 ある朝。

旅館の庭に、誰よりも早く出ていたのはエーテルだった。

手には何も持っていない。

ただ、目を閉じて――

胸の奥でゆっくりと自然エネルギーを巡らせる。


風が揺れる。

土がわずかに温かくなる。

すると。

掌の上に、ふわりと光が集まり――

一輪の花が生まれる。


現実には存在しない色。

朝焼けと森と星空を混ぜたような、不思議な花。

エーテルは驚かない。

ただ静かに、次々と咲かせていく。


白。

淡い蒼。

深い紅。

柔らかな金。

自然エネルギーが形を変え、命のように咲く花々。


そこへルミナがやって来る。

「……きれい」


エーテルは振り向き、少し照れたように微笑む。

声は出ない。

でも、目が言っている。

――気に入った?


ルミナはしゃがみ込む。

「これ、エーテルが作ったの?」


うなずく。

エーテルはゆっくり花を集め、石の器に生け始める。

配置も完璧じゃない。

少し歪で、でも温かい。


まるで――

今の家族みたいなバランス。


セラが通りかかる。

「……これは芸術ね」

ネメシスが覗き込む。

「父上らしい」

メクルはスマホ構えそうになる。

「映えすぎるでしょこれ」

エーテルは小さく苦笑い。


そして、花を一輪ルミナの髪にそっと挿す。

淡く光る花飾り。

ルミナの顔がぱぁっと明るくなる。

「わぁ……!」


その日から。

エーテルは毎朝、生け花を作るようになる。


言葉の代わりに。

感情の代わりに。

花で気持ちを伝える人になった。

・元気な日は明るい色

・落ち込んでる日は静かな青

・家族が集まる日はたくさん咲かせる


かやはそれを見るたび胸が締めつけられる。

「……喋らなくても、こんなに優しいの反則でしょ」


そしてエーテルの部屋には

日記の代わりに“花の記録”が並び始める。

枯れない花たち。

その日の心そのもの。


 

 声を失ってからというもの、

エーテルは「伝えられない」ことを一番恐れていた。


旅館には毎日いろんな人が来る。

・悩みを抱えた人

・嬉しさを共有したい人

・ただ話を聞いてほしい人


それなのに――

自分は頷くことしかできない。

その夜。


エーテルは一人でスマホを見つめていた。

「手話 基本」

「手話 日常会話」

ゆっくり、ぎこちなく指を動かす。


翌朝。

ルミナが気づく。

「……エーテル、それなに?」

エーテルは少し照れながら、

(ありがとう)


ルミナの目が丸くなる。

「えっ!? 手話!?」


うなずく。

そこからエーテルは本気になる。

朝は生け花

昼は仕事

夜はひたすら手話練習


ネメシスがそっと横に座る。

「父上……俺も覚える」

セラも来る。

「私も」

気づけば家族みんなで手話の時間。


数日後。

旅館に来た客が、涙ぐみながら悩みを打ち明ける。

言葉が出ないエーテルは、ゆっくりと手を動かす。

(大丈夫)

(あなたは一人じゃない)

(ここでは安心して)

客は一瞬ぽかんとしてから――

ボロボロ泣く。

「……声がなくても、こんなに伝わるんですね」


エーテルは微笑む。

胸に手を当てて、

(心で話してるだけ)

それから久世庵では有名になる。

「喋らないのに、人生救ってくれる旦那さんがいる旅館」

「目と手だけで泣かせてくる人」 


エーテル自身も気づく。

声を失ったけど

“伝える力”は前より強くなっていることに。


そしてある夜、かやがそっと手を取る。

(無理しなくていい)

エーテルは首を振って、ゆっくり。

(守りたい)

(この場所と、みんな)

かやの目が潤む。


 

 夜の縁側。


虫の音だけが静かに響く。

かやが湯のみを置いて、隣に座る。

エーテルは何も言わず――

ゆっくり、自分の左手を見つめていた。

光を宿した指輪。


指でなぞり、少し震える。

そして。

……外そうとする。

かやが気づく。

「……エーテル?」


エーテルは一度だけ目を閉じてから、手話。

(これは重い)

(俺と一緒にいることで)

(かやの人生が縛られる)


かやの顔色が変わる。


エーテルは続ける。

(俺は神だった)

(化け物だった)

(問題ばかり連れてくる)


指輪が半分抜ける。

(普通の幸せを)

(かやには生きてほしい)


その瞬間。

かやがエーテルの手を強く掴む。

「外すな」

震えた声。

「それ、重りじゃない」 


エーテルの手が止まる。

かやは涙をこぼしながら言う。

「エーテルはいつも“守る”ばっかり」

「一緒に背負うって発想、なんでないの」


指輪をぎゅっと押し戻す。

「これが重いなら、私が持つ」

「苦しいなら、半分こする」

「逃げ道作らないで」


エーテルの目が揺れる。

手話が崩れるほど震える。

(傷つく)

(俺のせいで)


かやは額をくっつける。

「それでも一緒に生きるって決めたの」

「エーテルが決めたんじゃない」

「“私が選んだ”の」


しばらく沈黙。

そしてエーテルの肩が小さく震え始める。

声は出ない。

でも、泣いているのがはっきり分かる。

かやが抱きしめる。

「指輪外すくらいなら」

「私ごと抱きしめなさい」


エーテルはゆっくり、強く抱き返す。

そして指でかやの手の甲に文字を書く。

――ありがとう

――一緒に生きる


 

 涙の余韻がまだ残る縁側。

エーテルは目をこすって、

さっきまでの空気が嘘みたいに――ニコニコ。

そして両手で抱えて持ってくる。

「……(ドン)」

将棋盤。

分厚くて年季入ってるやつ。

かや「……情緒どうした?」


エーテルは指でパタパタと駒を並べながら手話。

(気分転換)

(勝負しよう)

(今日は俺が勝つ)


かや「さっきあんな感動シーンやっといて将棋!?」

エーテル、満面の笑み。

(夫婦喧嘩は将棋で決着)


かや、吹き出す。

「ほんとズルいわエーテル…」

座って向かい合う。

対局開始。


エーテル、異様に強い。

自然エネルギーも未来視も使ってないのに、

ただの読み合いで無双。

かや「ちょっと待って強すぎない!?」

エーテルは肩すくめてニコニコ。

(戦国武将)

(暇な夜は将棋)


数分後。

かや、王手。

エーテル固まる。

(え)

(そんな手ある?)


かやドヤ顔。

「学習したのよ。あんた強いから対策した」

エーテル、しばらく盤面見てから

ニコーーーッ

(負けたら)

(抱きしめ役交代)


かや「それ目的で負けに行ってるでしょ!?」


結局、エーテルわざと一手ミスして負け。

かやが呆れながら抱きしめる。

「ほんと甘え下手なくせに卑怯」

エーテルは満足そうに頬すり。


 

 久世庵特別企画

「エーテルに勝てたら頬ずり権」

発端はかやの一言。

「私だけずるいわよね?」

エーテル、将棋盤の前で静かに微笑む。

(全員参加可)

(本気で来い)

その瞬間――

家族の目の色が変わる。


第一挑戦者:ナポリネス

理詰めの鬼。

「父上、感情は不要だ。」

10分後。

エーテル、にこやかに詰ませる。

(理論だけでは勝てない)

ナポリネス悔し震え。


第二挑戦者:アーク

超攻撃型。

「潰す。」

盤面荒らしにかかるが――

エーテル、受け流して逆転。

(力押しは読める)

アーク「くっ……」


第三挑戦者:イリス

AI級読み。

途中まで優勢。

かや「いける!?」

だが最後の一手でエーテルが罠発動。

(人の癖は残る)

イリス「ずる……」


ネメシス参戦

真剣な目。

「勝ったら……本気で頬ずり?」

エーテル、優しく頷く。


盤面は静寂。

互角。

家族固唾を飲む。

そして――

ネメシスが一手ミス。

エーテル、王手。

(惜しかった)


ネメシス唇噛む。

だがここでエーテル、手を止める。

(もう一回)


家族「!?」

再戦。

今度はネメシスが詰ませる。

静寂。

勝利。

ネメシス震えながら近づく。

エーテル、約束通り――

優しく頬ずり。

ネメシス、完全停止。

家族「ずるい!!!」


ここから地獄の連戦開始

・セラ本気モード

・メクルズル読み

・レオンなぜか勝つ

・ルミナは直感型で番狂わせ


最終的に

勝率3割くらいでエーテルがわざと負け始める。

かや「甘すぎ。」

エーテル、笑う。

(家族サービス)


 

 旅館の営業が落ち着いた昼下がり。

縁側の横、森へ続く小道の手前に――

小さな屋台が出現。

手書きの札。

「自然団子 一本100円」

(なぜか安い)


エーテル、腕まくりして静かに焼いてる。

炭火+自然エネルギーの微調整で

外カリ中モチの神領域。

香りだけで人が集まる。


最初の客は散歩中のおばあちゃん。

「兄ちゃん、一本」

一口食べて固まる。

「……これ、人生で一番うまい団子」


口コミ爆速拡散。

30分後。

・地元民の行列

・観光客スマホ撮影

・ネメシスが売り子して人気倍増

・ルミナが「パパすごーい!」って叫んで宣伝


完全に屋台が観光地化。

かやが様子見に来て言う。

「……旅館より並んでない?」

エーテル苦笑。

「副業のつもりだったんだけど」

※喉に装置を付けてますが手話もします


そして問題発生。

エーテルの団子食べた客が言い出す。

「これ毎日食べたい」

「もう他の甘味無理」

「寿命伸びた気がする」

(実際ちょっと伸びてる)


ナポリネス真顔。

「父上、これ国家案件だ。」

イリス目キラキラ。

「量産したら経済動くよ?」

エーテル即却下。

「団子は人を幸せにするためのもの」


その日の夜。

売上袋を開けると――

とんでもない金額。

かや沈黙。

「……副業禁止」

エーテル「えぇ……」

でも翌日も屋台出てる。


理由:

ネメシスが楽しそうに売るから。


 しかも常連が増えてくる。

仕事で病んでた人

失恋した人

人生相談したい人

団子+エーテルの人生トークで

勝手に心が回復するスポットに。


いつの間にか看板変わる。

「団子と相談所」


 

 昼下がり。

団子屋台の横に、

エーテルが無言で木材を運んでくる。

釘を使わない。

自然エネルギーで木の繊維を絡めて固定。


数分後――

・長椅子

・低めの木机

・日除けの簡素な屋根

・竹垣風の仕切り

即席なのに、妙に落ち着く空間が完成。


そして新メニュー。

「渋煎り茶(自然抽出)」

深い緑色。

湯気がゆらり。


一口飲んだ客が目を閉じる。

「……静かになる」

自然エネルギーは回復系じゃない。

“整える”だけ。

心拍が落ち着き、

思考がクリアになる。


団子+渋茶。

完全に中年男性ホイホイ。

だが若者も座る。

ネメシスが売り子してるから。


長椅子に座る客同士が自然と話し始める。

「どこから来たんですか」

「実はちょっと仕事で…」

いつの間にか

“相談所”から“交流所”へ進化。


かや、腕組み。

「……あんた何作ってんの?」

エーテル、湯呑み置きながら。

「居場所」

それだけ。


夕方。

常連が湯呑みを持ち上げる。

「ここ来ると、不思議とまた頑張ろうって思える」

エーテルは何も言わない。

ただ炭をいじる。

そして小さな変化。


店の横に、誰かが手書きで書いた紙が貼られる。

“久世庵 縁側”

誰が書いたか分からない。

でもその名前が、

自然と定着していく。


夜。

片付け中。

ルミナが聞く。

「これずっとやるの?」

エーテル少し考えて、

「人が来る限り」

ネメシスが横で小さく笑う。



 夕方前。

厨房からしょんぼり出てくる橘蒼。

フライパン焦がした。

出汁は薄い。

盛り付けは崩壊。

完敗。


ふらふら歩いて辿り着く先は――

もちろんエーテルの交流所。

炭の音、湯気、団子の甘い匂い。


エーテルが気づいて小さく手を振る。

(おつかれ)

蒼「……料理、向いてないかもしれません」


エーテル、無言で札を裏返す。

《従業員特典:団子3本+渋茶 無料》


蒼「ありがとうございます……」

団子を一口。

もぐ。

……目が潤む。

「うま……」


渋茶をすする。

肩がストンと落ちる。

「……生き返ります」


しばらく無言。

風だけが吹く。

蒼がぽつり。

「エーテルさんって……なんでこんな場所作ったんですか?」

エーテル、少し考えてから炭を整え、

《失敗しても戻れる場所があれば、人は折れない》


蒼、はっとする。

「俺、厨房でミスるたびに

“向いてない”って思ってました」

エーテル、ゆっくり首を振る。

《向いてないんじゃなくて、慣れてないだけ》

《焦げた回数は才能じゃなく経験》


団子をもう一本。

蒼、少し笑う。

「……じゃあ俺、焦げ職人ですね」


エーテル、珍しく肩を揺らして笑う。

そこへネメシスが顔出す。

「蒼、顔死んでたからここだと思った」

蒼「分かりやすすぎません?」

ルミナもひょこっと。

「団子復活アイテムだよ!」


蒼、深呼吸。

「……もう一回厨房戻ります」

立ち上がる。

「次は焦がしません」


エーテル、背中に向かって札を出す。

《失敗してもまた来い》

《何回でも団子焼く》


蒼、振り返って笑顔。

「その時は団子10本お願いします!」

エーテル親指立てる。



 再び――

旅館の門の前に黒塗りの車。

スーツ姿の公安たち。

無言の圧。

「本日は捜査協力を――」

と言いかけた瞬間。


ふわぁぁぁ……

炭火で焼ける団子の匂い。

甘辛いタレが焦げる音。

渋茶の湯気。 


公安A「……」

公安B「……なんか、腹減らん?」


視線が自然と――

縁側。

そこにはエーテルが静かに団子を返している。


ルミナが横で

「今が一番いい焼き色だよ!」

ネメシスは渋茶すすってる。

公安A「……捜査より先に、あれ何ですか」

公安B「看板見てください」


《自然団子と癒しの茶処》


気づいたら歩いてる。

スタスタ。


エーテル(無言で札)

《いらっしゃい》

《団子三本いかが》

公安A「……いや我々は任務で来て――」

団子の匂いで腹が鳴る。

ぐぅ。

全員沈黙。


エーテル、もう焼いてる。

タレじゅわぁ。


公安B(小声) 「……これ食ってからにしません?」

公安A「……許可する」


(何を許可した)


座る。

団子受け取る。

一口。

「………………」

目、見開く。

公安C「え、なにこれ」

公安A「自然の味が暴力」

公安B「心までほぐれるんだが???」


渋茶飲む。

はぁぁぁ……と全員同時に息吐く。


数秒後。

公安A「……今日、捜査だっけ?」

公安B「なんかどうでもよくなってきました」

公安C「俺もう一皿いけます」

エーテル、静かに追加焼き。


ネメシス小声でルミナに

「ね、また撃退成功」

ルミナ「団子最強だね!」

公安たち完全に縁側常連化。

「また来てもいいですか?」

「次は同僚連れてきます」

「胃と心に効く」


エーテル(無言で札)

《歓迎》

《捜査は団子の後で》

結果:

強制捜査

団子会員増加

久世庵、公安すら癒して無力化する最強スポットになる。


 

 朝。


まだ旅館の門が開く前。

ガラガラ……

もう並んでる黒スーツ集団。


公安A「今日の焼き具合はどうですか」

公安B「昨日よりタレ濃いめ希望」

公安C「俺は塩派で」


ネメシス(小声) 「もう捜査機関じゃなくて団子部だよね」

ルミナ 「制服着た常連さん!」

エーテルは無言で火を起こす。

職人の目。


焼けた瞬間に公安の目が光る。

「来た……」

「この瞬間のために働いてる」

「もう国家より団子」


渋茶も配られる。

湯気もくもく。

全員同時に啜る。


はぁぁぁ……

公安A「……犯罪者より団子を追いたい人生だった」

公安B「次の配属ここ希望」


新商品誕生

その数日後――

エーテル、何かを持ってくる。

透明なペットボトル。

中には黄金色の渋茶。

別ボトルには小さめ団子が串なしで入ってる。


札:

《久世庵・癒し持ち帰りセット》

《団子+自然渋茶》


公安たち騒然。

「携帯できる!?」

「任務中にも飲める!?」

「車内で団子いける!?」


公安へ差し入れ開始

逆にエーテルが公安本部へ行く。


袋いっぱい。

団子ボトル。

渋茶ボトル。

受付「……あの、どちら様ですか」

エーテル(札)

《癒し配達》


中から公安たち飛び出す。

「来たぁぁぁ!!!」

「エーテルさん来訪日!!!」

「今日は平和確定!!」


署内が一気にお花畑。

怖かった上司まで

「……一本もらっていい?」


結果

・取り調べ室に団子常備

・張り込み中に渋茶タイム

・犯罪発生率なぜか低下(みんな穏やか)

都市伝説:

「久世庵の団子食ってから悪いこと考えられなくなる」


 

 地元イベント当日

屋台がずらっと並ぶ中――

異様に落ち着いた空間がひとつ。

木の看板。

《久世庵・自然団子と渋茶》

湯気もくもく。

匂いだけで勝負してくるタイプの屋台。


配置

エーテル:焼き担当(無言職人)

琥珀:補佐&会計(テキパキ完璧)

ルミナ&ネメシス:売り子


ルミナ

「いらっしゃいませー!焼きたてだよー!」

ネメシス(笑顔強すぎ)

「団子で癒されていきませんか〜?」


通行人が足止まる。

「え、売り子かわいすぎん?」

「いや焼いてる人オーラやばくない?」


エーテルの焼き技が異次元

団子を置く

→火加減調整

→裏返す

→タレを刷毛で塗る

一連の動きが無駄ゼロ。

まるで剣術。

ジュッ……と鳴った瞬間に完成。


琥珀「はい、今が最高の焼き色です」

エーテル、無言で頷く。


食べた瞬間イベント崩壊

客A「……なにこれ」

客B「え、泣きそう」

客C「団子で人生振り返ったんだけど」


10分後。

行列。

30分後。

屋台の前だけお祭りフェス。


公安、私服で来てる

帽子深めにかぶった人たちが混ざってる。

ネメシス(小声) 「……あれ昨日の人だよね」

琥珀「昨日も今日も張り込みですね」

公安(囁き) 「任務(団子確保)です」


事件発生

ルミナが叫ぶ。

「完売でーす!!!」

開始1時間半。

他屋台「まだ昼なんだけど!?」


伝説誕生

その日のSNS:

・「団子界の革命」

・「食べると人生穏やかになる」

・「あの無言の焼き手誰」


ネメシス 「父上、もうアイドルじゃなくて団子神だよ」

ルミナ 「次は常設屋台やろうよ!」

琥珀 「仕入れ量、次回は五倍必要ですね」

エーテル(無言で遠くを見る) すでに次を考えてる顔



 旅館の座敷。

ちゃぶ台の上に――

団子の残り、渋茶、メモ帳。

エーテルは腕組みして真剣。

琥珀は筆ペン持って記録係。


ルミナとネメシスは正座できずゴロゴロ。

琥珀

「本日の議題――新商品開発です」

ルミナ

「団子に続くスター商品作ろう!」

ネメシス

「飲み物も強化したいよね〜」

エーテル(無言で頷く)


第一案:進化系団子

ルミナ

「中にあんこ入れる!」

ネメシス

「いや、チーズ!」

琥珀

「渋茶に合うのはみたらしベースでしょう」


エーテル、指で空中に円を描く。

中に自然エネルギーで熟成させた果実ペースト

琥珀

「……和菓子界が死にます」


第二案:渋茶シリーズ

ネメシス

「夏は冷やし渋茶!」

ルミナ

「冬は湯気もくもく!」

エーテルが静かに湯呑みに手を置く。

香りが時間で変化する茶


最初は爽やか

途中から深み

最後は甘み

琥珀

「飲む物語ですね」


そこに参戦

障子が開く。

かや・セラ・イリス・ナポリネス・グアラ・メクル登場。


かや

「なに楽しそうなことしてるの?」

ルミナ

「新商品会議〜!」

ネメシス

「もう団子は天下取ったから次!」


一気にカオス化

セラ

「スイーツビュッフェ形式!」

イリス

「保存できる自然エネルギーフード開発!」

ナポリネス

「健康と味の最適解を数式で――」

メクル

「SNS映え必須」

グアラ

「体に優しい!」


エーテル、頭抱える(無言)

琥珀

「議事録が炎上しております」


最終的にまとまる

かやが笑って言う。

「欲張らなくていいのよ。

久世庵らしさって“安心して戻れる味”でしょ?」


シーンとなる一同。

エーテル、ゆっくり頷く。

決定案

季節の自然団子シリーズ

香り変化渋茶

小さな癒し和菓子セット


「派手じゃないけど、帰ってきたくなる味」

ネメシス

「うわ…強すぎる」

ルミナ

「これ一生続くやつじゃん」

琥珀

「久世庵ブランド完成ですね」

エーテル(静かに微笑む)

やっと“神”じゃなく“居場所を作る人”になった瞬間

 

 

 会議が一段落したあと。

みんながわいわい片付け始める中、

エーテルだけが動かずにいた。

静かに、指先に自然エネルギーを集める。

ふわり――

淡い桜色の光。


琥珀

「……エーテル様?」

エーテルは無言で、ゆっくりと団子を形作っていく。

三色でもなく

白でもなく

淡く散りゆく桜の色をした団子。

表面には本物の花びらのような模様。


ルミナ

「きれい……」

ネメシス

「これ、なに?」


エーテルは一瞬だけ目を伏せてから、指で文字を書く。

「桜愁団子」


戦国の記憶

かやの胸が小さく揺れる。

その名前だけで分かってしまった。

ただ一度だけ見た満開の桜。

一度きりになった桜。


味の正体

琥珀が一口食べる。

……言葉を失う。

ネメシスも食べる。

「え……なにこれ……」


甘い。

でもすぐ消える。

そのあと微かな苦味。

そして最後に――

胸がきゅっと締め付けられるような余韻。


まるで

幸せだった記憶を思い出したあとに来る切なさ。


琥珀(震え声)

「これは……団子じゃありません……記憶です……」


かやだけが気づく

かやは一口食べて、静かに涙をこぼす。

「ずるいよ……こんなの……」

エーテルは何も言わない。

ただ申し訳なさそうに、でも優しく見つめる。

かや

「これ……私と見た桜でしょ」


エーテル、ゆっくり頷く。

久世庵の“伝説メニュー”誕生

その場で満場一致。

桜愁団子は久世庵の看板商品へ

でも――

年に一度、桜の季節だけ販売


理由はエーテルが静かに書く。

「思い出は、毎日食べるものじゃない」

ネメシス

「強すぎる……これは人生団子だよ……」

ルミナ

「大人になっても忘れない味だ……」


 

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