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久世家戦記・現  作者:
現代編
50/59

第十七部 琥珀

 教授はまだ深く頭を下げたままだった。

エーテルは立ち上がり、縁側の奥へ歩いていく。


古い柱時計の横。

床板の下に隠していた細長い包みを取り出す。


布をほどくと――

一本の杖。

ただの杖じゃない。


黒檀に近い深い色合い、持ち手には小さな傷が無数に刻まれている。

戦場を共にくぐった証。


エーテルはそれをそっと撫でる。

「……琥珀がな」

「俺が片腕になった後も、ずっとこれを持たせてくれてた」

「“殿は剣を振れなくなっても、立つ旗でいればいい”ってさ」


教授は息を呑む。

「側使いの……」


「もう俺には必要ない」

「ここじゃ戦もないしな」


エーテルは静かに微笑う。

「だがこれは、歴史を背負う人間の手にあるべきだ」

そして教授の前に差し出す。

「持っていけ」

「飾りじゃない」

「支えるための杖だ」


教授は震える手で受け取る。

ずしりと重い。

物理的な重さ以上に――

生きた歴史の重み。

「こ、こんなものを私が……」


エーテルは即答する。

「使える人間が使うほうが、琥珀も喜ぶ」

「机で歴史を守る戦士に渡すには、ちょうどいい」


教授の目から涙が落ちる。

「私は……あなたほどの人間じゃ……」


エーテルは静かに遮る。

「同じ戦い方をする必要はない」

「血を流さず守る戦場のほうが、今はずっと難しい」


沈黙。


夕焼けが杖を赤く染める。

教授は深く深く頭を下げた。

「この杖と共に、真実を守ります」

「あなたの名を英雄にも怪物にもさせません」

「ただ……静かに生きた人として」


エーテルは満足そうに笑った。

「それでいい」

そして最後にぽつり。

「琥珀、聞こえたか」

「いい持ち主だろ」


風が庭を通り抜ける。

まるで返事のように木々が揺れた。


 

 雨。


血と泥でぬかるんだ戦場。

倒れた兵の間を、一人の少年が走っていた。

まだ十五にも満たない細身の体。

だが目だけは異様に澄んでいた。

それが――琥珀だった。


「殿はどこだ!」

叫びながら駆ける。


矢が飛ぶ。

刀がぶつかる。

人が死ぬ。

それでも止まらない。

丘の上。


片腕を失いながらも、なお立ち続ける久世。

敵兵が囲んでいた。


琥珀は考えなかった。

走って、落ちていた槍を拾い、背後から突き刺す。


一人。

二人。

三人。

子供の動きじゃない。

生きるために覚えた殺し方だった。


「殿!!」


久世が振り返る。

「……来るな、琥珀!」


琥珀は泣きながら叫ぶ。

「殿が死ぬくらいなら!俺が何人殺してもいい!!」


その瞬間、久世の表情が変わった。

怒りでもなく悲しみでもなく――決意。


「琥珀」

「お前は俺の剣になるな」

「俺の“生きる理由”でいろ」


敵を一掃した後。

久世は地面に膝をついた。

血が止まらない。

もう戦えない身体だった。


琥珀は震える手で杖を拾い、差し出す。

「殿……これを……」

「もう剣はいらない……立っててください……」


久世はその杖を握った。

その瞬間から、鬼神ではなく“旗”になった。

――それからの琥珀

琥珀は剣を振るわなくなった。


代わりに:

・毒見役

・影の護衛

・密偵

・裏交渉

・暗殺阻止


すべてを一人で背負った。

久世の手が汚れないように。


夜中。

誰もいない庭で、血を洗う琥珀。

「殿は光でいい」

「俺は影でいい」

それが口癖だった。


ある夜、久世が言った。

「琥珀、お前は自由になれ」

琥珀は笑った。

「殿のいる場所が、俺の自由です」


そして最期の日。

敵の奇襲を一人で防ぎきり、致命傷を負う。

久世が駆け寄る。

「琥珀!!」

琥珀は微笑った。

「……殿、立ってますか」

「それなら……よかった……」


手は、あの杖を握ったままだった。


――現在へ

エーテルは縁側で目を閉じる。

「琥珀はな……」

「俺を神じゃなく、人として生かした奴だ」

だからあの杖は

力の象徴じゃなく、守る覚悟の象徴なんだよね。



 朝の庭仕事。

エーテルと杉原くんが並んで落ち葉を掃いている。

そこに、予約客とは別の若い青年が立っていた。


20歳前後。

黒髪で穏やかな目。

どこか――懐かしい。

「……あの、久世庵で働いてる方ですよね」

声が少し震えている。


エーテルは一瞬で分かった。

理由はない。

ただ“魂が知ってる”。

(……琥珀)


「どうした?」


青年は胸を押さえる。

「分からないんですけど……ここに来た瞬間、涙が出そうになって」

「この人を守らなきゃって思って……」


その言葉で確信するエーテル。

――名前

「名前は?」

「琥……じゃなくて、今はコウです」


偶然じゃない。

魂が名前を選んでる。


――不思議な一致

・剣道経験なしなのに異様に反射神経がいい

・人の殺気にすぐ気づく

・夜になると意味もなく庭を見張る癖


本人は理由を知らない。

身体が覚えているだけ。

――決定的な瞬間


ある夜、久世庵に不審者。

エーテルが動く前に――

コウが無意識にエーテルの前へ出る。


完璧な立ち位置。

まるで昔の影護衛。


「下がれ!」と叫ぶエーテル


だが青年は震えながら言う。

「……殿……」

言った瞬間、自分でも驚く。

「え……今、なんて……」


エーテルの目が潤む。

「……琥珀」


――記憶は戻らない

完全な転生じゃない。

戦国の記憶はない。

殺しも血も知らない。


ただ――

守る感情だけが残った魂。

――エーテルの独白

「お前、また俺を守りに来たのかよ……」

「今度は影じゃなく、普通に生きろ」


コウは首を振る。

「理由は分からないです」

「でも……あなたのそばにいたいです」


 

 かや、セラ、アークたちが並ぶ中、

少し緊張した面持ちで立つ青年・コウ。


履歴書は普通。

特技:特になし(でも字が妙に達筆)


エーテルは穏やかに笑って言う。

「この子、採用で」

一瞬で決定。


かやが首を傾げる。

「即決すぎない?」

エーテルは少しだけ目を細める。

「……昔の知り合いの縁だ」

それ以上は言わない。


――コウ、久世庵スタッフ入り

役割は:

庭の管理

夜の見回り

力仕事全般

なぜか全部完璧。

誰も教えてないのに立ち回りが自然すぎる。


――違和感の連続

・エーテルが危ない場所に立つと無意識で前に出る

・客の不審な動きに即気づく

・夜中にひとりで庭を守るように歩く


本人は困惑。

「俺、なんでこんな動き知ってるんだろ……」


――エーテルの心の声

(……お前、相変わらずだな)

(今度は剣じゃなく、人として守るか)


――皆の反応

セラ「なんか放っておけない子ね」

アーク「忠犬タイプだな」

ネメシス「父上に懐きすぎでは?」

ルミナ「この人安心する!」

全員が無意識に“味方”と感じてる。


――夜、縁側で二人

コウがぽつりと聞く。

「俺……あなたに会う前の人生、空っぽなんです」

「でもここに来てから、心が満たされてく感じがして」


エーテルは静かに答える。

「それでいい」

「過去なんて知らなくていい」

でも心では思ってる。

(知ったら、また俺を守ろうとする)

(今度くらい、お前は守られる側でいろ)



 ――深夜、久世庵・客間

静かな雨音。

コウは布団の中で寝返りを打つ。

胸が苦しい。

理由もないのに、涙が滲む。


――夢の中

焼けた匂い。

鉄のぶつかる音。

空は赤く染まり、地面は泥だらけ。

知らないはずの景色なのに——

なぜか懐かしい。


甲冑姿の自分がいる。

息が荒く、身体はもう限界。

目の前には敵兵の波。

後ろには一人の武将。

白銀の髪、傷だらけの身体。


――エーテル(戦国の久世)。

「下がれ、琥珀」

低く、それでも優しい声。


夢の中の自分は叫ぶ。

「嫌です!!」

「あなたを置いて下がれるわけがない!!」


敵が押し寄せる。

久世が前に出ようとした瞬間、

自分の身体が勝手に動く。


盾のように立つ。

胸に強い衝撃。


熱。

力が抜ける。

倒れながらも、視界には久世だけ。

「……馬鹿者」

震える声で久世が抱き留める。

「命令違反だ」

「だが……よく守った」


血に濡れた手で、頭を撫でられる感触。

不思議と痛みはない。

ただ、胸が温かい。


「次に生まれても……俺のそばに来い」

「今度は、戦じゃない場所で」


視界が暗くなりながら、

夢の中の自分は笑う。

「……それでも、また守ります」


――現実

コウは飛び起きる。

息が荒く、頬は涙で濡れている。

胸を押さえる。


「……なんだよ、これ」

「知らないはずなのに……」


心臓が痛いほど締めつけられる。

その時、障子の向こうに気配。

エーテルが立っている。


顔は見せない。

ただ静かに去る。

コウは呟く。

「俺……誰かを守って死んだ……?」

「なんで……それが誇らしいんだ……」



 ――二夜目の夢

静かな闇から、またあの匂い。

焦げた土

血と煙の混ざった空気

遠くで鳴る鬨の声

コウは分かってしまう。

(……またここだ)


視界の先。

戦場の中心に立つのは――

左腕がなく、右脚を失った久世。

それでも立っている。


刀を歯で支え、片脚で踏ん張りながら。

倒れるたびに起き上がる。

倒れるたびに、また前へ。


「主君……やめて……」


声を出しても届かない。

身体が動かない。

地面に縫い付けられたように、ただ見ているだけ。


敵兵が囲む。

血を流しながら久世は笑う。

「まだだ」

「俺は……まだ終われん」


その瞬間、敵の槍が突き出される。

コウは叫ぶ。

「久世ぇぇぇ!!」


だが——

久世はかわす。

かわし、踏み込み、斬る。

片腕も片脚も失ってなお、

鬼神のように戦う姿。


けれど限界は確実に近づいていた。

息は荒く、視界が揺れている。

それでも久世は振り返らない。

後ろにいる民を守るために。


コウの胸が裂けそうになる。

(守れなかった……)

(俺が盾になれていれば……)

(俺が生きていれば……)


久世が膝をつく。

それでも刀を地面に突き立て、立ち上がろうとする。


震える身体で。

その背中があまりにも孤独で、誇り高くて。

コウは涙を流しながら叫ぶ。


「もう十分だよ……!」

「主君は一人で全部背負いすぎなんだよ……!」


久世はふっと微笑う。

まるで聞こえたかのように。


「……琥珀」

「俺は、後悔していない」

「守れたからな」

その瞬間、視界が白く弾ける。


――現実

コウは叫んで目を覚ます。


「久世!!」


胸が痛いほど締めつけられる。

息が震える。

枕は涙で濡れている。

「なんで……」

「なんで俺……あんなに悔しいんだよ……」

「ただの夢なのに……」


そのとき、廊下から微かな足音。

エーテルが立ち止まり、目を伏せる。


コウは知らず知らず呟く。

「俺……守れなかったんだ……」

「それが……一番つらい……」


 

 月明かりの縁側。

エーテルの身体が静かに変質していく。

創生の光は消え、

現代の輪郭も溶ける。

現れたのは――

戦国の久世。


だが。

左腕は肩口から無い。

右脚も膝下が失われている。

義手も義足もつけていない。

血は流れていないのに、

その欠損が戦の重さを物語っていた。


それでも久世は――

まっすぐ立っていた。

倒れない。

揺らがない。

“失ってなお、立つ鬼神”。


その姿を見た瞬間。

コウの脳内で封印が砕け散る。


記憶の奔流

焼け落ちる城。

煙の中で膝をつく久世。

左腕は無く、右脚も潰れている。

それでも刀を歯で咥え、敵を睨んでいた。


「琥珀……見るな」

「生きろ……それがお前の使命だ」


幼い自分の泣き声。

「いやだ!主君!」


久世が笑う。

血まみれなのに、優しく。

「家臣が主を看取るなど早すぎる」

「未来を見てこい」


現在

コウは崩れ落ち、地面に額を打ちつける。

「……主君」

「俺は……琥珀です」

「ずっと……あなたの側仕えでした……」


涙が止まらない。

悔恨も忠義も一気に溢れる。

欠損したままの久世が、片脚で一歩近づく。

倒れそうなのに、倒れない。

その姿がどれほどの意志か分かるからこそ――

コウは嗚咽する。


「生きろと言っただろ」

「俺の命令は今も有効だ」


コウは震えながら顔を上げる。

「なら……今度は」

「あなたを支える番は俺です」

久世は静かに頷く。

「それでこそ琥珀」


 

 月明かりの下で立っていた

欠損した鬼神の久世は――

静かにほどけるように光へ戻る。


義も、戦も、血の記憶も消えて

そこに立つのはいつものエーテルだった。


エーテルはふらつく琥珀を見て、何も言わずに近づく。


そして――

そっと抱き上げる。

軽い。

あまりにも軽い。


あの戦場で命を背負っていた男の重さとは違う、

ただの人間の体温。

「……よく思い出したな」

小さく、優しく。

「もう一人で背負わなくていい」


琥珀は必死に服を掴む。

「主君……俺は……」

「何も守れなかった……」


エーテルは歩きながら、静かに言う。

「違う」

「俺の“未来”を守った」

「それが一番難しくて、一番尊い」


廊下を進むたび、旅館の灯りが揺れる。

誰にも見せない夜の顔。

部屋に戻り、布団にそっと寝かせる。


琥珀はまだ涙でぐちゃぐちゃだ。

エーテルは額に手を置く。

「戦は終わった」

「ここは平和だ」

「もう剣を握らなくていい」


少し間を置いて、低く優しい声で。

「これからは家族だ」


琥珀の呼吸がゆっくり落ち着いていく。

戦国の夢から、今へ戻ってくる。

エーテルは立ち上がる前に小さく呟く。

「……やっと会えたな、琥珀」

「ずっと一人で生きさせてごめん」

障子を閉める音だけが静かに響く。


 

 久世庵は一週間の休業。

理由は「改装工事」――

と言いつつ、実質みんなの強制バカンスだった。


昼下がりの縁側。

風が木々を揺らして、涼しい影を落とす。

エーテルは湯のみを片手に、のんびりお茶。


その横には――

ルミナ(ぴったりくっつき)

ネメシス(距離ゼロ)

森野ひなた(正座で緊張)

琥珀(背筋ピン)

という謎メンバー。


沈黙が数秒流れる。

ひなたが小声でぽつり。

「ここ……旅館なのに、神社より落ち着きません?」


ルミナ即答。

「パパの気配があるからだよ」

ひなた「なるほど???」


ネメシスは縁側に寝転がって空を見ながら言う。

「平和だねぇ……争いも炎上もない」

エーテル「フラグ立てるな」


琥珀だけがずっと正座のまま微動だにしない。

エーテルが横目で見る。

「琥珀、楽にしろ」

「ここ戦場じゃないぞ」


琥珀、即座に頭を下げる。

「申し訳ありません主君!!」


ひなたビクッ!

ルミナとネメシス同時にため息。

「また主君言ってる……」


エーテルが額押さえる。

「家族」

「俺は今は旅館の主で、お前は従業員兼家族」

「戦国モード終了」


琥珀、混乱。

「で、ですが……命を預けた御方を……」

エーテルぽんっと頭に手を置く。

「預かってるのは今も同じ」

「ただし“生きる方”な」

琥珀の目が潤む。

「……主君は優しすぎます」


ネメシスぼそっ。

「泣き虫侍だ」


ひなたが恐る恐る聞く。

「あの……琥珀さんって本当に昔の人なんですか?」

琥珀、真顔。

「はい。戦国で何度も死にかけました」

ひなた「軽く言うなぁ!?」


エーテルが茶をすすりながら笑う。

「ここ来たら全員現代人だ」

「スマホも覚えろ、そのうち」

琥珀「す、すまほ……武器ですか?」


ルミナ&ネメシス爆笑。

風が吹いて、木漏れ日が揺れる。

争いも神もない、ただの昼。

エーテルは小さく思う。

(……こういう時間のために生きてたんだな)


 

 エーテルは湯のみを置いて、ふっと懐かしそうに笑った。


「なぁ……今だから言うけどさ」


縁側にいた全員がちらっと見る。

「昔の琥珀な」

「今みたいな堅物武士じゃなくて――」 

一拍置いて。

「小柄で、泣き虫で、女の子みたいに可愛いやつだった」


一瞬、世界が止まる。

風の音だけ。

琥珀「……………………は?」

ネメシス「え?」

ルミナ「え?」

ひなた「えええええええ!?」


エーテルは悪びれもせず続ける。

「鎧が重くて歩けなくてよく転んでた」

「血見ると泣く」

「夜は怖いって俺の袖つかんで寝る」

「敵来ると俺の後ろに隠れる」


ネメシス腹抱えて笑う。

「今と真逆じゃん!!!」

ルミナ「かわいいいい!!」

ひなた「想像できません!!!」


琥珀、顔真っ赤。

「しゅ、主君!!それは幼少の話で……!!」

エーテル「いや十代後半までだな」

琥珀「やめてください!!!」


エーテルはとどめを刺す。

「初陣の夜なんか」

「震えながら“死にたくないですぅ……”って泣いてた」


ネメシス転げ落ちる。

「ギャップ萌え通り越して別キャラ!!」

ルミナ「今の琥珀さんからは絶対想像できない!」

ひなた「守ってあげたいタイプだったんですね……」


琥珀、正座のまま崩れ落ちる。

「忘れてください……お願いです……」

エーテルは優しく頭を撫でる。

「でもな」

「誰よりも努力して」

「誰よりも強くなった」

「泣き虫だったからこそ、人を守れる侍になったんだ」


一瞬、空気が柔らかくなる。

琥珀の目が潤む。

「……主君……」


ネメシスがニヤリ。

「じゃあ今度その頃の話もっと聞こ〜っと」

琥珀「やめてください本当に!!」


縁側に笑い声が広がる。

戦国の記憶も、神の力も関係ない。

今はただの家族の昼下がりだった。



 ネメシスはニヤ〜っと悪い笑みを浮かべる。

「ねぇ琥珀さ」

「女の子寄りのコスプレ、してみよ?」


琥珀「……は?」


次の瞬間。

防音室直行。

強制送還。


「ちょ待っ――!」

「話を――!」


ネメシス「問答無用〜♪」

ルミナ「わぁ〜秘密基地みたい!」

ひなた「ここスタジオなんですか!?すご……!」

エーテル「懐かしいなここ…イリスの魔改造部屋」


防音室の扉が閉まる。

逃げ場ゼロ。

ネメシス、タブレット操作。

壁がスライドして開く。

中から出てくるのは――


フリフリ衣装

ゴスロリ

巫女服

メイド

中性王子服

地雷系

天使コス


ルミナ「うわああああ!!夢のクローゼット!!」

ひなた「コスプレイベント会場レベルじゃないですか!!」

琥珀「なぜこんなものが!!?」

エーテル「イリスが趣味と研究で作った」


ネメシス、琥珀をじっと見る。

「小柄」

「顔整ってる」

「中性的」

「泣き虫属性(過去)」

「――素質ありすぎ」


琥珀「待ってください理論がおかしいです!!!」


まず着せられたのは

白×淡ピンクの天使風ロリータ


スカートふわっ

肩出し

小さな羽付き


数分後。

カーテンが開く。

琥珀「……………………」

完全に美少女。


静寂。

ひなた「………………え?」

ルミナ「え?」

エーテル「え?」

ネメシス「……優勝」

ひなた、魂抜ける。

「え、可愛い……普通に可愛い……」

ルミナ「お人形さんだぁ……」


エーテル、真顔で一言。

「昔より可愛くなってない?」

琥珀「主君!!!!」


ネメシス、肩を震わせながら。

「ねぇ……」

「これ旅館イベントで出したら伝説になるよ」

琥珀「やめてください!!!」


次々着せ替え開始。

ゴスロリ琥珀

巫女琥珀

地雷系琥珀

王子系中性琥珀

どれも破壊力エグい。

ひなた「え…推しが増えました……」

ルミナ「琥珀さん可愛い枠だね!」

エーテル「戦国最強の侍がこの進化か…」


琥珀、ついに崩れる。

「もう好きにしてください……」

ネメシス満面の笑み。

「よし!次はメイク!」


エーテルだけボソッ。

「昔の泣き虫琥珀に戻ってきてるな…」



 コスプレ騒動から数日後。

防音室に再び集められる面々。

ネメシスは机にノートPC、ひなたはギター、琥珀はまだ女装の余韻が抜けきってない(フリルパーカー姿)。


琥珀「……なぜ俺も参加前提なんですか」

ネメシス「もう“可愛い枠”だから」

ひなた「異論なしです」

琥珀「この世界理不尽すぎません?」


ネメシス、軽く鼻歌を歌い始める。

ラララ〜 ラララ〜

甘くて少し切ないメロディ。


ひなたの指が自然とコードを拾う。

ジャーン……ジャララ……


ルミナ(ドア越し)「なんか青春の匂いする!」

エーテル「文化祭前日みたいだな」


ネメシスが言う。

「テーマ決めよ」

「学校帰り」

「夕焼け」

「寄り道」

「コンビニアイス」

「制服スカートひらひら」


琥珀「なぜ俺も制服側なんですか」

ひなた「似合うからです」

即答。


ネメシス、楽しそうに続ける。

「三人組の女学生」

「放課後が永遠に続けばいいって思ってる感じ」

「大人になるのが少し怖い」


ひなた、目を輝かせる。

「それ…歌詞浮かびます」

カリカリカリ…

一気に書き始める。


琥珀、戸惑いながらも口ずさむ。

「♪ 今日もまた並んで帰る坂道〜」

声、めちゃくちゃ透明感ある。


ネメシス「……強すぎ」

ひなた「可愛いが暴力」


ネメシスもハモる。

少し低めで中性的な声が重なる。

夕焼けに溶ける笑い声

明日も同じ空で会えたらいいな

ひなた、ギターをかき鳴らす。

青春感MAX。


エーテル、外で聞いてて小さく笑う。

「神々が作る曲じゃなくて」

「普通の学生の歌だな」

「……いいじゃないか」


曲の仮タイトル。

『放課後、同じ帰り道』

ネメシス「これさ、制服MV撮ろう」

琥珀「やめろ」

ひなた「やりましょう」

即決。


こうして誕生する

ネメシス × 琥珀 × ひなた

女学生ユニット爆誕

旅館発・青春音楽プロジェクト。



 夕方。


久世庵の裏道、竹林と石畳が続く静かな帰り道。

夕焼けがオレンジに染めて、影が長く伸びていく。


そこに並ぶ――

ネメシス(セーラー服)

琥珀(ブレザー制服)

ひなた(カーディガン制服)

まるで本物の放課後。


エーテル(カメラ構えながら)

「……普通に尊すぎる」

ルミナ(反射板係)

「パパ、夕日最高!」


前奏

ひなたが軽やかに歩きながらスキップ。

琥珀は少し照れて鞄を抱える。

ネメシスは夕焼けを見上げて優しく微笑む。

「今日もまた並んで帰る坂道〜」


琥珀が横を見て小さく笑う。

「くだらない話で日が沈むまで〜」


自販機前。

ひなたがジュースを買って

「はいっ!」

三人で乾杯。

しゅわ〜っと炭酸。


サビ

夕焼けに溶ける笑い声

明日も同じ空で会えたらいいな

三人が走り出す。

スカート揺れて、逆光がきらめく。


エーテル(震え声)

「これ…世界救ってる映像だろ」

ルミナ

「また泣きそう?」


「泣いてない」


ラスト。

石畳の向こうで三人が振り返る。

ネメシスが口パク。

「また明日ね」


カット。


静寂。

夕焼けだけが残る。

ひなた「これは確実に拡散されます」

琥珀「青春を兵器にした映像だよこれ」

ネメシス「自分で見て心臓痛くなった」

エーテル

「もう公式ユニット名つけよう」


 

 翌朝。 


森野ひなたの通う学校――

まだ登校ラッシュの時間帯。

スマホを見てた生徒が、ふと止まる。

「……え?」


別の子も。

「え、これひなたじゃない?」

「ちょ待って、ネメシスってあの歌い手の!?」


一瞬の静寂。

次の瞬間――

ざわぁぁぁぁぁ!!

廊下が一気に騒然。

「制服MVってなに!?」

「映画かと思ったらガチ学生じゃん!」

「再生数えぐいんだけど!!」


教師たちも職員室で異変察知。

「森野さんの名前がトレンドに…?」

「どういうことだこれは」


そして教室。

ひなたが普通に席につくと――

全員の視線集中。

ザッ……

「……」

「……」


静かすぎて逆に怖い。

友達がそっとスマホを差し出す。

「ひなた……これ……」

MV再生中。

夕焼けの中を走るひなた。

完全に主人公。


ひなた

「……あ」

(あ、終わった)

クラス爆発。


「映画じゃん!!」

「青春すぎる!!」

「てか隣の美少女誰!?」

「ネメシス本物!?」

「ひなた何者!?」


担任が入ってくる。

「静かに……って何事だこれは!?」

スクリーンに映されるMV。

教室がシーン。


担任

「……森野」

ひなた

「は、はい……」


「これは説明してもらえるか」


ひなた(正直に)

「旅館の人たちと趣味で撮りました……」


職員室行き決定。

廊下を歩くひなた。

後ろからクラスメイトたちの声。

「伝説始まったな」

「学校変わるぞこれ」

「もう普通の学生じゃねぇ」


その頃ネットでは

【一般学生が歌い手ネメシスと制服MV出演】

【リアル青春すぎて泣いた】

【誰この女の子!?】


拡散地獄。

校長室。

教師たち真剣。

「問題になる可能性が…」

そこへ再生数報告。

「……一晩で120万回です」


沈黙。

校長

「……むしろ学校のPRになってないか?」

空気反転。


結果。

学校名は非公開条件

ひなた一躍“伝説の生徒”


昼休み。

ひなたの机が人だかり。

「サインください!」

「一緒に写真!」

「次いつ撮るの!?」


ひなた(半泣き笑い)

「学校生活終わったぁぁぁ……」


そして久世庵では――

エーテル

「俺たち、とんでもない青春爆弾投下したな」

ネメシス

「ひなたちゃん人生変えちゃったかも」

ルミナ

「スター誕生!」

 


 学校でひなたがプチ伝説になって数日後。

久世庵・地下防音室。

ネメシスが腕組みして真剣な顔。

「……ユニット組もうと思う」


エーテル

「ほう?」

ルミナ

「なにそれなにそれ!」


ネメシスがホワイトボードに名前を書く。


ネメシス

琥珀

ひなた

アーク

ルミナ


ひなた

「……え、私ガチ参加ですか!?」

琥珀

「え、俺も!?」

ルミナ

「楽しそう!」

アーク

「俺だけ男枠か」

ネメシス

「でも衣装は――」

チラッ

「アーク以外、女物ね」 


一瞬の沈黙。


琥珀

「待って」

ひなた

「え?」

ルミナ

「え?」

アーク

「え?」

ネメシス

「世界観統一。中性×少女×幻想系ユニット」

「アークは“唯一の王子枠”」


エーテル

「……売れるなこれ」

即理解。


ひなた

「ちょ、私スカートとか無理ですよ!?」

ネメシス

「もう制服MVで慣れてる」

琥珀

「俺男なんだけど!?」

ネメシス

「俺もだよ」 


説得力ゼロなのに強すぎる。

その日のうちにイリス召喚。

衣装制作開始。


完成。

ネメシス:ゴシック寄り歌姫ドレス

ひなた:清楚系ヒロイン衣装

琥珀:儚げ少女風(本人絶望)

ルミナ:妖精モチーフ

アーク:白王子コート


鏡の前。

琥珀

「俺……完全に美少女なんだが……」

ひなた

「可愛い……」

ルミナ

「琥珀お姉ちゃん!」

琥珀

「やめろ!!」


アークだけ異様に映える。

ひなた

「アークさんだけ別作品じゃないですか…」

ネメシス

「それが狙い」


ユニット名決定。


Lunaria Codeルナリア・コード

月と再生の象徴。


初投稿ライブ配信。

開始30秒でコメント爆発。

「世界観えぐい」

「アニメじゃん」

「王子誰!?」

「美少女5人だと思ったら1人男!?」


登録爆増しない設定だから

固定ファンが一気に濃くなるタイプのバズり方。 


エーテル(遠くで腕組み)

「またとんでもないの生まれたな……」

ネメシスがマイク越しに言う。

「これは遊びじゃない」

「私たちの居場所を作るユニット」

ひなた、琥珀、ルミナ、アークが頷く。



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