第十四部 神は推し活する
夜の旅館。
月明かりだけが庭を照らしている。
見回りに出ていた久世が――
ただ、歩いて戻ってくる。
それだけ。
なのに。
セラがピクリともしない。
アークも気づかない。
ネメシスの影感知も反応しない。
イリスの索敵装置も沈黙。
ルミナだけが首をかしげる。
「……あれ?今パパいた?」
その瞬間。
背後から静かな声。
「起きてると冷えるぞ」
全員、心臓止まりかける。
「いつからそこに!?」
久世は首を傾げる。
「最初から歩いてたが?」
問題はそこじゃない。
足音ゼロ
気配ゼロ
殺気ゼロ
圧ゼロ
存在そのものが背景化している。
空気と同化。
いや――
世界の一部になってる。
アークが珍しく動揺する。
「……父上、戦神の感知すらすり抜けました」
ネメシスも小さく震える。
「ぼ、僕…何も感じなかった……」
イリスが機械を確認する。
「生命反応……検知不可でした」
久世は淡々と言う。
「消してるだけだ」
「足音も、呼吸も、存在圧も」
「敵意がないなら“人”として認識されなくなる」
かやが苦笑する
「この人ね……
神の視界からも消えるの」
「昔、神々が会議してる部屋を
普通に横切ってお茶飲んで帰ってきたから」
一同
「?????」
神視点ですらこう
神A「今、何か通らなかったか?」
神B「風じゃないか?」
神C「そもそも何もいないが」
その横で久世が湯のみ持って歩いてる。
久世の本質
戦わなくても強い
探されても見つからない
怒っても圧を出さない
ただ消える。
だからこそ
奇襲されない
神に狙われない
世界に拒絶されない
守る場に溶け込める
セラが悔しそうに聞く。
「どうやったらそれができますか」
久世は即答。
「できない」
「これは技じゃない」
「生き方だ」
戦国で身についたもの
・何百人の敵陣を歩いて抜ける
・気づかれたら死
・圧を出した瞬間に包囲
その極限が
存在を消す生物を作った。
ネメシスがぽつり。
「だから父上は……歩いてるだけで怖いんだ」
久世は否定する。
「怖くない」
「ただ、そこにいないだけだ」
――戦国久世は静かに息を吐く。
月明かりの下。
左腕の義手が軋み、右足の義足が石畳を鳴らす。
そして。
ふっと、光がほどける。
義手は消え、
義足は自然な足へ戻り、
張り詰めていた空気が緩む。
戦国の気配が抜けていく。
代わりに戻ってきたのは――
あの、少し抜けてて、少し優しい、でも底知れない存在。
エーテル。
ルミナが一番に駆け寄る。
「戻った」
ネメシスは少しだけ目を伏せる。
「……安心した」
セラは微笑みながらも本音を漏らす。
「戦国のあなたは、遠すぎます」
アークは腕を組んだまま。
「だが、あれも父上だ」
エーテルは軽く首を回す。
「うん、やっぱこっちが楽だな」
「消すのは疲れる」
かやがじっと見る。
「……無理してない?」
エーテルは少しだけ視線を逸らす。
「無理はしてない」
「ただ、昔を借りただけ」
庭に戻る。
いつもの旅館の空気。
湯の匂い。
虫の声。
遠くで誰かが笑う。
戦国の張り詰めた世界ではない。
ここは今の居場所。
エーテルは縁側に腰を下ろす。
「なぁ」
「消えるよりさ」
「ちゃんと居る方が、難しいな」
かやが隣に座る。
「だから今は“居て”」
ルミナが膝に乗る。
ネメシスは少し距離を置きつつ、でも近くにいる。
エーテルは軽く笑う。
「了解」
その日の朝、エーテルは縁側でぼーっと庭を眺めながら気づく。
「……母の日?」
テレビから流れてきた何気ない特集。
カーネーション、プレゼント、感謝の言葉。
そこで――
雷みたいに思い出す。
指輪。
花。
形に残るもの。
一回も渡してない。
エーテルは額を押さえる。
「俺さ……」
「宇宙救って、神やって、戦もしてきたのに」
「妻に指輪すら渡してねぇ男って何」
自分で自分に絶望する。
庭ではかやが洗濯物を干している。
いつも通り優しくて、強くて、頼れる女将。
それが余計に刺さる。
「当たり前みたいに隣にいてくれてただけで」
「何も返してなかったな……」
ルミナが近づく。
「パパどうしたの?」
エーテル、低い声で。
「俺な……最低かもしれん」
ネメシスも来る。
「また何かやらかした?」
「まだだ」
「でも放置してたこと思い出した」
エーテルは静かに立ち上がる。
「指輪、買いに行く」
一同ピタッ。
セラ「……今さら?」
アーク「遅すぎるだろ」
ナポリネス「統計的に怒られる可能性が高い」
エーテル即答。
「それでも行く」
その背中が珍しく緊張してる。
神でも武将でもない。
ただの夫。
小声でつぶやく。
「世界より難しいミッション来たわ……」
「かやにプレゼント」
エーテルは変装して街へ出ていた。
帽子にマスク、完全に怪しい男。
(かやにだけは絶対バレるな…)
指輪屋に入った瞬間、店員が満面の笑み。
「恋人様へのプレゼントですか?」
「つ、妻だ」
「まぁ素敵ですね〜!こちら“永遠の愛シリーズ”が人気で…」
エーテル内心死亡。
(名前が重すぎる)
そこへ最悪のタイミング。
買い物帰りの
かや・セラ・イリス・メクルが通りかかる。
ガラス越しに――
エーテルが若い女性店員と至近距離で指輪選んでる姿
しかも店員が手を取ってサイズ測ってる。
完全アウト構図。
セラ
「……あ」
イリス
「……やったわね」
メクル
「修羅場確定演出きた」
かやは無言。
笑顔。
でも拳が震えてる。
「……へぇ」
「買い物、楽しそうだね?」
その瞬間、エーテル店を出る。
指輪ケース持って。
満面の“サプライズ準備顔”。
「かや!!」
(終わった)
かや、静かに近づく。
「誰?」
「その女の人」
エーテル一瞬フリーズ。
「え?」
「いや、店員で――」
「指輪選んでたよね?」
「手まで触らせてたよね?」
声が低すぎて氷点下。
セラが横でボソッ。
「死亡フラグ立ったね」
エーテル慌てる。
「違う違う違う!!」
「かやへのプレゼント!!」
「母の日!!」
「俺が今まで何も渡してなかったから!!」
必死。
かや一歩近づく。
「……ほんと?」
エーテル即開封。
中にはシンプルで綺麗な指輪。
「ずっと一緒にいるって意味で」
「遅すぎるのは分かってるけど」
「それでも渡したかった」
沈黙。
風が吹く。
セラたち息止めてる。
数秒後。
かやの目からぽろっと涙。
「……ばか」
「なんでそんな顔して隠れて買うの」
「浮気かと思ったじゃん」
エーテル一気に崩れ落ちる。
「ごめん!!!」
「世界救うより難しかった!!!」
その場でかや、指輪受け取って小さく笑う。
「……ありがとう」
「ちゃんと嬉しい」
直後。
遅れてきた怒りモード発動。
「でも誤解させた罰ね」
拳ゴン。
エーテル吹き飛ぶ。
アーク
「はい平常運転」
イリス
「愛情確認完了」
メクル
「尊死」
エーテル地面でうめきながら一言。
「プレゼントって命がけなんだな……」
その日からだった。
かやの左手から、
指輪が一度も消えなくなったのは。
炊事してても
掃除してても
寝るときですら外さない。
エーテルが言う。
「外さなくていいのか?」
かやは当たり前みたいに返す。
「なんで外すの?」
「もらったんでしょ」
「一生つけるって意味でしょ?」
エーテル、詰む。
ある日、旅館の客が言う。
「女将さん、その指輪素敵ですね」
かや即答。
「夫にもらいました」
誇らしげ。
エーテルが照れてると、
かやが腕を組んでくる。
「見せてるの」
「この人は私のだから」
独占欲MAX。
夜。
布団の中で。
エーテルがそっと指輪を見る。
「そんな大事か?」
かや、静かに微笑って
「エーテルが初めてくれた“形に残る愛”だもん」
「戦も宇宙もあったけど」
「これは私だけの思い出」
それからかやは時々わざと見せる。
喧嘩したあとも
忙しいときも
不安なときも
指輪をきゅっと握って言う。
「大丈夫」
「この人は帰ってくるから」
エーテルが限界迎える日が増える。
「なぁ……そんな見つめるな」
「心臓もたん」
かやニヤッ。
「じゃあもっと大事にして?」
そして決定打。
ある夜かやが囁く。
「もしこの指輪失くしたら?」
エーテル即答。
「世界ごと探す」
「宇宙もひっくり返す」
かや満足そうに笑う。
「それ聞きたかった」
ある日の縁側。
かやが指輪を磨いてるのを
ルミナとネメシスがじーっと見てた。
ルミナがぽつり。
「それ、いいなぁ……」
ネメシスも続く。
「父上がくれたやつだろ……」
「ずるい」
エーテル、嫌な予感。
ルミナが近寄ってくる。
「パパ、ルミナもほしい」
「パパの証」
ネメシスも即追撃。
「僕も」
「父上がくれたって分かるやつ」
エーテル固まる。
「いやそれは……」
かや、にっこり。
「作れば?」
悪魔の微笑み。
その日の夜。
エーテルは本気で悩んだ末、
創生エネルギーで小さな指輪を作る。
ルミナ用は星みたいに光る細身。
ネメシス用は少し大人っぽいデザイン。
渡した瞬間。
ルミナ「わぁぁぁ!!」
ネメシス「……ほんとにもらえるのか」
エーテル「お前たち用だ」
結果。
地獄が始まった。
ルミナは指を見せびらかしながら走り回る。
「見て見てー!パパのだよ!」
ネメシスは静かに触って確認するタイプ。
「……本当に父上のだ」
「消えない」
そして問題発生。
かやが気づく。
二人とも
かやの指輪と同じ位置につけてる。
かや無言。
エーテル汗だらだら。
「ま、真似しただけだろ?」
ルミナ「だってママとおそろいがいい!」
ネメシス「父上の大事な人と同じ場所がいい」
かや、ため息。
「……まぁいいわ」
「家族だもんね」
優しさに見えて
この後エーテルが地獄を見るやつ。
それ以降。
・ルミナはエーテルの腕に絡みながら指輪アピール
・ネメシスは黙って横で距離ゼロ
・かやは微笑みながら独占欲強化
完全ハーレム地獄。
エーテルがつい言う。
「最近距離近くないか?」
ルミナ「指輪あるから平気!」
ネメシス「家族の証だから」
かや「私の夫だから」
三方向ロック完成。
ある日の工房スペース。
ミラがスケッチブックを抱えてエーテルの前に立つ。
「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど」
エーテル「また薄い本の資料か?」
ミラ「違うよ!」
「今度の話、“永遠の契約”がテーマなの」
ルークが横で補足。
「普通の指輪じゃ弱い」
「物語の核になる素材が欲しい」
ミラが真剣な顔で言う。
「エーテルの力で作ってほしい」
「でも、ルミナやネメシスのとは違うやつ」
エーテル、少し考えてから頷く。
「……分かった」
「なら、俺の身体から作る」
一同「は?」
縁側に出るエーテル。
自然エネルギーを静かに巡らせる。
派手な創生の光じゃない。
地面と、風と、木と、呼吸を合わせる。
すると――
エーテルの胸元から細い光の筋が伸びる。
それはやがて木の芽のような形になり、
彼の掌の上でゆっくりと輪を描いた。
樹木の指輪。
でもただの木じゃない。
年輪がうっすら刻まれている。
まるで時間そのものを閉じ込めたような模様。
触れると温かい。
鼓動みたいに、ほんのり脈打つ。
ルミナ「……これ、パパの匂いする」
ネメシス「生きてる」
ミラは息を呑む。
「すご……」
ルークも目を細める。
「物語が宿ってる」
エーテルが説明する。
「これは自然エネルギーだけで作った」
「創生じゃない」
「俺の“今”の身体から生えた木だ」
「だから枯れない。でも、使う人の感情で色が変わる」
ミラ、震える手で受け取る。
「これ、作中で使っていい?」
エーテル「お前の物語だろ」
「好きに使え」
その瞬間。
指輪の年輪が一瞬だけ淡く光る。
ミラの感情に反応した。
ルミナが小声で言う。
「……それ、特別」
ネメシスも静かに言う。
「僕たちのとは違う」
かやが横から微笑む。
「それは“契約”じゃないものね」
「“継承”よ」
ミラは決意する。
「この指輪、物語のラストで使う」
「誰かを縛るためじゃなくて」
「誰かを解き放つために」
エーテル、少しだけ目を伏せる。
「……いいテーマだ」
その夜。
ミラは原稿に向かう。
ルークがトーンを貼りながら言う。
「これ売れるよ」
ミラ「売れるとかじゃない」
「これは、私たちの家族の話」
指輪は机の上で静かに光る。
まるでページを見守るように。
地面に手をついているエーテル。
風も森も街の鼓動も、すべてが身体を通して伝わってくる。
今のエーテルはもう“この星の一部”。
心臓の鼓動と、地球の地殻変動が同じリズムで響いている。
エーテルは静かに言う。
「……頼む」
「地球では、神の力を抑えてほしい」
一同「……?」
エーテルは空を見上げる。
「目には見えない」
「でも確実に起きてる」
彼の足元の大地に、ほんの一瞬だけ無数の光の筋が走る。
それは生命の流れ――地球の“生気”。
だがその一部が、神々の存在に触れて薄くなっている。
エーテル「俺たちは星を救う存在だった」
「でも今は違う」
「神の力は強すぎる」
「この星にとっては“薬”じゃなく“毒”になり始めてる」
かやが息をのむ。
「私たちが……地球を傷つけてるの?」
エーテルは首を横に振る。
「傷つけてるわけじゃない」
「削ってるんだ」
「寿命を」
ルミナ「じゃあ、私たちがいるだけで……」
エーテルはすぐに微笑う。
「存在そのものが悪じゃない」
「力の使い方が問題なんだ」
ネメシスが拳を握る。
「戦う時も?」
エーテル「特にだ」
「神の一撃一発で、この星は何百年分の生命を失う」
イリスが静かに言う。
「つまり……」
「ここでは私たちは“災害”に近い存在」
エーテル「そう」
少し間が空く。
風が吹く。
鳥の声が遠くで鳴く。
エーテルは優しく続ける。
「だから地球では“人として生きよう”」
「守る時も、働く時も、喧嘩する時も」
「神じゃなくて、人間の力で」
セラがぽつり。
「それって……弱くなるってこと?」
エーテルは首を振る。
「違う」
「この星に合わせて生きるってことだ」
そして最後に。
「地球は俺たちの庭じゃない」
「“借りてる家”だ」
「壊しながら住むな」
その言葉が全員の胸に刺さる。
ルミナが小さくうなずく。
「……わかった」
ミラとルークも真剣な顔でうなずく。
ネメシスは少し悔しそうに笑う。
「人間ルール、守るよ」
エーテルはほっと息をつく。
「ありがとう」
「この星が好きなんだ」
「恒一が守った場所だから」
地球と繋がるエーテルの鼓動が、穏やかになる。
生気の光も、少しずつ安定していく。
縁側で地球の風を感じていたエーテルが、ふっと立ち上がる。
いつもの軽い声。
「ちょっと出かけてくる」
かや「……どこに?」
エーテル「んー、少しだけ」
はぐらかす笑い。
その瞬間、家の空気がピリっとする。
セラが目を細める。
イリスが腕を組む。
ナポリネスはすでに嫌な予感。
ネメシスは直感で感じ取る。
「……父上、嘘ついてる」
かやが静かに言う。
「目的は?」
エーテルは一瞬だけ間を置く。
「……すぐ戻るよ」
それ以上言わない。
完全に怪しい。
ルミナ「パパ、最近“すぐ戻る”って言う時ほど帰り遅いよね」
ミラ「フラグだね」
ルーク「死亡フラグっぽいやつ」
エーテル「縁起悪いこと言うな」
でも目が笑ってない。
それが一番怖い。
ネメシスが袖を掴む。
「誰に会うの?」
エーテル「誰にも」
即答すぎる。
余計怪しい。
アークが低く言う。
「エーテル」
「目的言わないで出る時、お前ろくなことしてない」
沈黙。
風の音だけが流れる。
エーテルはかやの方を一瞬だけ見る。
迷いと覚悟が混ざった目。
「……心配するようなことじゃない」
「俺のケジメだから」
この一言で全員察する。
これは“家族に関係あるやつ”。
しかも危ない。
かやの声が少し震える。
「ケジメって何」
エーテルは笑う。
優しすぎる笑顔。
「帰ったら話す」
セラが一歩前へ。
「帰ってこなかったら?」
エーテルは少しだけ黙ってから言う。
「その時は――」
「俺を信じて」
ネメシスが青ざめる。
「それ一番ダメなやつだよ父上…!」
靴を履く音。
戸が開く。
かやが思わず叫ぶ。
「エーテル!」
振り返らずに手だけ振る。
「晩ごはん、待ってて」
そして去る背中。
なぜかやけに遠く見える。
家に残った空気は重たい。
ルミナがぽつり。
「……絶対ろくなことじゃない」
(内心)
今日だ。
今日なんだ。
推しの単独ライブ配信の日。
しかも。
推し友と初通話交流会。
人生の一大イベント。
エーテル(心の声) 「ここで家族にバレたら終わる…
神々に囲まれて“尊い…”とか言ってる中年男性とか人生詰む…」
だから目的を言わなかった。
世界の危機でも使命でもなく――
普通にオタ活。
公園のベンチに座ってスマホ構えるエーテル。
イヤホン装着。
ドキドキ。
「初めまして!エーテルさんですよね?」
エーテル(裏声) 「は、はいっ!エーちゃんで大丈夫です!」
完全に別人格。
推し友「今日のセトリ神すぎません?」
エーテル「分かります!!!
あの曲来た瞬間宇宙創生レベルで泣きました!!!」
(※本当に宇宙創った人)
その瞬間。
背後から低い声。
「……エーテル?」
振り向くと。
かや
セラ
アーク
ネメシス
ルミナ
尾行されてた。
かや「ケジメってこれ?」
エーテル「違っ…これは文化活動で…!」
ネメシス「父上、推しってなに?」
セラ「単独ライブって戦争?」
アーク「尊いって誰を殺す呪文?」
推し友の声がイヤホンから漏れる。
「エーちゃん今叫んでいいよ!推し出てきた!」
エーテル(取り乱す)
「無理無理無理無理無理!!!
今神々見てる場合じゃない!!!」
かや「……私よりその人が大事?」
エーテル「種類が違う愛!!ジャンル別愛!!」
ネメシス(即病み)
「父上には…別の愛があるんだね……」
ルミナ「パパキモオタだったの?」
エーテル「言い方ァ!!!」
そのまま地獄の公開オタバレ会。
推し友にも丸聞こえ。
「え、今の…大家族?」
エーテル「えっと…職場の人です」
(全員:職場扱い)
かや(にこにこ)
「へぇ……職場の人」
エーテル、人生の終わりを悟る。
でも推しの歌が始まった瞬間、
エーテルだけ泣く。
「無理…尊い……生きててよかった……」
家族ドン引き
アーク「宇宙救った男の末路これか」
セラ「神の威厳ゼロ」
ネメシス「父上…かわいいけど複雑…」
かやの手が、静かに――
でも確実に伸びる。
スッ。
エーテルのスマホを無言で奪う。
エーテル
「……あ」
画面にはまだライブ配信。
推しが歌ってる。
コメント欄流れてる。
そして――推し友の通話も繋がったまま。
かや(低い声)
「……なに、これ」
エーテル
「いやその……文化交流というか……」
かや
「エーテル」
名前を呼ばれただけで背筋が凍る。
かや
「私には“神の力抑えて地球守る”とか言って、自分は外で何してるの?」
エーテル
「推しを……守ってました……」
バチン!!!
(※雷じゃない、精神ダメージ)
かや
「ふざけないで!!!!」
エーテル、膝から崩れ落ちる。
スマホが遠ざかっていく。
推しの歌声だけが虚しく響く。
エーテル
「なんで……
なんで取り上げるの……
今日だけだったのに……」
完全に子供みたいな声。
ネメシス「父上……泣いてる……」
ルミナ「パパさっきまでキラキラしてたのに……」
アーク「尊厳が消えた瞬間」
かやは画面を見て一言。
「……“エーちゃん♡”?」
エーテル
「それはネット人格です!!!」
かや
「へぇ。
私にはそんな可愛い顔一回も見せてくれないのに?」
エーテル
「それは家庭用人格だから……!」
かやの怒りゲージ、宇宙戦争級。
かや
「エーテル。
推しは私より大事?」
エーテル(即答)
「ジャンルが違う!!順位付けできない!!」
完全アウト。
かや
「もういい」
スマホを操作して――
配信退出
通話切断
通知オフ
アプリ削除
一連の動作、無慈悲。
エーテル
「やめてえええええええ!!!!!!」
その場に崩れ落ちて、
膝ついたまま震えるエーテル。
「俺の……生きがいが……」
かや(冷たい笑顔)
「今日からオタ活禁止」
ネメシス「父上の人生終わった……」
セラ「神が一番弱い瞬間」
エーテル、小声で。
「……宇宙より残酷だ……」
推し事件から三日後。
旅館の朝はいつも賑やかなのに――
今日は異様に静か。
「……エーテル?」
かやが布団をそっとめくると。
そこには。
毛布にくるまったまま
ミイラみたいになったエーテル。
エーテル(かすれ声)
「……もう無理……
生きる意味……消えた……」
ルミナ「パパ朝ごはんだよ!」
エーテル
「推しのいない朝ごはんに価値はない……」
ネメシス「父上、庭仕事は……」
エーテル
「推しがいない地球に緑はいらない……」
完全に廃人。
レオン「これは重症だな」
イリス「神がオタロスで機能停止するとは」
アーク「宇宙戦争より破壊力高い」
かや(腕組み)
「……大げさすぎでしょ」
エーテルは布団の中で震えながら言う。
「かやは分かってない……
あの時間は俺の心のオアシスだったんだ……」
「一日の希望だったんだ……」
「それを……消した……」
セラ「重すぎ」
それから――
エーテルは本当に仕事をしなくなった。
客と話さない
庭に出ない
ご飯も減る
夜は天井を見つめて無言
ネメシスがそっと寄り添う。
「父上……一緒に遊ぼ?」
エーテル
「遊びは推しとしか成立しない……」
ルミナ泣きそう。
「パパ戻ってよ……」
エーテル
「推しはもう戻らない……
あの輝きは過去なんだ……」
かや、さすがに焦り始める。
「……ちょっとやりすぎた?」
アーク
「いや、これは依存症の禁断症状」
ナポリネス
「オタクを敵に回した結果だな」
エーテル、布団から手だけ出して呟く。
「俺はもう……
ただの抜け殻の創世神……」
旅館、完全に機能低下。
旅館の空気が重い。
布団の中で干からびているエーテル。
周囲は呆れ半分、心配半分。
その時――
ガラッ。
長い間、自室に引きこもっていたメクルが
ゆっくり襖を開けて出てくる。
目の下にはうっすらクマ。
だが瞳は鋭い。
「……やめなさい。」
静かな声だった。
でも全員が振り向く。
メクルはエーテルの布団の横にしゃがむ。
「推しを奪われた痛みを……
笑う資格、ここにある?」
空気が変わる。
レオン「いや別に笑っては――」
「黙りなさい。」
即遮断。
メクルは立ち上がる。
「推しはね、信仰よ。」
「創生エネルギーより純粋で、
戦争より激しく、恋より重い。」
エーテル、布団の中でぴくっと動く。
メクルは続ける。
「推しは“救済”。
日常を生きるための補助輪。」
「それを奪うというのは、
心の支柱を折る行為。」
かや、少し気まずい。
ネメシス「……メクル」
メクルはエーテルの布団を軽く叩く。
「起きなさい、同士。」
エーテル、涙目で顔を出す。
「……わかってくれるのか……?」
メクルは小さく頷く。
「私は三回、推しを失った。」
「一回は炎上。
一回は解散。
一回は突然の活動休止。」
「それでも生きてる。」
重みが違う。
エーテル
「どうやって……?」
メクルは眼鏡をくいっと上げる。
「推しは消えない。」
「形が変わるだけ。」
「記憶と解釈と二次創作で永遠になる。」
ミラがビクッとする。
メクル
「あなたは創世神でしょう?」
「なら、自分の心の中に
ライブ会場くらい作りなさい。」
エーテル、ゆっくり目を開く。
メクル
「奪われたんじゃない。」
「“今は制限されただけ”。」
「依存するな。推しを愛せ。」
部屋の空気が静まる。
エーテルがゆっくり起き上がる。
「……俺……弱すぎたな。」
メクル、腕を組む。
「オタクは弱くない。」
「オタクは深いだけ。」
かやが小さく言う。
「……ごめん。」
エーテルは少しだけ笑う。
「次からは……隠れて見る。」
「バレないように。」
即座にかやの拳が飛ぶ。
メクル、ため息。
「そこは学習しなさい。」
あの夜から、エーテルは少し静かだった。
笑うけど、どこか無理してる笑い。
縁側でスマホを握りしめたまま、ぼーっと空を見る姿。
そして――
決断する。
「……よし。」
居間に全員集合。
かや、セラ、アーク、レオン、イリス、ナポリネス、グアラ、ネメシス、メクル、ルミナ、ミラ、ルーク。
全員が怪訝な顔。
エーテル、真顔。
「お願いがある。」
かや「なに?」
エーテル、深呼吸。
「……一日だけでいい。
家族にコスプレしてほしい。」
沈黙。
3秒。
5秒。
レオン「は?」
エーテルは続ける。
「ライブ、行けなかった。」
「推し友とも会えなかった。」
「でも……あの熱量を、あの空気を、もう一回だけ感じたい。」
声は震えている。
本気だ。
ネメシス、すぐ反応。
「やる。」
即答。
ルミナも挙手。
「楽しそう!」
ミラの目が光る。
「資料が増えるね。」
かやは腕を組む。
「……具体的には?」
エーテル、タブレットを出す。
「この衣装。」
画面に映るのは、王子系×近未来×和風ミックスの衣装。
ナポリネス「派手すぎるだろ。」
イリス「再現は可能。」
レオン「俺は何役だ。」
エーテルは一人ずつ指差す。
「アークはセンター。」
アーク「は?」
「セラはクール系。」
セラ、にやり。
「ネメシスは中性的ポジ。」
ネメシス、満面の笑み。
「ルミナは天真爛漫枠。」
「イリスは衣装担当兼ダンサー。」
「ナポリネスは無表情美形枠。」
「レオンはマスコット。」
「メクルは裏方兼MC。」
「グアラは癒し系。」
かやが最後に聞く。
「で、あなたは?」
エーテル、少しだけ照れながら。
「……プロデューサー。」
全員「ズルい。」
だが――
エーテルの目は本気で、少し赤い。
それを見て、かやはため息をつく。
「一日だけよ。」
数時間後。
旅館の宴会場。
簡易ステージ。
照明はイリス製。
音響はレオン改造。
衣装は完璧再現。
アーク、王子衣装で立つ。
ネメシス、完全中性アイドル状態。
ルミナ、きらきら。
セラ、冷たい微笑み。
ナポリネス、無表情なのに破壊力。
かやは和風アイドル衣装。
メクルが静かにマイクを持つ。
「本日限りの――
久世庵スペシャルライブ。」
音楽が流れる。
エーテルは客席に一人。
拍手しながら、涙をこらえる。
笑ってるけど、少し泣いてる。
ネメシスが歌いながら目を合わせる。
ルミナが全力で手を振る。
セラが優しく視線を向ける。
かやが微笑む。
エーテル、心の中で呟く。
(ああ……)
(俺……ちゃんと救われてるじゃん。)
ライブ終了。
静かな拍手。
エーテルが立ち上がる。
「……ありがとう。」
声が少し震える。
かやが近づく。
「推しは奪わない。」
「でも、あなたの居場所はここ。」
エーテル、崩れそうになる。
ネメシスが後ろから抱きつく。
「父上、推しは家族にすればいい。」
エーテル、苦笑。
「……それは危険思想だ。」
でもその夜。
エーテルは久々に、ぐっすり眠った。




