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久世家戦記・現  作者:
現代編
37/59

第四部 エーテルの人格

 中庭でバチバチの空気が張りつめたまま。

噴水の水がまだ不自然に揺れている中、

エーテルが静かに手を叩いた。

「……いい方法がある」


かやとネメシス、同時に振り向く。

「「なに?」」


エーテルは指を軽く鳴らす。

空気がゆがみ、光が分裂する。

次の瞬間――

エーテルが、三人になった。

本体エーテル+分身体エーテル×2。

見た目も気配も完全に同じ。


ルミナ

「増えた!!!」

ミラ

「量産型父上!?」

ルーク

「こわいって!」


エーテル(本体)

「喧嘩になるくらいなら平等にする」

「ネメシス用エーテル」

「かや用エーテル」

「俺は全体管理」


ネメシスと、かやが固まる。

分身体エーテル(ネメシス側)が自然にしゃがんで目線を合わせる。

「今日は一緒に観光するか」


分身体エーテル(かや側)はそっと手を差し出す。

「歩こうか」


完全に同時に優しい。

破壊力がえぐい。


かや

「……ずるい」

ネメシス

「……ずるい」

二人とも同時に掴む。


セラ

「平等だけど情緒が死ぬわね」


ネメシス、疑い深く見る。

「本当に同じ父上?」

分身体エーテル、即答。

「当然だ」

「好物も知ってる」

「泣き癖も知ってる」

「寝相も知ってる」


ネメシス

「……信じる」

即落ち。


一方かや。

「ほんとに私のエーテル?」


分身体エーテル、自然に額を寄せる。

「疑う理由あるか?」


かや

「……ない」

即落ち。 


ルミナ

「ちょろすぎない?」

エーテル(本体)

「これで争いは終わりだ」 


その瞬間。

ネメシスが気づく。

「……でも」

「夜になったらどうするの」

かやも同時に。

「寝るときは?」


エーテル(本体)

「……」


沈黙。

エーテル

「その時は元に戻る」

二人同時に叫ぶ。

「「ずるい!!!」」

噴水また爆上がり。


ミラ

「結局争い終わってない!」

ルーク

「むしろ増えた!」

セラ

「エーテルの自爆戦術ね」

ネメシスは分身体の腕をぎゅっと掴みながら宣言。

「今日は一日父上独占だから」


かやも負けじと腕を絡める。

「私もよ」

分身体エーテル×2が同時にため息。

「……平和とは」



 中庭でまだ収まらないエーテル争奪戦。

分身体エーテルがそれぞれ

かやの手を取り、ネメシスに頭を撫でられ、

完全に収拾不能になっているその時——


レオンがぽつり。

「……ならさ」

「一人一人にエーテル用意すればいいじゃん」


空気、凍結。


かや

「え?」

ネメシス

「……は?」

ルミナ

「天才?」

ミラ

「世界終わるやつ」

ルーク

「やめとこ?」


エーテル(本体)

「……その発想は危険だ」

だがもう遅い。

子供組の目がキラキラする。


ルミナ

「私のエーテルほしい!」

ネメシス

「僕専用父上!」

ミラ

「護衛エーテル!」

ルーク

「相談用エーテル!」


セラ

「最悪の量産計画始まったわね」

レオン

「理論上はいけるでしょ?創生エネルギー無限なんだし」


エーテル、深くため息。

「……一回だけだぞ」


指を鳴らす。

空間が割れる。

光が爆発。


次の瞬間。

エーテルが

十数体並んで立っていた。


全員同時に瞬き。

「……増えすぎた」


ルミナダイブ。

「父上えええええ!!」

ネメシスも突撃。

「父上えええええ!!」

ミラルークも巻き込まれる。

分身体エーテルたちが全方向から抱きつかれて倒れる。


かや

「ちょっと待って私のはどれ!?」

セラ

「もう誰が誰かわからない」

イリス

「これは実験対象として最高ね」

レオン

「社会が崩壊する音がする」

ナポリネス

「親のインフレ」


その時、全分身体が同時に言う。

「……戻るぞ」

ズズズズズズッと吸収。

一瞬で一人に戻る。


エーテル、息切れ。

「無理だ」

「精神が分裂する」

「愛情管理が破綻する」


ネメシス

「戻さないでよ……」

かや

「ずるい……」

エーテル

「平等は無理だ」

「だから全員まとめて抱きしめる」


両腕広げる。

全員突撃。

人間雪崩。

エーテル埋もれる。

「……結局こうなる」

レオン

「やっぱり一人でいいね」

旅行先は今日も平和(物理崩壊)。



 「なぁエーテル」

「お前ってさ……性格、変えられるのか?」

エーテルが湯のみを置く。

「変えられる、というより――調律できる」

全員の空気が変わる。


アーク

「創生神としての陽気なお前じゃなくてさ」

「冷徹で、感情を排したエーテルになったら」

「世界は違って見えるんじゃないかって思ってさ」


少し沈黙。

風が吹く。


エーテルはゆっくり言う。

「創生エネルギーは“存在の設計図”を弄れる」

「感情、価値観、判断基準も含めてな」


イリスが目を細める。

「人格スライダーみたいなものね」

レオン

「やばい機能すぎる」


エーテル続ける。

「怒りを消せば完全理性」

「優しさを削れば純粋な秩序」

「情を強めれば守護者」

「冷徹に振り切れば……裁定者」


ルミナ

「裁定者エーテル……こわそう」

ネメシス

「でも強そう……」


アーク

「な?」

「もし感情抜きで世界を見たら」

「争いも、救済も、別の答えになるだろ?」


エーテル、少しだけ遠くを見る。

「実際に一度やったことがある」


全員

「え?」


「創生初期」

「宇宙が戦争だらけになった時」

「感情を削ぎ落とした」

静寂。

「その結果――」

「最適解は“全生命の統制”だった」


かやが息を飲む。

「自由を消し」

「感情を制限し」

「争いの芽を設計段階で潰した」


ナポリネス

「それ……平和だけど地獄だな」


エーテル

「宇宙は静かになった」

「悲しみも消えた」

「喜びも消えた」

「だから戻した」


アークが小さく笑う。

「やっぱお前はそのままがいい」


エーテル

「冷徹な私は“正しい神”だった」

「今の私は“不完全な父親”だ」


ルミナがぎゅっと服を掴む。

「不完全でいい」

ネメシスもうなずく。

エーテル微笑む。

「だから変えない」

「世界を壊さないために、感情を持つ」

レオン

「つまり性格変更はラスボススイッチ」

イリス

「封印案件ね」

アーク

「でもさ」

「もし本当に宇宙が救えなくなったら――」


エーテル、静かに答える。

「その時だけ裁定者になる」

「誰にも優しくしないエーテルに」

旅行の夜空がやけに重く見える。



 翌朝。

いつもなら最後に起きてきて、

髪ぼさぼさでかやと手つないで来るエーテル――

が、来ない。


先に起きていたナポリネスが異変に気づく。

「……静かすぎないか?」

障子ドアを開けると、

そこにいたのは。


背筋を伸ばし

髪は完璧に整い

創生エネルギーが淡く冷たい光を纏うエーテル。

目が――感情ゼロ。


「おはよう。現在時刻、六時十二分」

「全員起床を推奨する」


一同フリーズ。 


レオン

「……誰?」

エーテル(裁定者モード)

「私は創生神エーテル」

「感情は不要と判断した」


ルミナが一歩下がる。

「お父……様?」 


「その呼称は不要だ」


空気が氷点下。

かやが近づく。

「エーテル? どうしたの?」


エーテルは一瞬も迷わず言う。

「個体カヤ。情緒的接触は非効率」 


全員絶句。


アーク

「ちょ待て待て待て待て」 


エーテルは窓の外を見て淡々と。

「本日よりこの家庭は最適化する」

「無駄な抱擁・甘え・騒音は禁止」


ネメシス

「え……?」


「感情が争いを生む」

「排除対象だ」


レオン小声

「これドッキリじゃなくてホラーだろ」

そして追い打ち。

エーテルは指を鳴らす。

床が光り、家の構造が一瞬で整列・再配置。

家具が軍隊みたいに正確に並ぶ。

「住環境を再構築した」


メクル

「やばいやばいやばい」

ここでアークが叫ぶ。

「エーテル!やりすぎだろ!」


冷たい視線。

「反抗行為を確認」

「是正対象」

創生エネルギーがアークの足元を凍らせる(拘束だけ)。


全員ガチで青ざめる。


ルミナが震えながら前に出る。

「……いや」

「それでも私はパパがいい」


エーテル、一瞬だけ目が揺れる。

(内心:やば、泣きそう)

でも無表情キープ。

「感情的発言は却下」


かやが静かに言う。

「エーテル」

「それが世界を救う姿でも――私は嫌」


沈黙。


数秒後。

エーテル、吹き出す。

「ぶはっ!!!」

「ごめん無理!!怖がりすぎ!!!」


一同

「は?????」 


「ドッキリでした!!!」


ルミナ泣き崩れ。

ネメシス半泣き。

レオン床に崩落。 


かやだけ無言で拳を握る。

「……エーテル?」

次の瞬間。

創生神がぶっ飛ばされる。


「心臓止まるかと思ったわ!!!」


エーテル吹き飛びながら

「ごめんてええええ!!!」

アーク

「二度とやるな!!」

レオン

「神のドッキリは規模が宇宙災害なんだよ!!」


エーテル頭さすりながら笑う。

「でも確認できた」

「俺が冷たくなったら、誰も幸せじゃないってな」


かや、腕組み。

「わかったなら次やったら宇宙追放」

エーテル

「はい……」



 翌朝。


昨日と同じように、

最後に起きてくるはずのエーテルが——いない。

リビングにはもう座っていた。


だが姿勢はだらしなく、

椅子に斜めに腰掛け、片足を机に乗せている。

髪は無造作。

目は鋭く、獣みたいに笑っていた。

「……よぉ、おはよう」

声が低くて荒い。


アーク

「……またドッキリか?」

エーテル、ニヤッ。

「は?昨日の寒い遊びはもう飽きたわ」

空気が変わる。

これは演技じゃない。


かやが近寄る。

「エーテル?」

顎を掴まれる。

(力はあるけど傷つけないギリギリ)


「距離近ぇよ、嫁」

「でも嫌いじゃねぇ」


全員硬直。


レオン小声

「人格ごと変わってない?」

エーテルは足を組み直して言う。

「頭ン中整理したらさ」

「優しすぎる俺って、だいぶ損してたわ」


ナポリネス

「……思考速度が上がっている」


「そりゃそうだ」

「感情切り捨てて、欲と闘争心だけ残した」


ルミナが恐る恐る近づく。

「パ……エーテル?」

一瞬だけ視線が柔らぐ。

だがすぐ戻る。


「お前は別枠だ」

「誰かに泣かされたら宇宙ごと潰す」


ネメシス

「それ逆に怖い!」

エーテルは立ち上がる。

創生エネルギーが暴力的に揺れる。

「いいか、俺はもう“守るだけの神”じゃねぇ」

「奪って勝って支配して、それでも家族は守る」


アーク

「世界一厄介なタイプじゃねぇか!」

エーテル笑う。

「褒め言葉だろ?」

そして一言。

「安心しろ」

「俺が敵なら宇宙終わってる」

「味方でよかったな?」


沈黙。


かやだけが静かに言う。

「……戻る?」

エーテルは少し考えてから肩すくめる。

「戻れるかどうかは知らねぇ」

「でも」

「お前を泣かせる選択肢だけは消してある」


 

 エーテルは自分の頬を――

パン。

乾いた音が部屋に響く。


次の瞬間。

肩がビクッと跳ねた。

目が泳ぐ。

姿勢が一気に縮こまる。

「ひ、ひゃっ……!?」

「ご、ごめんなさいごめんなさい!!」


全員「?????」


エーテル(震え声)

「ぼ、僕なにかしましたか!?

怒らせました!?

宇宙壊しました!?!?」


かや

「え、さっきまでオラついてたよ?」


「えぇ!?!?!?」

「そ、それ絶対僕じゃないですぅ!!」


アーク

「人格どころか真逆じゃねぇか!」


エーテルは床に正座。

「すみませんすみませんすみません!」

ナポリネス

「……恐怖反応過多型人格」

レオン

「メンタル紙以下だな」


ネメシスが近づくだけで――

「ひっ!?殺さないでぇ!!」

ネメシス

「傷つくんだけど!?」


かやが頭を撫でると、


「ご、ごめんなさい……生きててごめんなさい……」


全員

「謝りすぎ!!!」


ルミナ

「このエーテル弱すぎ!」

エーテル(涙目)

「で、でも嫌われたくなくて……」

そこへアークが悪魔の一言。

「さっきのお前、宇宙支配するって言ってたぞ」


「ええええええ!?!?」

「む、無理です無理です無理です!!

星一個持つのも無理です!!」

エーテルは毛布にくるまる。


かや(呆然)

「人格、三種類目いったよね……?」



 ビンタ。

乾いた音。

人格が切り替わる。 


だが今回は、何かが違った。

目が開いた瞬間――


黒。

虹彩も、光も、感情もない。

ただ、底なしの黒。


エーテルはゆっくり立ち上がる。

誰も見ていない。

誰も見えていない。


「……もういい」

声は小さい。

なのに部屋の空気が重く沈む。


かや

「……エーテル?」


反応がない。

視線はどこにも焦点が合っていない。

「守っても壊れる」

「救っても憎まれる」

「愛しても、戦争になる」


セラが一歩近づく。

「……お父さん?」


エーテルの黒い目がわずかに動く。

だがそこに“家族”を認識する光はない。


「創生も、再生も、赦しも」

「全部、間違いだった」


空気が冷える。

創生エネルギーが、温かさを失う。

銀でも白でもない。

“無色”。

存在そのものを削るような力。


ネメシスが震える。

「……この気配は……」

ナポリネスが低く言う。

「自己否定型。最悪の人格だ」


エーテルは窓の外を見る。

「宇宙は……俺がいなくても回る」

「むしろ、俺がいない方が正しい」


かやの拳が震える。

「それ、誰の言葉?」


反応なし。

「俺がいたからネメシスは生まれた」

「俺が父だったから、戦争になった」

「俺が創ったから、壊れた」


黒い瞳から、涙が一滴落ちる。

だが表情は動かない。

「消えればいい」


その瞬間。

創生エネルギーが内側に収束し始める。

爆発ではない。

“消滅”。

自分という存在を宇宙の式から削除しようとしている。


ルミナが叫ぶ。

「やめろ!!」


エーテルは初めてルミナを見る。

だがその目は、

父ではない。

守護者でもない。

ただの“虚無”。



 空気が凍る。

黒い瞳のエーテルは、ゆっくりと皆を見る。

感情はない。

怒りも、悲しみも、温もりも。

ただ――底なしの静けさ。


「今までの人格はね」

声はやわらかい。

けれど冷たい。

「初代を含めて、転生したエーテルの記憶をもとに形成した“仮面”なんだ」


セラの指が震える。

「……仮面?」


「そう」

「戦国の久世も、野球の久世も、創生の守護者も、父親も、夫も」

「全部、“演算された最適解”」


ナポリネスが息を呑む。

「……嘘だろ」


エーテルは首を傾ける。

「何十回転生したと思ってる?」

「何百回?」

「何千回?」

黒い瞳がゆっくり細まる。

「数えたこと、ないよ」

「全てのエーテルが、僕の中に居る」


その瞬間。

背後に“無数の影”が立つ。

戦国の鎧姿。

創生期の光を纏う姿。

人形の身体。

神の姿。

冷酷な裁定者。

笑う父。

壊れた守護者。

無数の“自分”。


「君たちが好きだったエーテルは」

「その時、その時の最適な人格」

「でもね」

ゆっくりと視線が落ちる。

「全部、疲れた」


ルミナが前に出る。

「じゃあ今のパパは誰?」

黒い瞳がわずかに揺れる。


「統合体」

「観測者」

「本体」

「……本来の僕」 


ネメシスが歯を食いしばる。

「じゃあ今までの父上は嘘だったって言うのか」

エーテルは否定も肯定もしない。

「嘘じゃないよ」

「でも“選択された性格”だった」


静寂。

「愛した」

「守った」

「怒った」

「泣いた」

「全部、本物」

「でもそれは“僕の全体”じゃない」


空間が歪む。

無数のエーテルの声が重なる。


笑う声

叫ぶ声

泣く声

戦う声

祈る声


それらが混ざり合い、重圧になる。

「君たちは“たった一人のエーテル”しか知らない」

「僕は、全員を背負っている」


黒い涙が流れる。

「初代が死んだ痛みも」

「戦国で腕を失った痛みも」

「恒一を見送った痛みも」

「ネメシスに刺された痛みも」

「全部、消えてない」


かやが一歩踏み出す。

「……だから?」


初めて、黒い瞳がわずかに揺れる。

「だから、もう疲れた」


空間にひびが入る。

人格の壁が壊れ始める。

統合が進む。


このまま完全統合すれば、

“感情のない神”になる。



 黒い空気がふっとほどける。

ひび割れていた空間が、風が吹いたみたいに元へ戻る。

「……はぁ〜」


エーテルがだらっと肩を落とす。

さっきまでの神威も重圧も、全部どこかへ消えている。

「いやぁ〜疲れた疲れた」

「絶望モードの俺、毎回盛りすぎなんだよな」


全員「……は?」


エーテルは頭をぽりぽり掻く。

「さっきの“全人格が中にいる”とかさ」

「半分は本当、半分は盛り癖」


ルミナが呆然。

「盛り癖……?」


「うん」

「アイツ、虚言癖持ちなんだ」

「ドラマチックにしないと気が済まない人格」


エーテルは寝転がる勢いで畳に座り込む。

「確かに転生は多いし記憶も重なってるけどさ」

「“全部が常時苦しい”とかは嘘」

「普通に楽しい時の方が多い」


アークがこめかみ押さえる。

「さっきの銀河級の重さ返せ」


「いや演出は大事だろ?」

「場の雰囲気盛り上げ担当なんだよ絶望エーテルは」


かやがジト目。

「……泣きそうになったんだけど」


「あ、ごめんごめん」

「泣かせ担当でもある」


レオンが呟く。

「厄介な人格構成だな……」

エーテルは欠伸。

「で、今の俺は“やる気ゼロ担当”」

「戦わない、悩まない、基本めんどくさい」


ネメシス「じゃあさっきの神統合とかは?」


「ないない」

「絶望モードの妄想」

「盛りすぎ都市伝説」


ルミナが怒る。

「じゃあみんな本気で心配したのは何だったんだ!」


エーテルはにへっと笑う。

「愛され確認」


全員「最低!!!!」


エーテルは仰向けになって天井を見る。

「でも安心しろ」

「俺は俺だし」

「家族好きなのも本当だ」


少しだけ真面目な声になる。


「転生しても」

「人格変わっても」

「戻ってくる場所はここだから」


かやがため息つきつつ額を軽く叩く。

「次やったら本気で怒るから」


「はいはい〜」


ネメシスがぼそっと。

「……でも消えないでくれてよかった」

エーテルは横目で見て微笑う。

「消えるわけないだろ」

「めんどくさい人生ほど楽しいんだから」


そして小さく付け足す。

「絶望エーテルの言葉が全部嘘ってわけでもないけどな」

「ただ“苦しみだけ”じゃないって話」


場の空気は一気に日常へ戻る。

さっきの宇宙規模の重さが嘘みたいに。


 

 ふっと、また空気が変わる。

さっきまで床に寝転がってだらけていたエーテルの背筋が、

糸で吊られたみたいにすっと伸びた。

呼吸のリズムすら変わわる。


「……失礼いたしました」

低く澄んだ、やわらかくて品のある声。

全員が固まる。


エーテルはゆっくり立ち上がり、胸に手を当てて優雅に一礼。

「突然の取り乱し、大変お見苦しい姿をお見せしました」

「皆様のお心を乱してしまったこと、心よりお詫び申し上げます」


かや「……誰?」


エーテルは微笑む。

完璧すぎる角度、完璧すぎる所作。

「私は現在の人格、“礼節統治型エーテル”でございます」

「便宜上、王子人格とお呼びください」


アーク「王子!?」


エーテルはネメシスの前に進み、膝を軽く折って目線を合わせる。

「先ほどは不安にさせてしまいましたね」

「あなたの心が傷つくことのないよう、私が必ず守ります」


ネメシス(顔真っ赤)

「ち、近い……」


続いてかやの前へ。

片手をそっと取り、指先に軽く口づける寸前で止める。

「この場での過度な接触は礼を欠きますね」

「ですが、あなたが最も大切な存在であることに変わりはありません」


かや「いや完璧すぎて逆に怖いんだけど!?」


ルミナが目を輝かせる。

「王子エーテルかっこいい!!」


エーテルはにこやかに頷く。

「ありがとうございます、可憐なる姫君」

「転ばぬよう、常にそばにおりますよ」


レオンが小声。

「一番危険な人格かもしれん」


エーテルはテーブルに散らばっていた物を一瞬で整列させる。

ズレ一切なし。完璧。

座布団の向きすら正されている。

「空間の乱れは心の乱れ」

「美しさは秩序から生まれます」


ナポリネス「めんどくさ……」


エーテルは穏やかに微笑みながら言う。

「叱責はいたしません」

「人は未完成であるからこそ尊いのです」


全員ゾワッ。


優しいのに圧が強い。 


アークがひそひそ。

「やる気ゼロより扱いづらいぞこれ」


すると王子エーテルが静かに宣言。

「本日より皆様の生活リズムを是正いたします」

「起床は日の出と同時」

「姿勢、言葉遣い、食事作法、すべて私が導きましょう」


全員「やめてえええええ!!」


エーテルは微笑んだまま。

「ご安心ください」

「完璧とは、苦しみではなく――幸福なのですから」



 ぷしゅううううう……!!

エーテルの頭から本気で白煙が立ちのぼる。


アーク「え、壊れた!?」

レオン「脳の処理限界突破だな」


王子人格が一歩ふらつく。

「……礼節を……秩序を……」

そして——

バタッ。

そのまま前のめりに倒れる。


次の瞬間。

むくっと起き上がったエーテル。

目はぐるぐる。

口は半開き。

「へへ……えへへへ……」


全員「嫌な予感しかしない」


エーテル(超アホ人格)

「おーぷんせさみ〜〜〜!!!」

(なにも起きない)


かや「誰それ!?」


エーテルは自分の指を見つめて感動する。

「うわぁ……これ5本もある……すごくない?」

ナポリネス「当たり前だろ」

エーテル「え!?みんなも5本あるの!?!?」

全員「あるわ!!」


ルミナ「エーテル……ばかになっちゃったの?」

エーテル「ばかじゃないよぉ〜〜〜」

「ちょっと脳みそがお昼寝してるだけだよぉ〜〜〜」


そう言いながら壁に頭ゴン。

「いてっ」

「なんで壁かた〜〜〜い!!!」

アーク「IQが宇宙の彼方に吹き飛んだな」


エーテルは床に座って突然拍手。

「ねぇねぇ!!!」

「ぼく今すごいこと気づいた!!!」


かや「なに……?」

エーテル「しゃべると口動く!!!!」

全員「それで今まで世界創ってたの怖すぎるんだけど!?」

レオン「創世神の知能とは思えん」


エーテルはネメシスを見つけて突進。

「ねめしすぅぅぅ!!!」

ぎゅーーーっ(超力で抱きしめ) 


ネメシス「ぐぇっ!?!?!?」

エーテル「やわらかぁ〜〜〜!!!生きてるぅ〜〜〜!!!」

かや「離しなさいバカ神!!!」


エーテルはかやを見ると急に真顔。

「……かや?」


かや「なに?」

エーテル「かやって……たべもの?」

全員「終わった」


エーテルはしばらく考えて、

「じゃあぼく今日から!」

「かやのペットになる!!!」

かや「ならないで!!!」


ルミナ大爆笑。

「エーテルへんたい神〜〜〜!」

エーテル「へんたい?それつよいの?」



 エーテルはふらふら笑っていたその瞬間――

バンッ!!!

自分の頬を思いきり殴り飛ばした。


アーク「えっ自傷!?」

レオン「いや人格強制切替だ」


床を転がるエーテル。

煙が一瞬で引き、空気が変わる。

ゆっくりと立ち上がったその姿は――


背筋が伸び

目が鋭く

呼吸が静まり返っている。


「……騒がしい世だな」

声が低く、重い。

刀を抜くような所作で腰に手を添える。


戦国久世「ここは戦場か?」


一瞬で全員の背筋が凍る。


ナポリネス「うわ……一番ヤバい時代の個体来た」


戦国久世は部屋を見渡し、障子もない壁を不思議そうに見る。

「城にしては妙な造りよの」

かや「エーテル……?」


久世はかやを見ると一瞬だけ表情が揺れる。

だがすぐに武将の顔へ戻る。

戦国久世「名を名乗れ、女子」

かや「え、わ、私かやだけど……」


その瞬間。

久世の目が見開かれる。

「……かや?」


刀を落とす。

戦国久世(小声)

「生きておったか……」


さっきまでのアホ神とは別人。

何百の戦を越えた武将の重みが空間を支配する。


ルミナ「うわぁ……エーテルかっこよくなった……」

アーク「人格の落差で風邪ひくわ」


久世は静かに膝をつき、かやに頭を下げる。

「この久世、不甲斐なくも守れぬ世を生きた」

「それでも――そなたに再び会えたなら、それで良い」


一気にシリアスモード突入。

レオン「感動してる場合じゃない、今度は情緒が極端に重い」


戦国久世は立ち上がり、周囲を睨む。

「敵はどこだ」

「この身がある限り、誰一人通さん」


 

 戦国久世が刀構えたまま静止していると――

ズガン!!

また自分で自分を殴る。


煙。

空気が軽くなる。

「いや〜肩こった肩こった!」


全員「誰!?」


出てきたのは――

やたらテンション高く、チャラいエーテル。

陽キャエーテル

「よっしゃ現代最高!戦とか無理無理平和神最高〜!」

ナポリネス「時代の反動エグいな」


バン!!

次。

「我は秩序。感情は不要」

無表情・白目気味の裁定者エーテル。

裁定エーテル

「世界は管理されるべき存在だ」

かや「ちょっと怖い…」


バン!!

次。

「……全部無意味だ」

床に座り込む虚無エーテル。

虚無エーテル

「宇宙も命もどうでもいい」

レオン「情緒ジェットコースターやめろ」


バン!!

次。

「おはようございます皆様、ご機嫌麗しゅう」

貴族王子エーテル再登場。完璧姿勢。

王子エーテル

「紅茶はいかがですか?」

ナポリネス「キャラ渋滞してきた」


バン!!

次。

「うおおおお腹すいたーー!!」

原始人エーテル。

原始エーテル

「マンモスどこ!?」

ルミナ「かわいい……」


バン!!

次。

「俺が宇宙最強だァァァ!!」

筋肉全振り脳筋エーテル。

筋肉エーテル

「考える前に殴れ!!」

アーク「戦争起こしたタイプだなこれ」


バン!!

次。

静かに目を閉じた青年。

「……守れなかった」

創生初期の若きエーテル。

セラを失った直後の人格。

空気が一瞬で重くなる。

かやがそっと近づく。

かや「もう守れてるよ」

青年エーテルは小さく笑う。

「……ああ」

その瞬間また切り替わる。


バン!!

「え?今どこ?俺だれ?」

記憶喪失エーテル。

レオン「便利枠来た」


バン!!

「全部計算通りだ」

未来予測エーテル。

未来エーテル

「今から三分後にアークが転ぶ」

アーク「え?」

ドン!

転ぶ。

全員「すげぇ!」


人格が止まらない。

何百、何千のエーテルが洪水のように溢れていく。


最後に――

全人格の声が重なる。

「俺たちは――エーテルだ」

光が弾ける。


その中心に立つのは、

全部を内包した今のエーテル。

静かに言う。

「……遊びすぎたな」



 人格ラッシュがようやく収まり、部屋に静けさが戻る。

優しいエーテルがふぅっと息を吐く。

「安心していい。さっきのは“誤作動”みたいなもんだ」


ナポリネスが鋭く見る。

「誤作動にしては規模がでかすぎる」

エーテルは苦笑する。

「だからさ」


軽く頭を指さす。

「中、見に行こう」 


レオンが即ツッコむ。

「脳内観光かよ」


「観光じゃない。メンテナンス」


イリスが目を輝かせる。

「精神投影方式?」

エーテルは頷く。

「肉体はここに残る。意識だけ移すタイプだ」


「集中が切れたら?」


「勝手に戻る。夢から覚めるみたいにな」


かやが少し安心した顔になる。

「じゃあ閉じ込められないんだ」


「閉じ込められない」


エーテルは静かに言う。

「ただし、中で起きたダメージは精神に残る」

全員「それ普通に危険じゃん」


エーテル笑う。

「まぁな」

エーテルが床に座り、創生紋を展開。

淡い光がみんなを包む。

感覚が溶ける。


引き込まれるように――

目を開ける。

そこは宇宙のようで宇宙じゃない空間。

無数の記憶の欠片が浮かび、

それぞれに“別のエーテル”が映っている。


戦国の久世。

創生神エーテル。

冷徹な裁定者。

泣き虫エーテル。

狂気のエーテル。

空間そのものが思考でできている。


地面は光の回路。

空は感情の波。

ナポリネスが分析する。

「精神階層構造だな」

レオン「脳が宇宙より複雑ってどういうことだよ」


エーテルは遠くを指さす。

そこには巨大な黒い中枢結晶。

鼓動のように脈打っている。

「ここが人格の制御核」

「暴走してる原因も、たぶんあそこ」


かやが静かに言う。

「…近づくとどうなる?」


エーテルは目を細める。

「たぶん“本音”しか出てこなくなる」


その瞬間――

空間が歪み、複数のエーテルが降り立つ。

怒り。恐怖。誇り。後悔。孤独。

人格の守護者たち。


一斉にこちらを見る。

「来るな」

「ここは俺たちの世界だ」

「外の連中に触らせるな」


優しいエーテルが前に出る。

「俺は逃げない」

「全部俺なんだから」


人格たちが一斉に構える。

――精神世界最初の試練、開始。


 

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