表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
久世家戦記・現  作者:
現代編
35/59

第二部 理不尽な世の中

 ――初戦。

観客席はざわついていた。

「さっきバッグ消したやつだろ?」 「演出じゃね?」 「いや床割れてたぞ…」


エーテルはリング中央に立たされている。

両手をぶらんと下げたまま、完全にリラックス。


向かい側から現れたのは――

長い脚、引き締まった体。

足首には重そうなウェイト。


実況が叫ぶ。

「初戦の相手は“旋風脚のリオ”!!

蹴りだけで十人を沈めてきた男だァ!!」

リオはニヤッと笑う。


ゴング。

カァン!!


その瞬間――

リオの姿がブレる。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

残像が走るような高速ステップからの連続回し蹴り。

空気が裂ける音。


「はっや!?」 「見えねぇ!!」

普通の人間なら一発で終わってる速度。


だが。

エーテルはただ眺めていた。

「ほう……足技か」


一撃目――

エーテルの頬すれすれで止まる。

二撃目――

風圧だけで髪が揺れる。

三撃目――

腹部直撃コース。


トン。

エーテルは指一本で足を受け止めた。


ピタリ。

完全停止。

会場が凍る。

「……え?」


リオの脚が、動かない。

全身で踏ん張っているのに、びくともしない。

「な、なにしてやがる!?」


エーテルは首をかしげる。

「速さは良い。だが――軽い」


次の瞬間。

エーテルはリオの足をそっと押しただけ。

それだけ。


ズドォォォォン!!!


リオの身体が空を飛び、

壁に激突してクレーターを作る。


そのまま白目。

失神。

ゴングも鳴らされない。

医療班が走り込む。


実況が声を裏返す。

「し、試合終了ォォ!?!

わ、わずか一動作!!」


エーテルはリング中央で困惑。

「蹴りは強いが……人は脆いな」


観客はもう歓声じゃなく悲鳴混じり。

「バケモンだろ!!」 「兵器だ!!」 「何食ったらああなる!?」


運営席。

「やばいの拾ったぞ……」 「地下格闘技のレベルじゃねぇ……」

「でも――金になる」

黒い笑みが広がる。


そしてアナウンス。

「次戦……急遽変更!!」

「“地下王”投入だ!!!」


場内がどよめく。

エーテル、少しワクワクする。

「ほう……ようやく強そうだな」



 照明が一段落ちる。

観客がざわつく。

「来たぞ……」 「殺し屋より怖いって噂の……」


ゆっくりと通路から現れた男。

身長はエーテルより少し低い。

だが全身が岩みたいに硬そうな筋肉。

傷跡だらけの腕。

軍服を改造したようなコート。


実況が震え声で叫ぶ。

「元特殊部隊指揮官――

戦場で百人以上を指揮し、生還率九割超!!

通称《地下王・ヴァルド》!!」


観客は「パワー系だ」と確信している。

だが――

ヴァルドの目だけが違った。

冷静すぎるほど静か。

獲物を見る猛獣じゃない。

盤面を見る将棋打ちの目。


ゴング。

カァン!!


エーテルはいつも通り歩く。

ヴァルドは動かない。


五秒。

十秒。

「来ねぇのか?」と誰かが叫ぶ。


その瞬間。

バンッ!!

床が爆ぜる。

エーテルの背後からワイヤー罠が跳ね上がる。

同時に天井から粉塵。

視界ゼロ。


観客騒然。

「罠!?」 「リングでそんなのアリかよ!」


だがヴァルドは冷静に言う。

「戦場ではルールは無い」


次々と仕掛けが起動。

足元が崩れる

電流トラップ

閃光弾

完璧な拘束陣形。

普通の人間なら即詰み。


煙の中でヴァルドはもう“勝ち筋”を組んでいる。

「パワー型は読みやすい」

「だが――お前は規格外」

「だから殺しきる」


銃を構える。

地下格闘技なのに実弾。

会場が悲鳴。 


だが。

煙が晴れる。

エーテルは――

全部踏み抜いて立っていた。


ワイヤーはちぎれ、床は粉砕、電流は無効。

「ほう……戦場式か」

「悪くない」


ヴァルドの目が初めて揺れる。

「……やはり化け物か」


だが焦らない。

すでに次の策へ移行。

「だが怪物ほど――誘導に弱い」

彼はわざと隙を見せて後退。


通路へ。

エーテルは歩いて追う。


その瞬間――

天井ごと落とし穴の大崩壊。

ビル一棟分の重量が落下。

完全に埋める構造。

観客は勝利を確信。


数秒後。

ズ……ズズズ……

瓦礫が持ち上がる。

中からエーテルが出てくる。

服が少し汚れただけ。

「重さはあるが、意味はない」


ヴァルドは苦笑する。

「なるほど……」

「知略で殺せない相手は久々だ」


銃を捨て、構える。

「なら――最後は読み合いだ」


 

 瓦礫の山の上に立つエーテル。

粉塵が静かに落ちていく。

ヴァルドは息を整えながら見上げていた。

策はすべて潰れた。

読みも通じない。

それでもまだ――折れていない。


その姿を見て、エーテルは静かに思う。

(……手加減すると)

(俺自身が、楽しくなくなる)

(つまらない戦いになる) 


目が細くなる。

怒りでも殺気でもない。

純粋な闘争の喜び。

「いいぞ」

「ここからは――本気でいく」


その瞬間。

エーテルの足元のコンクリートが蒸発したように消える。

衝撃波だけで空気が歪む。

観客席のガラスが一斉に割れる。

実況席が吹き飛ぶ。

地下施設全体が悲鳴をあげる。


ヴァルドの背筋を冷たい汗が伝う。

(今までのは……遊びだったのか)

(俺は“本番”にすら立ってなかった……)


エーテルは一歩踏み出す。

それだけで音速の壁が割れる。

視界から消え、

次の瞬間ヴァルドの腹部に拳。


衝撃が波紋のように空間を砕く。

地下施設の柱がまとめて倒壊。

ヴァルドは数十メートル吹き飛ばされ、壁にめり込む。


それでも意識を保つヴァルド。

「……はは」

「楽しくない、か……」

「その余裕……嫌いじゃない……」

血を吐きながら立ち上がる。


エーテルは少しだけ微笑む。

「いい根性だ」

「だからこそ――全力で終わらせる」


 

 エーテルは深く息を吐く。

「……全力でいく」


観客が息を呑む。

ヴァルドも歯を食いしばる。

(来る……必殺の一撃……!)


だが――

エーテルは拳を握らなかった。

構えも取らない。

ただ。

小指を、すっと立てた。


ヴァルド「……は?」

エーテル「全力だ」


次の瞬間。

小指が――軽く、つつく。

ほんの接触。

「ちょん」

というレベル。 


しかし空間が歪む。

衝撃波が半径数十メートルを吹き飛ばし、

床がクレーター状に消滅。

地下施設の天井が崩れ落ち、

観客席がまとめて吹っ飛ぶ。

空気が焼ける。


ヴァルドは――

一切触れられていないのに、

衝撃だけで対岸の壁まで消し飛ばされていた。

人型の穴が開いている。


数秒後。

瓦礫の中から震える声。

「……これが……小指……?」


エーテルは首を傾げる。

「拳だと死ぬと思ってな」

「加減した」


闘技場に残った全員の脳がフリーズ。

エーテル、ため息。

「やっぱ全力って難しいな」


  

 会場はまだ揺れていた。

崩れた床。

割れた照明。

壁に開いた巨大な人型の穴。 


誰も歓声を上げられない。

ただ――恐怖と理解不能だけが残っていた。

控室に戻ろうとするエーテルの前に、

運営スタッフたちが血の気を失った顔で飛び出してくる。


スーツは埃まみれ。

ネクタイも曲がっている。

代表らしき男が深く頭を下げた。

「エ、エーテル様……」

「お願いがございます」


震える手で封筒を差し出す。

中には――

札束の山。

賞金どころじゃない額。

「本日分の優勝金……いえ」

「迷惑料です」

「修理費も含めて、こちらで全額負担いたします」


エーテル「?」


代表は叫ぶように続ける。

「ですので……」

「どうか……」

「もう二度と地下格闘技に出場なさらないでください!!!」


一斉に土下座。

床に額を叩きつける音が響く。

「選手が死にます!!」

「施設が持ちません!!」

「都市が壊れます!!」


エーテルは封筒を持って少し考え込む。

「……そんなにダメか?」

代表「ダメです!!」


しばし沈黙。

エーテルはぽりぽり頬を掻く。

「じゃあ……金だけ貰って帰るか」

運営全員「ありがとうございますうううう!!!!」


その瞬間、裏社会に新たな伝説が生まれた。

“小指一撃で地下格闘技を潰した男”

エーテルは帰り道で呟く。

「働くって難しいな」



 深夜。

家のリビングは静かだった。

子どもたちはもう寝ている。

外も都市のネオンが遠くで瞬いているだけ。


玄関のドアが――

カチャ。

ゆっくり開いた。

エーテル「……ただいま」

(小声)


その瞬間。

リビングの電気がパッと点く。

ソファに腕を組んで座っているかや。

目が、笑ってない。


かや

「おかえり」

「で?」


エーテル「……で?」


かやはテーブルにスマホを置く。

画面にはニュース。

《地下格闘技会場 半壊》

《正体不明の男 小指一撃》

《運営が異例の全面謝罪》


かや

「ねえ」

「これ」

「あなたでしょ?」

エーテル「いや……似てる人じゃないか?」


かやは立ち上がる。

ゆっくり近づく。

一歩。

また一歩。 


かや

「似てる人が」

「創生エネルギーの残留反応出すの?」

エーテル「……」


かや

「で?」

「何を壊してきたの?」


沈黙。


エーテルは視線を逸らす。

エーテル

「……床と」

「壁と」

「天井と」

「あとサンドバッグと」

「対戦相手の心を少々」


かや

「少々で済んでないよね?」

エーテル「都市まではいってない」


かや

「そこが基準なのやめて?」

ため息。

深く。


かや

「普通に働けって言ったよね?」

エーテル

「働いた」

かや

「破壊活動は労働じゃない」

エーテル「……」


かやは額に手を当てる。

かや

「あなたさ」

「神でも元武将でもいいけど」

「今は一家の大黒柱なんだよ?」

エーテル「が、頑張った」

かや

「頑張り方が災害級なの」


しばらく沈黙。


エーテルが小さく言う。

エーテル

「……お金はもらった」


かや

「いくら」

エーテル

「地下組織が潰れかけたから口止め料込み」

かや

「……」


かやの目が見開く。

かや

「桁いくつ?」

エーテル

「途中で数えるのやめた」


沈黙。

かや

「……はぁ」

「もういい」

エーテル(ほっとする)


かや

「その代わり」

エーテル「?」

かや

「次壊したら」

「あなたを私が折るからね」


エーテル

「それはそれで死ぬ」

かや

「学習して」


その後。

エーテルは正座で説教30分コース。

途中でネメシスたちが廊下から覗いて即逃走。


最後にかやがぽつり。

かや

「でも……無事でよかった」

エーテル「……心配してたのか?」


かや

「当たり前でしょ」

エーテルは少しだけ照れる。

エーテル

「次は……壊さない仕事探す」

かや

「“壊さない”じゃなくて“普通の”ね」

エーテル「努力する」


  

 翌朝。

リビングのテーブルが、なぜか戦場みたいになっていた。

原稿用紙。

インク。

タブレット。

大量のラフ。 


エーテル

「……これは?」

ミラ(真剣な目)

「しーっ」

ルーク

「今、集中してる」


エーテル、そっと覗き込む。

そこに描かれていたのは――

宇宙規模の戦争。

光を纏う守護者。

堕ちた神。

泣きながら戦う少女。

妙に見覚えがある。 


エーテル

「これ……」

ミラ

「オリジナルだよ」

ルーク

「完全創作」


ページをめくる。

そこには――

パンイチで光に守られた男。


エーテル

「待て」

ミラ

「フィクション」

ルーク

「偶然の一致」

エーテル

「創生エネルギーの謎の光まで描写一致してるが?」 


ミラはペンを止めず言う。

ミラ

「これはね、“父と神の間で揺れる存在”がテーマなの」


エーテル、固まる。


ルーク

「タイトルは」

『エーテル・リバース』

エーテル

「タイトルがアウトだろ」

ルーク

「仮」


ミラ

「コミケで出すの」

エーテル

「コミケ?」

ルーク

「同人即売会」

ミラ

「創作を自由に発表できるお祭り」


エーテル、目を輝かせる。

エーテル

「戦わなくていい戦場か」


ミラ

「うん」

ルーク

「売れなかったら普通に傷つくけど」

エーテル

「それもまた戦か」


ミラ、ふと聞く。

ミラ

「ねぇ」

「創生期の話、少し教えて?」

エーテル

「またネタにするのか」

ミラ

「違うよ」

「物語として描きたいの」


エーテルは少し考え、

ゆっくり座る。

エーテル

「……なら」

「悲劇だけじゃなくて、笑った話も入れろ」 


ルーク

「例えば?」

エーテル

「ネメシスが昔、泣きながら俺の袖掴んで寝てた話」

ルーク

「採用」

ミラ

「兄妹添い寝戦争も?」

エーテル

「それはやめろ」


その時。

キッチンから声。

かや

「え?」

「コミケ?」

エーテル、嫌な予感。


かや

「もしかして……あなたモデル?」

ミラとルーク、無言でうなずく。

かや

「……パンイチ描いた?」

ミラ

「神話的演出」

かや

「私が監修する」

エーテル

「待て」


その日の午後。

かや編集長爆誕。

ネメシスが勝手に恋愛スピンオフを描こうとして止められ、

イリスが装丁デザインに参戦し、

レオンが「電子版も作れる」と言い出し、

ナポリネスが売上予測を数式で出し始める。


結果。

創生一家、

同人サークル結成。

サークル名。

「スターフォージ出版部」


エーテルは思う。

宇宙戦争よりも。

この家の方が、

よほどカオスだと。  



 コミケ当日。

巨大展示場の波のような人、人、人。

ミラとルークは机の奥。

積み上がった新刊。

ポスターには堂々と――

『エーテル・リバース 第一章』


エーテルは腕組みして背後に立つ護衛ポジション。

完全に用心棒。


そして前。

売り子担当――

ルミナとネメシス。

ルミナはふわっとした星モチーフの可愛い衣装。

リボン付き、キラキラ付き、完全アイドル仕様。


ネメシスは――

フリル入りシャツにショートマント、細身パンツ。

中性的で可愛い、まさに“男の娘”スタイル。

本人はノリノリ。


ネメシス

「いらっしゃいませぇ〜♪新刊どうですかぁ〜!」

エーテル

「テンション高すぎだろ」

ルミナ

「楽しいもん!」


開始10分。

人が止まらない。

通行人A

「え、売り子かわいすぎ」

通行人B

「コスプレ?公式?」

通行人C

「この子たち何者?」


そして本を見る。

「え、内容ガチで熱い」

「設定作り込みやば」

「この“創生神”ってキャラかっこよすぎ」


ミラ(小声)

「売れてる……」

ルーク

「初版もう半分ない」

エーテル

「戦況有利だな」


30分後。

完 売 。

ミラ

「え?」

ルーク

「え???」

ルミナ

「全部なくなったよー!」

ネメシス

「完売御礼でーす♪」


周囲どよめき。

「もう無いの!?」

「再販ありますか!?」

「次いつ出ますか!?」


ミラ、震えながら。

ミラ

「え…うそ…夢?」

ルーク

「俺たち…同人作家デビュー成功…?」

エーテル

「宇宙救うより難易度低かったな」

その瞬間。

人混みの奥から声。

「……この作者」

「地下格闘技の“光の怪物”にそっくりじゃね?」


エーテル

「」


振り向くと――

昨日の運営スタッフ。

観客。

動画撮ってたやつ。

「あっ!!!やっぱ本人だ!!!」

「地下格闘技のエーテルだ!!!」


一気に拡散。

「え!?売人があの怪物!?」

「神が同人売ってる世界線!?」

エーテル

「護衛任務失敗だな」

ルミナ

「えへへ、バレちゃった」

ネメシス

「有名人だったの!?かっこいい!」

そして列が変質。


同人+記念撮影列

ミラ

「え、なにこの状況!?」

ルーク

「ジャンル変わってる!!」


かや(少し離れた場所から腕組み)

「……あなた」

「何しに行っても伝説作るのやめて?」

エーテル

「努力してないんだが」


その日の結果。

・同人誌完売

・SNSトレンド入り

・地下格闘技と同人界隈が謎に融合


ミラとルークは泣いた。

ミラ

「描いてよかった……」

ルーク

「また描こう、絶対」


エーテルは2人の頭をぽんっと撫でる。

エーテル

「これも一つの創生だな」

ルミナ

「次は私も主人公にして!」

ネメシス

「僕は可愛い担当で!」

エーテル

「却下」


でも――

少しだけ笑っていた。



 屋敷の廊下を歩いていたエーテルは違和感に気づく。


ひらっ。

風に揺れるスカート。

ネメシスが通った。


しかも普通に可愛い。

フリル付きトップス

細いウエスト

太もも出てる

メイクも完璧


エーテル

「……ネメシス?」

ネメシス(くるっと回る)

「どう?可愛い?」


エーテル

「いや可愛いかどうかで言えば可愛いが」

「なぜ女装が常態化している」

ネメシス

「コミケで気づいたんだ」

「“可愛いは力”だって」

エーテル

「宇宙の真理みたいに言うな」

その後も。


別の日。

ゴスロリネメシス。 


次の日。

セーラー服ネメシス。


さらに次の日。

アイドル風ネメシス。

完全に目覚めていた。


ルミナ

「ネメシス兄かわい〜!」

ミラ

「似合いすぎ…」

ルーク

「もう女の子より可愛い」

ネメシス(ドヤ顔)

「でしょ?」


エーテル

「社会の多様性は認めるが」

「これは方向性が急旋回しすぎだ」


ついにエーテル、相談に行く。

アークの部屋。

エーテル

「アーク」


アーク

「ん?」


エーテル

「ネメシスが女装に目覚めた」


一瞬の沈黙。


アーク

「……あー」

エーテル

「“あー”じゃない」


アーク

「正直」

「遅かれ早かれだと思ってた」

エーテル

「なぜだ」


アーク

「昔からあいつ」

「可愛いもの好きだったし」

「俺たちの服勝手に着てたし」

エーテル

「聞いてない」


アーク

「言ったら父上止めるだろ」

エーテル

「止める以前に現実を受け止めきれてない」


そこへノックもなく扉が開く。


ネメシス登場。

今日はチャイナドレス。

ネメシス

「父上〜アーク兄〜どっちが似合うと思う?」

エーテル

「なぜその選択肢に俺を入れる」


アーク(普通に見る)

「普通に可愛い」

ネメシス

「やった!」


エーテル

「アーク!」


アーク

「いや事実だろ」

ネメシス

「父上は?」 


エーテル、目を逸らす。

エーテル

「……似合っている」

ネメシス

「えへへ」


その瞬間。

満足そうにくっついてくる。

ネメシス

「じゃあこれからも着るね!」

エーテル

「確定事項にするな」


アーク(小声)

「父上」

「多様性ってそういうことだ」


エーテル

「理屈では理解している」

「感情が追いつかないだけだ」


アーク

「でも嫌じゃないだろ?」

エーテル

「……嫌ではない」


ネメシス

「じゃあ問題なし!」

そのまま腕に絡みついて去っていくネメシス。

スカートひらひら。


エーテル

「私は創世神だぞ」

「なぜ家庭問題で頭を抱えている」


アーク

「神も父親なんだよ」

エーテル

「……重い言葉だ」


その夜。

かやに報告。

かや

「かわいいじゃない」

エーテル

「即肯定か」

かや

「ネメシス幸せそうだし」

「いいでしょ」


エーテル

「私は時代に置いていかれているのか」

かや

「あなたは宇宙単位で古いからね」

エーテル

「ぐうの音も出ない」


こうして――

ネメシスの女装は正式に家族公認となった。

(エーテルだけ若干動揺し続けながら)

 


 喫茶店も玩具会社も順調。

家庭教師大学も繁盛。

なのに――

エーテルだけ無職。


かや

「……で?」

「あなたは今日も何もしなかったわけ?」

エーテル

「宇宙を救った経験ならある」

かや

「履歴書に書けないやつね」


そのときポストに入っていた一枚のチラシ。

《即日採用!配達スタッフ募集!》

エーテル

「配達……物を運ぶだけか?」

かや

「あなた向きじゃない?」

エーテル

「創世神が物流を支える時代か……」


こうして――

エーテル、配達員になる。

制服を着る。

帽子をかぶる。

リュック背負う。


ルミナ

「お父さん配達屋さんだ!」

ネメシス

「かわいい!」

ミラ

「写真撮ろ!」

エーテル

「なぜ職場デビューが記念撮影なんだ」


初仕事。

地図アプリを見る。

エーテル

「……遠いな」

そして普通に走ろうとして――


かや

「飛ぶな!!!!」

エーテル

「癖で」


仕方なく“人間レベル”で走る。

だがそれでも速すぎる。

信号待ちの人たちが風圧で髪なびく。


通行人

「今のなに?」

「バイクより速くね?」


最初の家に到着。

ピンポーン。

おばあちゃん

「はーい……」

ドア開く。

エーテル(爽やか)

「お届け物です」

おばあちゃん

「……え?」

「もう?」

「さっき注文したばかりよ?」


エーテル

「全力では走っていません」

おばあちゃん

「十分おかしいわよ」


その後も。

・30分予定の配達を3分で完了

・渋滞完全無視(歩道ダッシュ)

・階段を音もなく駆け上がる

会社の管理画面がバグる。


社員

「この人一人で地区制圧してるんだけど」

「GPSワープしてない?」


昼には全エリア配達終了。


上司

「……え?」

「もう?」 


エーテル

「まだ働けますが」

上司

「いや帰って」

「逆に怖いから」


帰宅。

かや

「どうだった?」

エーテル

「物流革命を起こしてしまった」

ルミナ

「すごーい!」

ネメシス

「神配達!」

かや

「で、クビ?」

エーテル

「優しく出禁になった」


かや

「でしょうね」


その夜。

配達会社から連絡。

《あなたの働き方は人類の限界を超えています》

《通常業務では採用できません》


エーテル

「人間社会は脆いな」

かや

「あなたが壊してるの」 


結果。

エーテルの社会復帰、30分で終了。

ネメシス

「次は何の仕事するの?」

エーテル

「今度は壊さない職を探す」

かや

「それが一番難しいわ」

創世神、再び無職。


 

 創世神、工事現場へ

「体力仕事なら文句ないだろう」

そう言ってエーテルが応募したのは――

大型再開発ビルの建設現場。


面接。

監督

「力仕事できる?」

エーテル

「惑星規模でなら」

監督

「……?」

とりあえず採用。


初日

鉄骨が山積み。

クレーン待ち。

作業員たちがヘルメットをかぶって汗だくで準備。


監督

「それはクレーン来るまで触るなよー」


エーテル、持つ。

ゴッッ

直径1m級の鋼材を、

片手で持ち上げる。


作業員A

「え?」

作業員B

「いやいやいやいや」

監督

「降ろせ!!!」

エーテル

「軽いな」


次。

コンクリートの巨大ブロック。

クレーンで吊るはずの重量物。

エーテル、普通に肩に担ぐ。


作業員

「クレーン要らねぇ!!」

監督

「待て待て待て!!保険が壊れる!!」

エーテル

「効率は上がっている」

監督

「常識が死んでる!!」


さらに事件

足場が少しズレる。

作業員がバランスを崩す。


エーテル、

ジャンプ。


空中で鉄骨を足場にして方向転換。

片手で作業員をキャッチ。

もう片手で鉄骨固定。

現場、静止。


作業員

「……神?」

エーテル

「安全第一だ」


休憩時間

エーテルが座るとベンチがミシッと音を立てる。

若い作業員

「兄ちゃんどこで鍛えてんの?」

エーテル

「宇宙規模だ」  

誰も突っ込まない。


そしてクレーン事件

クレーン操作中にワイヤーが切れる。

巨大鉄骨落下。

全員凍る。


エーテル、前に出る。

両手で受け止める。


地面が陥没。

鉄骨停止。

衝撃波で砂埃。


エーテル

「次はもっと強いワイヤーにしろ」 


現場、拍手。

監督、頭抱える。


夕方

本社から連絡。

「SNSに“素手クレーン男”って動画上がってるんですけど」

監督

「……あー……」


結果

・クレーン業者が怒る

・労基が調査に来る

・安全基準が崩壊


翌日。

監督

「悪いがな……」

「お前は人類には早すぎる」

エーテル

「またか」


帰宅。

かや

「今度は何壊したの?」

エーテル

「クレーンの存在意義」

ネメシス

「お父さんすごーい!」

ルミナ

「ビル建てちゃえば?」


エーテル

「それだ」

かや

「ダメ」

創世神、再び無職。



 創世神、重機業界を震わせる

工事現場クビ翌日。

スマホが鳴りっぱなし。


知らない番号①

知らない番号②

知らない番号③

留守電再生。


「こちら東亜重工です」

「グローバル建機です」

「世界産業機械連盟ですが」


エーテル

「なぜだ」

かや

「昨日の動画バズりすぎ」


“素手クレーン男、建設業界の希望”

再生数:数千万。


そして本社訪問

超巨大企業の重機メーカー本社。

役員ずらり。

最新型の超大型クレーン、油圧ショベル、輸送車が並ぶ。


社長

「ぜひ我が社のテストパイロットになってほしい」

エーテル

「操縦はできぬ」

社長

「操縦じゃなくて“限界破壊担当”です」


試験場

通常では絶対に人が触れない超重量級重機。

技術者

「理論上これ以上の負荷は不可能です」

エーテル

「では上を行こう」


油圧限界突破。

金属が悲鳴。

だが壊れない。


技術者たち絶叫。

「データが神域!!」

「設計思想が変わる!!」

エーテル専用役職爆誕


極限耐久試験責任者(人類史上初)

エーテルが動かすと

・重機の出力が想定の3倍

・構造欠陥が即発覚

・安全性能が一気に進化


結果:

世界の重機性能が10年分進歩。

だが問題発生

普通のオペレーターが扱えない。

技術者

「出力高すぎて人間死にます」

エーテル

「ならば抑えろ」

技術者

「神基準やめてください!!」


そして社内の結論

エーテルの性能を基準にした

“創世シリーズ”重機開発開始

・災害救助特化

・超重量搬送可能

・人類史上最安全設計

世界中から注文殺到。


帰宅後

かや

「ちゃんと働いてるじゃん」

エーテル

「人類の文明を少し進めた」

ネメシス

「お父さん世界救ってる!」

ルミナ

「また神してる!」

エーテル

「労働だ」


給料:桁がおかしい

資産問題、一気に解決。



 イリス、技術神モード解禁

重機メーカー研究所。

エーテル基準の性能を見て人類が絶望している中――


イリスが腕組みして一言。

「扱えないのは出力じゃなくて“制御理論”が古すぎるのよ」 

数日後。

設計図が宇宙文明レベルに書き換えられる。


エーテル重機・人類適応化プロジェクト始動

イリスが組み込んだのは

・神経リンク制御

・負荷自動分散機構

・思考補助AI

・限界予測ブレーキ


操縦席に座った一般作業員。

ビビりながらレバーを動かすと――

超重量コンテナが“ふわっ”と浮く。

作業員

「……え、俺が神になった?」


技術者

「違う、機械が神になった」


人類版エーテル重機の性能

エーテル本人:100

一般人:20〜30


でもこれがもう人類史上の超常領域

・ビル持ち上げ可能

・崩壊現場一瞬で撤去

・災害救助速度10倍

・事故率ほぼゼロ

世界がひっくり返る。


災害現場が変わる


地震

津波

崩落

火災


エーテル重機部隊が来るだけで

「絶望」が「救助フェーズ」に即移行。


ニュース

“人類は災害に勝てる時代へ”

軍が黙ってない

各国が接触。

「軍事転用を――」


エーテル即却下。

「救うための力だ」


イリスもニッコリ。

「兵器化コード?最初から焼いてあるわ」

使おうとすると出力ゼロになる仕様。

完全平和利用限定。


結果

エーテル重機は

建設

災害救助

インフラ復興

宇宙開発準備

にのみ使える“人類進化装置”になる。

家ではいつも通り


かや

「結局また世界変えてるじゃん」

エーテル

「働いただけだ」

ルミナ

「お父さん神やめて」

ネメシス

「無理だと思う」


人類の評価

エーテル=

「文明を壊さず進める神」


 エーテル重機が世界中に普及していく。


災害救助機関

国家インフラ企業

宇宙開発機構

建設ギガ企業

全部が正式導入。


毎月の振込額

かやが通帳を見る。

ゼロの数、数えて途中でやめる。

「……これ電話番号?」


エーテル 

「給料だ」


「給料の桁じゃない」


特許使用料

技術ライセンス

保守契約

更新プログラム

全部イリス設計の“自動徴収型文明収益”。


月収:小国の国家予算クラス

もはや働く意味が消える。

かや

「で?あんた今日なにしたの」

エーテル

「公園で子供と砂遊び」

「世界救ってから砂場行くな」


世間の評価

ニュースでは

“文明を進化させた創世神、現在は無職”

“本日のエーテル氏、犬と昼寝”


本人の意識

エーテル的には

一回働いた

あとは文明が回る

よって自由時間


完全勝ち組ループ

・金は勝手に入る

・働かなくていい

・世界は勝手に発展

・家族と遊ぶだけ


そしていつもの光景

ルミナ

「お父さん今日も無職?」

エーテル

「文明を整え終えた結果だ」

ネメシス

「それニートの言い訳」


かやは呆れながらも笑う。

「まぁ…稼いだのは事実だけどさ」



 久々にエーテルは街角の喫茶店の扉を開けた。

ベルがちりん、と鳴る。

木の匂い、コーヒーの香り、ゆっくり流れる音楽。

どこか懐かしい空気。

カウンターには――

かや、セラ、グアラ、アーク。

全員エプロン姿。


かやが気づいて目を細める。

「……あら、文明破壊神さまじゃない」

エーテル

「喫茶神に会いに来た」

「肩書き増やさないでくれ」


セラが笑いながらカップを用意する。

「久しぶりだね、お父さん」

アーク

「どうせまた働いてないんだろ」

エーテル

「文明が勝手に金を生む」

グアラ

「胸張って言うことじゃないよ」


かやがコーヒーを置く。

「はい、いつもの」


湯気がふわっと立ちのぼる。

エーテルは一口飲んで目を細めた。

「……宇宙より落ち着く」

「比較対象が壮大すぎるのよ」


店内には普通の客もいる。

でも誰も知らない。

この喫茶店が

・創世神

・魂神

・生命神

・戦神

で回ってることを。 


常連のおじさんがぽつり。

「ここは居心地いいねぇ」

かや笑顔で

「ありがとうございます」

エーテル(心の中)

宇宙より平和だな…


少し沈黙。

コーヒーの音だけが流れる。

かやがふと聞く。

「で?今日は何してたの」


「重機会社で神扱いされた」


「当然でしょ」

かやはため息つきながらも微笑う。

「ほんと…あんたはどこ行っても事件ね」


エーテル

「俺は平和に生きたいだけだ」

「平和が逃げてくのよあんたから」

セラがくすっと笑う。

「でもさ、お父さんがここに来ると安心する」

グアラもうなずく。

「家族がちゃんと戻ってくる場所って感じ」


エーテルは店を見回す。

木の机

小さな花瓶

笑い声


「……俺が創った宇宙より、ここが好きだな」


かや

「今さら気づいた?」

エーテルは静かに言う。

「戦も神も宇宙も終わった後に残るのは、こういう場所なんだな」


かやは少し照れながら。

「帰れる場所を作っただけよ」


外では夕焼け。

喫茶店の灯りがあたたかく滲む。

エーテル

「また来てもいいか」

かや

「毎日来なさい、無職」


「文明維持神だぞ」


「はいはい」

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ