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久世家戦記・現  作者:
宇宙編
33/59

第二十二部 創生の戦争、その先へ

 母艦の会議室。

巨大な円形ホログラムに、無数の星と勢力図が映し出されていた。

エーテルは中央に立ち、静かに口を開く。

「五日後、宇宙戦争が起きる」


一瞬で空気が凍った。

ざわめく空軍幹部たち。

冗談だと思う者はいない。エーテルが言う時点で“確定未来”だからだ。


アストラ総司令が立ち上がる。

「敵は……ネメシス残党か?」


「いや」


エーテルはホログラムを切り替える。

無数の星が赤く染まっていく。

「スター・ドミニオンだ。

反エーテル思想を掲げた星々が、軍として統合された」


息を呑む音が会場に広がる。

「規模は?」と副官。


エーテルは淡々と答える。

「宇宙空軍の最低10倍以上。

さらに旧ネメシス兵器を再稼働させている」


沈黙。

誰かが小さく呟いた。

「……勝てるのか?」


その言葉に、エーテルは初めて視線を上げた。

「勝つしかない」

静かだが、圧倒的だった。


かやが一歩前に出る。

「でもこれは、ただの戦争じゃない」

「星の思想そのものがぶつかる戦い。

“神に従う宇宙”か、“自分で進む宇宙”か」


ルミナが小さな拳を握る。

「私たちは、選ばせたいだけ。

支配じゃなくて、生き方を」


アストラは深く息を吐き、膝をつく。

「宇宙空軍は……創生軍に全面協力する」


一斉に幹部たちも跪いた。

「我々の艦隊、兵、技術、すべてを預けます」


エーテルはしばらく黙ってから言う。

「命を賭ける戦いになる」

「それでも来るか?」


アストラは即答した。

「あなたが宇宙を守った。

今度は我々が守る番です」

ホログラムに次々と同盟星の艦隊が表示されていく。

数は少ない。

だが意思は強い。


ジンが静かに言う。

「小さな連合だが……魂は銀河最大だ」


エーテルは最後に宣言する。

「これより創生軍、正式に宇宙戦争態勢へ入る」

「五日後――

スター・ドミニオンとの最終戦争が始まる」


かやはエーテルの手を握った。

「一緒に帰ろう。みんなで」

エーテルは小さく笑う。

「ああ。必ずな」

宇宙は、静かに嵐の前の沈黙へ入っていった。


 

 決戦当日。

宇宙は、異様なほど静かだった。

創生軍、宇宙空軍、そしてエーテル派として集った各星の艦隊。

それらが形成する防衛ラインは、確かに整然としていた。

艦影は美しく、意思は一つに束ねられている。


――だが。

前方宙域に映し出された光景を見た瞬間、

誰もが言葉を失った。

星海を覆い尽くすように広がる、黒い艦列。

幾重にも、幾重にも重なり合う艦隊。

戦艦、要塞級母艦、旧ネメシス時代の禁制兵器群。


スター・ドミニオン。

反エーテル派によって再編された、銀河最大規模の軍勢。

数だけで言えば――

創生軍側の百倍。


ホログラムが冷酷に数値を表示する。

「敵艦数、推定二百五十万」

「対してこちらは……二万強」

誰かが喉を鳴らす音が、通信越しに響いた。


宇宙空軍の若い兵が、震える声で呟く。

「……勝負に、なりません」


だが、エーテルは黙って前を見ていた。

艦橋に立つその背中は、かつて創生の時代に

無数の星を見送ってきた“守護者”のものだった。


「数は、ただの現象だ」

その声は、静かで低い。

「意思を持たない数は、

恐怖を増幅させるだけの影にすぎない」


スター・ドミニオン艦隊が動く。

一斉に展開される砲門。

空間が歪み、星の光が引き裂かれていく。

敵側通信が、全宙域に流された。


『創生神エーテル』

『お前の時代は終わった』

『神に縋らぬ宇宙など、混沌しか生まぬ』

『我々が秩序を与える』


その言葉に、創生軍側の一部がざわつく。

恐怖。迷い。

そして、かつて神に従って生きてきた星々の記憶。


かやは、エーテルの隣で静かに言った。

「……この宇宙は、怖がってる」

エーテルはうなずく。

「だからこそ、見せる必要がある」


ルミナが一歩前に出る。

小さな背中だが、声ははっきりしていた。

「数が多いから正しいなんて、誰が決めたの?」


沈黙。

次の瞬間――

スター・ドミニオン艦隊の先頭母艦が、ゆっくりと砲撃準備に入る。

それは“威嚇”ではない。

殲滅宣言だった。


アストラ総司令が歯を食いしばる。

「全艦……迎撃準備……!」


だが、まだ撃てない。

この一撃が、宇宙の未来を決めると、全員が理解していた。

エーテルは、静かに創生エネルギーを解放する。


艦橋の照明が、白く、淡く、星の色へと変わっていく。

「ここから先は――」


彼は、創生軍すべての通信回線に言葉を流した。

「生き方の戦争だ」

「神に従うか」

「自分で選ぶか」

「答えは、今日決まる」

宇宙が、ついに動き出す。



 砲撃が――始まった。

スター・ドミニオン艦隊の最前列が一斉に発光する。

次の瞬間、宇宙そのものが砕けたかのような光の奔流が走った。

無数のエネルギー砲。

粒子崩壊兵器。

星を沈めるために作られた旧ネメシス級殲滅兵装。

それらが雨のように降り注ぐ。


「迎撃!迎撃しろ!!」

宇宙空軍の防衛シールドが展開されるが――

一秒も持たなかった。


光がぶつかった瞬間、

防衛層は紙のように破れ、艦隊を直撃する。


爆炎。

破片。

通信の悲鳴。


「第三艦隊、消失!」

「左翼壊滅!救難信号――途絶!」

「母艦アルシオン、被弾!航行不能!」


数字が狂ったように減っていく。

十万単位で消える艦影。

それでも敵はほぼ減らない。

まるで海に石を投げているようだった。 


スター・ドミニオンは間隔を詰め、第二波、第三波を重ねる。

休むことなく、慈悲なく。


創生軍側は必死に反撃するが――

撃ち落としても、

その向こうからさらに何百隻も現れる。

「倒しても……倒しても終わらない……!」


誰かの声が涙混じりに震えた。

巨大母艦級が前進し、

主砲がゆっくりとエネルギーを収束させる。

「来るぞ……」


次の一撃は、艦隊ごと消し飛ばす規模だった。

――撃たれた。


光が一直線に走り、

創生軍の中央戦線がまるごと消失。

そこにあったはずの艦も、兵も、空間ごと蒸発した。

宇宙に“穴”が空く。


誰も声が出なかった。

ホログラムに表示される戦力比。

敵:99.8%健在

味方:すでに40%消失


開始から、わずか数分。

アストラの手が震える。

「……こんなの、戦争じゃない」

「処刑だ……」


スター・ドミニオン側から再び通信。

『見たか、創生神』

『これが神なき秩序だ』

『数こそが正義だ』

『抵抗は無意味』


艦隊がさらに包囲を狭めてくる。

逃げ場は、ない。

兵士たちの顔に浮かぶのは恐怖だけだった。

その時――

かやが小さく息を吸った。

「……このままだと、全滅する」


ルミナは拳を握りしめる。

「誰も守れない……」


沈黙の中、

エーテルだけが、まだ動かなかった。

まるで――

この地獄を、あえて見届けているかのように。

スター・ドミニオンの最終包囲網が完成する。

殲滅準備完了の信号が一斉に灯る。

宇宙は、完全に詰んだ。



 宇宙は燃えていた。

味方艦隊は次々と沈み、

通信には悲鳴と断末魔だけが流れ続ける。

ルミナが叫ぶ。

「父上!もう十分でしょ!?このままじゃ――!」


だがエーテルは、動かない。

その瞳は怒りでも迷いでもなく、

覚悟そのものだった。

「……まだだ」


かやが震える声で言う。

「助けられるのに、どうして……」


エーテルは静かに答える。

「ここで俺が創生の力で全てを消せば」

「反エーテル派の星々は“やはり神は支配者だ”と確信する」

「恐怖で従う宇宙は、必ずまた歪む」


遠くで母艦が爆散する。

無数の命が光になって消える。

それでもエーテルは拳を握るだけだった。

「彼らが納得する未来は――」

「神に救われる宇宙じゃない」

「自分たちの意志で勝ち取った宇宙だ」


スター・ドミニオンの通信が再び響く。

『どうした創生神?』

『貴様の奇跡を見せてみろ』

『それとも仲間が死ぬのを見る趣味か?』


エーテルの声は低く、冷静だった。

「違う」

かやの目に涙が溜まる。

「こんなの、あまりにも残酷だよ……」


エーテルは初めて苦しそうに歯を噛みしめる。

「分かってる」

「だがここで俺が支配すれば、この戦争は永遠に終わらない」

「力で黙らせた神は、次の反乱を生むだけだ」

「だから――」


彼は戦場を見渡す。

必死に戦う兵士たち。

恐怖の中でも前に出る艦長たち。

仲間を守ろうと散っていく命。


「この宇宙は、自分の足で立たなければならない」

「神の腕の中じゃなくな」


スター・ドミニオンの最終砲列が展開される。

星を貫くレベルの主砲が、同時にエネルギー収束を始めた。

「この一斉射で終わりだ!」


アストラが叫ぶ。

「全軍……撤退も不可能です……!」


完全な詰み。

沈黙の中、エーテルはゆっくりと息を吐く。

「……ここが、人類と星々の分岐点だ」

「神に救われる宇宙か」

「自分で勝ち取る宇宙か」


そして静かに続ける。

「俺は見届ける」

「彼らが、奇跡なしでどこまで行けるかを」


 

 絶望が戦場を覆い尽くそうとした、その時だった。

スター・ドミニオン軍――

左翼宙域が、まるで削り取られるように消滅していく。

艦隊が爆散する音すら遅れて届くほどの速度。


通信兵が叫ぶ。

「な、なんだあれは!?敵影多数!!ですが……識別不能!」

次の瞬間、宇宙を切り裂くように光の航路が開く。


そこから現れたのは――

銀河を統べる戦術軍団。

スター・レギオン率いる遊撃星群艦隊。


さらに別方向から、

黄金と白銀の光をまとった巨大母艦群。

――ルミナリア軍、本星防衛艦隊。


その中央を突き破るように突撃してくる重装突貫部隊。

――ヴァルガロス・ルミナ親衛隊。


そして最後に、空間そのものを美しく裂いて現れる流線型艦隊。

――ルミエラ軍、女王直轄戦列。


宇宙空軍の通信網が一斉にざわめく。

「援軍……!?」 「こんな規模聞いてないぞ!?」 「まさか……エーテル派の星々が……」


スター・ドミニオン側が初めて動揺する。

『ば、馬鹿な……反エーテル派の星々は制圧したはずだ!』


その通信を遮るように、スター・レギオンの映像が割り込む。

『制圧したつもりだっただけだ』

『エーテルが力で支配しなかった理由を――』

『俺たちは理解した』


ルミナリア軍総司令が続ける。

「神に従ったのではない」

「選んだのだ。エーテルを」


ヴァルガロス親衛隊が咆哮する。

「支配される宇宙などいらん!」

「共に戦う神を選んだだけだ!!」


ルミエラ女王の静かな声が戦場に響く。

「恐怖で従う未来より

意志で進む未来を」

「我々は望んだのです」


スター・ドミニオン軍の陣形が一気に崩れ始める。 


左翼壊滅。

中央動揺。

右翼包囲され始める。

さっきまでの“100倍の物量”が、意味を失っていく。


ルミナが震えた声で言う。

「パパ……みんな……自分で立ったよ……」


エーテルは静かに目を閉じる。

そして初めて、ほんの小さく笑った。

「……ああ」

「これが見たかった」

「神に救われない宇宙の、最初の勝利だ」


かやの涙が零れる。

「エーテル……」


スター・ドミニオン総司令の叫びが響く。

『なぜだ!!なぜ貴様らは神に逆らってまで――!』


エーテルが通信を開く。

「逆らっていない」

「選ばれただけだ」

「恐怖の神ではなく、共に歩く存在をな」


その瞬間、全軍が一斉反撃へ。

宇宙は再び光で満ちていく。


 

 スター・ドミニオン軍の壊滅していく戦線。

爆炎と光の中で、空間そのものが歪む。

その中心から――

黒い重力嵐のようなものが発生する。

宇宙空軍のレーダーが狂い出す。 


「エネルギー反応……惑星級を超えてます!!」 「ち、違う……星が“食われてる”みたいだ……!」


そこから現れたのは、

恒星の破片を鎧のようにまとった巨躯。

腹部には砕かれた星核が脈動している。

低く響く声が宇宙を震わせる。


「久しいな……創生の神エーテル」

「我が名は――

星喰将グラ=ヴェル」

「滅びゆく星々の怨嗟を束ねし者だ」


その背後、空間が次々と裂けていく。

現れる、異形、異能、異質。


スター・ドミニオン幹部級――総力戦投入。

・虚無侯ヴァル=ノクス(存在を消す黒霧の王)

・時裂姫クロノ=レイナ(未来を切り取る刃)

・機界王ギル=ゼクト(惑星兵器の集合意識)

・血宙公ザル=バルド(宇宙そのものを血海に変える狂将)


そして中央に立つグラ=ヴェルが、腕を広げる。

「恐怖で従わぬ星どもよ」

「ならば喰らい尽くしてやろう」


その瞬間。

彼の背後で砕かれた惑星の残骸が一斉に吸い寄せられ、

超巨大重力砲へと変形する。


ルミナリア軍の母艦が警告を上げる。

「直撃すれば星系消滅クラス!!」


スター・ドミニオン幹部たちが一斉に動き出す。

虚無が艦隊を飲み込み

時間の刃が防衛網を切断し

機械惑星群が突撃し

血の嵐が宇宙を染める。

さっきまで優勢だった連合軍が、一気に押し返される。

「これが……幹部級……!」


ルミナが歯を食いしばる。

「こんなの……軍じゃ止められない……!」


グラ=ヴェルが笑う。

「これが“神を否定した代償”だ」

「星は救うものではない――喰らうものだ!!」


そして超重力砲が発射準備に入る。

空間が潰れ、光が引き伸ばされ、

宇宙が悲鳴を上げる。


かやが叫ぶ。

「エーテル!!このままだと――!!」


エーテルはまだ動かない。

拳を握りしめ、震えながら言う。

「……まだだ」

「これは人の戦いだ」


だが――

このままでは本当に宇宙が終わる。

グラ=ヴェルの声が響く。

「さあ創生神よ」

「また星を失うか?」

「それとも――ついに力を使うか?」


 

 戦場は、もはや宇宙ではなかった。

崩壊した銀河の墓場だった。

スター・ドミニオン幹部級の進軍で、連合軍は削られ続けていた。


虚無侯ヴァル=ノクスの黒霧が艦隊を包み、

触れたものは存在ごと溶けて消える。

時裂姫クロノ=レイナの刃が空間を切り裂き、

逃げ道そのものを未来ごと消去する。

機界王ギル=ゼクトの惑星兵器が次々と母艦を踏み砕き、

血宙公ザル=バルドの赤黒い嵐が戦場を飲み込む。


ルミエラ軍、壊滅。

ヴァルガロス親衛隊、消滅。

スター・レギオン艦隊、ほぼ全滅。

宇宙空軍も退路を失う。


通信には悲鳴しか残らない。

「座標が消えた……宇宙が……宇宙が壊れてる……」

「もう逃げられない……」


巨大母艦がグラ=ヴェルの重力砲でねじ切られ、

光と共に沈んでいった。

希望は、音を立てて砕けた。


かやは唇を噛みしめ、震えながら戦場を見る。

「……ここまでなの……?」


ルミナは何も言えず、ただ拳を握りしめていた。


グラ=ヴェルがゆっくりと近づく。

一歩進むごとに星屑が圧縮され潰れていく。

「終幕だ」

「神を否定した宇宙にふさわしい結末だ」


幹部たちが円陣のように包囲する。

逃げ場は無い。

残っているのはエーテルたちと、わずかな残骸だけ。

重力砲が再び唸りを上げる。

宇宙そのものが押し潰され始めた。


かやが声を張り上げる。

「エーテル……!」

ルミナの声は小さく、震えていた。

「……まだ……終わらせないで……」


だがエーテルは動かない。

俯いたまま、拳を強く握りしめている。

身体は創生光を帯び始めているのに、解放しない。

まるで――耐えている。 


グラ=ヴェルが嘲る。

「何だその沈黙は?」

「神が恐怖に縛られているのか?」


空間圧縮が限界に達する。

星屑が悲鳴を上げて砕け散る。

あと数瞬で全てが消える。

それでもエーテルは動かない。


かやは必死に叫ぶ。

「お願い……動いて……!」

ルミナは歯を食いしばりながら言う。

「……助けてよ……パパ……」


その声が戦場に滲む。

だがエーテルはまだ一歩も踏み出さない。

ただ低く、震える声で呟いた。 


「……俺が力を使えば」

「また宇宙は恐怖で縛られる」

「それでも……それでもいいのか……」


グラ=ヴェルの砲身が完全に収束する。

絶対破壊が解き放たれようとした、その瞬間――

宇宙は、完全な沈黙に包まれた。



 グラ=ヴェルの重力核が完全収束した。

圧縮された銀河が一点に集まり、

それはもう“攻撃”ではなく宇宙の終焉そのものだった。


「消えろ」


その一言と共に、最後の一撃が放たれようとした――

その瞬間。

空間が、割れた。

音も光も超えて、

存在そのものが降りてきた。

まるで宇宙が産声をあげるように。

――二つの魂が、再び世界に刻まれる。


純白の光をまとった少女。

深紅の炎を帯びた青年。


その姿を見た瞬間。

エーテルの膝が崩れ落ちた。

「……セラ……」

「……アーク……」

声が震え、涙が溢れ出す。


ずっと待っていた。

何億年もの孤独の中で、ただこの瞬間だけを。

光の中から、少女が微笑む。

「お父さん……」

青年が一歩前に出る。

「久しぶりだな、父さん」


戦場が凍りつく。

創生エネルギーの質が――エーテルと同格。

グラ=ヴェルが初めて動揺する。

「な……創生反応が二つ……?」

「消したはずの魂が……転生だと……?」


セラがエーテルに抱きつく。

「もう一人で背負わなくていいよ」

「今度は一緒に戦うから」


アークは拳を握る。

「昔みたいに守られる側じゃない」

「俺たちも、創生の守護者だ」


エーテルの涙が止まらない。

「……生きて……戻ってきてくれたのか……」


セラは優しく頷く。

「何度生まれ変わっても」

「私たちはお父さんの子だよ」


アークがグラ=ヴェルを睨みつける。

「さぁ――終わらせようか」

「父さんの後悔の時代を」


宇宙が震える。

三つの創生核が共鳴し始める。

星々が再び光を取り戻していく。

グラ=ヴェルは本能的に理解した。

「馬鹿な……創生が三柱など……」 


エーテルはゆっくり立ち上がる。

涙を拭い、初めて迷いのない瞳で前を向く。

「俺は力を恐れていた」

「だが――守るための力なら、使う」


セラとアークが並ぶ。

「一緒にね」

「家族でな」


創生エネルギーが銀河を塗り替える。

希望が、宇宙に再点火する。

そしてエーテルは宣言する。

「これが――創生の家族だ」



 グラ=ヴェルの重力核が再起動しようとした、その刹那。

戦場の空気が――変わった。

破壊の気配が消え、

代わりに春のような生命の鼓動が宇宙を満たす。


誰もが感じた。

死んだはずの星々が――息をし始めている。


「……これは……?」


スター・ドミニオン軍も、創生軍も、全員が空を見上げる。

そこに。

翠と金の光を纏った存在が、静かに降臨する。

長い髪が銀河のように揺れ、

足元には無数の生命紋が広がっていく。


エーテルの瞳が見開かれた。


「……グアラ……」

生命神――創生三女。


グアラは優しく微笑む。

「遅れてごめん、お父さん」

「命を取り戻す準備をしていたの」


彼女が両手を広げた瞬間。

戦場全体に巨大な生命陣が展開される。

円環が重なり、星座のような紋章が無数に浮かび上がる。


そして――

砕け散った母艦が光を帯びて再構成を始める。

爆散した戦艦が、

沈黙した兵士たちが、

消えた魂までもが――

次々と蘇生していく。

「……生き返ってる……」

「死んだはずの仲間が……!」


宇宙空軍の艦隊が再び動き出し、

ルミナリア軍も完全復活。

スター・レギオンの旗艦が光を放ち再起動。


まさに――死の否定。

グアラは静かに言う。

「命は終わらせるものじゃない」

「繋ぐもの」

「だから私は、倒れたすべてを戦場に戻す」


グラ=ヴェルが震える。

「生命神……だと……」

「そんな反則存在がまだいたのか……!」


セラがふふっと笑う。

「うちの妹、チートだから」

アークも苦笑。

「昔から最強の後方支援」


エーテルは目を閉じて息を吐く。

「……これで誰も失わなくて済む」

グアラがエーテルの隣に立つ。

「今度は守る戦いじゃないよ」

「終わらせる戦い」


 

 戦場に再び静寂が落ちる。

グアラの生命陣で蘇った艦隊が布陣を整え、

スター・ドミニオン軍が本能的に後退する。

その中央。

エーテルの背後に、光が次々と灯っていく。


まず現れたのは――

機械と叡智の光を纏う存在。

レオン。

「科学は破壊のためじゃない」

「守るために進化するんだ」


無数の創生式兵装が宙に展開され、戦場を覆う。

続いて、星図のような回路をまとった女性。

イリス。

「技術は希望に変換できる」


宇宙空間そのものを書き換えるように防衛フィールドが広がる。

その隣に、均衡の気配。

ナポリネス。

「戦争は感情で起こり、理で終わらせる」

敵味方のエネルギー配分が操作され、

スター・ドミニオン側だけが急激に消耗し始める。


そして――

黒い創生エネルギーが渦巻く。

かつて歪み、今は贖罪を選んだ存在。

ネメシス。

「俺の過ちは、俺が終わらせる」

スター・ドミニオンの制御システムが次々と崩壊していく。


次に静かに浮かぶ光の陣。

メクル。

「宇宙は数式で救える」

星間軌道が再計算され、敵軍の進軍ルートがすべて封鎖される。


そして最後。

眩いほど純粋な創生光。

ルミナ。

「お父さんが守った宇宙を、私も守る」

彼女の光が味方すべてを強化し、恐怖を消していく。


――創生神域、完全集結。


エーテルが振り返り、家族を見る。

「皆、来てくれたか」

セラが微笑む。

「当たり前でしょ。家族なんだから」

アークは拳を鳴らす。

「さあ、宇宙を取り戻そうぜ」

グアラが静かに頷く。

「命は、ここで終わらせない」

レオン、イリス、ナポリネス、ネメシス、メクル、ルミナも並ぶ。

――創生十神。


スター・ドミニオン軍が震え始める。

「……神が……家族で来た……」

「勝てるわけが……」


エーテルの声が銀河に響く。

「これは侵略じゃない」

「再生だ」

「創生軍、全軍――進め」



 銀河を覆っていた恐怖が、希望へと反転する。

創生一家とエーテル派軍が前線に展開し、

その正面にはスター・ドミニオン軍幹部たちが並ぶ。


星喰将グラ=ヴェルを中心に、

銀河破壊級の存在が次々と姿を現す。

宇宙が軋む。

空間そのものが戦場になる。


グラ=ヴェルが重低音で笑う。

「神ごっこは終わりだ、創生の残党ども」


その瞬間――

アークが一歩踏み出した。

踏み込みだけで時空が割れ、

次の瞬間には幹部級一体が銀河の彼方へ吹き飛ぶ。

「まず一人」


レオンの機械群が星雲のように展開。

光線・重力圧縮・時空固定兵装が一斉に発動し、

三体の幹部が同時に封殺される。

「科学は神を超える」


イリスが指を鳴らす。

戦場そのものの法則が書き換えられ、

スター・ドミニオン軍の攻撃は自壊し始める。

「旧時代の戦争システムは、ここで終わり」


ナポリネスの均衡操作が発動。

敵のエネルギーが味方へ流れ込み、

エーテル派軍の艦隊が一斉に覚醒強化。

「戦争は数式で制圧できる」


ネメシスが黒き創生エネルギーを解放する。

かつて自分が作り上げた破壊技術を、

今度は破壊するために使う。

幹部級の兵装網が崩壊していく。

「俺の罪は、俺が終わらせる」


メクルの星図陣が完成。

敵幹部たちの未来軌道がすべて封鎖され、

逃走・奇襲・時間跳躍――すべて不可能になる。

「詰みよ」


そしてルミナ。

創生の純光が戦場全体を包み、

味方の恐怖・疲労・損耗が完全に消える。

「みんな、負けないよ」


最後にエーテル。

宇宙が彼の呼吸に合わせて脈打つ。

「これは戦争じゃない」

「修正だ」


エーテルが手を掲げた瞬間――

銀河そのものが巨大な創生陣となる。

幹部級たちの存在が、

“宇宙に不要なエラー”として認識され始める。 


グラ=ヴェルが初めて表情を歪めた。

「貴様……何者だ……」

エーテルは静かに答える。

「創生そのものだ」



 戦場は静まり返っていた。

スター・ドミニオン幹部たちは膝をつき、

だが誰一人として死んでいない。

艦隊も崩壊していない。

ただ――戦えなくなっていた。 


エネルギーは奪われていない。

兵器も壊されていない。

それでもすべてが停止していた。


グラ=ヴェルが震える声で叫ぶ。

「なぜ殺さぬ!!

なぜ支配しない!!

勝者なら宇宙を掌握できるはずだ!!」


エーテルは静かに歩み寄る。

「それをやった存在を、俺は知っている」


ネメシスの方を見る。


「支配は恐怖を生み、

恐怖は必ず反逆を生む」

「宇宙は循環する。

力で押さえた平和は必ず戦争になる」


エーテルは両手を広げた。

創生エネルギーが銀河へ溶け込んでいく。

だがそれは破壊ではなく――再設計だった。


宇宙そのものに新しい法則が刻まれる。

・星同士が他星の生命エネルギーを奪えなくなる

・軍事拡張が一定以上進むと宇宙構造が自動停止

・争いは拡大する前に必ず均衡へ戻される 


戦争が“成立しない宇宙”へと変わっていく。

スター・ドミニオン軍の兵たちは気づく。

武器を持っても引き金が引けない。

憎しみを抱いてもエネルギーが集まらない。

戦争という選択肢そのものが、

宇宙から消えていた。


グラ=ヴェルは呆然と笑う。

「……俺たちは負けたんだな」

エーテルは首を振る。

「違う」

「勝ち負けを終わらせた」


セラがそっと言う。

「これで誰も、神にも人にも怯えなくていい」

アークが拳を緩める。

「戦わなくていい宇宙か…悪くねぇ」


エーテルは全軍に響く声で告げる。

「誰も裁かない、誰も支配しない、誰も殺さない」

「ただ、宇宙を“争えない構造”に戻した」 


スター・ドミニオンの星々も理解する。

エーテルは王にならなかった。

支配者にもならなかった。

ただ宇宙の守護者として役割を終わらせた。 


戦争は終わった。

英雄の勝利ではない。

覇王の統治でもない。

争いという概念そのものの終焉だった。



 宇宙戦争が終わってから数日後。

創生軍と同盟艦隊は巨大宇宙ステーション〈オルビス中枢環〉に集結していた。


修理を受ける艦船。

再会を喜ぶ兵士たち。

泣きながら抱き合う星の民。


――宇宙は、生きていた。


その中央デッキで、ジンが静かに立っていた。

「ここまでだな」


エーテルたちを見て、少し照れくさそうに笑う。

「欠片もほぼ戻った。

宇宙はもう自分で進める」

「これ以上、俺が案内する必要はない」


かやが一歩前に出る。

「ジン…一緒に来ないの?」

ジンは首を振った。

「俺はこの宇宙の管理側だ」

「星を巡る者じゃなく、守る者として残る」


ルミナがぎゅっとジンの服を掴む。

「また会える?」


「もちろんだ」

ジンは優しく頭を撫でる。

「宇宙は広いけど、今は繋がってる」

「いつか必ず会う」


エーテルは静かに頭を下げた。

「ありがとう、ジン」

「お前がいなければ、この旅は始まらなかった」


ジンは鼻で笑う。

「神に礼言われるとか一生の自慢だな」

「でもさ――」

少しだけ真剣な目になる。

「エーテル、お前はもう“宇宙の創造主”じゃない」

「“生きてる存在”だ」

「それを忘れるな」


エーテルは小さく微笑んだ。

「ああ」


発着ゲートが開く。

光の向こうに、地球行きの航路。


ジンは最後に手を振る。

「帰れ、旅人たち」

「ここから先は――宇宙の日常だ」


宇宙船がワープに入る。

星々が流れ、静寂が包む。


そして――

青い惑星が見えてくる。

地球。

かやが窓の外を見て呟く。

「帰ってきたね…」

エーテルはそっと肩を抱く。

「ただいまだ」


大気圏突入。

雲を抜けて、広がる海と街。

未来都市の光と、変わらない山々。

宇宙を救った存在たちは――

また一つの星に帰ってきた。

戦争のない場所へ。

ただ生きるための世界へ。


そしてエーテルは静かに思う。

宇宙を救うより、

この星で笑うほうがずっと難しくて尊い、と。


 

 

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