第十七部 守護の影で、旅は続く
朝の校庭はやけに騒がしかった。
大きなバッグを抱えた生徒たちが走り回り、バスが何台も並んでいる。
――修学旅行。
ルミナ、ミラ、ルークも完全装備。
だがその少し離れた場所で、異様に落ち着かない存在がひとり。
エーテルである。
腕を組み、眉間にしわ。
「……本当に五日も離れる必要があるのか」
かやが呆れ顔で言う。
「普通の行事だよ。たった五日」
「五日は長い」
「宇宙単位だと一瞬でしょ」
「親としては長い」
完全に保護者モード。
ルミナが笑いながら振り返る。
「大丈夫だよパパ、すぐ帰ってくる」
「何かあったら即呼べ」
「修学旅行だってば!」
そこへナポリネス登場。
教師用ジャケットを着ているのに神の風格が消えてない。
「創世神よ、安心するがいい」
エーテル即反応。
「ナポリがついているなら確率的に安全だな」
「数学的にも危険はほぼゼロだ」
かや
「その“ほぼ”が怖いんだけど」
ミラが小声でルークに。
「絶対ナポリ先生、トラブル呼ぶよね」
ルーク
「うん、呼ぶ」
出発前の点呼。
担任
「では修学旅行、行ってきます!」
生徒たち
「いってきまーす!」
バスに乗り込む子供たち。
ルミナが窓から手を振る。
「パパー!」
エーテルも全力で振り返す。
「無事でな!」
「楽しんで!」
「寝る前は連絡を!」
「ちゃんと水分を!」
「怪我するな!」
バス発車。
かやがため息。
「過保護すぎ」
「守護者だからな」
バスが見えなくなった瞬間。
エーテル、静かになる。
「……五日」
「重たい沈黙やめて」
一方バス内。
ルミナ
「パパ絶対五日間ソワソワしてるよ」
ミラ
「今頃もう未来視してそう」
ルーク
「夢に出てきそう」
そこへナポリネスが前から振り返る。
「安心したまえ諸君
この旅程は完璧に計算されている」
全員
「それが一番不安です先生」
そして誰も知らない。
この修学旅行先――
とんでもない“異常エネルギー反応”が眠る土地だということを。
エーテルだけが、胸の奥で微かにざわつきを感じていた。
「……嫌な予感がする」
バスは未来都市トーキョーを抜け、
山と海に囲まれた自然保護エリアへ向かっていた。
ミラが窓に張りつく。
「うわぁ……地球ってこんな綺麗なんだ」
ルーク
「宇宙より色あるね」
ルミナは目を輝かせる。
「冒険始まりそう!」
ナポリネスが前方で腕を組む。
「ここは“古代地殻エネルギー層”の上にある観測地だ
かつて地球が進化する際の力が眠っている」
生徒たち
「先生それ観光地の説明じゃないよね?」
到着。
森・洞窟・渓流・浮遊岩まである不思議エリア。
ガイドが説明する。
「この森ではたまに“光る霧”が出ますが無害です」
ルミナ
(絶対イベント発生フラグ)
森の探索ミッション開始
班ごとに分かれて冒険型フィールドワーク。
ルミナ・ミラ・ルークは同じ班。
地図にはこう書いてある。
【エネルギー源を探し出せ】
まるでゲーム。
突然――
森の奥で光が走る。
地面がふわっと浮き上がる岩。
ミラ
「重力…変じゃない?」
ルーク
「ワープの前兆と似てる」
ルミナ
「冒険だーーー!」
奥へ進むと洞窟発見。
中は青白く光る水晶だらけ。
中心には小さな浮遊球体。
まるでミニ欠片みたいな存在。
ナポリネス(通信機越し)
「興味深い……地球が自然発生させた準エーテル核だ」
「だが安心しろ、暴走はしない」
生徒
「先生それ絶対暴走フラグ!」
すると球体がふわっと浮き上がり――
周囲に幻の動物たちが現れる。
光の鹿
空を泳ぐ魚
花から生まれる鳥
ファンタジー世界。
ミラ
「わぁ……」
ルーク
「地球すご……」
ルミナ
「パパに見せたい……」
球体が優しく震え、文字のような光が浮かぶ。
《ようこそ 地球の記憶へ》
どうやらこれは――
地球自身が残した“進化のアルバム”。
子供たちは
恐竜の時代
大地が生まれた瞬間
最初の森
を体験するホログラム冒険へ突入。
怖くない。
ただひたすらロマンとワクワク。
そして最後に表示される言葉。
《君たちの未来も この星が見守っている》
帰り際、球体は光となって消える。
ミラ
「冒険だったね」
ルーク
「人生イベント」
ルミナ
「修学旅行最高!」
その頃――
エーテル、突然胸を押さえる。
「……地球が喜んでいる」
かや
「なにその感覚」
「子供たちが星と繋がった」
未来技術で強化された修学旅行専用・深海探索バス。
かつて人類が数回しか到達できなかった
世界最深部 チャレンジャー海淵へ――
今回は“観光レベル”で潜れる時代になっていた。
バスがゆっくり沈んでいく。
窓の外は青から紺へ
紺から漆黒へ。
ミラ
「光が……飲み込まれてく……」
ルーク
「宇宙より深い感じする」
ルミナ
「ここが地球の底……」
ナポリネス(冷静)
「深さ約11,000メートル
エベレストを逆さにしても余る世界だ」
生徒
「先生それ普通に怖い」
だがバスは安定して進む。
外壁には古代プレートの断層。
何千万年分の地球の歴史が縞模様のように刻まれている。
突然——
闇の中で巨大な影が動く。
発光する深海生物の群れ。
空を飛ぶように泳ぐクラゲ。
光る魚の大河。
ミラ
「うそ……生きてる星だ……」
そして到達。
チャレンジャー海淵・最深部
ライトが照らす先には
底が見えないほど深い谷。
地面からゆっくり湧き上がる青白い光。
ルミナが息をのむ。
「……ここ、生きてる」
ナポリネスが驚く。
「まさか……地球深層エネルギー脈だ
創生から存在する原始の力」
その瞬間。
海底から巨大な幻影が浮かび上がる。
地球そのものの記憶が形を取った存在。
山が隆起する瞬間
海が生まれる瞬間
生命が芽吹く瞬間
が一気に流れ込む。
子供たちはただ見つめる。
怖くない。
圧倒されるだけ。
そして静かなメッセージ。
《深さは恐怖ではない
命を守る揺り籠だった》
バスが浮上を始める頃。
ルーク
「地球って……優しいな」
ミラ
「強いけど、あったかい」
ルミナ
「パパの宇宙と同じだね」
遠くでエーテルが胸を押さえる。
「……地球が子供たちを認めた」
かや
「また神みたいなこと言ってる」
「でも今回は当たってる」
深海の闇がうねった瞬間。
巨大生命体――アビサリオンが完全に姿を現す。
海底が山のように隆起し、青白い発光が走る。
生徒たちが息を呑む。
「で……でか……」
「映画じゃん……」
その瞬間。
ナポリネスが静かに立ち上がった。
シートベルトを外し、バスのハッチを開く。
警告音が鳴り響く。
《外部水圧:危険領域》
ミラ
「せ、先生!? 外出たら死ぬよ!?」
ルーク
「潜水服もなしで無理だって!」
ナポリネスは振り返りもせず、淡々と言う。
「心配するな」
「これは“除去対象”だ」
そのまま――
深海へ一歩踏み出す。
水圧が彼の周囲だけ歪み、近づけない。
まるで見えない空間が守っているかのように。
アビサリオンが咆哮する。
深海全体が震動。
《侵入者――排除》
ナポリネス、ため息。
「授業中に出てくるな」
「迷惑だ」
次の瞬間。
彼の背後に幾何学模様の神紋が展開。
均衡神権限・存在修正発動。
指を軽く振る。
それだけ。
アビサリオンの巨体が
“崩れる”のではなく――
最初から存在しなかったかのように分解・消失。
水も揺れない。
衝撃もない。
ただ、いなくなる。
深海は元の静寂へ。
生徒たち
「……え?」
「ボス戦……終わった?」
「開始1秒……?」
ナポリネスがバスへ戻りながら一言。
「地球の深層エネルギーが暴走して生まれた異常個体だ」
「放置すれば海流も地殻も狂う」
「だから除去した」
ルミナ小声。
「パパより怖い先生かも……」
ナポリネス
「聞こえているぞ」
エーテル(遠くから察して)
「やりすぎだナポリ……」
深海事件のあと。
何事もなかったかのように修学旅行バスは浮上。
生徒たちはまだ現実感がなく、ざわざわしている。
「さっきのって夢だよな?」 「先生ちょっと強すぎじゃない?」
ナポリネスは涼しい顔で席に戻っている。
夕方。
到着したのは――
ごく普通の海沿い旅館。
木造、暖簾、温泉マーク。
どこからどう見ても
平和そのもの。
ルーク
「うわー!やっと普通!」
ミラ
「さっきまで深海だったのに急に和風!」
ルミナ
「お布団ふかふかだー!」
ナポリネス(安心)
「よし……ようやく平穏だ」
その瞬間。
旅館の柱がミシ……と鳴る。
誰も気づかないレベルで。
エーテル(遠くで寒気)
「……嫌な予感がする」
夜。
夕食。
天ぷら、刺身、鍋。
完全に修学旅行テンション。
生徒
「先生これうまっ!」
ナポリネス
「静かに食え」
その頃――
旅館の地下深く。
封印札だらけの巨大空洞。
そこに刻まれた文字。
《地脈歪曲核・収容区画》
古代存在の脈動。
ドクン……ドクン……
表では平和。
地下では災厄レベル。
ルミナがぽつり。
「ねぇ……この旅館、ちょっとあったかくない?」
床下で何かが目覚める音。
エーテルは廊下の窓越しに、旅館の灯りを見つめていた。
胸の奥に走る、創生の感覚。
「……この場所、ただの建物じゃない」
かやも同じ方向を見て、静かにうなずく。
「うん。空気が“重い”。生きてるみたい」
二人はその場で姿を変える。
創生エネルギーを抑え、
どこにでもいそうな一般人の夫婦へ。
・エーテル → 眼鏡にパーカーの優しそうなお兄さん
・かや → 帽子とコートの落ち着いた女性
完全に観光客。
フロント。
「本日一室だけ空いておりますが…」
エーテル
「ぜひ、お願いします」
(声だけは普通の人間)
こうして――
同じ旅館に潜入成功。
部屋に入った瞬間。
畳がわずかに脈打つ。
ドクン。
ドクン。
まるで心臓。
かや(小声)
「……やっぱり下に何かいる」
エーテル
「しかもかなり古い。創生くらいかもしれん」
その頃、子供たちは無邪気。
ルミナ
「温泉いこー!」
ミラ
「先生も早く!」
ナポリネス
「走るな!」
平和の皮をかぶった封印施設。
エーテルは窓から月を見る。
「多分この旅館――地脈の上に建てられてる」
「封印が弱まれば…この一帯ごと吹き飛ぶ」
かやがそっと手を握る。
「じゃあ、起きる前に止めよ」
床下から
ズ……ズズ……
巨大な“何か”が身じろぎ。
湯気の立ちこめる大浴場。
ルミナは肩まで湯に浸かって、ふぅっと息を吐いた。
「地球のお風呂、気持ちいいねぇ……」
ミラは髪をまとめながら笑う。
「星の温泉よりやさしい感じする」
ルークはのぼせ気味で縁に掴まっていた。
「長く入りすぎだって……」
その瞬間。
ゴゴゴゴ……!!!
旅館全体が大きく揺れる。
湯が波打ち、桶が転がる。
「きゃっ!?地震!?」
「え、え、やばくない!?」
「落ち着け、しゃが――」
――だが。
数秒で、ピタリと止まった。
まるで最初から何もなかったかのように。
しばらくしても、警報も騒ぎも起きない。
ルミナは首をかしげる。
「……もう終わった?」
ミラ
「変だね、余震もない」
ルーク
「夢だったんじゃない?」
その頃。
旅館の地下深く。
封印の間。
砕け散った石柱。
割れた結界紋。
そして――跡形もなく消えた“怪物”。
地面には創生エネルギーが淡く光っている。
エーテルは片膝をついて息を整えていた。
「……思ったより深く眠ってたな」
かやは袖で額の汗を拭う。
「でも起きる前でよかった。
完全覚醒してたら、この温泉ごと消えてたよ」
崩れかけた空間が静かに収束していく。
まるで何事もなかったかのように、元の地盤へ戻る。
エーテルは小さく笑う。
「さっきの揺れが“地震”に感じただろうな」
「実際は――怪物の心臓を潰した衝撃だが」
かや
「子供たちは?」
エーテル
「無事。今ごろ温泉でキャッキャしてる」
二人は顔を見合わせて安心する。
かやがぽつり。
「……こういうの、昔もよくあったね」
エーテル
「守って、何もなかった顔して日常に戻る」
そして静かに階段を上がる二人。
再び“普通の夫婦の宿泊客”へ。
その頃温泉。
ルミナ
「ねえねえ、なんかさっき揺れたよね?」
ミラ
「うん。でもすぐ止まった」
ルーク
「この旅館、守られてる感じしない?」
誰も知らない。
この旅館の下で
宇宙級の災厄がたった今消えたことを。
何事もなかったように。
エーテルとかやは廊下を歩き、普通の宿泊客の顔に戻っていた。
浴衣姿。
静かな足取り。
まるでさっき宇宙級の災厄を潰してきた存在とは思えない。
かや(小声)
「ほんとにバレてないよね……?」
エーテル
「揺れは“地震”で処理される。人間の認識は便利だ」
その時。
――コツ、コツ、コツ。
後ろから足音。
振り返ると。
廊下の柱の影から、ぬっと出てくる影。
ナポリネス。
腕を組み、無表情。
「……父上」
エーテル
「なぜここにいる」
ナポリネス
「地震の震源が“真下”だった」
一瞬の沈黙。
ナポリネスは床を軽く踏む。
すると創生エネルギーの残滓が、薄く波紋のように浮かび上がった。
「結界干渉痕あり」
「高位存在の戦闘反応」
「封印破壊と再構築の痕跡」
かや
「……え、そこまで分かるの?」
ナポリネス
「数学は嘘をつかない」
エーテルは小さくため息。
「隠す意味がなくなったな」
ナポリネスは静かに近づく。
「何が出た」
エーテル
「創生以前の封印種。
この星を食い潰す前に処理した」
ナポリネスの目が細くなる。
「……地球にもまだ残っているということか」
エーテルは頷く。
「しかも複数だ」
「ネメシス以前の“原初災厄”だ」
廊下の窓の外では、何も知らず夜景がきらめいている。
普通の旅館。
普通の修学旅行。
普通の平和。
その裏で、宇宙レベルの地雷原。
ナポリネスは小さく笑った。
「なるほど」
「だから父上は“静かに守る”を選んだ」
かや
「子供たちには絶対見せたくないからね」
ナポリネス
「……了解した」
「だが次からは私も呼んでほしい」
「処理効率が上がる」
エーテル
「修学旅行だぞ」
ナポリネス
「災厄討伐つき修学旅行ですね」
かや
「やめなさい」
遠くからルミナたちの笑い声が響く。
何も知らず、幸せな時間。
ナポリネスは静かに言う。
「この平和を保つためなら」
「私はいくらでも計算しよう」
エーテルは優しく微笑んだ。
「頼もしい息子だ」
廊下に静寂が戻る。
災厄の気配は消え、ただ旅館の柔らかい灯りだけが揺れていた。
エーテルはふっと表情を緩めると、
ナポリネスの前に立ち――
そのまま頭に手を置いた。
くしゃ、くしゃ。
「よく気づいたな」
「さすが私の息子だ」
ナポリネス、完全フリーズ。
「……」
「……」
「ち、ちょ、父上!!」
耳まで真っ赤。
「な、撫でるな!ここは公共空間だ!!」
「私は子供ではない!!」
エーテル(自然体)
「何歳でも息子は息子だ」
かや(ニヤニヤ)
「はいツンデレ発動〜」
ナポリネス
「ちがっ……これは生理反応というか威厳保持というか!!」
その瞬間。
角を曲がってきた修学旅行生数人。
生徒A
「……え?」
生徒B
「え、先生……?」
生徒C
「頭撫でられて赤くなってる……?」
完・全・沈・黙。
エーテル:創世神オーラそのまま
ナポリネス:耳真っ赤でぷるぷる
かや:楽しそう
生徒A(小声)
「数学の先生……親に甘えてる……」
生徒B
「ギャップえぐ……」
生徒C
「強キャラ感あったのに……」
ナポリネス
「ちがう!!これは!!」
「これは親子間のスキンシップであってだな!!」
エーテル
「ほら照れるな」
さらに撫で撫で。
ナポリネス
「やめろォォォォ!!!」
生徒たち全員ドン引きしながら静かに後退。
「見なかったことにしよう……」
「神々の世界って深い……」
かや大爆笑。
「ナポリ、完全にかわいい枠に落ちたね」
ナポリネス
「父上ぇぇぇ……!!」
エーテル(満足)
「いい反応だ」
翌朝。
旅館前に集合する修学旅行一行。
まだ少し眠そうな生徒たちの中で――
ひとりだけ異様にテンション低い人物がいた。
ナポリネス。
(昨夜の撫で撫で事件が脳内再生中)
「……私は神だ……均衡神だ……可愛い枠ではない……」
小声で自己暗示。
そこへガイドが元気よく叫ぶ。
「本日はニーホン最速!最大加速Gを誇る
《迅雷ドラゴン》へ向かいまーす!!」
生徒たち歓声。
ルミナ
「ジェットコースター!?乗るー!!」
ミラ
「速いやつだよね!」
ルーク
「落ちるやつだ!」
エーテル(遠くで聞いてて一瞬固まる)
「……速さ?」
かや
「嫌な予感しかしないんだけど」
遊園地到着
目の前にそびえる異常構造物。
ほぼ垂直落下
ほぼ音速加速
途中で一回ひっくり返る狂気設計
生徒
「うわああああ!!」
「これテレビで見たやつ!!」
ナポリネス(内心)
(こんなもの…神にとってはただの移動速度だ)
(だが教師として威厳を見せねばならん)
エーテルは腕組みして観察。
「なるほど……あれが人類の恐怖娯楽か」
かや
「その分析いらないから」
いざ乗車
前列:ルミナ・ミラ・ルーク
後列:ナポリネス(強制同行)
ナポリネス
「私は別に怖くなど――」
安全バー降下。
カチャン。
発車。
……ゴゴゴゴゴ
加速。
ナポリネス
「…………」
(速い)
(思ったより速い)
(いや普通に速い)
次の瞬間。
0→限界速度。
ナポリネス
「うおおおおおおおおおお!!!!???」
神の悲鳴、遊園地に響き渡る。
垂直落下。
「やめろおおおおおお!!!」
「均衡が!!均衡が崩れるううう!!!」
生徒たち大爆笑。
「ナポリ先生叫んでる!!」
「昨日の甘えキャラからホラーキャラに進化した!」
ルミナ
「お兄ちゃんうるさーい!」
回転。
風圧。
視界消失。
ナポリネス
「父上ぇぇぇ助けろぉぉぉ!!!」
遠くで見てるエーテル。
真顔。
「……思ったより効いているな」
かや
「神でも三半規管には勝てないんだ」
終了後
ナポリネス、ベンチで魂抜けてる。
目が虚ろ。
「……私は……宇宙の均衡を司る存在……」
「だが……あれは……禁忌だ……」
生徒
「ナポリ先生弱点:ジェットコースター確定」
ルミナがジュース差し出す。
「はいお兄ちゃん」
ナポリネス
「……ありがとう……」
普通に受け取る。
生徒たち
「仲良しかよ!!!」
エーテル満足そうに頷く。
「よし、家族の絆は順調だ」
かや
「ナポリの威厳、完全に死亡しました」
再び列に並ぶ一行。
次の便。
前列に座ったのは――かや。
隣はミラとルーク。
後列にはまだ顔色の悪いナポリネス(再搭乗)。
エーテルは乗らない。
代わりに、発車位置の横で空を見上げていた。
かや
「え、エーテル乗らないの?」
エーテル
「私は外から見る」
「お前の笑顔が見たいからな」
ナポリネス
「嫌な予感しかしないんだが」
発車。
加速。
かや
「わーーー!!!」
楽しそうな声。
風で髪がなびく。
その瞬間。
コースターと並走するように――
エーテルが飛ぶ。
しかも軽やかに。
時速数百キロ。
余裕の表情。
かやのすぐ横の空。
ニコニコしながら飛んでる創世神。
エーテル
「かや、楽しいか?」
かや
「なんで横にいるの!?飛ぶな普通!!」
ルミナ
「パパずるーい!!」
ミラ
「空走ってる!」
ルーク
「あれ人じゃない!」
観客一斉騒然。
「え!?人飛んでる!!」
「新アトラクション!?」
「CG!?ドローン!?」
急降下ゾーン
コースターが垂直落下。
かや
「きゃああああ!!」
(でも笑顔)
エーテル、同時にスッと降下。
重力完全無視。
風すら操ってかやに風圧が来ないよう調整。
エーテル
「怖くないようにしている」
かや
「過保護すぎる!!」
後列。
ナポリネス。
「父上が横を飛んでるのが一番怖い!!」
「現実感が崩壊するぅぅぅ!!!」
回転ループ
コースターが宙返り。
エーテルもくるっと回転しながらついてくる。
しかも優雅。
バレエみたい。
かや大爆笑。
「なにそれ!!飛び方までかっこいいの反則!!」
エーテル(満足)
「よし、笑っている」
終了
ブレーキ。
停止。
かや降りてくる。
頬が赤くて目がキラキラ。
「めちゃくちゃ楽しかった!!」
エーテル即抱き寄せる。
「その顔が見られたなら並走した価値がある」
周囲の生徒&観光客
「神かよ……」
「いや神だろ……」
ナポリネスは地面に座り込む。
「……私はもう二度と高速系には乗らん……」
ルミナ
「じゃあ次は観覧車行こ!」
ナポリネス
「それは地面固定だから許可する……」
ルミナが指をさした先。
「観覧車だよ〜!」
――と見せかけて。
入口にでかでかと書かれていた。
【超・呪怨級 お化け屋敷】
煙モクモク。
悲鳴ビュンビュン。
血糊(もちろん作り物)ベッタベタ。
ナポリネス、表情は完全に無。
腕組み。
余裕の神。
「……ふん、幼稚な演出だ」
だが。
膝がガクガクガクガクガクガク。
地震レベル。
かや
「ナポリネス、めっちゃ震えてるけど」
「風だ」
「建物の冷気だ」
「宇宙規模の気圧差だ」
意味不明な言い訳連打。
ルミナ
「じゃあ一番前いこ!」
ナポリネス
「待て待て待て待て待て待て待て」
入場
扉がギギィィ……と開く。
暗闇。
鈴の音。
誰かの笑い声。
ミラ
「怖い〜!」
ルーク
「冒険だ!」
ルミナはワクワク。
ナポリネス、歩幅がミリ単位。
「……これは戦闘ではない」
「心構えが必要なだけだ」
声が震えてる。
第一の幽霊出現
壁からズルッと女の霊。
「うらめしやぁぁぁぁ」
ナポリネス
一瞬でエーテルの背後にワープ。
マント掴み。
「父上の後ろは安全地帯だ」
エーテル
「均衡神の行動ではないな」
「戦略だ!!」
第二のゾーン
天井から血だらけ人形が落下。
ナポリネス
「うわあああああああ!!」
ついに叫ぶ。
完全に素。
かや
「今の神の悲鳴だよね?」
「言ってない!!!」
クライマックス
最後の部屋。
床から大量のゾンビ風キャスト。
四方から包囲。
ナポリネス、限界突破。
「これは許容範囲を超えている!!!」
無意識に神力発動。
床が割れかける。
壁が軋む。
照明が一瞬ブラックアウト。
スタッフ悲鳴。
「やばいやばいやばい!!」
エーテル即封印。
「壊すな」
「……すまない」
しょんぼり。
外に出た後
ナポリネス。
膝から崩れ落ちる。
「私は戦場では死なぬが……」
「ホラーでは死ねる……」
ルミナ大爆笑。
「ナポリ兄よわ〜い!」
ナポリネス
「笑うな第二創世神!!」
かやはくすくす笑いながらエーテルの腕に掴まってる。
「でも楽しかったね」
エーテル
「お前が笑っていたから成功だ」
ナポリネス(小声)
「次は本当に観覧車にしろ……」
ルミナが満面の笑みで叫ぶ。
「観覧車だよー!」
看板をよく見ると小さく修正されている。
【貫乱射】
〜360度から矢が飛んでくる回避型アトラクション〜
※先端ゴム製・安全設計
かや
「……字、物騒じゃない?」
エーテル
「平和な遊園地とは思えぬ」
係員が説明する。
「中に入ると回転する円形ステージに立っていただき、四方八方から高速で矢が発射されます!避ければポイントゲットです!」
「当たっても痛いだけです!」
ナポリネス
「それはもう戦場では?」
「なぜ遊園地で弾幕を?」
ルミナ
「楽しそう!!」
スタート
ゴォォンと扉が閉まる。
床がゆっくり回転。
次の瞬間――
ババババババババ!!!
矢の嵐。
本当に弾幕。
ミラとルークはキャーキャー言いながらしゃがむ。
かやは軽やかにステップで回避。
エーテルは一歩も動かず、全部見切って躱す。
(ほぼ時間停止レベル)
そして――
ナポリネス。
最初は余裕。
「ふん、この程度の軌道――」
次の瞬間。
顔面スパーン
肩スパーン
腹スパーン
「ぐっ…!これは数が多すぎる!!」
完全に集中戦闘モード。
神の反射神経で避けまくる。
だが床が回る。
視界が狂う。
「くっ、角度補正が……!」
ゴム矢ヒット連打。
ぺちぺちぺちぺち!!
ルミナ大笑い。
「ナポリ兄ピンボールみたい!」
ナポリネス
「笑うなぁぁぁぁ!!」
エーテル
「均衡神が娯楽で処刑されているな」
かや
「ほっぺ真っ赤だよ」
ラスト30秒
発射速度MAX。
ほぼ機関銃。
ナポリネス、ついに叫ぶ。
「これは訓練ではない!!処刑だ!!!」
しかし避けきる。
最後まで立ってる。
ポイント表示。
エーテル:9999(規格外)
かや:9800
ルミナ:7500
ナポリネス:7200(全身ヒット痕あり)
外に出たナポリネス。
ボロボロ。
「私は神だぞ……」
「なぜ娯楽で戦争をする……」
ルミナ
「でも一番楽しそうだったよ?」
「……否定できない」
エーテル、肩を叩く。
「良い修行になったな」
「遊園地で修行をさせるな!!!」
ルミナがまた無邪気に指差す。
「じゃあ次はこれ!」
そこに表示された文字。
【超音速ホログラム・ラン EXTREME】
〜戦闘機と1km競争〜
※完走者ほぼゼロ
スタートライン
今度は一直線に伸びる1kmホログラム回廊。
途中には音速突破ゾーン、ブースト領域、衝撃波演出つき。
ジェット機は既にエンジン全開。
観客席、防護シールド展開。
カウントダウン。
3
2
1
ドォォォン!!!
初速から地面がえぐれる。
ジェットは衝撃波を撒き散らしながら飛翔。
ナポリネスは地を砕きながら疾走。
200m
まだ互角。
ナポリネス
「直線勝負なら神速で追える!」
400m
ジェット、第一段ブースト。
一気に距離を取る。
ナポリネス
「くっ……!」
600m
ナポリネス覚醒。
重力を踏み潰す走り。
衝撃波を利用して空中ステップ。
差が縮まる。
800m
ホログラムが音速突破演出発動。
周囲が歪む。
ジェットがさらに加速。
ラスト200m
ナポリネス、歯を食いしばる。
「ここで負けるわけには……!」
全神力解放。
身体が光を帯びる。
ゴール直前
一瞬、並ぶ。
観客絶叫。
だが――
ジェットが最後の瞬間ワープ加速。
結果
ジェット:勝利
ナポリネス:0.03秒差(歴代最速人型記録)
ナポリネス、完全に地面に倒れ込む。
「……遊園地で……1km音速走……誰得だ……」
ルミナ拍手。
「すごーい!!ほぼ勝ち!」
「だから“ほぼ”で慰めるな!!」
エーテル満足。
「持久力も鍛えられたな」
かや
「完全に修行扱いじゃん……」
観客はもう尊敬モード。
「神様レベルだ……」
「遊園地の域超えてる……」
ナポリネス(息切れ)
「……次は普通の観覧車にしろ……」
ルミナ
「え〜?次は宇宙ジェット10kmだよ!」
「やめろォ!!」
スタートライン。
再びジェット機のエンジン音が唸りを上げる。
エーテルは無言でかやを片腕に、もう一方でルミナを抱き上げる。
かや
「ちょ、ちょっと……本気?」
ルミナ
「わーい!たかいたかーい!」
係員
「え、参加者それで……?」
エーテル
「問題ない」
ナポリネス
「それは“走る姿勢”ではないだろう……」
カウントダウン。
3
2
1
ジェット機、発射。
轟音と衝撃波。
観客が目を覆う。
その瞬間――
エーテルの姿が、消えた。
いや、正確には
「動いた」のが知覚できなかった。
ゴール。
すでにそこに、エーテルは立っていた。
呼吸一つ乱さず、かやとルミナを抱いたまま。
ルミナ
「もうついたの?」
かや
「……風、感じてないんだけど」
数秒遅れて、
ジェット機がゴールを通過。
システム沈黙。
観客沈黙。
係員
「……えー……」
モニター表示。
【計測不能】
【対象:エーテル】
【参考:ジェット機より先着】
ナポリネス
「……競争になっていない……」
夜叉
「移動じゃないな、あれは“到達”だ」
難波
「最初から結果があった系か」
※あとから着いてきた2人
エーテルは静かにルミナを下ろす。
「怖くなかったか?」
ルミナ
「ぜんぜん!
パパ、空より早いね!」
その一言で、
大人組、全員ダメージ。
かや(小声)
「……ズルい」
エーテル
「?」
かや
「私も毎回抱っこして」
エーテル
「当然だろう」
観客席、ざわめきが爆発。
「神話……?」
「遊園地の概念壊れた……」
「でも家族連れだ……」
ナポリネス、天を仰ぐ。
「……修学旅行とは……」
係員と観客が、恐る恐るエーテルの方へ集まってくる。
係員
「す、すみません……その……コツ、みたいなものは……?」
観客A
「どうやったらああなるんですか?」
観客B
「体重とか、フォームとか……?」
エーテルは少し考える素振りをして、首を傾げた。
「光より速い速度で走れば、誰でもできる」
――沈黙。
係員
「……ひ、光、ですか?」
エーテル
「うむ。光は遅い」
観客C
「遅い……?」
ナポリネス
「補足していいか。
“誰でも”の定義が、まず人類ではない」
夜叉
「聞く相手を間違えてるな」
難波
「参考にならん参考例だ」
係員が必死にメモを取ろうとして、途中で手を止める。
係員
「えっと……“光より速く”……は、トレーニング的に……」
エーテル
「足りないのは脚力ではない。
世界との距離感だ」
観客
「……???」
かやが小さくため息をつく。
「ごめんなさい。
この人、説明がいつもこんな感じなんです」
エーテル
「事実しか言っていないが?」
かや
「事実でも伝わらなきゃ意味ないの」
ルミナ
「パパはね、
“行きたい所に先に着いてる”だけだよ!」
観客
「……余計わからない……」
その場にいた誰かが、ぽつりと言う。
「……真似しちゃいけないやつだ」
全員、深く頷いた。
係員
「えー……本アトラクションは“一般の方には再挑戦不可”とさせていただきます……」
ナポリネス
「英断だ」
エーテルは首を傾げながらも、かやとルミナの手を取る。
「では次に行くか。
“普通の”遊びをしよう」
夜叉
「その言葉が一番信用ならん」
難波
「この遊園地、今日で伝説だな」
観客たちは去っていく背中を見送りながら、口々に呟く。
「速さって……なんだ……」
「人生観、ちょっと壊れた……」
そして遊園地には、
“光より速く走れと言われた日”
という語り草だけが残った。
ルミナとミラとルークは、きらきらした売店の方へ走っていった。
「おみやげ見てくるー!」
「ぬいぐるみあるかな!」
「甘いのも買おうぜ!」
その背中を見送りながら、かやがふと立ち止まる。
「……あ」
エーテルも同時に顔を上げる。
「……しまった」
二人同時に言ったことで、嫌な予感が確定した。
かや
「お金、渡してないよね」
エーテル
「うむ」
ナポリネス
「うむ、じゃない」
夜叉
「今すぐ止めろ」
だがすでに遅い。
エーテルは空間に手を入れるような動作をして――
ズシン、と重たい音と共に現れたのは、
金の延べ棒。
しかも三本。
ピカピカに輝いている。
エーテル
「これを使え」
ルミナ
「わぁ!きれい!」
ミラ
「重っ!?これおみやげ?」
ルーク
「換金アイテムじゃねぇか!!」
かや
「ちがうちがうちがう!!
それ“お金”じゃなくて“財宝”!!」
ナポリネス
「文明レベルを飛び越えるな!」
ちょうどその瞬間、売店の店員と目が合う。
店員の視線は――
ルミナの腕に抱えられた金塊に釘付け。
店員
「……え?」
店員
「……き、金……?」
後ろの客
「映画の撮影?」
別の客
「強盗?」
かやが光速で回収する。
「すみませんすみませんすみません!!」
エーテル
「価値が足りなかったか?」
かや
「過剰すぎる!!国が動く!!」
エーテルは少し考えて、今度はポケットから普通に財布を出す。
「ではこれで」
ナポリネス
「最初からそれを出せ!」
ルミナは名残惜しそうに金塊を見つめる。
「えー……あれの方が強そうだったのに」
ミラ
「強さで買い物しないからね!」
ルーク
「世界観が違いすぎるんだよ!」
エーテルは小さく頷く。
「学んだ。
この星では財宝より紙が強い」
かや
「強いとか弱いじゃないから!」
そして売店の隅では、店員が震えながら同僚に囁いていた。
「なぁ……今の見た?」
「見た……金の延べ棒……」
「この遊園地……今日何起きてるの……?」
こうして今日もまた、
エーテル一家は静かに常識を破壊していった。
バスのエンジン音がゆっくりと響き、修学旅行の一行が再び動き出す。
窓から顔を出すルミナ、ミラ、ルーク。
「いってきまーす!」
「おみやげ絶対買ってくるね!」
「またあとで話そうぜ!」
手をぶんぶん振る三人に、周囲の生徒たちもつられて笑顔になる。
エーテルは静かに手を振り返しながら、少しだけ目を細めた。
その横で、かやも胸の前で手を合わせるように見送っている。
かや
「ちゃんと楽しめてるかな」
エーテル
「楽しすぎて帰りたくなくなる可能性はあるな」
かや
「それはそれで問題だよ」
二人で小さく笑う。
バスが角を曲がり、姿が見えなくなるまで、エーテルはその場を動かなかった。
まるで創生神ではなく、ただの“子どもを見送る父親”のように。
エーテル
「危険はもう排した。
あとは思い出を増やすだけだ」
かや
「うん。
失敗も笑い話も、全部宝物になるよね」
少し風が吹き、木々がさわさわと揺れる。
エーテルは空を見上げて、穏やかに言った。
「この数日間くらい、世界は彼らのものだ」
かやはその言葉に、そっと頷いた。
かや
「いっぱい笑って、いっぱい驚いて、
帰ってきたらまた騒がしくなるね」
エーテル
「それが一番だ」
二人は肩を並べたまま、しばらく無言で空を眺めていた。
戦いも神々も宇宙もない、
ただ“家族を想う時間”。
そしてかやが小さく微笑む。
「残りの日にちは――思いっきり楽しんでほしいね」
エーテル
「ああ。無事で、笑顔で帰ってくれば、それでいい」
こうして修学旅行は続いていく。
子どもたちの冒険を胸に、
エーテルとかやは静かに見守る側へ戻ったのだった。




