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久世家戦記・現  作者:
宇宙編
29/59

第十八部 問題しか起きない新学期

 修学旅行、四泊五日。

長かったようで、終わってみれば一瞬だった。

駅のホームに、見慣れた三つの影が現れる。

少しだけ背伸びしたような足取りで、けれど相変わらず騒がしい。


「ただいまー!」


一番最初に声を上げたのはルミナだった。

両手いっぱいにお土産袋を抱えて、こちらを見つけると迷いなく走ってくる。

エーテルは一歩前に出て、自然にその勢いを受け止める。

抱き上げるでもなく、ただ額に手を置いて無事を確かめるように。


「……おかえり」

それだけで十分だった。


少し遅れて、ミラとルークも並ぶ。

二人とも、来た時よりも表情が落ち着いている。


「楽しかった?」

かやがそう聞くと、ミラは少し考えてから、はっきりとうなずいた。

「うん。……すごく」


ルークは言葉より先に、ぎっしり詰まった写真データを端末で見せてくる。

深海、遊園地、温泉街、夜の街灯、友達の笑顔。


どれも“守られていた”痕跡ばかりだった。

エーテルはそれを黙って眺め、何も言わない。

だが、ほんの一瞬だけ、肩の力が抜ける。

帰り道。

三人は修学旅行の話を止めない。


誰が転んだ、誰が泣いた、誰が強がった。

どれも小さな事件で、だからこそ大事な記憶だった。


屋敷に戻ると、靴が脱ぎ散らかされる音。

懐かしい日常の音。

ルミナは一息つくと、突然エーテルの袖を引いた。

「ねえ。

 また、行っていい?」


その問いは、次の修学旅行のことじゃない。

“外の世界”そのものの話だった。

エーテルは少しだけ目を伏せてから、答える。

「……ああ。

 帰ってくるなら、何度でも」


その言葉に、ルミナは満足そうに笑った。

こうして修学旅行は終わった。

だが――

子どもたちの旅は、確実に始まっていた。



 入学式が、つい昨日のことみたいだった。

制服が少し大きくて、

校門の前で緊張して立ち尽くしていたあの日。


それが今では――

笑って、走って、喧嘩して、泣いて、仲直りして。

気づけば全部が思い出になっていた。


ミラは体育館の天井を見上げながら、静かに息を吐く。

「……早すぎるよ」


ルークも隣で小さく笑った。

「最初は長いと思ってたのにな」

楽しい時間ほど、消えるのが早い。

それを二人はちゃんと知ってしまった。


一方ルミナは――

椅子に座りながら、ぎゅっとスカートを握っていた。

「もっと……一緒にいたかった」


ぽつりと落ちたその言葉は、誰に向けたわけでもない本音だった。


授業も

給食も

帰り道も

修学旅行も

全部が宝物で、まだ終わってほしくなかった。


――だが、終わりは来る。

壇上に校長が立ち、式が始まる。

卒業証書授与。

一人ずつ名前が呼ばれ、歩き出す足音が体育館に響く。


ミラの名前。

凛とした返事。


ルークの名前。

少し照れた返事。


ルミナの名前。

「……はい!」

一番大きな声だった。


証書を受け取るその背中は、

もう“守られる子供”じゃなくなっていた。

席に戻ったルミナの目には涙が溜まっている。

「楽しかった……ほんとに……」


ミラがそっと肩に触れる。

「終わりじゃないよ」

ルークも頷く。

「ここまで来たってだけだ」


それを聞いて、ルミナは涙を拭いて笑った。

「うん……次も、楽しくする!」


その瞬間――

体育館の後ろで見守っていたエーテルとかやの視線が重なる。


誇らしくて、

少し寂しくて、

それでも嬉しい。


子どもたちは確実に前へ進んでいた。

入学式が昨日のようで、

卒業式が一瞬で来てしまったほどに。

それだけ――

幸せな時間だったという証だった。



 卒業式が終わって、校庭に人があふれていた。

写真を撮る子たち。

泣きながら抱き合う子たち。

笑って「またね!」と言い合う声。


その中で――

ルミナだけが動けずにいた。

ぎゅっとランドセルを抱えて、唇を噛みしめる。

「……やだ」


小さく、でもはっきりした声。

「別れたくない」


ミラもルークも、クラスのみんなも。

この場所も、この時間も。

全部が大好きだったから。


「なんで終わるの……ずっと一緒がよかった……」

目からぽろぽろ涙が落ちる。


その様子を見て、かやが静かに近づいた。

しゃがんで、ルミナと目線を合わせる。

「ルミナ」


優しく名前を呼んでから、微笑む。

「終わりじゃないよ」


ルミナは首を振る。

「でも……みんなバラバラになるもん……」


かやは少しだけ笑って言った。

「中学校があるよ」


「……ちゅうがく?」


「うん。新しい学校。新しい友達。新しい毎日」


ルミナは涙目のまま聞く。

「また…楽しいの?」


「もちろん」

かやは胸に手を当てて続ける。

「小学校が楽しかったあなたなら、中学校も絶対楽しくできる」


「でも……ここが好きなの……」


その言葉に、かやは少しだけ抱きしめた。

「好きな場所が増えていくのが、大人になるってことなんだよ」

「忘れるわけじゃない。増えるの」


ルミナはしばらく黙って、震える声で言う。

「……じゃあ、ここも心の中に入れていく?」


「そう」


「いっぱいになっても?」


「いっぱいになるほど、幸せなんだよ」


その言葉に、ルミナの涙がゆっくり止まっていく。

「……中学校、こわいけど」


「うん」


「でも……行ってみる」


かやはにっこり笑った。

「それでいい」

その後ろでエーテルが腕を組んで誇らしそうに見ていた。

別れは痛い。

でもそれは、前に進めている証。


ルミナは最後に振り返って、大きく手を振った。

「また会おうね!!」


みんなが叫び返す。

「絶対だよーー!!」

その声が空に響いて、

ひとつの時代が静かに終わった。


 

 中学校の制服に袖を通した三人は、鏡の前に並んで立っていた。

ルミナ。

ミラ。

ルーク。


そして――

沈黙。


「……」

「……」

「…………」

一番最初に口を開いたのはルークだった。

「……なぁ」


ミラがちらっと見る。

「なに?」


ルークは自分の頭の上に手を置く。

「俺ら……小学校のときと高さ変わってなくね?」

ルミナも急いで自分の頭を触る。

「……ほんとだ」

ミラも壁の身長メモを見る。

「昨日と同じ数字……」


三人同時に固まる。


ルミナ

「え?」

ミラ

「え?」

ルーク

「えぇ!?」


ルミナは慌てて背伸びする。

「今伸びる!今伸びるはず!」

ミラもつま先立ち。

「成長期って急に来るんでしょ!?」

ルークは壁に押し付けて測り直す。

「頼むから1ミリでいいから増えててくれ!」

……変わらない。


沈黙。


ルミナが小さくつぶやく。

「……私たち、止まってる?」

ミラの顔が青くなる。

「え、まさかずっと子供のまま?」

ルークが焦る。

「ヒゲも生えない未来!?」


そこへ通りかかったかや。

「なに騒いでるの?」


ルミナがすがるように聞く。

「かや!背が伸びないの!」

ミラ

「昨日と同じ!」

ルーク

「成長してない!」


かやは一瞬固まり――

次の瞬間、苦笑した。

「あぁ……それね」


三人同時。

「それね???」


かやは優しく説明する。

「あなたたち、普通の人間より成長速度がかなりゆっくりなの」


「ええええええ!?」


「だから一気に伸びるんじゃなくて、長い時間をかけて伸びるタイプ」


ルミナは不安そうに聞く。

「じゃあ……大人になれない?」


「なるよ。ちゃんと」

「ただ、人よりゆっくり」


その瞬間――

三人、同時に安心してへたり込む。

「よかったぁぁぁ……」

ルーク

「俺一生チビかと思った」

ミラ

「想像しただけで怖い」

ルミナ

「中学生なのにランドセル背負い続けるとこだった……」


かやは笑う。

「でもね」

「その分、長く一緒にいられるってことでもあるよ」


三人は顔を見合わせる。

ルミナがにこっと笑う。

「じゃあゆっくりでいい」

ミラ

「急がなくていいね」

ルーク

「成長マラソン型ってことだな!」


その様子を遠くで見ていたエーテル。

腕を組んで満足そうに一言。

「……可愛い悩みだな」

完全に親目線だった。


 

 入学式当日。

未来都市トーキョー中学の校庭には、新入生と保護者で溢れていた。

ルミナ、ミラ、ルークも制服姿で並んで立つ。


「中学生かぁ……」

「なんか急に大人っぽいね」

「でも背はそのままだけどな」


そこへ――

校舎の正門が開く。

ズン……ズン……と地面が揺れる。 

新任教師入場。

ざわつく会場。


まず現れたのは白衣をなびかせた球体ロボ。

「本校・科学教師、レオンでぇぇぇす!!!」


いきなり股間からコンセント出して火花。

保護者悲鳴。

生徒困惑。


続いて静かに歩いてくる気品ある女性。

「国語担当、風夏です。言葉は心を映します」


一瞬で会場が静まり返る。

もうカリスマ教師オーラ。

その横から軽やかに現れる華陽。 


「歴史と公民を担当します。世界の仕組み、全部教えてあげるよ?」


国家運営できそうな笑顔。

保護者の何人か震える。


そして――

ドン!!!!!

校庭にヒビ入るレベルで着地。

夜叉と難波。

「体育担当・夜叉だ」

「同じく難波だ。逃げても無駄だぞ」


生徒一斉に後ずさり。

これ体育じゃなくて修行場。


最後にゆっくり歩いてきた青年。

腕組みして一言。

「数学担当、ナポリネスだ」


黒板も無いのに空中に数式ホログラムが展開。

「証明は感覚で理解しろ」

生徒「??????」


校長、マイクを震えながら持つ。

「えー……今年の新任教師は……とても個性的です……」

個性的で済ませていい次元じゃない。


ルミナが小声で。

「……これ私たちのせいだよね?」

ミラ

「絶対そう」

ルーク

「神ファミリー専属学校じゃん……」


その瞬間。

ナポリネスがこちらを見る。

ニコッ(超優しい)

「ルミナ、ミラ、ルーク。今日から楽しい学びの時間だ」


三人背筋ピーン。

完全に父の同僚ポジションの圧。

風夏も微笑む。

「困ったことがあったらすぐ言ってね」

華陽

「進路相談はいつでも歓迎」

夜叉

「体力足りなかったら放課後な」

難波

「逃げんなよ?」

レオン

「電池替えも受付中だぞ!」 


新入生たちの心の声:

(この学校、絶対普通じゃない)


こうして始まった――

神教師フルコンボ中学校生活。

平和に終わるはずがなかった。


 

 第一回・科学教師レオンの実験授業

チャイムが鳴る。

教室に入ってくるのは――

丸い球体ボディに細い手足のレオン。


床をコロコロ転がりながら黒板前へ。

「諸君!今日のテーマは――エネルギー変換だぁぁぁ!」


股間パネルがパカッと開く。

中から単一電池。


生徒全員「え????」


「これはかつて宇宙文明を支えた――単一電池!」

ざわざわ。


「先生それコンビニで売ってるやつ!」


「黙れぇぇぇ!!進化した単一電池だ!!」

スイッチON。

次の瞬間。

教室の電気が全部落ちる。

プロジェクター、黒板ホログラム、空調、窓のシールド。


全部レオンにつながる。

レオン発光。

「見よ!!!エネルギー一極集中!!!」

眩しすぎて生徒失明しかける。


ルミナ小声。

「これ授業というより兵器だよ……」

ミラ

「停電ってレベルじゃない……」

ルーク

「市ごと落ちてない?」


するとレオン、

「では実験その2!!」

今度は股間から手回し発電機がニュッ。

「誰か回してみろぉ!」


生徒恐る恐る回す。

ギギギギギ…

ズゴォォォン!!!


教室の机が浮く。

重力おかしくなる。

ノートが宇宙遊泳。

黒板が天井へ激突。

校舎揺れる。


外の体育館で夜叉が叫ぶ。

「……今の衝撃、隕石か?」

難波

「いやレオンだな」


教室では完全パニック。

「浮いてる浮いてる!!」

「物理法則どこ行った!?」

「先生止めてぇぇぇ!!」


レオン大満足。

「素晴らしいエネルギー効率だ!」

さらに回そうとする。

その瞬間。


ガシッ。


誰かがレオンを掴む。

ナポリネスだった。

額に青筋。

「……レオン。ここは中学校だ」

空間が凍る。

「エネルギー出力を宇宙戦艦基準にするな」

「授業用に下げろ」


レオンしゅん……と光量が豆電球レベルに。

教室元通り。

机落ちる。

重力復活。

生徒全員床に転がる。


沈黙。

数秒後。

「……今日の授業は以上だぁ」

レオン満足げ。


校内放送。

「ただいまの揺れは地震ではありません。新任教師による授業です」


保護者から苦情電話殺到。


ルミナぽつり。

「……科学って怖いね」

ミラ

「いやこの学校が怖い」

ルーク

「俺転校したい」


こうして伝説の初回実験授業は終わった。

以後、生徒の間で生まれた言葉。

“レオンの授業=災害指定”


 

 昼休み。

さっきまで災害指定授業が起きてたとは思えないほど、

校庭は平和そのもの。


ルミナはミラとルークと一緒に鬼ごっこ。

「待てぇぇぇミラ〜!」

「無理無理!ルミナ速すぎ!」

「ルークそっち行ったぞー!」


笑い声が風に混ざる。

普通の中学生そのもの。

ベンチではクラスメイトたちがざわざわ。

「ルミナちゃん足速すぎじゃない?」

「運動部入ったら全国行けるだろ…」

「てかさ、今日の授業のロボ先生やばくなかった?」

「命の危機感じたわ」


その一方――

校庭の一番端っこ。

誰も近寄らない危険区域。

レオンとイリスが地面に広げた謎の部品山。


火花バチバチ。

煙もくもく。


レオン

「イリスよ!この反重力コイルと熱圧縮炉を組み合わせれば!」

イリス

「その前に強度計算してないでしょ、爆発するわよ」

レオン

「爆発は進化だ!」

イリス

「それは事故」


すでに一回小爆発。

ボンッ!

砂煙。


通りがかった教師が見て即Uターン。

「……見なかったことにしよう」


イリスがレンチ片手にレオンの頭叩く。

「学校で兵器作るなって言ったでしょ!」


「これは教育用マシンだ!」


「どう見ても宇宙戦争用!」


その時。

ルミナが鬼ごっこで全力疾走してきて急ブレーキ。

「わっ!イリス先生とレオン先生また爆発してる!」


ミラ

「昼休みでも危険なの!?」

ルーク

「この学校ほんとどうなってんの……」

レオン振り向いてドヤ顔。

「安心しろルミナ!今回は校舎は吹き飛ばぬ!」

イリス

「基準がそこなのやめなさい」

ルミナ苦笑い。

「……ほどほどにしてね?」


その一言でレオンが感動。

「ルミナに心配されたぁぁぁ!!エネルギー効率300%アップ!」


イリス

「アップさせるな」

また小爆発。

ボン。


遠くで遊んでた生徒が叫ぶ。

「また始まったぞーーー!」

「昼休み災害警報だ!」


それでも校庭中央は平和。

笑顔のルミナたち。

端っこだけ戦場。


ミラぽつり。

「この学校さ……」

ルーク

「日常と終末が同時進行してるよな」


 

 午後、三時間目。

社会(歴史)。

教室の黒板にはでかでかと書かれている。


「戦国時代 ― 群雄割拠と覇権」


教壇に立つのは、

顔が良すぎて生徒の集中力を根こそぎ奪う男――華陽。


華陽

「今日は戦国時代をやる。特に“現場の判断”が歴史をどう動かしたかだ」

女子生徒(小声)

「声も顔も反則なんだけど……」

男子生徒

「先生、絶対アイドルだったでしょ」


華陽、さらっと流す。

「教科書三十六ページを開け。……その前に」


一拍置いて、扉を見る。

「今日は“特別教材”を用意した」


ガラッ。

教室のドアが開く。

入ってきたのは――

・夜叉(体育教師・圧が化け物)

・難波(同じく体育教師・筋肉が歴史)

・凛(家庭教師・静かな威圧)


そして最後に――

エーテル(久世)


教室、凍る。

「……え?」

「誰?」

「なんか来た……」


華陽、平然。

「こちら、戦国時代の“本人達”だ」

生徒一同

「?????」


夜叉、腕組みしたまま低い声。

「……授業だと聞いた」

難波

「ワシは聞いとらんぞ、こんな晒し者」

「黙って立ってればいいんだろ?」

エーテルは軽く頭を下げる。

「久世だ。……まぁ、よろしく」


その一言で空気がギュンと重くなる。

後ろの席の生徒が震え声。

「な、なにこの人……」

「目が……」

「威圧で息しづらい……」


華陽、黒板にチョークで書く。

「実例①:戦場判断」

「教科書には“巧みな戦略”と書いてあるが、実際はどうだった?」


エーテル、少し考えてから。

「……半分は運だ。

半分は“部下が死なない位置”を探す作業だった」


教室、静まり返る。

生徒

「え、そんな理由……?」


華陽

「教科書には載らん」

難波が腕を組んだまま言う。

「戦はな、賢い奴が勝つんやない。

生き残った奴が勝者になるだけや」

夜叉

「間違えれば、全滅だ」


ルミナ、小さく手を挙げる。

「……じゃあ、英雄って何?」


全員が一瞬エーテルを見る。

エーテルは少し困ったように笑う。

「生き残った後で、

“あいつは英雄だった”と呼ばれる存在だ」


静かに、重い答え。

チャイムが鳴る。

キーンコーンカーンコーン。


華陽

「今日はここまで。

教科書の内容は家で読め」

生徒

「いや今日のほうが教科書だったんだけど!?」


退室する本人達。

廊下に出た瞬間、

教室が爆発する。


「なに今の!?」

「歴史こわっ!!」

「でも……忘れられない授業だった」


廊下で華陽がぽつり。

「……これが“生きた歴史”だ」

エーテル

「次は呼ぶな」

夜叉

「同感だ」


体育。

校庭にはベースが置かれ、黒板代わりのホワイトボードには大きく書かれている。


「種目:野球」


ざわつく生徒たち。

「野球ってあの伝説の…」

「神に勝ったスポーツだよね?」

「英雄・恒一の…!」


笛を吹いたのは――

体育教師・夜叉。

腕を組んだだけで威圧がグラウンドを制圧する。

夜叉

「今日は遊びじゃねぇ。

これは――人類が神に抗った競技だ」


難波も隣でうなずく。

「力だけの勝負やない。

知恵と意志で勝つ戦いや」


そこへ。

校舎の影からゆっくり歩いてくる一人の男。

白いジャージ姿。

だが、ただ者じゃない気配。

生徒たちがざわめく。

「……また来た」

「昨日の戦国の人だよね?」

「なんで体育にもいるの!?」


夜叉が低く言う。

「特別参加だ」

そして一言。

「――英雄と共に戦った男だ」

エーテル(久世)が前に出る。


風に揺れる髪。

静かな目。

「久世だ」

一瞬で空気が張りつめる。

ルミナが目を輝かせる。

「パパ!恒一とやってたやつだよね!」

※エーテルから生まれた存在なのでエーテルの記憶も持っている。


エーテルは少しだけ微笑う。

「ああ。

あいつは最後まで諦めなかった」


難波がボールを放る。

「ほなまずは投球見本や」

夜叉

「エーテル、頼む」


生徒たちがざわつく。

「まさか投げるの?」

「昨日歴史の英雄だった人が?」


エーテルは軽くボールを握る。

助走なし。

フォームも静か。

――だが。


ズドン!!!


空気が裂ける音。

キャッチャー役の難波のミットが後方へ吹き飛ぶ。

土煙。


沈黙。

生徒一同

「…………」

「え?」

「今、音、爆発したよね?」


夜叉、満足げ。

「これが“神と渡り合った球”だ」

エーテルは淡々と。

「だが、強さだけじゃ勝てなかった」

ボールを見つめて続ける。

「恒一は流れを読んだ。

仲間を信じた。

だから人類は勝った」


ルミナが胸を張る。

「恒一さんかっこよかったもん!」

夜叉が叫ぶ。

「全員グローブ取れ!!

今日は“英雄の競技”を身体で覚えろ!!」


練習開始。

生徒たちは必死。

ボールは速い。

転ぶ。笑う。叫ぶ。


だが――

誰一人、手を抜かない。

エーテルはその光景を静かに見つめる。


かやの言葉が頭をよぎる。

「恒一はきっと、こういう未来を守りたかったんだね」

エーテル、ぽつり。

「……ああ。

これが、あいつの勝利だ」


校庭に響く掛け声。

土の匂い。

笑顔と汗。


それはもう戦いじゃなく、

未来そのものだった。


 

 放課後。

家に戻ったルミナ、ミラ、ルークは、畳の上にぺたっと座り込む。

「ただいまー……」


かやが台所から顔を出す。

「おかえり。どうしたの、三人そろってしょんぼりして」


ルミナが膝を抱えて言う。

「ねえ、かや。朔姫。

部活って……なに入ればいいの?」


ミラとルークも顔を見合わせてうなずく。

「今日、みんな楽しそうでさ」

「でも、何が“普通”なのか分からなくて……」


朔姫が腕を組み、少し考えてから笑う。

「なるほどね。

“強いかどうか”じゃなくて、“楽しいかどうか”で悩んでる顔だ」


ルミナがぱっと顔を上げる。

「そう!

強いのはもう分かってるって言われた……」


かやはくすっと笑って、三人の前に座る。

「部活ってね、“得意なこと”に入らなくてもいいんだよ」


「え?」


「やってみたいこと、

ちょっと気になること、

それだけで十分」


ミラが小さく手を挙げる。

「……絵を描く部活、ちょっと楽しそうだった」


ルークも続く。

「僕は、科学部。

あの変な先生……レオン先生いるし」


三人の視線が、自然とルミナに集まる。

「ルミナは?」


ルミナは少し迷ってから言う。

「……最初はね、

運動部かなって思った」

「でも今日、校庭でみんなが笑ってたでしょ。勝ち負けより、一緒にやってるのが楽しそうで」


少し間を置いて、ぽつり。

「だから……

みんなと同じ時間を過ごせる部活がいい」


その言葉に、かやの表情が柔らかくなる。

「それ、すごく大事な理由だと思う」


朔姫も頷く。

「なら答えは簡単だ」

「“迷ったまま、見学しまくる”」


「え、そんな適当でいいの?」


「いいに決まってるでしょ。

人生なんて、ほとんど見学期間なんだから」


ルミナがくすっと笑う。

「じゃあさ、ミラは美術部、ルークは科学部、私は……まだ決めない!」


「うん、それでいい」


かやは三人の頭を順番に撫でる。

「部活はね、

強くなる場所じゃなくて、

“帰りたくなる場所”を見つけるものだから」


その様子を、廊下の向こうで静かに聞いていたエーテルは、何も言わずに背を向ける。


――選ばせる。

――迷わせる。

――それでいい。


それが、

この時代を生きる子供たちの“自由”だと、

誰よりも知っていたから。


 

 放課後。

校舎の端にある古い道場。

剣道部の掛け声が、規則正しく響いていた。

「メーン!」「コテー!」


その少し外――

道場の裏手、誰も使っていない土のスペースで。

エーテルは一人、真剣を振っていた。

ぶん、と空気が鳴る。

竹刀の音とは違う、重く、澄んだ音。


一振り。

二振り。

無駄が一切ない。


構えは低く、足運びは静か。

斬るためではなく、“整えるため”の剣。


「……あれ?」

剣道部の一年生が気づいて、動きを止める。

「先生? あの人……誰?」


顧問が目を細める。

「……近づくな」


剣道部員たちは、なぜか背筋が伸びる。

威圧ではない。

空気が変わっている。

エーテルは、ただ思い出していた。


戦場の朝。

霧。

血の匂い。

仲間の背中。

――剣を振らなければ、生きられなかった時代。


今は違う。

だが、身体は覚えている。

エーテルは剣を止め、軽く息を吐く。

その瞬間。


道場の中から、剣道部主将が外に出てくる。

「……失礼ですが」


エーテルは振り向く。

真剣を下げ、穏やかに。

「何だ?」


「その剣……

もしよければ、一太刀、見せていただけませんか」


エーテルは少し考え、首を振る。

「見せるものじゃない」


「え……」


「感じるものだ」

そう言って、真剣を鞘に納める。

ちょうどその時。


「エーテルーーー!!」

遠くから、かやの声。

「校内で何やってるの!

“真剣”って聞いたんだけど!?」


エーテルは一瞬だけ、困った顔をする。

「……暇だった」


「暇で真剣振る人いる!?」


剣道部一同、固まる。

かやは剣を見て、ため息。

「せめて竹刀にして」


「……軽すぎる」


「そこは妥協して!」


その日以降。

剣道部では密かに噂が流れた。

・道場の外に“剣の化け物”が出る

・見ているだけで姿勢が正される

・顧問が一番ビビってる

そしてエーテルは、

「剣道部の近くに現れる謎の保護者」

として、静かに伝説になり始めるのだった。


 

 夕方の道場。

エーテルは不満そうに竹刀を見下ろしていた。

「……軽い」


「危険だから!」とかやが即ツッコミ。

「学校で真剣振る人、前代未聞だから!」


エーテルは渋々、構える。

風を切る音はするが――やはり物足りない。

そのとき。


「懐かしい音だね、その構え」

聞き覚えのある声。

振り向くと、道場の入口に朔姫が立っていた。

ジャージ姿なのに、立ち姿だけで“剣士”。


「朔姫……」


「久しぶりに稽古、つけてくれる?」


かやが一歩下がる。

「あ、これガチなやつだ」


久々の師弟稽古

二人が向かい合うだけで、空気が張り詰める。

エーテルは竹刀を肩に乗せてため息。

「竹だぞ?」


「条件縛りの方が楽しいでしょ」

朔姫はニッと笑う。


――開始。

一歩目から速い。

カン!!

竹刀同士がぶつかった瞬間、衝撃が道場に響く。


剣道部員たちが一斉に振り向く。

「え、なに今の音……?」

「竹刀だよな……?」


朔姫が低く踏み込み、連撃。

「はっ!はっ!」

エーテルは最小限の動きで全部いなす。

「甘い」


「昔より口が厳しいよ師匠!」

朔姫が一気に距離を詰める。


エーテルの竹刀が――消えたように見えた。

次の瞬間。

朔姫の喉元でピタリと止まる。

完全な一本。


静寂。


剣道部全員、口あんぐり。

「……今の、見えた人いる?」

「無理」

「人間じゃなくね?」


朔姫は息を切らしながら笑う。

「やっぱり敵わないなぁ」


「まだ速さに頼ってる」


「うっ……」


エーテルは優しく竹刀を下ろす。

「だが、いい剣になった」

朔姫の目が少し潤む。

「久々に褒められた」


そこへルミナが走ってくる。

「パパーーー!!今のなに!?

剣がワープした!」


「してない」


「してたよ!」


かやも呆然。

「竹刀でこれって……真剣だったら道場消えてたね」

エーテル、静かに頷く。

「だから竹でいい」

全員いやいやいや


剣道部主将が恐る恐る近づく。

「……あの、もしよければ」

エーテルを見る目が完全に弟子のそれ。

「教えてください!!」


朔姫が即答。

「やめときな」


「えっ」


「この人の基礎、戦場仕様だから」


エーテルが静かに付け足す。

「まず生き残るところからだ」

剣道部一同、無言で後退。


こうして学校には新たな伝説が増えた。

“竹刀で次元を斬る保護者と、その弟子の美少女剣士”


そしてエーテルは――

竹刀でも十分おかしい存在だと、正式に認定された。


  

 道場の空気が、すっと変わった。

エーテルは竹刀を床に立てかけ、剣道部員たちを一瞥する。


「弟子にする条件は一つだけだ」


ざわ、と息をのむ音。


「軽い試験をする。

これを越えられたら――弟子にしていい」


主将が一歩前に出る。

「ど、どんな試験ですか」


エーテルは淡々と言った。

「簡単だ。

俺の“鬼の殺気”に耐えろ」


一瞬、意味が理解されなかった。

次の瞬間だった。

――――――――

ズン

音もなく、圧が落ちた。

空気が重くなる。

肺が押しつぶされる感覚。

背中に冷たい汗が一斉に滲む。


「……っ!」

誰かが膝をついた。

別の誰かは竹刀を落とし、肩で息をしている。

視界が狭まる。


心臓の音だけが異様に大きい。

(なにこれ……)

(試合前の緊張とか、そういうのじゃない……)

“殺気”という言葉の意味を、身体が理解していた。


これは――

向けられたら死ぬやつだ。

エーテルは、ただ立っているだけ。

剣も構えず、声も出さず。

それでも。

道場にいる全員の本能が叫んでいた。


近づくな

逃げろ

逆らうな


朔姫は壁際で腕を組み、静かに見ている。

かやは一歩も動かず、ただ祈るように目を伏せていた。

(あ、これ……昔の“殿”のやつだ)


主将は歯を食いしばる。

膝が震える。

視界が白くなる。

それでも――倒れなかった。

「……っ、ここで……逃げたら……」

声が掠れる。

「剣、やってる意味……なくなる……!」

その言葉を聞いた瞬間。


エーテルの殺気が、ほんの少しだけ和らいだ。

「――ほう」


それだけ。

だが、その一瞬で数人が息を取り戻す。

一人、また一人。

倒れながらも、立ち上がろうとする。

完全に耐えきれたのは、三人だけだった。


エーテルは、殺気をすっと消す。

まるで最初から何もなかったかのように。

「終わりだ」


道場に、現実の音が戻る。

荒い呼吸。

床に落ちる汗。

主将はその場に座り込みながら、顔を上げる。

「……結果は……?」


エーテルは三人を見て、静かに言った。

「立っていた者。

途中で折れなかった者」

少し間を置いて。

「――合格だ」


一瞬、理解が追いつかない。

「え……?」


「今日から弟子だ。

ただし」


視線が鋭くなる。

「俺の稽古は優しくない。

剣を“スポーツ”だと思ってるなら、今すぐ帰れ」


三人は即答だった。

「お願いします!!」


エーテルは小さく頷く。

「ならまず教える」

竹刀を手に取り、構えを示す。

「生き残るための構えだ」

朔姫がくすっと笑う。

「不幸な人たちが増えたね」


かやはため息。

「学校が無事で済むといいけど……」


道場の外では、夕日が沈み始めていた。

この日、剣道部に刻まれた言葉は一つ。

“あの人の試験は、死を思い出させる”

そして三人はまだ知らない。


この師匠の稽古が――

ここから本当に地獄だということを。


 

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