第18話 可能性のある犯人候補を調べます
「う~ん、エドに会うにはどうしたらいいんだろ」
私はマクシオン商会に戻り会長用のテントで呟く。
カシムとキリルのことを探ってみたが分かったことはキリルが王家の魔法書を盗んだということ。
もちろんそれだけでも大きな成果だが肝心の王家の魔法書はキリルのもとからさらに誰かに盗まれてしまった。
その犯人の可能性があるのはキリルの正式名を知っている人物だと思われる。
だからエドにキリルの正式名を知っている人物は誰がいるのか訊こうと思ったのだがどうやってエドに会いに行っていいか分からない。
先日、エドが連れて行ってくれたエド専用図書館に地上から行くにはいまいち場所がよく分からないのだ。
エドを呼び出すにはエドの正式名を口に出せば私の前に現れるのかな。
でも魔王の正式名を簡単に口に出していいんだろうか。
いくら会長用のテントに私がいて他の者がいなくても何かの間違いで私が口に出したエドの正式名を聞いてしまう者がいるかもしれない。
自分がシャナールというスパイだからこそスパイはどこにでもいるということをいつも考えてしまう。
私のように「透明人間」になる能力はなくともスパイ自体はこの世界に私以外にも存在する。
まあ、そのスパイをこの世界ではシャナールと呼ぶのだが。
私は他のシャナールと実際に出会ったことはない。
出会ったことがないというかそもそもシャナールは自分がシャナールということを隠しているからたとえ今まで出会った人の中にシャナールがいても私には分からないのだ。
「でも他に方法はないわよね……仕方ない。ちょっと危険だけどやってみるか」
いろいろ悩んだ末に私はエドの正式名を呼んでみることにした。
一応、会長用のテントの周囲に人がいないことを確認してもう一度テント内に入りソファに腰をかける。
とりあえず小声で呼んでみようっと。
私がスウッと息をしてエドの正式名を口に出そうとした瞬間、突然、私の後ろから声がした。
「もしかして俺のこと、呼ぼうとした?」
「…っ!?」
私は驚いてその場で飛び上がって振り返る。
そこにはエドが立っていた。
「エ、エドッ!? どうしてここにいるの!?」
私はまだエドの正式名を口に出していないはず。
なのになぜエドが突然現れたのか。
「う~ん、なんとなくミアの心の声が聞こえた気がしたから」
「こ、心の声って……」
心で思っただけでもエドには分かるのだろうか。
そうなると自分の考えが全部エドに通じてしまうことになる。
「エドって人の心の声が分かるの?」
「う~ん、そういう訳じゃないけど。ミアの声は聞こえる気がする」
え? それじゃあ、もしかして私がエドに好意を持っていることもバレてたりするのかな。
それってすごく恥ずかしいんだけど!
「大丈夫。本当に聞こえてる訳じゃない。なんとなくそう感じるだけ。獣の野生の勘と同じかも」
獣の野生の勘って……魔族って獣に近い種族なの?
ライみたいな獣人族なら分かる気がするけど。
「魔族って獣に近い習性があったりするの?」
「別にないよ。ただ、魔力の属性によって自然に近い「気」を読むことができる。俺は全属性持ちだから他の奴より勘が鋭いだけ」
勘が鋭いという割にはエドはどこかボーっとしているような表情だ。
見た目からは勘の鋭い人物だとは思えない。
でもエドはこれでも魔王だもんね。
全属性だから勘が鋭いなら侮れない人物かも。
「それより俺を呼ぶつもりだったんじゃないの?」
エドに言われて私は当初のエドに訊きたかったことを思い出す。
「あ、え~とね、シャナールから途中報告があってキリル殿下の正式名を知っている人物が関係しているかもだからキリル殿下の正式名を知っている人物をエドに訊きたくて」
自分がシャナールということは秘密なのであくまでシャナールからの途中報告でという理由にして私はエドに尋ねた。
エドは小首を傾げながら答える。
「キリルの正式名を知っている人物はキリルより力が強いかキリルより年上の王族かな」
「キリル殿下より力が強いか年上の王族……具体的には……?」
「該当するのは、魔王の俺と第一王子のカシム、そしてオルシャドールだよ」
エドは排除していいわね。
するとカシムとオルシャドール殿下ってこと?
でもカシムは王家の魔法書を持ってなかったわ。
それじゃあ、残るのはオルシャドール殿下?
でもオルシャドール殿下はエドの側近でもありエドが真の魔王になるために王家の魔法書探しをシャナールに依頼するべきだと進言していたくらいの人物だ。
そんな人物が王家の魔法書を盗むだろうか。
それとも私もエドも知らないオルシャドール殿下には裏の顔があったりするのかな。
犯人の可能性がゼロじゃないなら一度オルシャドール殿下を調べる必要がありそうね。
「教えてくれてありがとう、エド。今の情報をシャナールに伝えて依頼の件を進めるようにするわ」
「うん。分かった。仕事の話が終わったなら、これ、ミアにあげる」
エドが差し出してきた手には可愛らしい花がある。
「髪に刺してあげる」
持っていた花をエドが私の髪に刺して飾ってくれた。
そしてニコリと微笑む。
「うん。ミアに似合うと思った花だったけどやっぱり似合うね。ミア、可愛い」
「…っ!」
面と向かって可愛いと言われて私の顔は真っ赤になってしまう。
エドって怖い時もあるけど、こういう素直そのものの笑顔を浮かべることもあるのよね。
そこが魅力的なんだけど、ちょっと恥ずかしいな。
「ミアが困った時はためらわずに俺の名前を呼んでいいからね。ミアだけの特権なんだからさ」
「……あ、ありがとう、今度はそうするわ……」
エドのまっすぐな私への好意を感じて私の心臓は高鳴り続ける。
うん、やっぱり私はエドも好き。
ギオンとライと同じくらいエドが。でもこの想いは自分の中に封印しなきゃ。
魔王のことを好きになっても私の恋は実らせたらいけない。
そのことに少しだけ胸が苦しくなった。




